143 / 144
魂の還る惑星 第十章 Seirios -光り輝くもの-
第十章 第七話
しおりを挟む
ふと、さっき小夜が呪詛のムーシカのために歌ったムーシカを思い出した。
きっといつか彼女は優しさに満ちた明るく楽しいムーシカを創って子供のために歌うだろう。
それを聴ける日が楽しみだ。
楸矢が、小夜は憧れを叶えてくれたと言っていた。
きっと小夜は子供なら誰もが憧れる理想的な優しい母親になるはずだ。
ムーシコスは子供が少ないが小夜には母親になって欲しい。
小夜や楸矢の子供はきっと幸福な家庭で育つだろう。
小夜や楸矢の分まで彼らの子供には幸せな子供時代を送って欲しいと願う。
「俺も聞いていい?」
「何?」
「……知ってたの?」
椿矢は一瞬迷ったが頷いた。
「うん」
「もしかして、前にも柊兄と話したことあった? それで柊兄、知ってたの?」
「……どうして柊矢君も知ってたって思うの?」
「いくらパートナー以外はイスかテーブルと同じっていったって、さすがに親を殺されたって聞いて動揺しないのはおかしいでしょ。あんたも表情変えなかったし」
喫茶店で話したとき、柊矢は両親と祖父が殺されたかもしれないと知っても平然としていた。だが、それをわざわざ楸矢に教える必要はないだろう。
表情に出さなかっただけかもしれないし……。
楸矢も、弟どころか親すらイスかテーブル扱いと言うことは知りたくないだろう。
「ごめん」
「別に責めてるわけじゃないよ……どうして父さん達が殺されたって分かったの?」
「君達のご両親のことは確信があったわけじゃないんだ。理由が分からなかったし。君のお祖父さんの事故の時は、うちの祖父様はもう死んでたし、色んな話を総合するとクレーイス・エコーだった君達が狙われたんじゃないかって」
「小夜ちゃんのご両親は?」
「柊矢君に事故現場の写真見せてもらえばすぐ分かるよ。チャイルドシートがあの車から飛び出すのは物理的に不可能だから。ただの交通事故だったとしてもムーシケーは護っただろうけど、君達のご両親やお祖父さんが亡くなったときにしろ、従妹の事故にしろ、小夜ちゃんが轢かれかけたときにしろ、皆〝居眠り運転〟で、小夜ちゃんのご両親の事故もそうだったから」
「小夜ちゃんはなんで狙われたの?」
朝子は小夜を狙ったことは認めたが理由は言わなかった。
「多分だけど、能力が強かったからだと思う。いずれ一番の脅威になるって思ったんじゃないかな。実際、その通りだったわけだし」
「まぁ、魂作り替えちゃったくらいだもんね」
その言葉に椿矢が可笑しそうな顔になった。
「俺、なんか変なこと言った?」
「いや、榎矢が小夜ちゃんのこと、クレーイス・エコーに選ばれたのは能力が強いからだって言ってたでしょ。ムーシカを奏でるだけのムーシコスに能力の強弱もないだろって思ってたからバカにしてたけど、ちゃんとあったんだなって」
椿矢が肩を竦めた。
「あいつ自身は能力っていうのが何なのかよく分かってないんだろうけど」
相変わらずバカにした言い方だから自分の方が間違っていたと言って榎矢に謝罪したりはしないだろう。
椿矢がふと思い付いたように、
「言い訳なんだけど」
と言った。
「なんの?」
「小夜ちゃんが夕辺泣いた理由」
「なんかある!?」
楸矢が身を乗り出した。
「ある人から小夜ちゃんの亡くなったご両親の話を聞いたって言うのは?」
椿矢の言葉に、清美が自分も含めてクラスメイト達は亡くなったお祖父さんの話は避けてると言っていたことを思い出した。
祖父の話に触れないようにしているのなら亡くなったご両親のことだと言えばそれ以上は追求されないだろう。しかも嘘ではない。
「いいかもね。ありがと。って、うわ、また新しいムーシカ……」
小夜の歌声が時々止まる。
「これ、柊兄とのデュエットだ。あの二人、ホント、デュエット好きだよね。てか、三曲続けて新しいのとか創りすぎでしょ」
楸矢が信じられないというように言った。
どうやら小夜がアトの、柊矢が男の方の気持ちを歌っているらしかった。
「……ねぇ」
「何?」
「今の男声パートの歌詞、一生側にいて欲しいって……これ柊兄の気持ちだよね?」
男の気持ちを代弁しているとは言っても実際は柊矢が自分の想いを歌っているのだ。
当然、側にいて欲しいというのは柊矢の小夜に対する気持ちだ。
そもそもアト達は既にムーシケーで一緒にいる。
「そうだね」
「小夜ちゃん、自分も側にいたいって歌ってるけど家から出ていかないって答えちゃったって分かってるのかな」
「さぁ」
椿矢が笑いながら答えた。
「小夜ちゃんが気付いてないにしてもなんでいきなり……」
「小夜ちゃんが出ていこうとしてるって柊矢君も小夜ちゃんの友達から聞いたんじゃない?」
訳を説明すると言っていた楸矢が話さないまま家を出てきてしまったから柊矢に訊ねたのかもしれない。
そのとき小夜が家を出ようとしていると柊矢に話したという事は十分有り得る。
「それで先に言質取ったのかも」
「小鳥ちゃんが気付いてないの分かってるはずなのに、柊兄、汚いな~」
楸矢が呆れたように言うと椿矢が声を上げて笑った。
きっといつか彼女は優しさに満ちた明るく楽しいムーシカを創って子供のために歌うだろう。
それを聴ける日が楽しみだ。
楸矢が、小夜は憧れを叶えてくれたと言っていた。
きっと小夜は子供なら誰もが憧れる理想的な優しい母親になるはずだ。
ムーシコスは子供が少ないが小夜には母親になって欲しい。
小夜や楸矢の子供はきっと幸福な家庭で育つだろう。
小夜や楸矢の分まで彼らの子供には幸せな子供時代を送って欲しいと願う。
「俺も聞いていい?」
「何?」
「……知ってたの?」
椿矢は一瞬迷ったが頷いた。
「うん」
「もしかして、前にも柊兄と話したことあった? それで柊兄、知ってたの?」
「……どうして柊矢君も知ってたって思うの?」
