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第六章 涙雨
第六章 第四話
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如月は鑑識に向かうと証拠品の入った箱を取り出して中を取り出し始める。
「これです!」
如月がカセットテープの入った証拠品袋を掲げて見せる。
「フロッピーディスクは目眩ましとヒントだったんですよ」
「どういう意味だ?」
「追っ手には八インチフロッピーディスクにデータが入ってると思い込ませた上で、本当に渡したい相手には隠し場所が推測出来るようにと……」
如月は勢い込んで言った。
紘彬は手を挙げて待ったを掛ける。
「渡したい相手って誰だよ」
「さぁ? それはデータを解析してみないと……」
「それにデータが入ってるのか?」
「これかどうかは分かりません。でもカセットテープのどれかに入ってるはずです」
フロッピーディスクよりカセットテープの方が記録出来る容量が多い。
パソコンの破壊はフロッピーディスクドライブではなくカセットテープに記録する装置を隠すためだったのだろう。
八インチのフロッピーディスクを知っている者なら当時はカセットテープに記録していたことも知っているはずだ。
「じゃあ、これ全部調べなきゃいけないのか。鑑識は大変だな」
紘彬が大量のカセットテープを眺めながら他人事のように言った。
カセットテープの山を前に青ざめている鑑識を横目で見ながら如月は密かに同情した。
鑑識じゃなくて良かった……。
と思いながら。
翌朝の捜査会議で団藤が聞き込みをそれぞれに割り振った。
「今夜は田中政夫一家の通夜で明日は葬儀だ。上田と佐久は通夜に、俺と飯田は明日の葬儀に出席する」
手口が闇サイト強盗に似てるとはいえ未だ断定されていないし家族全員が撲殺されている事を考えると怨恨の線も有り得るから出席者の様子を観察しにいくのだ。
「今日は定時に帰れないのか……」
上田が溜息を吐いた。
「通夜ってなんで夜なんスかね」
「生き返った時の為だよ」
紘彬が答える。
「え!? 生き返る事があったんスか!?」
「迷信だろ」
上田が言った。
「確実に死んでるって明白な外傷――首を切り落とされてるとか、頭蓋陥没で脳が飛び散ってるとか腹部を裂かれて内ぞ……」
「桜井、細かいとこは省いていい」
「病気とか川で溺れたとか、そう言うのは死んだと思ってただけで息を吹き返す事が珍しくなかったんだよ。だから念のため一晩様子を見てたんだ。埋められた後に息を吹き返すと悲惨だからな。死ぬまで藻掻……」
「桜井、そこまで」
団藤に止められた紘彬が残念そうに口を閉じた。
「てっきり死者にお別れを言うためだと思ってました」
「そう言う意味合いもあっただろうけどな。弔うための心の準備とか」
紘彬と如月は聞き込みのために外に出た。
「あの、蒼治君はまだ入院中ですよね」
「ああ」
「じゃあ、お通夜やお葬式は……」
「外出許可が出れば行けるだろうが……」
紘彬は言葉を切ると黙り込んだ。
昼食時、刑事部屋でデリバリーを待ちながら紘彬は曾祖父の日記を見ていた。
上田達も刑事部屋にいて各々食事をしている。
TVでニュースが流れている。
紘彬は日記を机に置くとスマホを取り出して操作し始めた。
テロ対策会議のニュースで画面に車から降りてきて建物に入る警視総監の姿が映る。
「ああ、これから会議か」
TV画面を見た紘彬はスマホをポケットに戻した。
「警視総監に電話しようとしてたんですか!?」
如月が声を上げる。
「警護の警察官だろ」
上田が言った。
「いや、警視総監。俺の曾祖父ちゃんの戦友の孫だから」
桜井さんに警察官になるように勧めてた人って警視総監のお父さんだったのか……。
紘彬に凄いコネがあると言う話は聞いていた。
元は法医学者を目指して医学部を卒業して就職先も内定していたらしい。
だが、ある人に警察官になるように誘われた紘彬は就職先の内定を蹴って国家公務員試験を受けて合格し警察官になる事が決まった。
しかし警察官になる直前に警察絡みの不祥事に巻き込まれた。
紘彬自身は事件とは無関係だったのだが本来なら警察官になれないところだったそうだ。
別にどうしても警察官になりたかったわけではないし、医師国家試験に通ってるから当初の予定通り医者になるか、と考えて臨床研修先の病院も決めた。
しかし、ここで紘彬の曾祖父の戦友の息子が出てきた。
元々その人は紘彬が小さい頃から警察官になるように熱心に勧誘していたらしい。
その人が紘彬はキャリア組からは外れると言う条件で関係各所に目を瞑ってくれるように手を回した。
当の紘彬はもう医師になる気になっていたが、借りを作りまくって無かった事にしてくれた人に医者になります、と言い出すのは気が引けた。
しかも臨床研修先の病院はバスと電車を利用しての通勤が必要だった。
紘彬はバス通学が嫌で大学へはトレーニングを兼ねて走って通っていたというくらいラッシュ時のバスや電車に乗るのが嫌いらしい。
それで、勤務先を家の近くの警察署にしてくれるなら、と言う条件を出したら自宅から徒歩で通勤出来るここの署に配属してくれると言われたらしい。
それで医師より警察官を選んだのだ。
これが紘彬の凄いコネである。
