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魂の還る惑星 第七章 Takuru-冬-
第七章 第七話
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それはともかく、朝子の父親が亡くなったとき彼女はまだ子供だったから呪詛には関わってなかったとしても話を聞いていた可能性は高い。
小学生の頃のことなら覚えているだろう。
朝子を引き取った沢口は呪詛の存在も朝子の父親の共感覚のことも知らなかったのだから呪詛の依頼のことなど知っていたはずがない。
そもそも知っていたら祖父にムーシコスを捜す理由を訊ねたりしないだろう。
何より沢口は既に亡くなっているから先日の小夜の呪詛は無理だ。
となると呪詛の依頼を知っていたのは朝子と霧生兄弟の祖父だけのはずだ。
沢口の知り合いが他の人間に話した可能性もなくはないが、地球人は聞いたところで頭がおかしいと思うだけだし、ムーシコスのことは邪悪だと思っていたのだから仲間にしようとは考えないだろう。
仮にムーシコスの誰かが仲間に誘われたとしても、ムーシコスを無差別に排除しようと考えてるなら標的を全員殺し終えたら次に狙われるのは自分だという事くらい察するはずだ。
そういえば最近、朝子を見かけたのは新宿三丁目の辺りだ。小夜の学校の近くでもある。
朝子を見かけたのはいつだった?
あの頃、小夜に異変はなかっただろうか?
念の為、次に会ったとき楸矢君に確認しておこう。
椿矢は祖父の遺品を探し始めた。
朝子の住所を知るためだ。
祖父の住所録にあった沢口の住所は控えたが、沢口はもう亡くなっているから違う家に住んでいた可能性も考えて手紙の類も調べた。
椿矢の祖父は沢口と親しくしていて彼の養女だった朝子も雨宮家に来たことがあったのだから祖父が亡くなったときに悔やみの手紙くらいは送ってきているはずだ。
一通り調べて朝子の連絡先を控えた後、母屋に戻ると依頼人が来ていたので仏壇の前で哄笑するのはやめにして遺影に向かって侮蔑の視線を向けるだけに留めておいた。
「ごめん、確定申告の時期は忙しいって楸矢君から聞いてたんだけど……」
椿矢は席に座りながら柊矢に謝った。
二人は新宿駅の近くの喫茶店にいた。
「確定申告は昨日終わったから構わない。この前、小夜を助けるのに協力してもらったしな」
「歌ったのは僕だけじゃないよ。それより、確定申告終わったってことは時間の余裕あるって思っていいの?」
「そうだな、小夜の迎えに行くまで一時間くらいならある」
柊矢が時計を見ながら言った。
小夜ちゃん助けるのに協力しても迎えの方が優先なんだ……。
椿矢は特に親しいわけではないから気にならないが、弟に対してもこうだとしたら楸矢には堪えるだろう。
楸矢は地球人の要素の方が強いのだ。
「……なるべく一時間で済ませるよ」
椿矢はスマホを取り出すとリストを撮った画像を表示して柊矢に渡した。
「そのリストの中に小夜ちゃんと関係がある人いる? 小夜ちゃんのお祖父さん以外でってことだけど」
柊矢はスマホのリストに目を通し始めた。
「これがあの封筒に入ってたリストか?」
「うん。僕の知り合いの名前もあったから調べてみたくて写させてもらったんだ」
「……楸矢が言ってた通り、祖父さんの字じゃないな」
口調や表情は変わらなかったが、それでも小夜の祖父の名前がある呪詛のリストの字が祖父のものではないことに安堵してるのは明らかだった。
リストの字が祖父の筆跡でないなら同じ封筒に入っていた呪詛を書いたのも祖父ではないという事だからだろう。
「小夜のお祖父さん以外は見たことない名前ばかりだ。なんで半世紀も前のこんなリストと小夜に関係があると思ったんだ? 小夜の両親すら生まれてなかった頃だぞ」
「関係があるかどうか僕には分からないから君に聞いたんだよ。楸矢君から、君が後見人になるとき小夜ちゃんのこと調べたって聞いたから見覚えのある名前がないかと思って。楸矢君から小夜ちゃんが呪詛払いのムーシカ歌った話は聞いてる?」
「楸矢からは聴いてないが、小夜から学校でムーシカを歌った理由は聞いた。事故の時と同じムーシカが聴こえたから打ち消したかったそうだ」
椿矢はそのときの呪詛が柊矢達の従妹を狙ったものらしいと話した。
「記事には意識を失ったけど、すぐに気が付いてハンドル切ったって書いてあったし、日付は小夜ちゃんが呪詛払いした日だったから、多分ノートに挟まってた封筒を君達に渡したくなかったんだよ」
ノートには呪詛絡みのことは書いてなかった。
だとしたら渡したくなかったのは封筒の方ということになる。
「呪詛の歌詞を書いた紙はムーシコスなら意味がないって事くらい分かるでしょ。あとは、リストくらいだから……」
封筒を渡したくなかったのだとしたら半世紀前の呪詛の依頼の件と霧生兄弟か小夜に何らかの繋がりがあるということだ。
「楸矢は封筒の中に入ってた紙にムーシカの歌詞が書いてあったから、あんたに見せたって言ってたが、ノートも見せたんだな」
これだけの会話でノートも見たって気付いたのか。
椿矢は柊矢の洞察力に舌を巻いた。
ノートにはムーシカのことは殆ど書いてなかったのだからムーシカだけが理由ならノートまで見せる必要はない。
「君に断りもなく見ちゃってごめん」
椿矢が悪びれた様子もなく謝った。
柊矢は気にしてないというように肩を竦めた。
小学生の頃のことなら覚えているだろう。
朝子を引き取った沢口は呪詛の存在も朝子の父親の共感覚のことも知らなかったのだから呪詛の依頼のことなど知っていたはずがない。
そもそも知っていたら祖父にムーシコスを捜す理由を訊ねたりしないだろう。
何より沢口は既に亡くなっているから先日の小夜の呪詛は無理だ。
となると呪詛の依頼を知っていたのは朝子と霧生兄弟の祖父だけのはずだ。
沢口の知り合いが他の人間に話した可能性もなくはないが、地球人は聞いたところで頭がおかしいと思うだけだし、ムーシコスのことは邪悪だと思っていたのだから仲間にしようとは考えないだろう。
仮にムーシコスの誰かが仲間に誘われたとしても、ムーシコスを無差別に排除しようと考えてるなら標的を全員殺し終えたら次に狙われるのは自分だという事くらい察するはずだ。
そういえば最近、朝子を見かけたのは新宿三丁目の辺りだ。小夜の学校の近くでもある。
朝子を見かけたのはいつだった?
あの頃、小夜に異変はなかっただろうか?
念の為、次に会ったとき楸矢君に確認しておこう。
椿矢は祖父の遺品を探し始めた。
朝子の住所を知るためだ。
祖父の住所録にあった沢口の住所は控えたが、沢口はもう亡くなっているから違う家に住んでいた可能性も考えて手紙の類も調べた。
椿矢の祖父は沢口と親しくしていて彼の養女だった朝子も雨宮家に来たことがあったのだから祖父が亡くなったときに悔やみの手紙くらいは送ってきているはずだ。
一通り調べて朝子の連絡先を控えた後、母屋に戻ると依頼人が来ていたので仏壇の前で哄笑するのはやめにして遺影に向かって侮蔑の視線を向けるだけに留めておいた。
「ごめん、確定申告の時期は忙しいって楸矢君から聞いてたんだけど……」
椿矢は席に座りながら柊矢に謝った。
二人は新宿駅の近くの喫茶店にいた。
「確定申告は昨日終わったから構わない。この前、小夜を助けるのに協力してもらったしな」
「歌ったのは僕だけじゃないよ。それより、確定申告終わったってことは時間の余裕あるって思っていいの?」
「そうだな、小夜の迎えに行くまで一時間くらいならある」
柊矢が時計を見ながら言った。
小夜ちゃん助けるのに協力しても迎えの方が優先なんだ……。
椿矢は特に親しいわけではないから気にならないが、弟に対してもこうだとしたら楸矢には堪えるだろう。
楸矢は地球人の要素の方が強いのだ。
「……なるべく一時間で済ませるよ」
椿矢はスマホを取り出すとリストを撮った画像を表示して柊矢に渡した。
「そのリストの中に小夜ちゃんと関係がある人いる? 小夜ちゃんのお祖父さん以外でってことだけど」
柊矢はスマホのリストに目を通し始めた。
「これがあの封筒に入ってたリストか?」
「うん。僕の知り合いの名前もあったから調べてみたくて写させてもらったんだ」
「……楸矢が言ってた通り、祖父さんの字じゃないな」
口調や表情は変わらなかったが、それでも小夜の祖父の名前がある呪詛のリストの字が祖父のものではないことに安堵してるのは明らかだった。
リストの字が祖父の筆跡でないなら同じ封筒に入っていた呪詛を書いたのも祖父ではないという事だからだろう。
「小夜のお祖父さん以外は見たことない名前ばかりだ。なんで半世紀も前のこんなリストと小夜に関係があると思ったんだ? 小夜の両親すら生まれてなかった頃だぞ」
「関係があるかどうか僕には分からないから君に聞いたんだよ。楸矢君から、君が後見人になるとき小夜ちゃんのこと調べたって聞いたから見覚えのある名前がないかと思って。楸矢君から小夜ちゃんが呪詛払いのムーシカ歌った話は聞いてる?」
「楸矢からは聴いてないが、小夜から学校でムーシカを歌った理由は聞いた。事故の時と同じムーシカが聴こえたから打ち消したかったそうだ」
椿矢はそのときの呪詛が柊矢達の従妹を狙ったものらしいと話した。
「記事には意識を失ったけど、すぐに気が付いてハンドル切ったって書いてあったし、日付は小夜ちゃんが呪詛払いした日だったから、多分ノートに挟まってた封筒を君達に渡したくなかったんだよ」
ノートには呪詛絡みのことは書いてなかった。
だとしたら渡したくなかったのは封筒の方ということになる。
「呪詛の歌詞を書いた紙はムーシコスなら意味がないって事くらい分かるでしょ。あとは、リストくらいだから……」
封筒を渡したくなかったのだとしたら半世紀前の呪詛の依頼の件と霧生兄弟か小夜に何らかの繋がりがあるということだ。
「楸矢は封筒の中に入ってた紙にムーシカの歌詞が書いてあったから、あんたに見せたって言ってたが、ノートも見せたんだな」
これだけの会話でノートも見たって気付いたのか。
椿矢は柊矢の洞察力に舌を巻いた。
ノートにはムーシカのことは殆ど書いてなかったのだからムーシカだけが理由ならノートまで見せる必要はない。
「君に断りもなく見ちゃってごめん」
椿矢が悪びれた様子もなく謝った。
柊矢は気にしてないというように肩を竦めた。
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