歌のふる里

月夜野 すみれ

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魂の還る惑星 第七章 Takuru-冬-

第七章 第八話

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「楸矢が読めないって言ってあんたに泣きついたんだろ。お祖父さんと暮らしてた小夜ならともかく、楸矢は崩し字が読めなくてもおかしくないからな。読まれて困るようなことは書いてなかったし構わない」
 おそらく楸矢のことをよく見てるから分かったのではなく、状況から推測して当りを付けたのだろう。

 これだけ鋭い相手だと楸矢君もやりにくいだろうな。

 隠し事は出来ないだろうし嘘もすぐにバレるに違いない。

 以前はともかく最近は叱るようになったって言ってたし。

「しかし、小夜のお祖父さんを殺したのは沙陽だぞ。ムーシケーに帰るのに邪魔な小夜が狙われて巻き添えになったんだろ」
ただしくは小夜ちゃんがクレーイス・エコーに選ばれて腹が立ったから、だね。その頃ってまだ君も小夜ちゃんもムーシケーの事とか知らなかったでしょ」
 椿矢の言葉に柊矢がそんなことくらいで、という表情で眉をひそめた。
「考えてることは分かるけど、沙陽あのひと……って言うか、霍田家や雨宮家の連中ってまともじゃないから。それはともかく、君が言いたいのは、呪詛の依頼は半世紀も前で、小夜ちゃんのお祖父さんは最近まで生きてたって事でしょ」
 柊矢が頷いた。
 椿矢は沢口の知り合いの話をした。

「楸矢君から聞いたけど、君達のお父さん、七十年に生まれたんだって? だとしたら物心ついたのは七十年代前半だよね。その知り合いが亡くなったのがその頃なんだよね。彼が呪詛の依頼をした人で、亡くなったから計画が実行されなかったと考えれば、リストに載ってる人の大半が最近まで生きてたか、今でも生きてることの説明がつくんだよ」
 その言葉に柊矢が黙り込んだ。
「何か気になることでも?」
「その人の娘が小学生だったって事はそれほど年は取ってなかったんだよな。それがいきなり亡くなったのは……」

 おそらく柊矢が懸念けねんしているのは自分の祖父が呪詛でその依頼人を殺したのではないかという事だろう。
 呪殺で警察に捕まることはないし何よりとっくに亡くなっているから逮捕の心配はないが、やはり身内が人を殺したとは思いたくないに違いない。

「君、お祖父さんの日記、楸矢君に渡す前に目を通したよね」
 柊矢は自分の興味があることにしか関心がないとはいえバカではない。
 見られたらマズいことが書いてあるかもしれないものを確認もせずに他人に渡したりはしないだろう。
 柊矢には被後見人が二人もいるし、男で、もう高校も卒業している楸矢はともかく、小夜は高校を卒業するまでまだ二年もあるのだ。

 祖父のしたことで柊矢が刑務所行きになったりすることはないが後見人から外されてしまう可能性はある。
 万が一、後見人がいなくなってしまったりしたら小夜は福祉施設に入れられてしまうかもしれない。
 覚えてない可能性が高いとはいえ小夜は福祉施設に入れられたときのことが心の傷になっているのだ。
 また入れられたりしたら更に深く傷付くことは十分考えられる。
 小夜をそんな目に遭わせるような危険を冒すわけがない。
 柊矢は黙って頷いた。

「なら、お祖父さんが相当警戒してたことに気付いたよね。呪詛の依頼をしてきた人を殺したならそんな用心する必要ないでしょ。あそこまで細心の注意を払ってムーシコスだってこと隠して、幼い君達がうっかり〝歌〟の話をしても不審に思われないように物心ついた頃から楽器を習わせて、お祖母さんにも他言しないように頼んで。危険な人物を消してたなら、そこまで注意を払ったりしてなかったよ。それに、小夜ちゃんのお祖父さんに警告だってする必要なかったでしょ」
 柊矢は納得した様子を見せた。
 柊矢にヴァイオリンを習わせることにしたとき、祖父が父になんと言って説得したか書いて無かったことにも気付いていたのだろう。書かなかった理由も。

 柊矢君が相手だと話が早く進むなぁ。

 ムーシコスはバカばかりだと思っていたのだが、ムーシコスだから頭が悪いのではなく雨宮家と霍田家の人間が浅慮せんりょで短絡的で視野が狭すぎるのだ。

 血筋だ家系だなんて戯言たわごとばかりほざいてる連中だしな。
 今度一族の誰かが家系がどうのと言いだしたら雨宮家うちはバカの家系だと言ってやろう。

「それで、あの封筒を俺達に見せたくなかったとして、小夜との関わりは? お祖父さんの名前があったって言うだけか?」
「小夜ちゃんが関係あるかは分からない。けど、あのノートか封筒を君達に見せたくなかったって事はあの依頼の件で、まだ何かあるんじゃないかと思うんだよね。お祖父さん以外で小夜ちゃんと繋がりがあるとしても僕には分からないし。ないならそれでいいんだ。ないって事は小夜ちゃんが呪詛されたことと、ノートの件は関係ないって事だし」
「待て、全然よくないだろ。関係あるならリストから関係者を辿れるが、なかったら小夜を狙ったヤツを捜しようがないってことだろ」
「…………」

 ホントに切れるな。

「なんだ」
「……こっちも手詰まりだから僕が知ってること全部話すよ。君もお祖父さんの書いたものには目を通したみたいだし、小夜ちゃんのことも調べたんでしょ。お互いの情報突き合わせれば何か分かるかもしれない」
「うちの資料なんて戦後のものだけだぞ。今の家を建てたのは戦後だし、戦前のものは空襲で全部焼けて残ってないからな。それに日記を見たなら分かるだろうが、ムーシコスのことについてはかなり周到に隠してたから何も分からないと思うぞ」
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