今の警視総監は戦友の孫、手を打ったのは息子と言っていたから親子二代に渡って警察官僚なのだろう。
「これです!」
如月がカセットテープの入った証拠品袋を掲げて見せる。
「フロッピーディスクは目眩ましとヒントだったんですよ」
「どういう意味だ?」
「追っ手には八インチフロッピーディスクにデータが入ってると思い込ませた上で、本当に渡したい相手には隠し場所が推測出来るようにと……」
如月は勢い込んで言った。
紘彬は手を挙げて待ったを掛ける。
「渡したい相手って誰だよ」
「さぁ? それはデータを解析してみないと……」
「それにデータが入ってるのか?」
「これかどうかは分かりません。でもカセットテープのどれかに入ってるはずです」
フロッピーディスクよりカセットテープの方が記録出来る容量が多い。
パソコンの破壊はフロッピーディスクドライブではなくカセットテープに記録する装置を隠すためだったのだろう。
八インチのフロッピーディスクを知っている者なら当時はカセットテープに記録していたことも知っているはずだ。
「じゃあ、これ全部調べなきゃいけないのか。鑑識は大変だな」
紘彬が大量のカセットテープを眺めながら他人事のように言った。
カセットテープの山を前に青ざめている鑑識を横目で見ながら如月は密かに同情した。
鑑識じゃなくて良かった……。
と思いながら。
翌朝の捜査会議で団藤が聞き込みをそれぞれに割り振った。
「今夜は田中政夫一家の通夜で明日は葬儀だ。上田と佐久は通夜に、俺と飯田は明日の葬儀に出席する」
手口が闇サイト強盗に似てるとはいえ未だ断定されていないし家族全員が撲殺されている事を考えると怨恨の線も有り得るから出席者の様子を観察しにいくのだ。
「今日は定時に帰れないのか……」
上田が溜息を吐いた。
「通夜ってなんで夜なんスかね」
「生き返った時の為だよ」
紘彬が答える。
「え!? 生き返る事があったんスか!?」
「迷信だろ」
上田が言った。
「確実に死んでるって明白な外傷――首を切り落とされてるとか、頭蓋陥没で脳が飛び散ってるとか腹部を裂かれて内ぞ……」
「桜井、細かいとこは省いていい」
「病気とか川で溺れたとか、そう言うのは死んだと思ってただけで息を吹き返す事が珍しくなかったんだよ。だから念のため一晩様子を見てたんだ。埋められた後に息を吹き返すと悲惨だからな。死ぬまで藻掻……」
「桜井、そこまで」
団藤に止められた紘彬が残念そうに口を閉じた。
「てっきり死者にお別れを言うためだと思ってました」
「そう言う意味合いもあっただろうけどな。弔うための心の準備とか」
紘彬と如月は聞き込みのために外に出た。
「あの、蒼治君はまだ入院中ですよね」
「ああ」
「じゃあ、お通夜やお葬式は……」
「外出許可が出れば行けるだろうが……」
紘彬は言葉を切ると黙り込んだ。
昼食時、刑事部屋でデリバリーを待ちながら紘彬は曾祖父の日記を見ていた。
上田達も刑事部屋にいて各々食事をしている。
TVでニュースが流れている。
紘彬は日記を机に置くとスマホを取り出して操作し始めた。
テロ対策会議のニュースで画面に車から降りてきて建物に入る警視総監の姿が映る。
「ああ、これから会議か」
TV画面を見た紘彬はスマホをポケットに戻した。
「警視総監に電話しようとしてたんですか!?」
如月が声を上げる。
「警護の警察官だろ」
上田が言った。
「いや、警視総監。俺の曾祖父ちゃんの戦友の孫だから」
桜井さんに警察官になるように勧めてた人って警視総監のお父さんだったのか……。
紘彬に凄いコネがあると言う話は聞いていた。
元は法医学者を目指して医学部を卒業して就職先も内定していたらしい。
だが、ある人に警察官になるように誘われた紘彬は就職先の内定を蹴って国家公務員試験を受けて合格し警察官になる事が決まった。
しかし警察官になる直前に警察絡みの不祥事に巻き込まれた。
紘彬自身は事件とは無関係だったのだが本来なら警察官になれないところだったそうだ。
別にどうしても警察官になりたかったわけではないし、医師国家試験に通ってるから当初の予定通り医者になるか、と考えて臨床研修先の病院も決めた。
しかし、ここで紘彬の曾祖父の戦友の息子が出てきた。
元々その人は紘彬が小さい頃から警察官になるように熱心に勧誘していたらしい。
その人が紘彬はキャリア組からは外れると言う条件で関係各所に目を瞑ってくれるように手を回した。
当の紘彬はもう医師になる気になっていたが、借りを作りまくって無かった事にしてくれた人に医者になります、と言い出すのは気が引けた。
しかも臨床研修先の病院はバスと電車を利用しての通勤が必要だった。
紘彬はバス通学が嫌で大学へはトレーニングを兼ねて走って通っていたというくらいラッシュ時のバスや電車に乗るのが嫌いらしい。
それで、勤務先を家の近くの警察署にしてくれるなら、と言う条件を出したら自宅から徒歩で通勤出来るここの署に配属してくれると言われたらしい。
それで医師より警察官を選んだのだ。
これが紘彬の凄いコネである。
今の警視総監は戦友の孫、手を打ったのは息子と言っていたから親子二代に渡って警察官僚なのだろう。
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