25 / 51
第五章 紅雨
第五章 第四話
しおりを挟む
紘彬と如月は部屋で『Dr.マーク・スローン』を観ていた。
医師のマーク・スローンと、その息子の刑事が事件を解決するシリーズ物のミステリドラマである。
医者が主人公のドラマが好きでも医者にはならなかったんだ……。
医師国家試験に合格しているのに文句を言いながらも刑事を続けている理由が謎である。
病院で二年の臨床研修を経れば正式な医師になれるらしいのだが。
「あーーー!」
如月がいきなり大声を上げた。
マーク・スローンがCDケースの歌詞カードの間から、五インチのフロッピーディスクを取り出したところだった。
「小林次郎の件か? あそこ、CDはほとんど無かっただろ。残ってたCDケースの歌詞カードは全部確認したぜ。俺、これ観るのは初めてじゃないんだし」
「分かってます。けど、確かめたいことがあるんです。今から鑑識に行ってきます!」
「なら一緒に行くよ」
「無駄足になるかもしれませんよ」
「へーきへーき。残って祖父ちゃんに説教されるよりマシだし」
紘彬の言葉に如月は苦笑した。
鑑識に着くと、如月は証拠品として押収された大量のレコードが収められている箱を持ちだした。
レコードを取り出して一つ一つ台の上に載せていく。
やがて一枚の証拠品袋を取り上げた。
「これです! なんか見覚えがあるような気がしてたんです!」
如月がそう言って証拠品袋を机の上に置いた。
「レコードか? けど穴がないな」
茶色っぽい円盤だが紘彬が言うように中央に穴が開いていない。
「レコードじゃありません。これがEPレコードで……」
如月が直径十七センチ程のレコードが入っている証拠品袋を持ち上げて見せる。
「こっちがLPレコード」
直径三十センチのレコードの入った証拠品袋を取り上げる。
「大きさも、ほら」
EPレコードとLPレコードを、最初に置いた証拠品袋の両隣に並べて置いた。
最初の物は二つのレコードの中間くらいの大きさだった。
「ホントだ。どっちとも違う」
よく見ると色などもレコードとは微妙に違う。
「なんだこれ」
「八インチのフロッピーディスクですよ」
「フロッピー? これが?」
CDよりも大きなEPレコードより更に大きい。
「鑑識は気付かなかったのか?」
「日本で普及したフロッピーディスクは五インチからですし、傷が付いたらデータが再生出来なくなるので普通はケースから出さないんですよ。中身を見た事ある人はほとんどいないんだと思います」
「普及してなかったのに良く手に入ったな」
「一般家庭には普及してなくても企業や研究室は使ってたましたし、個人でも使ってる人がいなかったわけではありませんから販売はされてたらしいですよ」
如月の言葉に紘彬が感心したような表情を浮かべた。
ハードディスク(HDD)が発売される前の記録媒体はフロッピーディスクくらいだったのだ。
「レコードをばら撒いたのも、パソコンを壊したのも被害者本人だと思います。きっと八インチフロッピーディスクに記録されてるって事を隠すためにやったんです」
ディスクを読み込むドライブがあったら使っていた記録媒体が分かってしまう。
「なるほどね。けど、ドライブが壊れてるならどうやってフロッピーの中を見るんだ?」
「鑑識に八インチのフロッピーディスクドライブがないなら、破壊されたドライブを直すか秋葉原辺りで買ってくるか」
「売ってるのか?」
「さぁ? でも、探せばあるんじゃないんですか? 今でも持ってる人はいますし。小林も持ってたくらいですから。それよりレコードに偽装するために保護ケースから出しちゃってますからデータが無事かどうか……」
ディスク面に傷が付くとデータが読み込めなくなるから保護ケースに入れているのだ。
如月は鑑識に念のためデータを調べてくれるよう依頼した。
「桜井さん、おはようございます」
如月は挨拶をしながら床に落ちていた白黒写真を拾い上げた。
「この写真、もしかして桜井さんの曾お祖父様の日記から落ちたのでは」
刑事達が出勤してくる前に清掃をしたはずだから落ちたのはそれ以後だろう。
だとすれば紘彬の曾祖父の日記から落ちた可能性が高い。
「お、サンキュ」
紘彬はそう言って受け取ると写真をじっと見詰めた。
「どうかしましたか?」
「いや……なんでもない……」
紘彬はそう言うと曾祖父の日記に写真を挟みながら、
「なぁ、弁護士事務所からの手紙って私信だと思うか?」
と訊ねた。
「弁護士事務所から手紙が来たんですか?」
「曾祖父ちゃん宛にな」
「今頃ですか? 失礼ですけど曾お祖父様は生きてらしたとしても百歳くらいですよね?」
「来たのは七十年代だよ。八十年代か? 消印が掠れてて正確な年が分からないけど」
「それだけ昔で、しかも亡くなられた方宛なら問題ないのでは。桜井さんはご家族ですし」
紘彬はそれもそうだという表情を浮かべた。
どちらにしろ既に日記を読んでいるのだ。
今更手紙を読んだところでプライバシー侵害なのは同じだ。
紘彬は封を開けて中身を取り出した。
医師のマーク・スローンと、その息子の刑事が事件を解決するシリーズ物のミステリドラマである。
