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魂の還る惑星 第八章 Tistrya -雨の神-
第八章 第三話
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「なら自分の部屋に飾った方がいいんじゃない?」
「夕食が終わったら持っていきます」
バレンタインに花束を渡した後は特に贈り物はしてなかったはずだが、なんでもないときに花束を買ってきたということは一応花見は効果があったという事だろう。
小夜が桜を見て嬉しそうにしていたから花束を買ってきたのだ。
高価なものだと小夜が恐縮してしまうし、花を見て綺麗だと喜んでいたから花束を贈ったのだろう。
デートには行かないにしても、ムーシカやセレナーデ以外にも小夜が喜ぶことがあるという事を学んだようだ。
デートは小夜自身それほど行きたがってるわけではないし、柊矢の方も興味がないから今後も行くことはないだろう。
やっぱ俺の方が出掛けるしかないか……。
春休みに入り旅行の日になった。
香奈の親戚の家の最寄り駅に着き、柊矢の運転するレンタカーで家に向かっているとき林の間から海が見えた瞬間クレーイスが光り始めた。
途切れ途切れのムーシカが聴こえてくる。
小夜は運転している柊矢と後部座席の楸矢に目を向けた。
二人にも聴こえるらしい。
小夜と視線を交わしたが清美達も一緒だったので黙っていた。
香奈の従兄の写真には海は写ってなかったと思ったけど……。
「うわ、おっきい!」
香奈の親戚の家の前に立った涼花が驚いたように言った。
「豪邸じゃん」
清美も目を丸くしている。
「都内だったらね。この辺じゃ普通だし」
香奈が周囲に目を向けながら答えた。
確かに都内の住宅街で見かける平均的な一戸建てと比べるとかなり大きいが周囲の家も同じくらいだ。
周囲と言っても家も大きく庭も広いので隣まではかなりの距離があるが。
「ま、入って」
香奈はそう言うと、鍵を取り出して小夜達を中に招じ入れた。
家に入ると香奈は小夜達をそれぞれの部屋に案内した。
「香奈、台所見せてもらっていい? 夕食の材料がないようなら買い出しに行かないと」
「叔母さん、材料用意しておくって言ってたよ」
「でも、材料見ないと何が作れるか分からないし、それにこの人数だと足りないものがあるかもしれないから」
「分かった」
「買い物に行くなら車を出すから言ってくれ」
柊矢が小夜に声を掛けた。
「今夜は豚肉の生姜焼きと菜の花のおひたしでいい? あと、フライドポテト」
「いいよ」
香奈が言った。
「買い出しは必要ないか?」
「お米は足りますけど、明日の朝、お味噌汁に入れるものが必要です。せっかく海の近くに来たんですし、アサリが買えるといいんですけど。あと、香奈の叔母さんが用意してくれてた材料は今夜と明日の朝の分だけで殆ど無くなってしまいます。明日の分を明日全部買うとなると量が多くて大変だと思うので、今日買っても問題ないものは今日買っておいた方がいいと思います」
「じゃあ、行こう」
「大丈夫だとは思うけど、一応俺も随いてくよ。荷物が多くなったときのために」
「なら、あたしも一緒に行きます!」
清美がすぐに志願した。
「じゃあ、あたし達は神社行こうよ」
涼花がそう言うと香奈が頷いた。
「案内するよ。清美はお小遣い叩く必要なくなっちゃったもんね~」
香奈が意地悪い目付きで清美を見た。
「そ、それはまだ分かんないよ」
清美が珍しく赤くなった。
まだ正式に付き合ってるわけじゃないんだ……。
とっくに付き合ってるのかと思っていたのだが。
楸矢さん、振られたって言ってたし、まだ心の傷が癒えてないとか?
その割には清美と痛いノリで始終盛り上がっているけど。
香奈と涼花に「小夜と清美、二人して見せつけてきてこれじゃ拷問!」と電車の中で散々文句を言われてしまった。
柊矢と自分はそんなに痛いことは言ったりしたりしてないと思うのだが、清美と楸矢は人目を憚らずにイチャイチャしてて物凄く痛かった。
柊矢と自分も端からはこう見えているんだとしたら確かにかなりキツい。
失恋の痛手で控え気味にしててこれなんだとしたら傷が完全に癒えたらどうなってしまうのかと思うと先が思いやられる。
香奈と涼花を残し、小夜達は柊矢のレンタルした車に乗って街へ買い出しに向かった。
柊矢が駐車場に車を止めている間、先に下りて待っていた小夜達は椿矢と出会した。
「あれ、あんた、どうしてここにいんの?」
椿矢に気付いた楸矢が声を掛けた。
「楸矢君、小夜ちゃん。君達の旅行先ってここだったんだ」
楸矢は椿矢と清美を引き合わせた。
小夜の親友にも関わらず楸矢が紹介した。
どうやら楸矢が言っていた付き合いたいと思っている相手というのは彼女らしい。
椿矢と清美が挨拶してる間に柊矢がやってきた。
「なんで、あんたがここにいるんだ?」
「例の知り合いを訪ねてきたんだよ」
「東京に住んでるんだと思ってたが……」
「住んでるのは東京だけど……」
「兄さん、何やって……あ!」
榎矢が椿矢に声を掛けようとして小夜達に気付いた。
「宗二さん!」
清美が榎矢を見て叫んだ。
「お前、なんでここに……、ああ、そうか、あんたの弟だったな」
柊矢が榎矢を睨み付けた後、椿矢に言った。
「え、弟? でも、宗二さんって柊矢さんの元カノの仲間だったんですよね?」
その宗二の兄と楸矢達が親しげにしているのを見て清美が困惑したようだった。
「椿矢は俺達に味方してくれたんだ」
「ホントは中立の立場を貫きたかったのに、不肖の弟が関わっちゃったからね。それより、宗二? お前、そんな偽名使ってたの? 小夜ちゃん、お前のこと知らなかったんだから偽名なんか必要ないのに」
椿矢が嘲笑った。
あからさまに「バカじゃねーの」という表情をしている。
榎矢がむっとした顔をした。
「僕は先に行くから」
榎矢はそう言うと踵を返した。
「夕食が終わったら持っていきます」
バレンタインに花束を渡した後は特に贈り物はしてなかったはずだが、なんでもないときに花束を買ってきたということは一応花見は効果があったという事だろう。
小夜が桜を見て嬉しそうにしていたから花束を買ってきたのだ。
高価なものだと小夜が恐縮してしまうし、花を見て綺麗だと喜んでいたから花束を贈ったのだろう。
デートには行かないにしても、ムーシカやセレナーデ以外にも小夜が喜ぶことがあるという事を学んだようだ。
デートは小夜自身それほど行きたがってるわけではないし、柊矢の方も興味がないから今後も行くことはないだろう。
やっぱ俺の方が出掛けるしかないか……。
春休みに入り旅行の日になった。
香奈の親戚の家の最寄り駅に着き、柊矢の運転するレンタカーで家に向かっているとき林の間から海が見えた瞬間クレーイスが光り始めた。
途切れ途切れのムーシカが聴こえてくる。
小夜は運転している柊矢と後部座席の楸矢に目を向けた。
二人にも聴こえるらしい。
小夜と視線を交わしたが清美達も一緒だったので黙っていた。
香奈の従兄の写真には海は写ってなかったと思ったけど……。
「うわ、おっきい!」
香奈の親戚の家の前に立った涼花が驚いたように言った。
「豪邸じゃん」
清美も目を丸くしている。
「都内だったらね。この辺じゃ普通だし」
香奈が周囲に目を向けながら答えた。
確かに都内の住宅街で見かける平均的な一戸建てと比べるとかなり大きいが周囲の家も同じくらいだ。
周囲と言っても家も大きく庭も広いので隣まではかなりの距離があるが。
「ま、入って」
香奈はそう言うと、鍵を取り出して小夜達を中に招じ入れた。
家に入ると香奈は小夜達をそれぞれの部屋に案内した。
「香奈、台所見せてもらっていい? 夕食の材料がないようなら買い出しに行かないと」
「叔母さん、材料用意しておくって言ってたよ」
「でも、材料見ないと何が作れるか分からないし、それにこの人数だと足りないものがあるかもしれないから」
「分かった」
「買い物に行くなら車を出すから言ってくれ」
柊矢が小夜に声を掛けた。
「今夜は豚肉の生姜焼きと菜の花のおひたしでいい? あと、フライドポテト」
「いいよ」
香奈が言った。
「買い出しは必要ないか?」
「お米は足りますけど、明日の朝、お味噌汁に入れるものが必要です。せっかく海の近くに来たんですし、アサリが買えるといいんですけど。あと、香奈の叔母さんが用意してくれてた材料は今夜と明日の朝の分だけで殆ど無くなってしまいます。明日の分を明日全部買うとなると量が多くて大変だと思うので、今日買っても問題ないものは今日買っておいた方がいいと思います」
「じゃあ、行こう」
「大丈夫だとは思うけど、一応俺も随いてくよ。荷物が多くなったときのために」
「なら、あたしも一緒に行きます!」
清美がすぐに志願した。
「じゃあ、あたし達は神社行こうよ」
涼花がそう言うと香奈が頷いた。
「案内するよ。清美はお小遣い叩く必要なくなっちゃったもんね~」
香奈が意地悪い目付きで清美を見た。
「そ、それはまだ分かんないよ」
清美が珍しく赤くなった。
まだ正式に付き合ってるわけじゃないんだ……。
とっくに付き合ってるのかと思っていたのだが。
楸矢さん、振られたって言ってたし、まだ心の傷が癒えてないとか?
その割には清美と痛いノリで始終盛り上がっているけど。
香奈と涼花に「小夜と清美、二人して見せつけてきてこれじゃ拷問!」と電車の中で散々文句を言われてしまった。
柊矢と自分はそんなに痛いことは言ったりしたりしてないと思うのだが、清美と楸矢は人目を憚らずにイチャイチャしてて物凄く痛かった。
柊矢と自分も端からはこう見えているんだとしたら確かにかなりキツい。
失恋の痛手で控え気味にしててこれなんだとしたら傷が完全に癒えたらどうなってしまうのかと思うと先が思いやられる。
香奈と涼花を残し、小夜達は柊矢のレンタルした車に乗って街へ買い出しに向かった。
柊矢が駐車場に車を止めている間、先に下りて待っていた小夜達は椿矢と出会した。
「あれ、あんた、どうしてここにいんの?」
椿矢に気付いた楸矢が声を掛けた。
「楸矢君、小夜ちゃん。君達の旅行先ってここだったんだ」
楸矢は椿矢と清美を引き合わせた。
小夜の親友にも関わらず楸矢が紹介した。
どうやら楸矢が言っていた付き合いたいと思っている相手というのは彼女らしい。
椿矢と清美が挨拶してる間に柊矢がやってきた。
「なんで、あんたがここにいるんだ?」
「例の知り合いを訪ねてきたんだよ」
「東京に住んでるんだと思ってたが……」
「住んでるのは東京だけど……」
「兄さん、何やって……あ!」
榎矢が椿矢に声を掛けようとして小夜達に気付いた。
「宗二さん!」
清美が榎矢を見て叫んだ。
「お前、なんでここに……、ああ、そうか、あんたの弟だったな」
柊矢が榎矢を睨み付けた後、椿矢に言った。
「え、弟? でも、宗二さんって柊矢さんの元カノの仲間だったんですよね?」
その宗二の兄と楸矢達が親しげにしているのを見て清美が困惑したようだった。
「椿矢は俺達に味方してくれたんだ」
「ホントは中立の立場を貫きたかったのに、不肖の弟が関わっちゃったからね。それより、宗二? お前、そんな偽名使ってたの? 小夜ちゃん、お前のこと知らなかったんだから偽名なんか必要ないのに」
椿矢が嘲笑った。
あからさまに「バカじゃねーの」という表情をしている。
榎矢がむっとした顔をした。
「僕は先に行くから」
榎矢はそう言うと踵を返した。
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