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魂の還る惑星 第四章 アトボシ
第四章 第九話
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「僕の知り合いの名前も入ってたけど亡くなったのは三年前だし、大病とか火事とかの類に遭ったって話は聞いてないから、おそらく呪詛は受けてないと思う」
「呪詛ってことは分かるのにどんな被害に遭うかは分からないの?」
「ムーシカの旋律と歌詞は分かっても効果とかは分からないでしょ」
確かにそうだ。
柊矢と楸矢の祖父が亡くなった事故のときムーシカは聴こえていたし、嵐はこの〝歌〟のせいではないかと漠然と感じてはいたが椿矢に聞くまで確証はなかった。
祖父もムーシコスだったのだから、あの嵐のときムーシカは聴こえていたはずだ。
効果が分かるのなら嵐がムーシカのせいだと気付いて車を止めていただろう。
「なら、なんで呪詛って分かるの?」
「歌詞が人を呪うものだったから」
ただ歌詞の言葉が古すぎるのか方言なのか、あるいは呪術の専門用語なのか、椿矢にも理解出来ない単語がほとんどだから、どんな効果をもたらすのかは分からなかった。
歌詞に空白の部分があり歌うときにその部分でリストの名前を言ってくれと書いてあった。
「君達のお祖父さんは恐らく誰のことも呪詛してないよ。燃やして欲しいって書いてたくらいだし、危険だから処分しようと思ってたのに、その前にお祖母さんに持ち出されちゃったから出来なかったんだと思う」
「でも……それならなんですぐに燃やさなかったんだろ」
祖父がムーシカで誰かを呪詛していたなどとは考えたくないが、その気がないなら何故すぐに処分しなかったのだろうか。
「名前が書いてあった人達に警告するためかもしれない。連絡先を調べるのに手間取ってる間に持ってかれちゃったんじゃないかな」
楸矢の父が何年生まれなのかは知らないが、柊矢と椿矢はどちらも第一子だ。
その二人の歳が近いということは父親の年齢もそう違わないだろう。
だとしたら霧生兄弟の祖母が出ていったのはまだパソコンどころかパソコンという言葉すら存在しなかった時代だ。
もちろん携帯電話なんてものもなかった。
ネットもなかったからSNSもない。
連絡手段は手紙と固定電話、電報くらいだった。
連絡先が分からない相手を探すのは簡単ではなかったから時間がかかったのだろう。
仮に連絡先が分かっていたとしても、近くに住んでるならともかく遠い場所なら電話か手紙ということになる。
留守番電話もまだ存在してなかったから相手が家にいる時間に電話出来なければ掛け直すか手紙を書くしかない。
都内ならともかく他県だと手紙が届くまでに最短でも二、三日は掛かった。遠ければ遠いほど日数が掛かる。
名前が載っていた椿矢の知り合いはムーシコスだったし霞乃光蔵という人は恐らく小夜の祖父で同様にムーシコスだろう。
小夜も祖父から〝歌〟のことを「他人に話すな」と言われていたと聞いている。
「他人に話すな」というのは聴こえてる人が使う言葉だ。
聴こえない人はわざわざ〝他人に〟などとは付け加えずに「やめろ」とか「その話はするな」と言うはずだ。
小夜の祖父がムーシコスでリストに載っている人物だったとしたら、まず間違いなく名前が書かれていた人達は全員ムーシコスと思われるが、互いに相手をムーシコスだと知らず、自分も隠していたのだとしたら説明は容易ではない。
届くまでに何日もかかる手紙でのやりとりではどれだけ時間がかかるか想像も付かない。
小夜の祖父は同じ新宿区内に住んでいたから直接会って警告出来ただろうが。
「楸矢君、君のお祖父さん、日記か何か残してた?」
「さぁ? 遺品の整理は柊兄がやったから」
「じゃあ、柊矢君に日記の類がなかったか聞いておいてくれないかな。出来れば見せて欲しいんだけど、頼んでみてくれる?」
椿矢の言葉に楸矢は頷いた。
楸矢は、椿矢に聞いたことを呪詛の相手の名前だけ伏せて話した。
「なるほどな。確かに人を呪う歌の歌詞なんて地球人からしたらイカレてるとしか思えないだろうな」
