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魂の還る惑星 第四章 アトボシ
第四章 第六話
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「急に呼び出してごめん。頼みがあってさ」
楸矢は椿矢に手を合わせた。
「気にしなくていいよ。知り合いからの手紙が読めなくてうんざりしてたんで一息入れようと思ってたから」
「知り合いからの手紙が読めないって、暗号かなんかで書いてあるの? もしかしてアメリカ留学中に知り合ったCIAとか?」
「アメリカ留学中の知り合いは当たりだけど、CIAじゃなくて学者だよ。そいつ、すごいクセ字でさ」
椿矢の言葉に楸矢の顔が強張った。
「どうかした?」
「……俺の頼みも読んでほしいものがあって……」
椿矢が笑った。
「それ、フランス語じゃないよね?」
「あんたが読めないって言ってた手紙ってフランス語?」
「うん、今メキシコに住んでてね」
「メキシコってフランス語じゃないよね? てか、今時手書きの手紙?」
「メキシコは公用語がないんだけど、ほとんどの人はスペイン語だね。そいつはカナダのケベック出身だから。手紙なのはフィールドワークでスマホが使えないところにいるから。それで、読んでほしいものって?」
椿矢の問いに、楸矢はさっき女の子から渡されたノートを出してそのときのことを話した。
「なるほどね。柊矢君にも見せなきゃならないなら内容知らないと読めなかったってことがバレちゃうね。けど、いいの? 知らない人から君達兄弟が読んだ方がいいって言われたってことは、まず間違いなく家庭の事情が絡んでるってことでしょ」
「それくらいは俺にも分かるけどさ、人に知られたらヤバいようなことって想像つかないんだよね。なんかある? 人に知られたらマズいような家庭の事情。柊兄や俺が知らないだろうから教えようってことは、仮に犯罪絡みだったとしても俺達が捕まる心配ないよね?」
兄弟揃って知らなかったのなら気付かずに犯罪の片棒を担いでいたというのは考えづらい。
もし何かに加担していたとしても、それは親か祖父母辺りだろうが本人達でないなら罪には問われない。
銀行口座を勝手に資金洗浄に使われていたとかだと少々厄介だが、柊矢はかなり頭が良いらしいからそんなことに利用されていたらとっくに気付いて手を打ってるだろう。
椿矢が訊ねたのはそういうことではなく、プライベートなことを親戚とはいえ知り合って間もない自分に知られてもいいのかということなのだが。
内容を他人に話したりする気はないが、他言しないと信頼されているのか単にバラされても困るようなことは書いてないだろうと楽観的に考えているだけなのかは分からなかった。
まぁ、霧生兄弟は有名人ではないから親戚がスキャンダルを起こしたところで知られたら困るということはないだろう。
二人とも音楽家を目指していた――楸矢は現在進行形かもしれない――が、柊矢はとっくにやめてしまっていて一般人だし、楸矢も今のところ無名らしい。
醜聞の内容によっては交際相手に振られることがあるだろうが、小夜はスキャンダルなど気にしないだろうし、楸矢は別れたいと思っているのだから彼女の方から離れてくれるなら却って都合が良い。
楸矢としては家庭の事情を椿矢に知られるより柊矢に崩し字を読めなかったことがバレる方が怖いのだろう。
正直、今時の若者なら達筆な字が読めないのは普通だから叱責されることはないと思うのだが、最近まで無関心だった柊矢が突然叱るようになったから楸矢としても何が原因で怒られるか予測が付かないようだ。
柊矢にも関係があるようだから本来なら彼の承諾も必要だが、弟ですらイスかテーブル程度の認識なら椿矢など石ころみたいなものだろう。
石ころに読まれたからといって気にしたりはしないはずだ。
見知らぬ少女が持ってきたノートの内容には椿矢も興味があったので手に取って開くと、最初のページに変色した封筒が挟まっていた。
それをテーブルに置いてノートを開いた。
最後まで読み終えると椿矢は顔を上げた。
「何が書いてあったの?」
楸矢が身を乗り出した。
「……これを書いたのは君の父方のお祖母さんだよ。君の育ての親のお祖父さんの奥さんだった人」
「奥さんだった?」
「柊矢君、お祖父さんはムーシカが聴こえなかったって言ってたけど、そう思ってただけで実際はムーシコスだったみたいだね」
霧生兄弟を育てた祖父は父方で、ムーシコスだった。
そして祖母(父の母)は地球人だった。
霧生兄弟の母親がムーシコスでなかったのだとしたら椿矢の大伯母は霧生兄弟の父方の先祖ということになる。
椿矢の両親は霧生兄弟のどちらの親の先祖が椿矢の大伯母なのか知っているのだろう。
だが両親の愚にもつかない話を聞かされるのは真っ平だし霧生兄弟が親戚かどうかもどうでもいい。
楸矢の話し相手になっているのは彼が常識的な人間だからだ。
ムーシコスの血筋だ家系だという碌でもない戯言はいい加減聞き飽きたが、ムーシケーやムーシカのことを話さないように気を付ける必要のない相手と普通に話したい。
