102 / 144
魂の還る惑星 第六章 Al-Shi'ra -輝く星-
第六章 第六話
しおりを挟む
遺体の状態が書かれている報告書のファイルは開かなかった。
読まなくても正視に耐えない状態だったことくらいは想像が付く。
資料の中に事故直後の現場写真があった。
鉄屑と化した車の後方にチャイルドシートがあった。
小夜が写っていないのは他所に運ばれた後だからだろう。
現場検証のためにチャイルドシートだけその場に残されたのだ。
原形を留めていない車の写真からは車種が分からなかったが報告書に書いてあった。
車は小型車でチャイルドシートは少し離れた場所に落ちていた。
リアガラスをこの大きさのチャイルドシートが通り抜けられるわけがないし、バックシートが写ってないということはバックシートごと飛び出したわけでもない。
ドアが開いて放り出されたなら車体の側面に落ちていたはずだ。
写真では、はっきりとは分からないがチャイルドシートに目立った傷はない。
おそらく衝突の直前にムーシケーがチャイルドシートごとムーサの森に飛ばして車がぶつかった後に地球に戻したのだ。
外に置いたのは車体が潰れていてチャイルドシートが入らなかったか、あるいは万が一、車が炎上したとき巻き込まれないようにするためかのどちらかだろう。
チャイルドシートも一緒に飛ばしたのは、小夜だけ無傷だと怪しまれると思ったか地球に戻すとき想定外の衝撃から守る為かは分からない。
小夜にすら理解しづらいムーシケーの意志は、ただのムーシコスの椿矢には計りかねた。
当時、既に椿矢の祖父はクレーイス・エコーから外されていたが小夜もまだクレーイス・エコーではなかったはずだ。
帰還派の一件や、この前小夜から受けた相談内容からしてクレーイス・エコーにはムーシケーの意志を実行するという役目があるようだ。
二歳の子供にそれは無理だから選ばれるわけがない。
もし小夜ちゃんのお祖父さんがムーシコスだったならお母さんもムーシコスのはずだけど、お母さんがクレーイス・エコーだったのか?
しかし、それだとムーシケーが守ったのが小夜だけだったことの説明がつかない。
霧生兄弟のときも、柊矢と小夜のときも、二人同時に飛ばされたのだから一人しか助けられなかったということは考えづらい。
だが写真を見る限りムーシケーが小夜を護ったのは間違いない。
クレーイス・エコーが関係あるかはともかく、この事故は誰かが小夜か小夜の親か、あるいは全員を狙って起こしたのだ。
椿矢は霧生兄弟の両親の事故も調べてみた。
霧生兄弟の両親の事故もやはり不審な点があった。
両親がいたバス停に車が突っ込んできたのだ。
原因は運転手の居眠り運転とされた。
ついでに楸矢が言っていた霧生兄弟の祖父が亡くなった事故も調べた。
楸矢は嵐を起こすムーシカが聞こえていたと言っていたがトラックが突っ込んできたのは偶然ではなかった。
トラック運転手の居眠り運転だった。
運転手の話によると突然意識を失ったと思ったら衝突していたとのことだから嵐でなくても事故は起きていただろう。
嵐は別件で別人が狙われていたか、誰かを狙ったのではなく呪詛とは別の目的で起こしたのかもしれない。
椿矢がムーシケーの研究をしているのは単純な好奇心というのもあるが、何よりムーシカが好きだからだ。
椿矢にとってムーシカで人を傷付けるなど唾棄すべき行為だ。
だから謡祈祷をする両親も、自分の利益のためにムーシカを利用する沙陽も嫌悪していた。
椿矢は儒教的な親を敬うべきという思想も嫌いだ。
尊敬というのはそれに値する行動の結果受けられるものであって、ただその立場にいるというだけで得ていいものではない。
ただでさえムーシコスの血筋だのクレーイス・エコーの家系だのと言う妄言を吐いてる両親や祖父母に悩まされ続けてきたのだ。
その上、見下げ果てた行為をしている人間から生まれたのだと知ったら、いくらリアリストの椿矢でも死にたくなる。
