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魂の還る惑星 第六章 Al-Shi'ra -輝く星-
第六章 第八話
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「雨宮、まだいたのか?」
助手室を覗いた教授が、椿矢がいるのを見て声を掛けてきた。
「今から帰るところです」
椿矢はノートパソコンを鞄に入れると立ち上がった。
「お花見? 行く!」
小夜が誘うと清美は二つ返事で承諾した。
「お弁当作るんだよね? あたしも手伝いたい」
「うん、お願い」
「あ、でも、あたし、まだ簡単なものしか作れないけど」
「お弁当に手の込んだ料理は作らないよ。特に当日の天気を見てから行くか決めるなら、すぐに出来るものじゃないと」
「そっか」
清美が安心したように頷いた。
「お花見楽しみだな~。お料理の練習もっと頑張らなきゃ」
清美がはしゃいでいる姿を見ると小夜も楽しくなってくる。
「楸矢さんが小夜の親戚でラッキー」
「親戚?」
小夜が思わず聞き返した。
「え、楸矢さん、親戚って言ってたけど違うの?」
「ううん。親戚だよ。遠縁の」
小夜が慌てて言った。
「……そう」
楸矢も遠縁だと言っていた。
清美は小夜が霧生家に引き取られるまで柊矢達の話を聞いたことがなかった。
小夜の祖父が生きていた頃から両親がいないということで家族に関する話は清美の方からは聞きづらかったというのもあるが、小夜もたまに祖父の話をする程度で親戚の話が出たことはなかったからいないのかと思っていた。
遠方なら話が出なくても不思議はないが同じ新宿区内に住んでる親戚がいたと知って驚いた。
実際のところ、どの程度遠いのか気になったが小夜にしろ霧生兄弟にしろ家庭環境に関しては迂闊に触れられない。
話が出たことがないのは、ほとんど交流がなかったからだろう。
それでよく小夜が柊矢達と普通に話せたと思うが、男性が苦手といっても全く口が利けないわけではない。
やたら人に気を遣う性格だから嫌だと思っていても相手に不愉快な思いをさせないように話しかけられれば、ちゃんと受け答えはする。
自分から積極的に近付きたくないというだけだ。
小夜は可愛いから入学当初は男子がよく話しかけてきていた。
だが傍目にも分かるほど顔を引き攣らせるため今では必要事項の伝達以外で話し掛けてくる男子はいなくなった。
もちろん初めの頃は面白がって小夜をからかうために話しかけてくる男子もいた。
だが、からかわれてる事にも気付かず、逃げることにも思い至れないほど緊張して顔を強張らせながら必死で相手をしている小夜を見かねて清美が男子を追い払うようになった。
それが小夜と清美が親しくなったきっかけだった。
人見知りとはいえ相手が女子なら慣れれば普通に話せるので、そのうち清美以外の子とも喋れるようになった。
といっても自分から積極的に話しかけたりはしないから親しくしているのは小夜と清美のお喋りに加わってきた子だけだ。
おそらく唯一の引き取り手であった柊矢とその弟に対して苦手でも普通に接しないわけにはいかなかったのだろう。
一緒に暮らしているうちに慣れたのかもしれない。
あるいは突然祖父を亡くして動揺しているときだったから苦手意識どころではなかったとも考えられる。
とりあえず清美は〝親戚〟という言葉に感じた引っかかりをスルーすることにした。
椿矢は蔵の壁にもたれて数年前に亡くなった親戚の日記を読んでいた。
祖父のものから読み始め、蔵に置いてあった全ての日記や手紙の類に目を通した。
これが蔵にある一族の日記の最後の一冊だ。
祖父の日記には榎矢が言ったとおりのことが記されていた。
祖父はクレーイス・エコーから外されクレーイスが消えた。
榎矢がクレーイスを〝無くした〟ことが発覚したのは消えてから数時間経ってからだった。
まだ三歳だった榎矢の話は要領を得ず、存命中にクレーイス・エコーから外されたという前例もなかった――少なくとも雨宮家の人間は知らなかった――ため、クレーイス・エコーではなくなったからクレーイスが消えたのではないかという結論が出たのは何週間も経ってからだった。
そのため祖父は関連付けて考えなかったようだが予想通りクレーイスは父に謡祈祷を勧めた日に無くなっていた。
ムーシケーの意志に反してムーシカを呪詛に使い続けていた雨宮家は、ムーシケーに完全に見限られたのだ。
ムーシカを私利私欲に利用し続ける限り雨宮家の者がクレーイス・エコーになることは二度とないだろう。
ムーシコスであることに拘り、クレーイス・エコーに選ばれることを誇りにしていた一族がムーシケーに見放された。
そしてムーシケーに見切りを付けられた一族が見捨てた大伯母の子孫がクレーイス・エコーに選ばれた。
これ以上の皮肉はないだろう。
まぁ、柊矢が選ばれたのは恐らく現存するムーシコスの中で一番ムーシコスらしいムーシコスだからという理由だろうが、最もムーシコスらしい者がやはり今いる中で一番ムーシケーとの共感力が強い小夜を見つけたのは天の配剤なのか必然だったのか。
それはともかく呪詛の依頼があったのは霧生兄弟の父親が物心ついた頃。
柊矢は沙陽と同じ学年だし二人とも現役で大学に入っているからそうなると椿矢とも同じ学年だ。
第一子が同い年なら霧生兄弟の父親と椿矢の父の年も近いはずだから呪詛の依頼があったのは椿矢の父親が物心つく前後数年に絞っていいと判断して、その頃を中心に祖父を初めとした親戚達の日記や手紙などを調べてみた。
助手室を覗いた教授が、椿矢がいるのを見て声を掛けてきた。
「今から帰るところです」
椿矢はノートパソコンを鞄に入れると立ち上がった。
「お花見? 行く!」
小夜が誘うと清美は二つ返事で承諾した。
「お弁当作るんだよね? あたしも手伝いたい」
「うん、お願い」
「あ、でも、あたし、まだ簡単なものしか作れないけど」
「お弁当に手の込んだ料理は作らないよ。特に当日の天気を見てから行くか決めるなら、すぐに出来るものじゃないと」
「そっか」
清美が安心したように頷いた。
「お花見楽しみだな~。お料理の練習もっと頑張らなきゃ」
清美がはしゃいでいる姿を見ると小夜も楽しくなってくる。
「楸矢さんが小夜の親戚でラッキー」
「親戚?」
小夜が思わず聞き返した。
「え、楸矢さん、親戚って言ってたけど違うの?」
「ううん。親戚だよ。遠縁の」
小夜が慌てて言った。
「……そう」
楸矢も遠縁だと言っていた。
清美は小夜が霧生家に引き取られるまで柊矢達の話を聞いたことがなかった。
小夜の祖父が生きていた頃から両親がいないということで家族に関する話は清美の方からは聞きづらかったというのもあるが、小夜もたまに祖父の話をする程度で親戚の話が出たことはなかったからいないのかと思っていた。
遠方なら話が出なくても不思議はないが同じ新宿区内に住んでる親戚がいたと知って驚いた。
実際のところ、どの程度遠いのか気になったが小夜にしろ霧生兄弟にしろ家庭環境に関しては迂闊に触れられない。
話が出たことがないのは、ほとんど交流がなかったからだろう。
それでよく小夜が柊矢達と普通に話せたと思うが、男性が苦手といっても全く口が利けないわけではない。
やたら人に気を遣う性格だから嫌だと思っていても相手に不愉快な思いをさせないように話しかけられれば、ちゃんと受け答えはする。
自分から積極的に近付きたくないというだけだ。
小夜は可愛いから入学当初は男子がよく話しかけてきていた。
だが傍目にも分かるほど顔を引き攣らせるため今では必要事項の伝達以外で話し掛けてくる男子はいなくなった。
もちろん初めの頃は面白がって小夜をからかうために話しかけてくる男子もいた。
だが、からかわれてる事にも気付かず、逃げることにも思い至れないほど緊張して顔を強張らせながら必死で相手をしている小夜を見かねて清美が男子を追い払うようになった。
それが小夜と清美が親しくなったきっかけだった。
人見知りとはいえ相手が女子なら慣れれば普通に話せるので、そのうち清美以外の子とも喋れるようになった。
といっても自分から積極的に話しかけたりはしないから親しくしているのは小夜と清美のお喋りに加わってきた子だけだ。
おそらく唯一の引き取り手であった柊矢とその弟に対して苦手でも普通に接しないわけにはいかなかったのだろう。
一緒に暮らしているうちに慣れたのかもしれない。
あるいは突然祖父を亡くして動揺しているときだったから苦手意識どころではなかったとも考えられる。
とりあえず清美は〝親戚〟という言葉に感じた引っかかりをスルーすることにした。
椿矢は蔵の壁にもたれて数年前に亡くなった親戚の日記を読んでいた。
祖父のものから読み始め、蔵に置いてあった全ての日記や手紙の類に目を通した。
これが蔵にある一族の日記の最後の一冊だ。
祖父の日記には榎矢が言ったとおりのことが記されていた。
祖父はクレーイス・エコーから外されクレーイスが消えた。
榎矢がクレーイスを〝無くした〟ことが発覚したのは消えてから数時間経ってからだった。
まだ三歳だった榎矢の話は要領を得ず、存命中にクレーイス・エコーから外されたという前例もなかった――少なくとも雨宮家の人間は知らなかった――ため、クレーイス・エコーではなくなったからクレーイスが消えたのではないかという結論が出たのは何週間も経ってからだった。
そのため祖父は関連付けて考えなかったようだが予想通りクレーイスは父に謡祈祷を勧めた日に無くなっていた。
ムーシケーの意志に反してムーシカを呪詛に使い続けていた雨宮家は、ムーシケーに完全に見限られたのだ。
ムーシカを私利私欲に利用し続ける限り雨宮家の者がクレーイス・エコーになることは二度とないだろう。
ムーシコスであることに拘り、クレーイス・エコーに選ばれることを誇りにしていた一族がムーシケーに見放された。
そしてムーシケーに見切りを付けられた一族が見捨てた大伯母の子孫がクレーイス・エコーに選ばれた。
これ以上の皮肉はないだろう。
まぁ、柊矢が選ばれたのは恐らく現存するムーシコスの中で一番ムーシコスらしいムーシコスだからという理由だろうが、最もムーシコスらしい者がやはり今いる中で一番ムーシケーとの共感力が強い小夜を見つけたのは天の配剤なのか必然だったのか。
それはともかく呪詛の依頼があったのは霧生兄弟の父親が物心ついた頃。
柊矢は沙陽と同じ学年だし二人とも現役で大学に入っているからそうなると椿矢とも同じ学年だ。
第一子が同い年なら霧生兄弟の父親と椿矢の父の年も近いはずだから呪詛の依頼があったのは椿矢の父親が物心つく前後数年に絞っていいと判断して、その頃を中心に祖父を初めとした親戚達の日記や手紙などを調べてみた。
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