「椿さんは、名前が載ってた知り合いには何も起きなかったから祖父ちゃんは誰のことも呪詛してないだろうって言ってた。なんで祖母ちゃんが封筒燃やさなかったのかは分からないけど」
「それは祖父さんや父さんの頭がおかしいって人に証明するときのためだろ。その紙を見せれば地球人なら誰だって納得するからな」
確かにそうだ。
けれど夫は元を正せば他人だから仕方ないかもしれないが父は実の子供だったのだ。
お腹を痛めて産んだ子なのに、その子がイカレてることを証明するためのものを何十年も保管していたのだと思うとやりきれなかった。
「小夜ちゃん、あと、どれくらい?」
楸矢が訊ねた。
「十分くらいです」
小夜が鍋をかき混ぜながら答えた。
「出来たら呼んでくれる? 柊兄、ちょっといい?」
楸矢はそう言うと自分の部屋に連れていった。
「小夜に聞かれたくないことか?」
「燃えちゃった封筒に入ってたの呪詛のムーシカとリストだって言ったでしょ」
「それが?」
「リストの中の一人が霞乃光蔵って名前だった」
その言葉に柊矢が目を見張った。
やはり小夜の祖父の名前は『光蔵』だったのだ。
「名前の漢字は?」
「え……椿さんがリスト写してたから確認しとく。それで、椿さんに祖父ちゃんの日記の類があったら見せて欲しいって頼まれたんだけど……。呪詛の手紙見せた後に言われたし、対象の一人が椿さんの知り合いって言ってたから多分、祖父ちゃんが頼まれた呪詛のこと詳しく知りたいんだと思う」
「分かった。遺品を出しておく」
柊矢と楸矢が台所へ入っていくと、ちょうど小夜が料理を並べているところだった。
「あの、楸矢さん、明後日なんですけど……」
全員が席に着くと小夜が楸矢に話しかけた。
「うん、何?」
「卒業式の後、予定ありますか? もし何もないなら夕食はお祝いにご馳走作ろうと思うんですけど」
「ホント!? 何にもないよ」
「ケーキはどうしますか?」
「ケーキ? 卒業祝いでケーキって食べるもんなの?」
楸矢が訊ね返した。
「清美によるとケーキが好き人は食べるかもって言ってました」
「ケーキまで作るの大変じゃない?」
「そんなに手間はかかりませんから大丈夫です」
「じゃあ、お願いしようかな」
「もし、彼女を呼ぶんでしたら四人分作りますけど」
「いや、聖子さんはいいよ」
「分かりました」
「呪詛ってことは分かるのにどんな被害に遭うかは分からないの?」
「ムーシカの旋律と歌詞は分かっても効果とかは分からないでしょ」
確かにそうだ。
柊矢と楸矢の祖父が亡くなった事故のときムーシカは聴こえていたし、嵐はこの〝歌〟のせいではないかと漠然と感じてはいたが椿矢に聞くまで確証はなかった。
祖父もムーシコスだったのだから、あの嵐のときムーシカは聴こえていたはずだ。
効果が分かるのなら嵐がムーシカのせいだと気付いて車を止めていただろう。
「なら、なんで呪詛って分かるの?」
「歌詞が人を呪うものだったから」
ただ歌詞の言葉が古すぎるのか方言なのか、あるいは呪術の専門用語なのか、椿矢にも理解出来ない単語がほとんどだから、どんな効果をもたらすのかは分からなかった。
歌詞に空白の部分があり歌うときにその部分でリストの名前を言ってくれと書いてあった。
「君達のお祖父さんは恐らく誰のことも呪詛してないよ。燃やして欲しいって書いてたくらいだし、危険だから処分しようと思ってたのに、その前にお祖母さんに持ち出されちゃったから出来なかったんだと思う」
「でも……それならなんですぐに燃やさなかったんだろ」
祖父がムーシカで誰かを呪詛していたなどとは考えたくないが、その気がないなら何故すぐに処分しなかったのだろうか。
「名前が書いてあった人達に警告するためかもしれない。連絡先を調べるのに手間取ってる間に持ってかれちゃったんじゃないかな」
楸矢の父が何年生まれなのかは知らないが、柊矢と椿矢はどちらも第一子だ。
その二人の歳が近いということは父親の年齢もそう違わないだろう。
だとしたら霧生兄弟の祖母が出ていったのはまだパソコンどころかパソコンという言葉すら存在しなかった時代だ。
もちろん携帯電話なんてものもなかった。
ネットもなかったからSNSもない。
連絡手段は手紙と固定電話、電報くらいだった。
