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魂の還る惑星 第三章 Sopdet -太陽を呼ぶ星-
第三章 第九話
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「それに今、付き合いたいと思ってる子がいるから、聖子さん、早く結婚相手見つけてくれないかなって思ってたんだよね」
「結婚する気がないってことは言ったの?」
「言ったし、別れたいってことも何度もはっきり言った。聖子さんが諦めてくれないと、その子と付き合うどころかお茶すら一緒に出来ないよ」
「へぇ、別れたいと思う相手でも、ちゃんと別れるまでは他の子とお茶もしないなんてすごい貞操観念だね」
椿矢が感心したように言った。
「そうじゃなくて、聖子さんが何しでかすか分からないから。付き合ってたときから俺の周りの女の子達、片っ端から脅してたからさ」
「……それ、最初から軽い気持ちじゃなかったんじゃないの? 大の大人が高校生相手に本気だなんて言ったら引かれると思ったからそう言ってただけで」
「あ、やっぱ、あんたもそう思う?」
「うん」
椿矢の返事に楸矢は頭を抱えた。
「アドバイスくれない? 聖子さん、あんたと歳近いでしょ。なんて言えば諦めてくれるの?」
「ごめん、振られるか自然消滅しか経験したことないから、こっちから別れ話したことないんだよね」
いつも相手から告白されて付き合い始めるものの、しばらくすると振られてしまうか気付いたら他の男に乗り換えられていたと言うパターンばかりだった。
椿矢は人当たりがいいのと中性的な容姿のせいで優しそうな印象を与えるが、実際はリアリストでかなりシニカルな上に言うことも辛辣だ。
間違っても優しい人間ではない。
人当たりがいいというのも、どうでもいい相手だからトラブらないように当たり障りのない態度をとっているに過ぎない。
他人にはあまり関心がないから彼女相手にもかなり淡泊に接する。
尤も、柊矢は特に顕著だがムーシコスは恋人に対してはかなり愛情深い。
ラブバードに例えられる所以だ。
だから椿矢は単に本気になったことがないだけなのかもしれない。
その上、彼女に対してはさすがに控えるものの他人――特に榎矢――に対する冷淡な態度やキツい皮肉や嫌みにショックを受ける女性は多かった。
優しげな外見とのギャップが大き過ぎるのだろう。
そのため女性からもっと優しい人だと思ってたと言われて捨てられてしまうのだ。
「参ったなぁ……」
「悩んでるときにこんなこと聞くの、気が引けるんだけど、楸矢君のご両親がいなくなったのっていつ? 離婚とかじゃなくて二人とも亡くなったの?」
「二人揃って俺が生まれてすぐに事故で死んだって聞いたけど」
「事故?」
「うん、交通事故だって」
「そう」
祖父が亡くなったのも交通事故だと言っていたが、病気以外で早死にと言えば事故死が殆どだろう。
事故なら交通事故が圧倒的に多いから不自然ではないのだろうが……。
生まれた直後に両親を亡くし、育ての親だった祖父も小学生で失って、親戚もおらず――雨宮家は親戚だが――、弟に無関心な兄と二人暮らしだったのなら多分年上に甘えたことは無かっただろう。
大人の女性に迫られて付き合おうという気になっても仕方ない。
関心が無かったとはっきり分かったのが夕辺だとしても薄々は感付いていただろう。
いくら楸矢を養っていくために働いていたと言っても実技重視で一般科目は参考程度にしか見ないエスカレーター式の大学へ進むのも危ないくらいだったのなら入学当初――下手したらそれ以前――から成績は良くなかったに違いない。
だとすれば学校から何度も連絡が行っていたはずだ。
それで何も言われないのは気楽でいいとはいえ、やはりなんでこれで怒らないのかと普通は考える。
柊矢を擁護出来る点があるとすれば私立高校へ何も言わずに通わせていたというところだ。
