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魂の還る惑星 第七章 Takuru-冬-
第七章 第二話
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「夢?」
「家に帰ると笑顔でお帰りなさいって言って、おやつ出してくれて、朝ご飯や夕ご飯作ってくれて、お昼はお弁当作ってくれて。初めて小夜ちゃんが作ってくれたお弁当見たとき、すっげぇ感動した。こういうお弁当が食べたかったんだって。盛り付けとか綺麗でホント完璧で、しかも美味しくて。ずっと友達の弁当とか見て羨ましかったんだよね」
高三だったから学校に行かない日も多かったが、そういうときでも小夜はちゃんとお昼を用意していってくれた。
毎日おやつを作ってくれて料理のリクエストも聞いてくれる。
「さっき探してた本、掃除中にソファの下で見つけましたよ」
と渡してくれたり、ボタンが取れたのを付けてくれたり、裾のほつれを繕ってくれたり、ソファに放り出してあったシャツを畳んでおいてくれたり。
さすがに赤の他人の女の子に男物の洗濯はさせられないので自分ですることになってるから、シャツとはいえ畳んでもらったりすると柊矢に叱られるのだが、柊矢が怒ると小夜が取りなしてくれた。
柊矢はイスかテーブル扱いの楸矢の頼みはなかなか聞いてくれないが、そういうとき小夜が肩を持ってくれた。
柊矢は小夜のお願いなら小夜の安全に関わること以外は無条件で叶えてくれるからイスかテーブル同然の楸矢の頼みのような些末なことは小夜が頼めば簡単に承諾してくれる。
柊矢は大抵小夜の側にいるからそういうときを狙って頼めば断られたとき小夜が口添えしてくれるのですんなり要求が通る。
「きっと皆、家でお母さんにこう言うことしてもらってるんだろうなって」
「…………」
「そういう憧れは小夜ちゃんのおかげで経験出来たから、別に奥さんがフルタイムで働いて俺が家事をするのも構わないんだけど、でも、奥さんの方が稼ぎが多いって言うのはやっぱ抵抗あるって言うか……、やっぱ自分が養いたいじゃん。奥さんの給料は頼りたくないって言うか……」
小夜が理想の母親なら柊矢は理想の父親だろう。
楸矢のことはイスかテーブル扱いとはいえ柊矢は経済的には家族に何不自由ない暮らしをさせている。
楸矢を学費の高い私立の高校や大学へ何も言わずに通わせ、祖父から相続したものとは言え都心の一戸建て住宅と自家用車を維持し、借金もなければ税金の滞納もないようだ。
成績のことで叱ることはあっても金のことでは一切文句を言わない。
フルートの練習で時間がなかったとはいえ、バイトをしたことがないのに小遣いにも困ってない。
その上で赤の他人の小夜を引き取っても生活に影響が出ないだけのゆとりがある。
学費などは遺産から出してるらしいが食費などの生活費は受け取ってないと言っていた。
小夜を引き取った後、仕事の量が増えた様子はないようだし楸矢に私立の医学部へ行っても大丈夫と言ったらしいから元々扶養家族が一人や二人増えたところで困らないくらいの余裕があったのだろう。
それは祖母の遺産を金額すら聞かずにその場で蹴ったという話からも容易に想像が付く。
しかも弁護士に放棄の書類まで作成させたと言っていた。
弁護士なんて雨宮家や霍田家ですら雇ってない。
金銭的な見返りがないからと小夜を引き取るのを拒んだ親戚のことを話すとき柊矢は不愉快そうだったと言っていたが、なんの援助や見返りもなく子供を引き取って養育出来る余裕のある家は少ない。
いくら祖父の仕事を継いだだけとはいえ自営業だから上手くやらなければ資産を目減りさせてしまうことも有り得えたはずだが、そんなこともないようだ。
柊矢がこれだけ完璧に家族を養っているのだから楸矢がなりたい父親像は柊矢だろう。少なくとも経済面では。
もっとも霧生家が経済的に余裕があるのは三人揃ってムーシコスだから必要最低限の出費で済んでるからのような気もするが。
娯楽は金のかからないムーシカ(と地球の音楽の演奏)だけだし、親戚もなく――雨宮家は親戚だが大伯母の代に縁を切っている――、柊矢は会社に勤めているわけでもないし友人が殆どいないらしいから交際費もほぼ掛かっていないだろう。
普段、着てる服も特に高級品というわけではなく、その辺に売っている一般的なものだし――柊矢は仕立ての良いスーツを着ていたことがあったから仕事で外出する時はそれなりのものを着用しているようだが――、食事は近所のスーパーで買ったものを小夜が料理しているから食費も大したことはないはずだ。
楽器は高かったとしても多額の金を払ったのは購入時だけで後は手入れにかかる費用くらいだろう。
楸矢がサラリーマンになって地球人と結婚したら出費の多さに驚くかもしれない。
愛情面に関しては自分が妻子を大事にすればいいだけだ。
小夜に対する配慮の仕方を見る限り家族への対応は問題ないだろう。
正直、楸矢の思い描く家庭像は古いというか古典的だが、両親がいなかったのだから価値観が祖父の世代――昭和――のものなのだろう。
「音大に行くのがどうしても嫌って訳じゃないんだよね」
「うん。ただ、普通の仕事に就くなら音大はあんま向いてないかなって思って」
「だったらこのまま音大出るのが一番確実だよ。語学頑張れば他の科目が少々悪くても、それなりのところに就職出来ると思う。最低三カ国語出来るって言うのはかなり有利だし、四カ国語出来たら下手な三流大学出るよりよっぽど良いとこに就職出来るよ。前に医学用語はラテン語だって言ったでしょ。医学用語にラテン語使ってるなら製薬会社とかでも使ってるところあると思うし」
「家に帰ると笑顔でお帰りなさいって言って、おやつ出してくれて、朝ご飯や夕ご飯作ってくれて、お昼はお弁当作ってくれて。初めて小夜ちゃんが作ってくれたお弁当見たとき、すっげぇ感動した。こういうお弁当が食べたかったんだって。盛り付けとか綺麗でホント完璧で、しかも美味しくて。ずっと友達の弁当とか見て羨ましかったんだよね」
高三だったから学校に行かない日も多かったが、そういうときでも小夜はちゃんとお昼を用意していってくれた。
毎日おやつを作ってくれて料理のリクエストも聞いてくれる。
「さっき探してた本、掃除中にソファの下で見つけましたよ」
と渡してくれたり、ボタンが取れたのを付けてくれたり、裾のほつれを繕ってくれたり、ソファに放り出してあったシャツを畳んでおいてくれたり。
さすがに赤の他人の女の子に男物の洗濯はさせられないので自分ですることになってるから、シャツとはいえ畳んでもらったりすると柊矢に叱られるのだが、柊矢が怒ると小夜が取りなしてくれた。
柊矢はイスかテーブル扱いの楸矢の頼みはなかなか聞いてくれないが、そういうとき小夜が肩を持ってくれた。
柊矢は小夜のお願いなら小夜の安全に関わること以外は無条件で叶えてくれるからイスかテーブル同然の楸矢の頼みのような些末なことは小夜が頼めば簡単に承諾してくれる。
柊矢は大抵小夜の側にいるからそういうときを狙って頼めば断られたとき小夜が口添えしてくれるのですんなり要求が通る。
「きっと皆、家でお母さんにこう言うことしてもらってるんだろうなって」
「…………」
「そういう憧れは小夜ちゃんのおかげで経験出来たから、別に奥さんがフルタイムで働いて俺が家事をするのも構わないんだけど、でも、奥さんの方が稼ぎが多いって言うのはやっぱ抵抗あるって言うか……、やっぱ自分が養いたいじゃん。奥さんの給料は頼りたくないって言うか……」
小夜が理想の母親なら柊矢は理想の父親だろう。
楸矢のことはイスかテーブル扱いとはいえ柊矢は経済的には家族に何不自由ない暮らしをさせている。
楸矢を学費の高い私立の高校や大学へ何も言わずに通わせ、祖父から相続したものとは言え都心の一戸建て住宅と自家用車を維持し、借金もなければ税金の滞納もないようだ。
成績のことで叱ることはあっても金のことでは一切文句を言わない。
フルートの練習で時間がなかったとはいえ、バイトをしたことがないのに小遣いにも困ってない。
その上で赤の他人の小夜を引き取っても生活に影響が出ないだけのゆとりがある。
学費などは遺産から出してるらしいが食費などの生活費は受け取ってないと言っていた。
小夜を引き取った後、仕事の量が増えた様子はないようだし楸矢に私立の医学部へ行っても大丈夫と言ったらしいから元々扶養家族が一人や二人増えたところで困らないくらいの余裕があったのだろう。
それは祖母の遺産を金額すら聞かずにその場で蹴ったという話からも容易に想像が付く。
しかも弁護士に放棄の書類まで作成させたと言っていた。
弁護士なんて雨宮家や霍田家ですら雇ってない。
金銭的な見返りがないからと小夜を引き取るのを拒んだ親戚のことを話すとき柊矢は不愉快そうだったと言っていたが、なんの援助や見返りもなく子供を引き取って養育出来る余裕のある家は少ない。
いくら祖父の仕事を継いだだけとはいえ自営業だから上手くやらなければ資産を目減りさせてしまうことも有り得えたはずだが、そんなこともないようだ。
柊矢がこれだけ完璧に家族を養っているのだから楸矢がなりたい父親像は柊矢だろう。少なくとも経済面では。
もっとも霧生家が経済的に余裕があるのは三人揃ってムーシコスだから必要最低限の出費で済んでるからのような気もするが。
娯楽は金のかからないムーシカ(と地球の音楽の演奏)だけだし、親戚もなく――雨宮家は親戚だが大伯母の代に縁を切っている――、柊矢は会社に勤めているわけでもないし友人が殆どいないらしいから交際費もほぼ掛かっていないだろう。
普段、着てる服も特に高級品というわけではなく、その辺に売っている一般的なものだし――柊矢は仕立ての良いスーツを着ていたことがあったから仕事で外出する時はそれなりのものを着用しているようだが――、食事は近所のスーパーで買ったものを小夜が料理しているから食費も大したことはないはずだ。
楽器は高かったとしても多額の金を払ったのは購入時だけで後は手入れにかかる費用くらいだろう。
楸矢がサラリーマンになって地球人と結婚したら出費の多さに驚くかもしれない。
愛情面に関しては自分が妻子を大事にすればいいだけだ。
小夜に対する配慮の仕方を見る限り家族への対応は問題ないだろう。
正直、楸矢の思い描く家庭像は古いというか古典的だが、両親がいなかったのだから価値観が祖父の世代――昭和――のものなのだろう。
「音大に行くのがどうしても嫌って訳じゃないんだよね」
「うん。ただ、普通の仕事に就くなら音大はあんま向いてないかなって思って」
「だったらこのまま音大出るのが一番確実だよ。語学頑張れば他の科目が少々悪くても、それなりのところに就職出来ると思う。最低三カ国語出来るって言うのはかなり有利だし、四カ国語出来たら下手な三流大学出るよりよっぽど良いとこに就職出来るよ。前に医学用語はラテン語だって言ったでしょ。医学用語にラテン語使ってるなら製薬会社とかでも使ってるところあると思うし」
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