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第二章 発火雨
第二章 第二話
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「住んでいるところか職場にも心当たりがないという事ですか?」
紘彬の質問に女性は、
「ホームレスのように見えたと言っていました」
言い辛そうに答えた。
紘彬と如月は視線を交わした。
ホームレスになったのが最近ならともかく家出は二年前だ。
もし家出直後からホームレスだったならスマホは手放していただろう。
料金が払えないなら所持している意味が無いし食事も碌に出来なかったのならとっくに売り払って食費に充てていたはずだ。
それなら栄養状態が悪かったことの説明も付く。
祖母と孫では親子鑑定も……。
紘彬はふと気付いて、
「お孫さんはどちらのお子さんの子ですか?」
と訊ねた。
「え……?」
女性が戸惑ったような表情を浮かべる。
「あなたはお孫さんの父方か母方か」
紘彬の説明で質問の意味を悟ると、
「母方です」
と答えた。
紘彬は礼を言うと職員に声を掛けた。
「あの女性と遺体のDNA鑑定してみてくれ」
「えっ! 孫じゃなくて娘の可能性があるんですか!?」
「まさか、あの人とご遺体の父親が不倫して出来た子供とか!?」
「あれだけの質問でそんな事まで分かったんですか!?」
「お前らメロドラマの見過ぎだ」
紘彬が冷めた口調で言うと如月と職員が決まり悪そうな顔になった。
「彼女が母親なら親子鑑定が出来るんだし、探してたくらいなんだから正直に娘だって言うだろ」
「祖母と孫では親子鑑定は出来ませんよ」
職員がそんな事も知らないのか、と言う口振りで答えた。
「彼女は母方の祖母ちゃんだ。娘の娘!」
「あっ!」
職員はようやく紘彬の言わんとしていることに気付いた。
「頼んだぞ」
紘彬はそう言うと如月と共に監察医務院を後にした。
「紘一」
校門から出たところで声を掛けられて振り返った。
蒼治が手を振りながら近付いてくる。
紘一と同様、鞄を頭の上にかざして雨を避けている。
「蒼ちゃん」
紘一も手を振る。
「今帰りか? 急がないならそこで雨宿りしていかないか?」
蒼治が十メートルほど先にあるファーストフード店を指した。
「いいよ」
紘一がそう答えると二人は店に向かった。
「この前の事件の犯人、捕まったらしいな」
店内の椅子に座ると蒼治が言った。
ニュースでやっていたからそれを見たのだろう。
「うん」
紘一は犯人の面通しに行ってきたことを話した。
「ニュースで血痕がどうのって言ってたよな?」
「逃げてる途中でフェンスの針金の部分でケガしたらしい」
紘一は紘彬から聞いた話をした。
「へぇ、そんなところに付いた血痕を見付け出したなんてすごいな」
蒼治が感心した様子でコーヒーを飲んだ。
「蒼ちゃん、旅行行くの?」
紘一は蒼治の鞄から覗いている旅行のパンフレットを見ながら訊ねた。
「うん、実は彼女と二人で行こうかと思っててさ」
「え!? 彼女の親御さん、許してくれたの!? そんな仲なの!?」
「まさか……」
蒼治は苦笑して手を振った。
「親には内緒だよ。ていうか、まだ彼女にも話してなくてさ。だから断られるかもしれないし」
どうやら蒼治は惚気話がしたくて紘一をお茶に誘ったらしい。
紘一は延々と彼女の話を聞かされる羽目になってしまった。
おそらく周囲の人間は耳に胼胝が出来るほど聞かされていて相手にしてくれなくなったのだろう。
でもこんなに人を好きになれるなんて羨ましいな……。
自分にもいつかこんな相手が出来るのだろうか、と思いながら蒼治の話に耳を傾けていた。
駐車場で殺害された小林次郎の捜査のため紘彬と如月は小林の勤務先の会社が入っているオフィスビルで聞き込みをしていた。
その時、紘彬のスマホの着信音が鳴った。
「桜井、如月、大至急これから言う場所に向かってくれ」
紘彬が電話に出ると団藤が言った。
同時に如月のスマホの着信音が鳴る。
画面に団藤の指示した住所の地図が画面に表示された。
「パトカーのサイレンは鳴らすな。通り沿いのパーキングエリアで車から降りろ。そこからはこちらが指示するまでは自然な感じで歩いて向かえ」
団藤の指示に紘彬と如月は駆け出した。
家の中にチャイムの音が鳴った。
初老の男性がドアを開いた途端、男達が押し入ってきた。
真っ先に入ってきた男が男性を殴り付ける。
床に倒れた男性を他の男達が拘束した。
「声を出すな」
男の一人がそう言うと、他の男達が初老の男性を立たせてリビングに連れていった。
「金庫はどこだ。開け方を言え」
男は威嚇するように拳を振り上げた。
「そこまで」
如月が背後から男の手首を掴んだ。
驚いた男が如月の方を向いた途端、
「いてててて……」
別の男の声が聞こえてきて男は手首を掴まれたまま振り返った。
初老の男性が男の一人を取り押さえている。
如月に腕を掴まれている男が目を剥いた。
避けもせずに殴られた上にリビングまで素直に連れてこられたから、か弱い年寄りだと思い込んでいたのだろう。
残った三人のうちの一人が廊下へ飛び出していく。
もう一人は庭へ出ようとして制服警官が待ち構えてるのに気付いて足を止めた。
玄関の方から上田達が男を取り押さえているらしい物音が聞こえてくる。
最後の一人は優男風の紘彬なら倒して逃げられると踏んだのだろう。
別の部屋への入口に一人で突っ立っている紘彬の方に向かって行く。
仲間が簡単に制圧された時点で見た目は宛てにならないって気付きそうなものだけど……。
如月は白い目で男を見た。
ここにいる中で一番強いの桜井さんなんだよ……。
紘彬の質問に女性は、
「ホームレスのように見えたと言っていました」
言い辛そうに答えた。
紘彬と如月は視線を交わした。
ホームレスになったのが最近ならともかく家出は二年前だ。
もし家出直後からホームレスだったならスマホは手放していただろう。
料金が払えないなら所持している意味が無いし食事も碌に出来なかったのならとっくに売り払って食費に充てていたはずだ。
それなら栄養状態が悪かったことの説明も付く。
祖母と孫では親子鑑定も……。
紘彬はふと気付いて、
「お孫さんはどちらのお子さんの子ですか?」
と訊ねた。
「え……?」
女性が戸惑ったような表情を浮かべる。
「あなたはお孫さんの父方か母方か」
紘彬の説明で質問の意味を悟ると、
「母方です」
と答えた。
紘彬は礼を言うと職員に声を掛けた。
「あの女性と遺体のDNA鑑定してみてくれ」
「えっ! 孫じゃなくて娘の可能性があるんですか!?」
「まさか、あの人とご遺体の父親が不倫して出来た子供とか!?」
「あれだけの質問でそんな事まで分かったんですか!?」
「お前らメロドラマの見過ぎだ」
紘彬が冷めた口調で言うと如月と職員が決まり悪そうな顔になった。
「彼女が母親なら親子鑑定が出来るんだし、探してたくらいなんだから正直に娘だって言うだろ」
「祖母と孫では親子鑑定は出来ませんよ」
職員がそんな事も知らないのか、と言う口振りで答えた。
「彼女は母方の祖母ちゃんだ。娘の娘!」
「あっ!」
職員はようやく紘彬の言わんとしていることに気付いた。
「頼んだぞ」
紘彬はそう言うと如月と共に監察医務院を後にした。
「紘一」
校門から出たところで声を掛けられて振り返った。
蒼治が手を振りながら近付いてくる。
紘一と同様、鞄を頭の上にかざして雨を避けている。
「蒼ちゃん」
紘一も手を振る。
「今帰りか? 急がないならそこで雨宿りしていかないか?」
蒼治が十メートルほど先にあるファーストフード店を指した。
「いいよ」
紘一がそう答えると二人は店に向かった。
「この前の事件の犯人、捕まったらしいな」
店内の椅子に座ると蒼治が言った。
ニュースでやっていたからそれを見たのだろう。
「うん」
紘一は犯人の面通しに行ってきたことを話した。
「ニュースで血痕がどうのって言ってたよな?」
「逃げてる途中でフェンスの針金の部分でケガしたらしい」
紘一は紘彬から聞いた話をした。
「へぇ、そんなところに付いた血痕を見付け出したなんてすごいな」
蒼治が感心した様子でコーヒーを飲んだ。
「蒼ちゃん、旅行行くの?」
紘一は蒼治の鞄から覗いている旅行のパンフレットを見ながら訊ねた。
「うん、実は彼女と二人で行こうかと思っててさ」
「え!? 彼女の親御さん、許してくれたの!? そんな仲なの!?」
「まさか……」
蒼治は苦笑して手を振った。
「親には内緒だよ。ていうか、まだ彼女にも話してなくてさ。だから断られるかもしれないし」
どうやら蒼治は惚気話がしたくて紘一をお茶に誘ったらしい。
紘一は延々と彼女の話を聞かされる羽目になってしまった。
おそらく周囲の人間は耳に胼胝が出来るほど聞かされていて相手にしてくれなくなったのだろう。
でもこんなに人を好きになれるなんて羨ましいな……。
自分にもいつかこんな相手が出来るのだろうか、と思いながら蒼治の話に耳を傾けていた。
駐車場で殺害された小林次郎の捜査のため紘彬と如月は小林の勤務先の会社が入っているオフィスビルで聞き込みをしていた。
その時、紘彬のスマホの着信音が鳴った。
「桜井、如月、大至急これから言う場所に向かってくれ」
紘彬が電話に出ると団藤が言った。
同時に如月のスマホの着信音が鳴る。
画面に団藤の指示した住所の地図が画面に表示された。
「パトカーのサイレンは鳴らすな。通り沿いのパーキングエリアで車から降りろ。そこからはこちらが指示するまでは自然な感じで歩いて向かえ」
団藤の指示に紘彬と如月は駆け出した。
家の中にチャイムの音が鳴った。
初老の男性がドアを開いた途端、男達が押し入ってきた。
真っ先に入ってきた男が男性を殴り付ける。
床に倒れた男性を他の男達が拘束した。
「声を出すな」
男の一人がそう言うと、他の男達が初老の男性を立たせてリビングに連れていった。
「金庫はどこだ。開け方を言え」
男は威嚇するように拳を振り上げた。
「そこまで」
如月が背後から男の手首を掴んだ。
驚いた男が如月の方を向いた途端、
「いてててて……」
別の男の声が聞こえてきて男は手首を掴まれたまま振り返った。
初老の男性が男の一人を取り押さえている。
如月に腕を掴まれている男が目を剥いた。
避けもせずに殴られた上にリビングまで素直に連れてこられたから、か弱い年寄りだと思い込んでいたのだろう。
残った三人のうちの一人が廊下へ飛び出していく。
もう一人は庭へ出ようとして制服警官が待ち構えてるのに気付いて足を止めた。
玄関の方から上田達が男を取り押さえているらしい物音が聞こえてくる。
最後の一人は優男風の紘彬なら倒して逃げられると踏んだのだろう。
別の部屋への入口に一人で突っ立っている紘彬の方に向かって行く。
仲間が簡単に制圧された時点で見た目は宛てにならないって気付きそうなものだけど……。
如月は白い目で男を見た。
ここにいる中で一番強いの桜井さんなんだよ……。
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