歌のふる里

月夜野 すみれ

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魂の還る惑星 第七章 Takuru-冬-

第七章 第十話

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 楸矢でさえイスかテーブル同然なのだから小夜に関係してるとはいえ、たった一度会っただけの他人など床みたいなものだろう。
 それでもそこまで読めるなら他人に関心があれば名探偵になれたかもしれない。
 まぁ、普通の人間からしたら、なんでもかんでも見透かしてくる相手とは関わりたくないだろうが。

 楸矢君、イスかテーブル扱いでラッキーだったんじゃ……。

「小夜のお母さんがクレーイス・エコーだったってことは?」
「それだと、小夜ちゃんだけ助けてお母さん助けなかったことの説明がつかないよ」
 柊矢が考え込むような表情でリストに目を落とした。
 接点のある人物がいたかどうか記憶を辿っているのだろう。
「そういえば、小夜ちゃん、帰還派のやらかしの後で狙われたのは交通事故に遭いかけたときと、この前の呪詛だけ?」
「俺が知ってるのはそれだけだな。小夜一人の時にあったことは心配掛けないように、俺には言わない可能性があるから断言は出来ないが、小夜の友達に楸矢に気がある子がいるから何かあれば楸矢に教えるだろう」
「君達兄弟は特に危険な目には遭ってないよね?」
 椿矢は楸矢からは何も聞いていない。
「俺は特にないな。楸矢は知らんが」

 聞いてないじゃなくて知らない、か。
 多分、今日帰っても楸矢君に聞いたりしないんだろうな……。

 楸矢に対する態度の一端が垣間見えた気がした。確かにこれはイスかテーブルだ。
 これでも以前よりは意識が向いてきているというのだから地球人的要素の方が強い楸矢にはキツいだろう。
 地球人にとって家族は特別な存在だし、関心を示さなかったとしても冷たかったわけではないようだから、こういう性格の兄でも楸矢にとっては大切な相手だ。
 柊矢は自分のスマホを手に取った。

「リストのコピーをもらえるか。こっちでも調べてみる」
 椿矢がデータを送ると柊矢は立ち上がった。
「一つ聞いてもいい?」
「なんだ」
「なんで沙陽あのひとと付き合ってたの?」
 弟でさえイスかテーブル扱いの人間がよく沙陽の存在に気付いたな、と思ったのだ。

「あいつに付き合って欲しいって言われたんだ」
 声楽のコンクールを聴きに行ったとき印象に残っていた相手だったから承諾した。
「付き合ってみたら面倒くさい女で後悔したがな」
 音楽以外に興味がない柊矢からしたら、それ以外――デートなど――を要求してくる沙陽は面倒以外の何物でもなかったのだろう。

 交際相手でもイスかテーブル扱いなのは同じか……。

 ムーシコスにとって人間はパートナーとそれ以外の二種類しかいないがここまで露骨なのも珍しい。
 そして〝それ以外〟扱いだった沙陽はパートナーとは思われていなかったということだ。
 それでよく一時的にでもクレーイス・エコーになれたものだが。
 小夜パートナーとさえデートもしないでムーシカを奏でてるくらいなのだからパートナーでもない相手と出掛けるなど時間の無駄としか思えないのだろう。

 確かデートすっぽかしたことがあるとか言ってたっけ。

 それでも交際を承諾したのは沙陽がムーソポイオスだったからだろう。
 当時はそうと知らなかったとしてもコンクールで歌声を聴いて無意識に気付いたのかもしれない。
 とはいえムーソポイオスなら誰でもいいわけではないからパートナーにはなれなかったのだ。

 沙陽あのひと、二股掛けてなくても遠からず振られてたみたいだな……。

 楽しそうに喋っている楸矢と清美の後ろを小夜が歩いていた。
 柊矢から急用が出来たから楸矢を行かせるというメッセージが来たので清美を夕食に招待していいか訊ねたら構わないという返事だったので誘ったのだ。

「楸矢さん、香奈の親戚の家、海の側だって知ってました?」
 清美が楸矢と並んで歩きながら言った。
「へぇ、そうなんだ。でも、海水浴はまだ無理だよね」
「海水浴は夏になったら行きましょうよ」
「いいね」
「海水浴の前に水着買いに行きますから一緒に行きませんか? 楸矢さん、選んで下さいよ」
「いいよ。清美ちゃんの水着姿、楽しみだな~」
「やだ~。楸矢さん、変な妄想しないで下さいね~」

 男の人に水着姿見せるなんて信じられない……。

 二人の後ろを歩きながら話を聞いていた小夜は真っ赤になって俯いた。
 しかし清美や楸矢が痛い痛いと文句を言っていた気持ちがよく分かった。
 確かに聞いてる方はいたたまれない。

 でも、柊矢さんと私はこんなに痛い話してないと思うんだけど……。

 小夜は溜息をいた。

「そうだ。小夜、進路のこと、楸矢さんに話してみなよ」
「進路? 俺じゃ役に立たないよ。俺、音楽科のことしか分からないし」
「小夜の件はむしろ楸矢さんにしか分かりませんよ」
「小夜ちゃん、音大行きたいの?」
 楸矢が振り返って訊ねた。
「いえ、そうじゃないんです」
 小夜は首を振ってから清美を横目で睨んだ。
 居候が申し訳ないから出ていきたいなんて言ったって楸矢さんは遠慮する必要ないって言うだけなのに。
「じゃ、どこ行きたいの?」
「それは……まだ決めてなくて……」
 小夜の答えに楸矢が清美の方を向いた。

「いつまでも居候してるのは申し訳ないから、出ていくためにはどこの大学に行ったらいいかで悩んでるんだそうです」
 清美が答えた途端、楸矢が笑い始めた。
「清美! なんで楸矢さんまで笑うんですか!」
「まで?」
「あたしも笑っちゃったんで」
 清美の言葉に楸矢がまた笑い出した。

「だから、なんで笑うんですか!」
「小夜ちゃんさぁ、お医者さんとか先生とかなりたいものがあるなら柊兄は反対しないよ。多分ね。自衛官とか警察官みたいな危険な仕事は許してくれないだろうけど。でも、なりたいものがないなら就職先は柊兄一択でしょ」
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