連絡先が分からない相手を探すのは簡単ではなかったから時間がかかったのだろう。
仮に連絡先が分かっていたとしても、近くに住んでるならともかく遠い場所なら電話か手紙ということになる。
留守番電話もまだ存在してなかったから相手が家にいる時間に電話出来なければ掛け直すか手紙を書くしかない。
都内ならともかく他県だと手紙が届くまでに最短でも二、三日は掛かった。遠ければ遠いほど日数が掛かる。
名前が載っていた椿矢の知り合いはムーシコスだったし霞乃光蔵という人は恐らく小夜の祖父で同様にムーシコスだろう。
小夜も祖父から〝歌〟のことを「他人に話すな」と言われていたと聞いている。
「他人に話すな」というのは聴こえてる人が使う言葉だ。
聴こえない人はわざわざ〝他人に〟などとは付け加えずに「やめろ」とか「その話はするな」と言うはずだ。
小夜の祖父がムーシコスでリストに載っている人物だったとしたら、まず間違いなく名前が書かれていた人達は全員ムーシコスと思われるが、互いに相手をムーシコスだと知らず、自分も隠していたのだとしたら説明は容易ではない。
届くまでに何日もかかる手紙でのやりとりではどれだけ時間がかかるか想像も付かない。
小夜の祖父は同じ新宿区内に住んでいたから直接会って警告出来ただろうが。
「楸矢君、君のお祖父さん、日記か何か残してた?」
「さぁ? 遺品の整理は柊兄がやったから」
「じゃあ、柊矢君に日記の類がなかったか聞いておいてくれないかな。出来れば見せて欲しいんだけど、頼んでみてくれる?」
椿矢の言葉に楸矢は頷いた。
楸矢は、椿矢に聞いたことを呪詛の相手の名前だけ伏せて話した。
「なるほどな。確かに人を呪う歌の歌詞なんて地球人からしたらイカレてるとしか思えないだろうな」
「椿さんは、名前が載ってた知り合いには何も起きなかったから祖父ちゃんは誰のことも呪詛してないだろうって言ってた。なんで祖母ちゃんが封筒燃やさなかったのかは分からないけど」
「それは祖父さんや父さんの頭がおかしいって人に証明するときのためだろ。その紙を見せれば地球人なら誰だって納得するからな」
確かにそうだ。
けれど夫は元を正せば他人だから仕方ないかもしれないが父は実の子供だったのだ。
お腹を痛めて産んだ子なのに、その子がイカレてることを証明するためのものを何十年も保管していたのだと思うとやりきれなかった。
「小夜ちゃん、あと、どれくらい?」
楸矢が訊ねた。
「十分くらいです」
小夜が鍋をかき混ぜながら答えた。
「出来たら呼んでくれる? 柊兄、ちょっといい?」
楸矢はそう言うと自分の部屋に連れていった。
「小夜に聞かれたくないことか?」
「燃えちゃった封筒に入ってたの呪詛のムーシカとリストだって言ったでしょ」
「それが?」
「リストの中の一人が霞乃光蔵って名前だった」
その言葉に柊矢が目を見張った。
やはり小夜の祖父の名前は『光蔵』だったのだ。
「名前の漢字は?」
「え……椿さんがリスト写してたから確認しとく。それで、椿さんに祖父ちゃんの日記の類があったら見せて欲しいって頼まれたんだけど……。呪詛の手紙見せた後に言われたし、対象の一人が椿さんの知り合いって言ってたから多分、祖父ちゃんが頼まれた呪詛のこと詳しく知りたいんだと思う」
「分かった。遺品を出しておく」
柊矢と楸矢が台所へ入っていくと、ちょうど小夜が料理を並べているところだった。
「あの、楸矢さん、明後日なんですけど……」
全員が席に着くと小夜が楸矢に話しかけた。
「うん、何?」
「卒業式の後、予定ありますか? もし何もないなら夕食はお祝いにご馳走作ろうと思うんですけど」
「ホント!? 何にもないよ」
「ケーキはどうしますか?」
「ケーキ? 卒業祝いでケーキって食べるもんなの?」
楸矢が訊ね返した。
「清美によるとケーキが好き人は食べるかもって言ってました」
「ケーキまで作るの大変じゃない?」
「そんなに手間はかかりませんから大丈夫です」
「じゃあ、お願いしようかな」
「もし、彼女を呼ぶんでしたら四人分作りますけど」
「いや、聖子さんはいいよ」
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