ムーシコスとして話が出来る相手で下らない戯言を言わないのは親戚の極一部を除けば霧生兄弟と小夜くらいしかいない。
椿矢はノートの内容を説明し始めた。
楸矢は椿矢に手を合わせた。
「気にしなくていいよ。知り合いからの手紙が読めなくてうんざりしてたんで一息入れようと思ってたから」
「知り合いからの手紙が読めないって、暗号かなんかで書いてあるの? もしかしてアメリカ留学中に知り合ったCIAとか?」
「アメリカ留学中の知り合いは当たりだけど、CIAじゃなくて学者だよ。そいつ、すごいクセ字でさ」
椿矢の言葉に楸矢の顔が強張った。
「どうかした?」
「……俺の頼みも読んでほしいものがあって……」
椿矢が笑った。
「それ、フランス語じゃないよね?」
「あんたが読めないって言ってた手紙ってフランス語?」
「うん、今メキシコに住んでてね」
「メキシコってフランス語じゃないよね? てか、今時手書きの手紙?」
「メキシコは公用語がないんだけど、ほとんどの人はスペイン語だね。そいつはカナダのケベック出身だから。手紙なのはフィールドワークでスマホが使えないところにいるから。それで、読んでほしいものって?」
椿矢の問いに、楸矢はさっき女の子から渡されたノートを出してそのときのことを話した。
「なるほどね。柊矢君にも見せなきゃならないなら内容知らないと読めなかったってことがバレちゃうね。けど、いいの? 知らない人から君達兄弟が読んだ方がいいって言われたってことは、まず間違いなく家庭の事情が絡んでるってことでしょ」
「それくらいは俺にも分かるけどさ、人に知られたらヤバいようなことって想像つかないんだよね。なんかある? 人に知られたらマズいような家庭の事情。柊兄や俺が知らないだろうから教えようってことは、仮に犯罪絡みだったとしても俺達が捕まる心配ないよね?」
兄弟揃って知らなかったのなら気付かずに犯罪の片棒を担いでいたというのは考えづらい。
もし何かに加担していたとしても、それは親か祖父母辺りだろうが本人達でないなら罪には問われない。
銀行口座を勝手に資金洗浄に使われていたとかだと少々厄介だが、柊矢はかなり頭が良いらしいからそんなことに利用されていたらとっくに気付いて手を打ってるだろう。
椿矢が訊ねたのはそういうことではなく、プライベートなことを親戚とはいえ知り合って間もない自分に知られてもいいのかということなのだが。
内容を他人に話したりする気はないが、他言しないと信頼されているのか単にバラされても困るようなことは書いてないだろうと楽観的に考えているだけなのかは分からなかった。
まぁ、霧生兄弟は有名人ではないから親戚がスキャンダルを起こしたところで知られたら困るということはないだろう。
二人とも音楽家を目指していた――楸矢は現在進行形かもしれない――が、柊矢はとっくにやめてしまっていて一般人だし、楸矢も今のところ無名らしい。
醜聞の内容によっては交際相手に振られることがあるだろうが、小夜はスキャンダルなど気にしないだろうし、楸矢は別れたいと思っているのだから彼女の方から離れてくれるなら却って都合が良い。
楸矢としては家庭の事情を椿矢に知られるより柊矢に崩し字を読めなかったことがバレる方が怖いのだろう。
正直、今時の若者なら達筆な字が読めないのは普通だから叱責されることはないと思うのだが、最近まで無関心だった柊矢が突然叱るようになったから楸矢としても何が原因で怒られるか予測が付かないようだ。
柊矢にも関係があるようだから本来なら彼の承諾も必要だが、弟ですらイスかテーブル程度の認識なら椿矢など石ころみたいなものだろう。
石ころに読まれたからといって気にしたりはしないはずだ。
見知らぬ少女が持ってきたノートの内容には椿矢も興味があったので手に取って開くと、最初のページに変色した封筒が挟まっていた。
それをテーブルに置いてノートを開いた。
最後まで読み終えると椿矢は顔を上げた。
「何が書いてあったの?」
楸矢が身を乗り出した。
「……これを書いたのは君の父方のお祖母さんだよ。君の育ての親のお祖父さんの奥さんだった人」
「奥さんだった?」
「柊矢君、お祖父さんはムーシカが聴こえなかったって言ってたけど、そう思ってただけで実際はムーシコスだったみたいだね」
霧生兄弟を育てた祖父は父方で、ムーシコスだった。
そして祖母(父の母)は地球人だった。
霧生兄弟の母親がムーシコスでなかったのだとしたら椿矢の大伯母は霧生兄弟の父方の先祖ということになる。
椿矢の両親は霧生兄弟のどちらの親の先祖が椿矢の大伯母なのか知っているのだろう。
だが両親の愚にもつかない話を聞かされるのは真っ平だし霧生兄弟が親戚かどうかもどうでもいい。
楸矢の話し相手になっているのは彼が常識的な人間だからだ。
ムーシコスの血筋だ家系だという碌でもない戯言はいい加減聞き飽きたが、ムーシケーやムーシカのことを話さないように気を付ける必要のない相手と普通に話したい。
ムーシコスとして話が出来る相手で下らない戯言を言わないのは親戚の極一部を除けば霧生兄弟と小夜くらいしかいない。
椿矢はノートの内容を説明し始めた。
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