普通科の高校でも私立は高いが音楽科は授業料以外でも色々と金がかかる。
楸矢の高校の学費は施設使用料その他を含めるとかなり高い。
しかも、おそらくそれはあくまでも基本的な金額だ。
どこの学校でも公式サイトに書いてある以外の出費はあるし、音楽科となるとその金額は桁違いだろう。
この前、仕立屋に行ったと言っていたがパーティや演奏会に着ていくものなら高級品に違いない。
一着でも相当な金がかかるだろう。
柊矢に才能があったのなら自分がやっている楽器ではなくても音の良さには拘ってフルートも良いものを買い与えていたはずだ。
楸矢は楽器の値段がそのまま音に跳ね返ってくると言っていた。
楸矢に才能があるなら楽器の性能に足を引っ張られないためにはかなり高価なものでなければならないはずだ。
だとしたら楸矢が使っているフルートも相当高額なものだろう。
楸矢は良いものは下手な家より高いといっていた。
さすがに家より高価なものという事はないだろうが、高いフルートを買い与え普通のサラリーマンだったら子供によほどの才能がない限り行かせるのを躊躇うような私立高校へ通わせていたのだ。
いくら関心がないからどこへ行こうと気にしないとはいっても無い袖は振れないのだから多少無理してでも稼いでいた可能性はある。
楸矢にも才能があるようだが、仮に無くても柊矢は楸矢が希望すれば何も言わずに行かせていただろう。
おそらく楸矢は金の心配をしたことはないはずだ。
子供に金の心配をさせないというのは簡単に出来ることではない。
特に金のかかる私立高校や大学に行かせるとなれば尚更だ。
少なくとも愛情以外の部分では楸矢に不自由な思いはさせてなかっただろう。
関心のなさについては、そもそもムーシコスというのはそういう生き物だから仕方ない。
ムーシコスとしての特徴が顕著な者と地球人に限りなく近い者が兄弟として生まれてきてしまったのが不幸な巡り合わせだったとしか言いようがない。
「一応、女性関係が派手な友人がいるから上手い別れ方、聞いておくよ」
「お願いします」
楸矢は頭を下げた。
真面目な顔で敬語を使うなんて相当切羽詰まってるんだな……。
「結婚する気がないってことは言ったの?」
「言ったし、別れたいってことも何度もはっきり言った。聖子さんが諦めてくれないと、その子と付き合うどころかお茶すら一緒に出来ないよ」
「へぇ、別れたいと思う相手でも、ちゃんと別れるまでは他の子とお茶もしないなんてすごい貞操観念だね」
椿矢が感心したように言った。
「そうじゃなくて、聖子さんが何しでかすか分からないから。付き合ってたときから俺の周りの女の子達、片っ端から脅してたからさ」
「……それ、最初から軽い気持ちじゃなかったんじゃないの? 大の大人が高校生相手に本気だなんて言ったら引かれると思ったからそう言ってただけで」
「あ、やっぱ、あんたもそう思う?」
「うん」
椿矢の返事に楸矢は頭を抱えた。
「アドバイスくれない? 聖子さん、あんたと歳近いでしょ。なんて言えば諦めてくれるの?」
「ごめん、振られるか自然消滅しか経験したことないから、こっちから別れ話したことないんだよね」
いつも相手から告白されて付き合い始めるものの、しばらくすると振られてしまうか気付いたら他の男に乗り換えられていたと言うパターンばかりだった。
椿矢は人当たりがいいのと中性的な容姿のせいで優しそうな印象を与えるが、実際はリアリストでかなりシニカルな上に言うことも辛辣だ。
間違っても優しい人間ではない。
人当たりがいいというのも、どうでもいい相手だからトラブらないように当たり障りのない態度をとっているに過ぎない。
他人にはあまり関心がないから彼女相手にもかなり淡泊に接する。
尤も、柊矢は特に顕著だがムーシコスは恋人に対してはかなり愛情深い。
ラブバードに例えられる所以だ。
だから椿矢は単に本気になったことがないだけなのかもしれない。
その上、彼女に対してはさすがに控えるものの他人――特に榎矢――に対する冷淡な態度やキツい皮肉や嫌みにショックを受ける女性は多かった。
優しげな外見とのギャップが大き過ぎるのだろう。
そのため女性からもっと優しい人だと思ってたと言われて捨てられてしまうのだ。
「参ったなぁ……」
「悩んでるときにこんなこと聞くの、気が引けるんだけど、楸矢君のご両親がいなくなったのっていつ? 離婚とかじゃなくて二人とも亡くなったの?」
「二人揃って俺が生まれてすぐに事故で死んだって聞いたけど」
「事故?」
「うん、交通事故だって」
「そう」
祖父が亡くなったのも交通事故だと言っていたが、病気以外で早死にと言えば事故死が殆どだろう。
事故なら交通事故が圧倒的に多いから不自然ではないのだろうが……。
生まれた直後に両親を亡くし、育ての親だった祖父も小学生で失って、親戚もおらず――雨宮家は親戚だが――、弟に無関心な兄と二人暮らしだったのなら多分年上に甘えたことは無かっただろう。
大人の女性に迫られて付き合おうという気になっても仕方ない。
関心が無かったとはっきり分かったのが夕辺だとしても薄々は感付いていただろう。
いくら楸矢を養っていくために働いていたと言っても実技重視で一般科目は参考程度にしか見ないエスカレーター式の大学へ進むのも危ないくらいだったのなら入学当初――下手したらそれ以前――から成績は良くなかったに違いない。
だとすれば学校から何度も連絡が行っていたはずだ。
それで何も言われないのは気楽でいいとはいえ、やはりなんでこれで怒らないのかと普通は考える。
柊矢を擁護出来る点があるとすれば私立高校へ何も言わずに通わせていたというところだ。
普通科の高校でも私立は高いが音楽科は授業料以外でも色々と金がかかる。
楸矢の高校の学費は施設使用料その他を含めるとかなり高い。
しかも、おそらくそれはあくまでも基本的な金額だ。
どこの学校でも公式サイトに書いてある以外の出費はあるし、音楽科となるとその金額は桁違いだろう。
この前、仕立屋に行ったと言っていたがパーティや演奏会に着ていくものなら高級品に違いない。
一着でも相当な金がかかるだろう。
柊矢に才能があったのなら自分がやっている楽器ではなくても音の良さには拘ってフルートも良いものを買い与えていたはずだ。
楸矢は楽器の値段がそのまま音に跳ね返ってくると言っていた。
楸矢に才能があるなら楽器の性能に足を引っ張られないためにはかなり高価なものでなければならないはずだ。
だとしたら楸矢が使っているフルートも相当高額なものだろう。
楸矢は良いものは下手な家より高いといっていた。
さすがに家より高価なものという事はないだろうが、高いフルートを買い与え普通のサラリーマンだったら子供によほどの才能がない限り行かせるのを躊躇うような私立高校へ通わせていたのだ。
いくら関心がないからどこへ行こうと気にしないとはいっても無い袖は振れないのだから多少無理してでも稼いでいた可能性はある。
楸矢にも才能があるようだが、仮に無くても柊矢は楸矢が希望すれば何も言わずに行かせていただろう。
おそらく楸矢は金の心配をしたことはないはずだ。
子供に金の心配をさせないというのは簡単に出来ることではない。
特に金のかかる私立高校や大学に行かせるとなれば尚更だ。
少なくとも愛情以外の部分では楸矢に不自由な思いはさせてなかっただろう。
関心のなさについては、そもそもムーシコスというのはそういう生き物だから仕方ない。
ムーシコスとしての特徴が顕著な者と地球人に限りなく近い者が兄弟として生まれてきてしまったのが不幸な巡り合わせだったとしか言いようがない。
「一応、女性関係が派手な友人がいるから上手い別れ方、聞いておくよ」
「お願いします」
楸矢は頭を下げた。
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