医者が主人公のドラマが好きでも医者にはならなかったんだ……。
医師国家試験に合格しているのに文句を言いながらも刑事を続けている理由が謎である。
病院で二年の臨床研修を経れば正式な医師になれるらしいのだが。
「あーーー!」
如月がいきなり大声を上げた。
マーク・スローンがCDケースの歌詞カードの間から、五インチのフロッピーディスクを取り出したところだった。
「小林次郎の件か? あそこ、CDはほとんど無かっただろ。残ってたCDケースの歌詞カードは全部確認したぜ。俺、これ観るのは初めてじゃないんだし」
「分かってます。けど、確かめたいことがあるんです。今から鑑識に行ってきます!」
「なら一緒に行くよ」
「無駄足になるかもしれませんよ」
「へーきへーき。残って祖父ちゃんに説教されるよりマシだし」
紘彬の言葉に如月は苦笑した。
鑑識に着くと、如月は証拠品として押収された大量のレコードが収められている箱を持ちだした。
レコードを取り出して一つ一つ台の上に載せていく。
やがて一枚の証拠品袋を取り上げた。
「これです! なんか見覚えがあるような気がしてたんです!」
如月がそう言って証拠品袋を机の上に置いた。
「レコードか? けど穴がないな」
茶色っぽい円盤だが紘彬が言うように中央に穴が開いていない。
「レコードじゃありません。これがEPレコードで……」
如月が直径十七センチ程のレコードが入っている証拠品袋を持ち上げて見せる。
「こっちがLPレコード」
直径三十センチのレコードの入った証拠品袋を取り上げる。
「大きさも、ほら」
EPレコードとLPレコードを、最初に置いた証拠品袋の両隣に並べて置いた。
最初の物は二つのレコードの中間くらいの大きさだった。
「ホントだ。どっちとも違う」
よく見ると色などもレコードとは微妙に違う。
「なんだこれ」
「八インチのフロッピーディスクですよ」
「フロッピー? これが?」
CDよりも大きなEPレコードより更に大きい。
「鑑識は気付かなかったのか?」
「日本で普及したフロッピーディスクは五インチからですし、傷が付いたらデータが再生出来なくなるので普通はケースから出さないんですよ。中身を見た事ある人はほとんどいないんだと思います」
「普及してなかったのに良く手に入ったな」
「一般家庭には普及してなくても企業や研究室は使ってたましたし、個人でも使ってる人がいなかったわけではありませんから販売はされてたらしいですよ」
如月の言葉に紘彬が感心したような表情を浮かべた。
ハードディスク(HDD)が発売される前の記録媒体はフロッピーディスクくらいだったのだ。
「レコードをばら撒いたのも、パソコンを壊したのも被害者本人だと思います。きっと八インチフロッピーディスクに記録されてるって事を隠すためにやったんです」
ディスクを読み込むドライブがあったら使っていた記録媒体が分かってしまう。
「なるほどね。けど、ドライブが壊れてるならどうやってフロッピーの中を見るんだ?」
「鑑識に八インチのフロッピーディスクドライブがないなら、破壊されたドライブを直すか秋葉原辺りで買ってくるか」
「売ってるのか?」
「さぁ? でも、探せばあるんじゃないんですか? 今でも持ってる人はいますし。小林も持ってたくらいですから。それよりレコードに偽装するために保護ケースから出しちゃってますからデータが無事かどうか……」
ディスク面に傷が付くとデータが読み込めなくなるから保護ケースに入れているのだ。
如月は鑑識に念のためデータを調べてくれるよう依頼した。
「桜井さん、おはようございます」
如月は挨拶をしながら床に落ちていた白黒写真を拾い上げた。
「この写真、もしかして桜井さんの曾お祖父様の日記から落ちたのでは」
刑事達が出勤してくる前に清掃をしたはずだから落ちたのはそれ以後だろう。
だとすれば紘彬の曾祖父の日記から落ちた可能性が高い。
「お、サンキュ」
紘彬はそう言って受け取ると写真をじっと見詰めた。
「どうかしましたか?」
「いや……なんでもない……」
紘彬はそう言うと曾祖父の日記に写真を挟みながら、
「なぁ、弁護士事務所からの手紙って私信だと思うか?」
と訊ねた。
「弁護士事務所から手紙が来たんですか?」
「曾祖父ちゃん宛にな」
「今頃ですか? 失礼ですけど曾お祖父様は生きてらしたとしても百歳くらいですよね?」
「来たのは七十年代だよ。八十年代か? 消印が掠れてて正確な年が分からないけど」
「それだけ昔で、しかも亡くなられた方宛なら問題ないのでは。桜井さんはご家族ですし」
紘彬はそれもそうだという表情を浮かべた。
どちらにしろ既に日記を読んでいるのだ。
今更手紙を読んだところでプライバシー侵害なのは同じだ。
紘彬は封を開けて中身を取り出した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
警狼ゲーム
如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。
警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる