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魂の還る惑星 第十章 Seirios -光り輝くもの-
第十章 第七話
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ふと、さっき小夜が呪詛のムーシカのために歌ったムーシカを思い出した。
きっといつか彼女は優しさに満ちた明るく楽しいムーシカを創って子供のために歌うだろう。
それを聴ける日が楽しみだ。
楸矢が、小夜は憧れを叶えてくれたと言っていた。
きっと小夜は子供なら誰もが憧れる理想的な優しい母親になるはずだ。
ムーシコスは子供が少ないが小夜には母親になって欲しい。
小夜や楸矢の子供はきっと幸福な家庭で育つだろう。
小夜や楸矢の分まで彼らの子供には幸せな子供時代を送って欲しいと願う。
「俺も聞いていい?」
「何?」
「……知ってたの?」
椿矢は一瞬迷ったが頷いた。
「うん」
「もしかして、前にも柊兄と話したことあった? それで柊兄、知ってたの?」
「……どうして柊矢君も知ってたって思うの?」
「いくらパートナー以外はイスかテーブルと同じっていったって、さすがに親を殺されたって聞いて動揺しないのはおかしいでしょ。あんたも表情変えなかったし」
喫茶店で話したとき、柊矢は両親と祖父が殺されたかもしれないと知っても平然としていた。だが、それをわざわざ楸矢に教える必要はないだろう。
表情に出さなかっただけかもしれないし……。
楸矢も、弟どころか親すらイスかテーブル扱いと言うことは知りたくないだろう。
「ごめん」
「別に責めてるわけじゃないよ……どうして父さん達が殺されたって分かったの?」
「君達のご両親のことは確信があったわけじゃないんだ。理由が分からなかったし。君のお祖父さんの事故の時は、うちの祖父様はもう死んでたし、色んな話を総合するとクレーイス・エコーだった君達が狙われたんじゃないかって」
「小夜ちゃんのご両親は?」
「柊矢君に事故現場の写真見せてもらえばすぐ分かるよ。チャイルドシートがあの車から飛び出すのは物理的に不可能だから。ただの交通事故だったとしてもムーシケーは護っただろうけど、君達のご両親やお祖父さんが亡くなったときにしろ、従妹の事故にしろ、小夜ちゃんが轢かれかけたときにしろ、皆〝居眠り運転〟で、小夜ちゃんのご両親の事故もそうだったから」
「小夜ちゃんはなんで狙われたの?」
朝子は小夜を狙ったことは認めたが理由は言わなかった。
「多分だけど、能力が強かったからだと思う。いずれ一番の脅威になるって思ったんじゃないかな。実際、その通りだったわけだし」
「まぁ、魂作り替えちゃったくらいだもんね」
その言葉に椿矢が可笑しそうな顔になった。
「俺、なんか変なこと言った?」
「いや、榎矢が小夜ちゃんのこと、クレーイス・エコーに選ばれたのは能力が強いからだって言ってたでしょ。ムーシカを奏でるだけのムーシコスに能力の強弱もないだろって思ってたからバカにしてたけど、ちゃんとあったんだなって」
椿矢が肩を竦めた。
「あいつ自身は能力っていうのが何なのかよく分かってないんだろうけど」
相変わらずバカにした言い方だから自分の方が間違っていたと言って榎矢に謝罪したりはしないだろう。
椿矢がふと思い付いたように、
「言い訳なんだけど」
と言った。
「なんの?」
「小夜ちゃんが夕辺泣いた理由」
「なんかある!?」
楸矢が身を乗り出した。
「ある人から小夜ちゃんの亡くなったご両親の話を聞いたって言うのは?」
椿矢の言葉に、清美が自分も含めてクラスメイト達は亡くなったお祖父さんの話は避けてると言っていたことを思い出した。
祖父の話に触れないようにしているのなら亡くなったご両親のことだと言えばそれ以上は追求されないだろう。しかも嘘ではない。
「いいかもね。ありがと。って、うわ、また新しいムーシカ……」
小夜の歌声が時々止まる。
「これ、柊兄とのデュエットだ。あの二人、ホント、デュエット好きだよね。てか、三曲続けて新しいのとか創りすぎでしょ」
楸矢が信じられないというように言った。
どうやら小夜がアトの、柊矢が男の方の気持ちを歌っているらしかった。
「……ねぇ」
「何?」
「今の男声パートの歌詞、一生側にいて欲しいって……これ柊兄の気持ちだよね?」
男の気持ちを代弁しているとは言っても実際は柊矢が自分の想いを歌っているのだ。
当然、側にいて欲しいというのは柊矢の小夜に対する気持ちだ。
そもそもアト達は既にムーシケーで一緒にいる。
「そうだね」
「小夜ちゃん、自分も側にいたいって歌ってるけど家から出ていかないって答えちゃったって分かってるのかな」
「さぁ」
椿矢が笑いながら答えた。
「小夜ちゃんが気付いてないにしてもなんでいきなり……」
「小夜ちゃんが出ていこうとしてるって柊矢君も小夜ちゃんの友達から聞いたんじゃない?」
訳を説明すると言っていた楸矢が話さないまま家を出てきてしまったから柊矢に訊ねたのかもしれない。
そのとき小夜が家を出ようとしていると柊矢に話したという事は十分有り得る。
「それで先に言質取ったのかも」
「小鳥ちゃんが気付いてないの分かってるはずなのに、柊兄、汚いな~」
楸矢が呆れたように言うと椿矢が声を上げて笑った。
きっといつか彼女は優しさに満ちた明るく楽しいムーシカを創って子供のために歌うだろう。
それを聴ける日が楽しみだ。
楸矢が、小夜は憧れを叶えてくれたと言っていた。
きっと小夜は子供なら誰もが憧れる理想的な優しい母親になるはずだ。
ムーシコスは子供が少ないが小夜には母親になって欲しい。
小夜や楸矢の子供はきっと幸福な家庭で育つだろう。
小夜や楸矢の分まで彼らの子供には幸せな子供時代を送って欲しいと願う。
「俺も聞いていい?」
「何?」
「……知ってたの?」
椿矢は一瞬迷ったが頷いた。
「うん」
「もしかして、前にも柊兄と話したことあった? それで柊兄、知ってたの?」
「……どうして柊矢君も知ってたって思うの?」
「いくらパートナー以外はイスかテーブルと同じっていったって、さすがに親を殺されたって聞いて動揺しないのはおかしいでしょ。あんたも表情変えなかったし」
喫茶店で話したとき、柊矢は両親と祖父が殺されたかもしれないと知っても平然としていた。だが、それをわざわざ楸矢に教える必要はないだろう。
表情に出さなかっただけかもしれないし……。
楸矢も、弟どころか親すらイスかテーブル扱いと言うことは知りたくないだろう。
「ごめん」
「別に責めてるわけじゃないよ……どうして父さん達が殺されたって分かったの?」
「君達のご両親のことは確信があったわけじゃないんだ。理由が分からなかったし。君のお祖父さんの事故の時は、うちの祖父様はもう死んでたし、色んな話を総合するとクレーイス・エコーだった君達が狙われたんじゃないかって」
「小夜ちゃんのご両親は?」
「柊矢君に事故現場の写真見せてもらえばすぐ分かるよ。チャイルドシートがあの車から飛び出すのは物理的に不可能だから。ただの交通事故だったとしてもムーシケーは護っただろうけど、君達のご両親やお祖父さんが亡くなったときにしろ、従妹の事故にしろ、小夜ちゃんが轢かれかけたときにしろ、皆〝居眠り運転〟で、小夜ちゃんのご両親の事故もそうだったから」
「小夜ちゃんはなんで狙われたの?」
朝子は小夜を狙ったことは認めたが理由は言わなかった。
「多分だけど、能力が強かったからだと思う。いずれ一番の脅威になるって思ったんじゃないかな。実際、その通りだったわけだし」
「まぁ、魂作り替えちゃったくらいだもんね」
その言葉に椿矢が可笑しそうな顔になった。
「俺、なんか変なこと言った?」
「いや、榎矢が小夜ちゃんのこと、クレーイス・エコーに選ばれたのは能力が強いからだって言ってたでしょ。ムーシカを奏でるだけのムーシコスに能力の強弱もないだろって思ってたからバカにしてたけど、ちゃんとあったんだなって」
椿矢が肩を竦めた。
「あいつ自身は能力っていうのが何なのかよく分かってないんだろうけど」
相変わらずバカにした言い方だから自分の方が間違っていたと言って榎矢に謝罪したりはしないだろう。
椿矢がふと思い付いたように、
「言い訳なんだけど」
と言った。
「なんの?」
「小夜ちゃんが夕辺泣いた理由」
「なんかある!?」
楸矢が身を乗り出した。
「ある人から小夜ちゃんの亡くなったご両親の話を聞いたって言うのは?」
椿矢の言葉に、清美が自分も含めてクラスメイト達は亡くなったお祖父さんの話は避けてると言っていたことを思い出した。
祖父の話に触れないようにしているのなら亡くなったご両親のことだと言えばそれ以上は追求されないだろう。しかも嘘ではない。
「いいかもね。ありがと。って、うわ、また新しいムーシカ……」
小夜の歌声が時々止まる。
「これ、柊兄とのデュエットだ。あの二人、ホント、デュエット好きだよね。てか、三曲続けて新しいのとか創りすぎでしょ」
楸矢が信じられないというように言った。
どうやら小夜がアトの、柊矢が男の方の気持ちを歌っているらしかった。
「……ねぇ」
「何?」
「今の男声パートの歌詞、一生側にいて欲しいって……これ柊兄の気持ちだよね?」
男の気持ちを代弁しているとは言っても実際は柊矢が自分の想いを歌っているのだ。
当然、側にいて欲しいというのは柊矢の小夜に対する気持ちだ。
そもそもアト達は既にムーシケーで一緒にいる。
「そうだね」
「小夜ちゃん、自分も側にいたいって歌ってるけど家から出ていかないって答えちゃったって分かってるのかな」
「さぁ」
椿矢が笑いながら答えた。
「小夜ちゃんが気付いてないにしてもなんでいきなり……」
「小夜ちゃんが出ていこうとしてるって柊矢君も小夜ちゃんの友達から聞いたんじゃない?」
訳を説明すると言っていた楸矢が話さないまま家を出てきてしまったから柊矢に訊ねたのかもしれない。
そのとき小夜が家を出ようとしていると柊矢に話したという事は十分有り得る。
「それで先に言質取ったのかも」
「小鳥ちゃんが気付いてないの分かってるはずなのに、柊兄、汚いな~」
楸矢が呆れたように言うと椿矢が声を上げて笑った。
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