「いくらパートナー以外はイスかテーブルと同じっていったって、さすがに親を殺されたって聞いて動揺しないのはおかしいでしょ。あんたも表情変えなかったし」
喫茶店で話したとき、柊矢は両親と祖父が殺されたかもしれないと知っても平然としていた。だが、それをわざわざ楸矢に教える必要はないだろう。
表情に出さなかっただけかもしれないし……。
楸矢も、弟どころか親すらイスかテーブル扱いと言うことは知りたくないだろう。
「ごめん」
「別に責めてるわけじゃないよ……どうして父さん達が殺されたって分かったの?」
「君達のご両親のことは確信があったわけじゃないんだ。理由が分からなかったし。君のお祖父さんの事故の時は、うちの祖父様はもう死んでたし、色んな話を総合するとクレーイス・エコーだった君達が狙われたんじゃないかって」
「小夜ちゃんのご両親は?」
「柊矢君に事故現場の写真見せてもらえばすぐ分かるよ。チャイルドシートがあの車から飛び出すのは物理的に不可能だから。ただの交通事故だったとしてもムーシケーは護っただろうけど、君達のご両親やお祖父さんが亡くなったときにしろ、従妹の事故にしろ、小夜ちゃんが轢かれかけたときにしろ、皆〝居眠り運転〟で、小夜ちゃんのご両親の事故もそうだったから」
「小夜ちゃんはなんで狙われたの?」
朝子は小夜を狙ったことは認めたが理由は言わなかった。
「多分だけど、能力が強かったからだと思う。いずれ一番の脅威になるって思ったんじゃないかな。実際、その通りだったわけだし」
「まぁ、魂作り替えちゃったくらいだもんね」
その言葉に椿矢が可笑しそうな顔になった。
「俺、なんか変なこと言った?」
「いや、榎矢が小夜ちゃんのこと、クレーイス・エコーに選ばれたのは能力が強いからだって言ってたでしょ。ムーシカを奏でるだけのムーシコスに能力の強弱もないだろって思ってたからバカにしてたけど、ちゃんとあったんだなって」
椿矢が肩を竦めた。
「あいつ自身は能力っていうのが何なのかよく分かってないんだろうけど」
相変わらずバカにした言い方だから自分の方が間違っていたと言って榎矢に謝罪したりはしないだろう。
椿矢がふと思い付いたように、
「言い訳なんだけど」
と言った。
「なんの?」
「小夜ちゃんが夕辺泣いた理由」
「なんかある!?」
楸矢が身を乗り出した。
「ある人から小夜ちゃんの亡くなったご両親の話を聞いたって言うのは?」
椿矢の言葉に、清美が自分も含めてクラスメイト達は亡くなったお祖父さんの話は避けてると言っていたことを思い出した。
祖父の話に触れないようにしているのなら亡くなったご両親のことだと言えばそれ以上は追求されないだろう。しかも嘘ではない。
「いいかもね。ありがと。って、うわ、また新しいムーシカ……」
小夜の歌声が時々止まる。
「これ、柊兄とのデュエットだ。あの二人、ホント、デュエット好きだよね。てか、三曲続けて新しいのとか創りすぎでしょ」
楸矢が信じられないというように言った。
どうやら小夜がアトの、柊矢が男の方の気持ちを歌っているらしかった。
「……ねぇ」
「何?」
「今の男声パートの歌詞、一生側にいて欲しいって……これ柊兄の気持ちだよね?」
男の気持ちを代弁しているとは言っても実際は柊矢が自分の想いを歌っているのだ。
当然、側にいて欲しいというのは柊矢の小夜に対する気持ちだ。
そもそもアト達は既にムーシケーで一緒にいる。
「そうだね」
「小夜ちゃん、自分も側にいたいって歌ってるけど家から出ていかないって答えちゃったって分かってるのかな」
「さぁ」
椿矢が笑いながら答えた。
「小夜ちゃんが気付いてないにしてもなんでいきなり……」
「小夜ちゃんが出ていこうとしてるって柊矢君も小夜ちゃんの友達から聞いたんじゃない?」
訳を説明すると言っていた楸矢が話さないまま家を出てきてしまったから柊矢に訊ねたのかもしれない。
そのとき小夜が家を出ようとしていると柊矢に話したという事は十分有り得る。
「それで先に言質取ったのかも」
「小鳥ちゃんが気付いてないの分かってるはずなのに、柊兄、汚いな~」
楸矢が呆れたように言うと椿矢が声を上げて笑った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


【完結】いい子にしてたら、絶対幸せになれますか?
ここ
ファンタジー
ナティアンヌは侯爵家の長女だが、不器量で両親に嫌わられていた。
8歳のある日、とうとうナティアンヌは娼館に売り払われてしまった。
書いてる言語とかは無茶苦茶です。
ゆるゆる設定お許しください。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

ハッピークリスマス !
設樂理沙
ライト文芸
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が
この先もずっと続いていけぱいいのに……。
―――――――――――――――――――――――
|松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳
|堂本海(どうもとかい) ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ)
中学の同級生
|渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳
|石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳
|大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?
――― 2024.12.1 再々公開 ――――
💍 イラストはOBAKERON様 有償画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる