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魂の還る惑星 第七章 Takuru-冬-
第七章 第一話
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第七章 Takurua-冬-
男が星空の下で歌っていた。
男は一人だった。時々後ろに視線を向けるが誰もいない。
男はキタリステースだし、アトは地球人だから肉声が届くところにいてくれないと彼の歌声は聴こえない。
男の演奏に合わせてムーシコスの歌声が聴こえる。ムーシコスには彼の演奏が聴こえるのだ。だが一番聴いて欲しい人が側にいない。
男が捜していたのは自分と同じように歌声が聴こえる人間のはずだった。
けれど今は聴こえなくてもいいからアトに側に居て欲しかった。
彼女と一緒に居たいからこの村に住み続けることにしたと伝えるつもりだったが、あれ以来アトはここへは来なくなってしまった。
やはり自分には父にとっての母のような存在を見つけることは出来ないのだろうか。
男は寂しさを紛らわすようにムーシカにあわせて竪琴を弾いた。
男の近くから別の気配を感じる。
なんだろう……。
最近、どこかでこれと同じ感じがしたような……。
「ごめん、待った?」
椿矢は先に来ていた楸矢に謝った。
「俺も今来たとこ」
「それで、用って?」
「うん……」
楸矢は一瞬口ごもった。
「俺、本気で将来のこと考えたいんだけど、どうすればいいか分からなくてさ。もう一回相談に乗ってくれない?」
「いいけど……、本気で考えたいってことは何かはっきりした目標が出来たってこと?」
「家族を養えるようになりたい。だから、大学諦めて就職した方がよさそうならそう言って。大学出てない人なんていっぱいいるんだし、問題ないよね? ただその場合、どうやって仕事を見つければいいのか分かんないんだけど、どうすればいいの?」
「うーん……」
椿矢は考え込んだ。
真面目に働く気さえあれば何をしてでも食べていけるし家族も養える。
あとは、どの程度の生活水準を望むかだ。
楸矢は学費や諸経費が恐ろしく高い私立高校から大学へ進学して、バイトをしてなくても小遣いに困ることもなく、防音設備が整っている音楽室があるような一戸建ての持ち家に住んでいる。しかも場所は都心の住宅地だ。
正直かなりいい暮らしをしている。
そのレベルを維持したいなら相当な収入が必要になる。
高卒でそれだけの収入を得るにはかなりの才覚が必要だ。
楸矢の場合それはフルートということになるだろうが、それだけの収入が得られるほどの音楽家となると、かなり大成しないと難しいだろう。
仮に有名になれたとしても基本的に音楽家の主な収入源は公演だろうから、しょっちゅう国内外で演奏することになって常に家を空けることになるのではないだろうか。
それでは楸矢が憧れるような家庭生活は無理だろう。
何より楸矢の思い描く父親――つまり自分――は、おそらくサラリーマンだ。
「聞いてもいい?」
「何?」
「前にも同じこと言ってたけど、改めて真剣にそう思うようになったのはどうして?」
「前に付き合いたい子いるって言ったじゃん」
「うん」
「さすがに付き合ってもいないうちから結婚考えてるわけじゃないよ。そもそも付き合ってもらえるかどうかもまだ分かんないんだし。ただ、昨日その子と話してて、もし付き合うようになって、いずれ結婚――別にその子とは限らないけど――ってなったとき、ちゃんと家族のこと養っていけるのかなって不安になっちゃったんだよね」
柊矢と小夜のデートのお膳立てをすると言っていたが、楸矢の方も目当ての子とデートしてたのか。
まぁ、内気な小夜にデートをさせようと思ったらダブルデートの方が構えずにすむだろう。
「彼女、早稲田受けようと思ってるらしいんだ。早稲田ってすごく難しいんだよね? でも、話した感じだとそんな必死にならなくても入れそうな感じでさ、だとしたら相当成績いいって事だよね?」
その子の成績を知らないし学部にもよるが小夜と同じ高校と聞いている。
小夜の高校は都立の上位校だから、よほど勉強をサボって遊んでるか入試当日に調子を崩したとかでもない限り問題ないだろう。
「早稲田出たら、きっといいとこ就職できるよね。どう考えたって高い給料もらえるところで働くだろうなって思ったら、なんかすっげぇ焦っちゃってさ」
なるほど。
小夜の高校はかなり偏差値が高い。
二百校以上ある都立高校の上位十位以内に入っている。
国立や私立を含めても東京に数百校ある高校の中で五十位以内だ。
一般入試なら受験しさえすれば全員が受かる楸矢の高校では勝負にならない。
まぁ、楸矢の高校は音楽科だから一般入試の偏差値に意味はないが。
普通科と音楽科では土俵が違うから単純な比較は無理だが、目に見える数値で結果が予測出来る普通科と比べて音楽科は将来どう転ぶか読めない。
世界的に有名な音楽家になれる可能性もあるだろうが、下手をしたらバイトをしながら延々と、どこかの楽団の空席待ちという状況も十分有り得る。
しかもフルート奏者は数が多いから空席が出来ても激戦らしい。当然要求されるレベルも高い。
「別に今時、共働きが嫌なわけじゃないよ。俺だって七年も柊兄と二人暮らしだったんだから家事は一通り出来るし、奥さんとの家事の分担も二人で協力し合ってるって感じでいいなって思うし。それに小夜ちゃんが俺の夢、一通り叶えてくれたし」
男が星空の下で歌っていた。
男は一人だった。時々後ろに視線を向けるが誰もいない。
男はキタリステースだし、アトは地球人だから肉声が届くところにいてくれないと彼の歌声は聴こえない。
男の演奏に合わせてムーシコスの歌声が聴こえる。ムーシコスには彼の演奏が聴こえるのだ。だが一番聴いて欲しい人が側にいない。
男が捜していたのは自分と同じように歌声が聴こえる人間のはずだった。
けれど今は聴こえなくてもいいからアトに側に居て欲しかった。
彼女と一緒に居たいからこの村に住み続けることにしたと伝えるつもりだったが、あれ以来アトはここへは来なくなってしまった。
やはり自分には父にとっての母のような存在を見つけることは出来ないのだろうか。
男は寂しさを紛らわすようにムーシカにあわせて竪琴を弾いた。
男の近くから別の気配を感じる。
なんだろう……。
最近、どこかでこれと同じ感じがしたような……。
「ごめん、待った?」
椿矢は先に来ていた楸矢に謝った。
「俺も今来たとこ」
「それで、用って?」
「うん……」
楸矢は一瞬口ごもった。
「俺、本気で将来のこと考えたいんだけど、どうすればいいか分からなくてさ。もう一回相談に乗ってくれない?」
「いいけど……、本気で考えたいってことは何かはっきりした目標が出来たってこと?」
「家族を養えるようになりたい。だから、大学諦めて就職した方がよさそうならそう言って。大学出てない人なんていっぱいいるんだし、問題ないよね? ただその場合、どうやって仕事を見つければいいのか分かんないんだけど、どうすればいいの?」
「うーん……」
椿矢は考え込んだ。
真面目に働く気さえあれば何をしてでも食べていけるし家族も養える。
あとは、どの程度の生活水準を望むかだ。
楸矢は学費や諸経費が恐ろしく高い私立高校から大学へ進学して、バイトをしてなくても小遣いに困ることもなく、防音設備が整っている音楽室があるような一戸建ての持ち家に住んでいる。しかも場所は都心の住宅地だ。
正直かなりいい暮らしをしている。
そのレベルを維持したいなら相当な収入が必要になる。
高卒でそれだけの収入を得るにはかなりの才覚が必要だ。
楸矢の場合それはフルートということになるだろうが、それだけの収入が得られるほどの音楽家となると、かなり大成しないと難しいだろう。
仮に有名になれたとしても基本的に音楽家の主な収入源は公演だろうから、しょっちゅう国内外で演奏することになって常に家を空けることになるのではないだろうか。
それでは楸矢が憧れるような家庭生活は無理だろう。
何より楸矢の思い描く父親――つまり自分――は、おそらくサラリーマンだ。
「聞いてもいい?」
「何?」
「前にも同じこと言ってたけど、改めて真剣にそう思うようになったのはどうして?」
「前に付き合いたい子いるって言ったじゃん」
「うん」
「さすがに付き合ってもいないうちから結婚考えてるわけじゃないよ。そもそも付き合ってもらえるかどうかもまだ分かんないんだし。ただ、昨日その子と話してて、もし付き合うようになって、いずれ結婚――別にその子とは限らないけど――ってなったとき、ちゃんと家族のこと養っていけるのかなって不安になっちゃったんだよね」
柊矢と小夜のデートのお膳立てをすると言っていたが、楸矢の方も目当ての子とデートしてたのか。
まぁ、内気な小夜にデートをさせようと思ったらダブルデートの方が構えずにすむだろう。
「彼女、早稲田受けようと思ってるらしいんだ。早稲田ってすごく難しいんだよね? でも、話した感じだとそんな必死にならなくても入れそうな感じでさ、だとしたら相当成績いいって事だよね?」
その子の成績を知らないし学部にもよるが小夜と同じ高校と聞いている。
小夜の高校は都立の上位校だから、よほど勉強をサボって遊んでるか入試当日に調子を崩したとかでもない限り問題ないだろう。
「早稲田出たら、きっといいとこ就職できるよね。どう考えたって高い給料もらえるところで働くだろうなって思ったら、なんかすっげぇ焦っちゃってさ」
なるほど。
小夜の高校はかなり偏差値が高い。
二百校以上ある都立高校の上位十位以内に入っている。
国立や私立を含めても東京に数百校ある高校の中で五十位以内だ。
一般入試なら受験しさえすれば全員が受かる楸矢の高校では勝負にならない。
まぁ、楸矢の高校は音楽科だから一般入試の偏差値に意味はないが。
普通科と音楽科では土俵が違うから単純な比較は無理だが、目に見える数値で結果が予測出来る普通科と比べて音楽科は将来どう転ぶか読めない。
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しかもフルート奏者は数が多いから空席が出来ても激戦らしい。当然要求されるレベルも高い。
「別に今時、共働きが嫌なわけじゃないよ。俺だって七年も柊兄と二人暮らしだったんだから家事は一通り出来るし、奥さんとの家事の分担も二人で協力し合ってるって感じでいいなって思うし。それに小夜ちゃんが俺の夢、一通り叶えてくれたし」
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