だから親の副業――謡祈祷――からは目を背けて見ないようにしていた。
忌むべき行いをしていても知らずにいれば軽蔑せずにすむ。
しかし家を出る前は嫌でも耳に入ってきてしまったから多少の知識はある。
現代社会で一番暗殺に利用しやすいのが車だ。
もう少ししたら自動運転や、そこまで行かなくても衝突しかけたら自動的に止まるようなシステムが組み込まれるだろうが現状では人間が運転している自動車ほど利用しやすいものはない。
運転手を眠らせてしまえば簡単にコントロールを失うし、対象者が車に乗ってなくても近くの車を運転している者の意識を失わせて突っ込ませればほぼ確実に殺せる。
自動車は小型車でも一トン以上の重量があるからそれほどスピードが出てなくても衝突されたら人間など、ひとたまりもないからだ。
都会の道路を走る車は大してスピードを出してないが、それでも跳ねられれば命を落とすか重傷を負う。
しかもムーシカで眠らせたなら証拠は残らないから犯罪の立証は出来ない。
だから暗殺にはよく使われる手なのだ。
沙陽が小夜を狙ったとき家に火を点けたのは霍田家は雨宮家のようにムーシカを利用してないから暗殺には不慣れだった――沙陽は昔から悪巧みにはよくムーシカを使っていたにしても――のと、沙陽自身少々考えが甘いというか知恵が浅いところがあるからだ。
おそらく家を燃やせば焼け死ぬと短絡的に考えたのだろう。
それは一度小夜の暗殺に失敗したにも関わらず再度家に火を点けてまた失敗したことからも窺える。
普通、一度しくじったら別の方法を試すだろうに二度も同じ失敗を繰り返すなんてバカかと思ったが、人を傷付けるためのアドバイスなどする気はないし、何より彼女の顔を見るのも嫌だから放っておいた。
沙陽と同じ大学に行ったことがあっても柊矢は興味がないことに無関心なだけで頭は切れるし、後輩(になる予定)の楸矢も成績は悪いらしいが割と賢明だから、彼女の浅はかさは純粋に個人の資質によるものなのだろう。
読まなくても正視に耐えない状態だったことくらいは想像が付く。
資料の中に事故直後の現場写真があった。
鉄屑と化した車の後方にチャイルドシートがあった。
小夜が写っていないのは他所に運ばれた後だからだろう。
現場検証のためにチャイルドシートだけその場に残されたのだ。
原形を留めていない車の写真からは車種が分からなかったが報告書に書いてあった。
車は小型車でチャイルドシートは少し離れた場所に落ちていた。
リアガラスをこの大きさのチャイルドシートが通り抜けられるわけがないし、バックシートが写ってないということはバックシートごと飛び出したわけでもない。
ドアが開いて放り出されたなら車体の側面に落ちていたはずだ。
写真では、はっきりとは分からないがチャイルドシートに目立った傷はない。
おそらく衝突の直前にムーシケーがチャイルドシートごとムーサの森に飛ばして車がぶつかった後に地球に戻したのだ。
外に置いたのは車体が潰れていてチャイルドシートが入らなかったか、あるいは万が一、車が炎上したとき巻き込まれないようにするためかのどちらかだろう。
チャイルドシートも一緒に飛ばしたのは、小夜だけ無傷だと怪しまれると思ったか地球に戻すとき想定外の衝撃から守る為かは分からない。
小夜にすら理解しづらいムーシケーの意志は、ただのムーシコスの椿矢には計りかねた。
当時、既に椿矢の祖父はクレーイス・エコーから外されていたが小夜もまだクレーイス・エコーではなかったはずだ。
帰還派の一件や、この前小夜から受けた相談内容からしてクレーイス・エコーにはムーシケーの意志を実行するという役目があるようだ。
二歳の子供にそれは無理だから選ばれるわけがない。
もし小夜ちゃんのお祖父さんがムーシコスだったならお母さんもムーシコスのはずだけど、お母さんがクレーイス・エコーだったのか?
しかし、それだとムーシケーが守ったのが小夜だけだったことの説明がつかない。
霧生兄弟のときも、柊矢と小夜のときも、二人同時に飛ばされたのだから一人しか助けられなかったということは考えづらい。
だが写真を見る限りムーシケーが小夜を護ったのは間違いない。
クレーイス・エコーが関係あるかはともかく、この事故は誰かが小夜か小夜の親か、あるいは全員を狙って起こしたのだ。
椿矢は霧生兄弟の両親の事故も調べてみた。
霧生兄弟の両親の事故もやはり不審な点があった。
両親がいたバス停に車が突っ込んできたのだ。
原因は運転手の居眠り運転とされた。
ついでに楸矢が言っていた霧生兄弟の祖父が亡くなった事故も調べた。
楸矢は嵐を起こすムーシカが聞こえていたと言っていたがトラックが突っ込んできたのは偶然ではなかった。
トラック運転手の居眠り運転だった。
運転手の話によると突然意識を失ったと思ったら衝突していたとのことだから嵐でなくても事故は起きていただろう。
嵐は別件で別人が狙われていたか、誰かを狙ったのではなく呪詛とは別の目的で起こしたのかもしれない。
椿矢がムーシケーの研究をしているのは単純な好奇心というのもあるが、何よりムーシカが好きだからだ。
椿矢にとってムーシカで人を傷付けるなど唾棄すべき行為だ。
だから謡祈祷をする両親も、自分の利益のためにムーシカを利用する沙陽も嫌悪していた。
椿矢は儒教的な親を敬うべきという思想も嫌いだ。
尊敬というのはそれに値する行動の結果受けられるものであって、ただその立場にいるというだけで得ていいものではない。
ただでさえムーシコスの血筋だのクレーイス・エコーの家系だのと言う妄言を吐いてる両親や祖父母に悩まされ続けてきたのだ。
その上、見下げ果てた行為をしている人間から生まれたのだと知ったら、いくらリアリストの椿矢でも死にたくなる。
だから親の副業――謡祈祷――からは目を背けて見ないようにしていた。
忌むべき行いをしていても知らずにいれば軽蔑せずにすむ。
しかし家を出る前は嫌でも耳に入ってきてしまったから多少の知識はある。
現代社会で一番暗殺に利用しやすいのが車だ。
もう少ししたら自動運転や、そこまで行かなくても衝突しかけたら自動的に止まるようなシステムが組み込まれるだろうが現状では人間が運転している自動車ほど利用しやすいものはない。
運転手を眠らせてしまえば簡単にコントロールを失うし、対象者が車に乗ってなくても近くの車を運転している者の意識を失わせて突っ込ませればほぼ確実に殺せる。
自動車は小型車でも一トン以上の重量があるからそれほどスピードが出てなくても衝突されたら人間など、ひとたまりもないからだ。
都会の道路を走る車は大してスピードを出してないが、それでも跳ねられれば命を落とすか重傷を負う。
しかもムーシカで眠らせたなら証拠は残らないから犯罪の立証は出来ない。
だから暗殺にはよく使われる手なのだ。
沙陽が小夜を狙ったとき家に火を点けたのは霍田家は雨宮家のようにムーシカを利用してないから暗殺には不慣れだった――沙陽は昔から悪巧みにはよくムーシカを使っていたにしても――のと、沙陽自身少々考えが甘いというか知恵が浅いところがあるからだ。
おそらく家を燃やせば焼け死ぬと短絡的に考えたのだろう。
それは一度小夜の暗殺に失敗したにも関わらず再度家に火を点けてまた失敗したことからも窺える。
普通、一度しくじったら別の方法を試すだろうに二度も同じ失敗を繰り返すなんてバカかと思ったが、人を傷付けるためのアドバイスなどする気はないし、何より彼女の顔を見るのも嫌だから放っておいた。
沙陽と同じ大学に行ったことがあっても柊矢は興味がないことに無関心なだけで頭は切れるし、後輩(になる予定)の楸矢も成績は悪いらしいが割と賢明だから、彼女の浅はかさは純粋に個人の資質によるものなのだろう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる