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魂の還る惑星 第三章 Sopdet -太陽を呼ぶ星-
第三章 第七話
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小夜はもう一度本に目を落とした。
そういえば、さっき楸矢が竪琴と言っていた。
確かに一番上の段の右端に竪琴のような物を持った人物が描かれている。
「これ、竪琴ですよね? ここに書いてあるってことはウルでは竪琴が使われてたってことですか?」
「ああ。それと同じものがウルの王墓から出土しているし、イラクから出土した粘土板にはリラのチューニング法が書いてあったそうだから実際の演奏に使われてたのは間違いないようだ」
ウルがイラクにあるのかどうか聞いたりしたら雷が落ちるのは間違いないよな……。
どうせイラクがどこにあるのかもよく分からないし。
後で検索しておこう。
小夜は学校でクレーイスから聴こえた楽器の音を思い出そうとしてみた。
途切れ途切れだったし、芸術の授業があるとはいえ小夜は楽器の知識が皆無に等しい。
弦楽器らしいと言う以上のことは分からなかった。
竪琴なら弦楽器だけど……。
小夜は首からクレーイスを外すと音楽史の本と一緒に柊矢に手渡した。
「何か聴こえますか?」
柊矢は手の中のクレーイスを見下ろした。
「いや……」
そう言って楸矢に本とクレーイスを手渡した。
楸矢も左手の本を見ながら手のひらのクレーイスを何度か握ったりしてみたが何も聴こえなかった。
楸矢は首を振ると小夜に返した。
「何か聴こえるのか?」
「いえ、今は何も……。ただ、昼間学校にいるときに少しだけ聴こえてきたんです。歌詞はほとんど聴き取れなくて、楽器は弦楽器みたいな感じでした」
小夜の言葉に柊矢と楸矢は顔を見合わせた。
「小夜、聞いてくれた?」
小夜が席に着くなり清美が訊ねてきた。
「ごめん、まだ」
そう答えると清美が身を乗り出してきた。
「小夜、楸矢さんと一緒に暮らしてるんだから機会なんかいくらでもあるでしょ」
他の人に聞こえないように声を潜めて言った。
「今、楸矢さん、大学の準備で忙しいみたいなの。毎日出掛けてるし」
「食事中まで入学の準備してるの?」
「そうじゃないけど……」
小夜の困ったような顔を見ると清美は溜息を吐いた。
「しょうがない、香奈の親戚の家に行って楸矢さんの彼女になれるようにお参りしてくるしかないか」
清美はそう言うと次の授業の準備を始めた。
清美はどうやら分かってくれたようだが問題は香奈だ。
学期末試験の点数が悪かったから勉強しないといけない、と言うのは無理だ。
小夜の高校はホームルームのクラスは同じでも授業は定期試験ごとにクラス編成し直される。
一番成績の悪いクラスに入れられているならともかく、どの教科も香奈より上のクラスにいるから試験の点数は言い訳に出来ない。
何より、この前の試験で香奈が出来なかった問題を教えたのは他ならぬ小夜だから点数が良かったのはバレている。
春休みは課題や補習もあんまり多くないし……。
先生に自分にだけ課題を沢山出してくれるように頼んでみようか。
どうせ春休みにやることは歌うことと家事の他は勉強くらいだ。
一日中家にいるのだから普段より歌う時間は長く取れるだろう。
柊矢も春休みが始まる頃には確定申告が終わって一息ついているからムーシカを奏でる時間はたっぷり取れると言っていたし。
でも、一日中歌ってるのは楸矢さんに申し訳ないし、普段より多めに掃除の時間を取った方がいいかな。
ただ課題を理由に断って香奈が、なんで小夜だけ多いんだ、などと捩じ込んだりしたら先生に迷惑がかかる。
塾へ行くという言い訳も使えない。
小夜の通ってる高校は塾へ行く生徒がほとんどいないのだ。
課題と補習が多い上に進学先に合わせた指導をしてくれるから塾へ行かなくても難関大学の合格率が高い。
普通の生徒でさえ行かない塾に、養ってくれる祖父が死んで遺産だけしかない小夜が通うというのは無理がある。
そういえば、お祖父ちゃんの四十九日の法要、初七日の時に一緒に済ませたってこと教えたっけ?
菩提寺がどこかは言ってないが、葬式の日に一日休んだだけで初七日は日曜にやったから学校は休んでない。
いつ初七日をしたのかも話してないが、学校を休んでないのだからお寺が日帰り出来る場所にあるということは見当が付くだろう。
泊まりがけで墓参りというのは無理があるが、法事なら準備なども必要だし日にちをずらすことも出来ない。
皆、亡くなった祖父のことには触れないようにしているから法事と言えば納得してくれるはずだ。
死んだお祖父ちゃんを何度も言い訳にしちゃうのは申し訳ないけど……。
でも、お祖父ちゃんもお世話になってるうちの家事をサボって遊びに行くのは良くないって思って許してくれるよね。
「小夜、旅行のこと、聞いてくれた?」
小夜が法事と答えようとしたとき、突然クレーイスが光った。
え……。
この前、従兄の写真を見たときのムーシカが聴こえてきた。
しかし香奈の手にスマホはない。
今、ムーシコスがムーシカ奏でてるのに……。
つまりこのムーシカが聴こえているのは小夜だけなのだ。
途切れ途切れで歌詞もよく分からない。
楽器は弦楽器のようだがそれ以上のことは分からなかった。
既存のムーシカではないが、かといってムーシケーのムーシカでもない。
ムーシケーのムーシカなら伝わってくるのは旋律と歌詞で、楽器の演奏や歌声が聴こえてきたりはしない。
香奈以外で側にいるのは隣の席の清美だけだ。
清美は歌で告白したと聞いて本気で「信じられない!」という表情をしていたから間違いなく地球人だろう。
そもそもムーシコスなら歌で心の内を伝えてしまったと聞けば前の晩に聴こえたムーシカを歌っていたのが小夜だと気付くはずだ。
ムーシコスの奏でているムーシカはまだ聴こえている。
そういえば、さっき楸矢が竪琴と言っていた。
確かに一番上の段の右端に竪琴のような物を持った人物が描かれている。
「これ、竪琴ですよね? ここに書いてあるってことはウルでは竪琴が使われてたってことですか?」
「ああ。それと同じものがウルの王墓から出土しているし、イラクから出土した粘土板にはリラのチューニング法が書いてあったそうだから実際の演奏に使われてたのは間違いないようだ」
ウルがイラクにあるのかどうか聞いたりしたら雷が落ちるのは間違いないよな……。
どうせイラクがどこにあるのかもよく分からないし。
後で検索しておこう。
小夜は学校でクレーイスから聴こえた楽器の音を思い出そうとしてみた。
途切れ途切れだったし、芸術の授業があるとはいえ小夜は楽器の知識が皆無に等しい。
弦楽器らしいと言う以上のことは分からなかった。
竪琴なら弦楽器だけど……。
小夜は首からクレーイスを外すと音楽史の本と一緒に柊矢に手渡した。
「何か聴こえますか?」
柊矢は手の中のクレーイスを見下ろした。
「いや……」
そう言って楸矢に本とクレーイスを手渡した。
楸矢も左手の本を見ながら手のひらのクレーイスを何度か握ったりしてみたが何も聴こえなかった。
楸矢は首を振ると小夜に返した。
「何か聴こえるのか?」
「いえ、今は何も……。ただ、昼間学校にいるときに少しだけ聴こえてきたんです。歌詞はほとんど聴き取れなくて、楽器は弦楽器みたいな感じでした」
小夜の言葉に柊矢と楸矢は顔を見合わせた。
「小夜、聞いてくれた?」
小夜が席に着くなり清美が訊ねてきた。
「ごめん、まだ」
そう答えると清美が身を乗り出してきた。
「小夜、楸矢さんと一緒に暮らしてるんだから機会なんかいくらでもあるでしょ」
他の人に聞こえないように声を潜めて言った。
「今、楸矢さん、大学の準備で忙しいみたいなの。毎日出掛けてるし」
「食事中まで入学の準備してるの?」
「そうじゃないけど……」
小夜の困ったような顔を見ると清美は溜息を吐いた。
「しょうがない、香奈の親戚の家に行って楸矢さんの彼女になれるようにお参りしてくるしかないか」
清美はそう言うと次の授業の準備を始めた。
清美はどうやら分かってくれたようだが問題は香奈だ。
学期末試験の点数が悪かったから勉強しないといけない、と言うのは無理だ。
小夜の高校はホームルームのクラスは同じでも授業は定期試験ごとにクラス編成し直される。
一番成績の悪いクラスに入れられているならともかく、どの教科も香奈より上のクラスにいるから試験の点数は言い訳に出来ない。
何より、この前の試験で香奈が出来なかった問題を教えたのは他ならぬ小夜だから点数が良かったのはバレている。
春休みは課題や補習もあんまり多くないし……。
先生に自分にだけ課題を沢山出してくれるように頼んでみようか。
どうせ春休みにやることは歌うことと家事の他は勉強くらいだ。
一日中家にいるのだから普段より歌う時間は長く取れるだろう。
柊矢も春休みが始まる頃には確定申告が終わって一息ついているからムーシカを奏でる時間はたっぷり取れると言っていたし。
でも、一日中歌ってるのは楸矢さんに申し訳ないし、普段より多めに掃除の時間を取った方がいいかな。
ただ課題を理由に断って香奈が、なんで小夜だけ多いんだ、などと捩じ込んだりしたら先生に迷惑がかかる。
塾へ行くという言い訳も使えない。
小夜の通ってる高校は塾へ行く生徒がほとんどいないのだ。
課題と補習が多い上に進学先に合わせた指導をしてくれるから塾へ行かなくても難関大学の合格率が高い。
普通の生徒でさえ行かない塾に、養ってくれる祖父が死んで遺産だけしかない小夜が通うというのは無理がある。
そういえば、お祖父ちゃんの四十九日の法要、初七日の時に一緒に済ませたってこと教えたっけ?
菩提寺がどこかは言ってないが、葬式の日に一日休んだだけで初七日は日曜にやったから学校は休んでない。
いつ初七日をしたのかも話してないが、学校を休んでないのだからお寺が日帰り出来る場所にあるということは見当が付くだろう。
泊まりがけで墓参りというのは無理があるが、法事なら準備なども必要だし日にちをずらすことも出来ない。
皆、亡くなった祖父のことには触れないようにしているから法事と言えば納得してくれるはずだ。
死んだお祖父ちゃんを何度も言い訳にしちゃうのは申し訳ないけど……。
でも、お祖父ちゃんもお世話になってるうちの家事をサボって遊びに行くのは良くないって思って許してくれるよね。
「小夜、旅行のこと、聞いてくれた?」
小夜が法事と答えようとしたとき、突然クレーイスが光った。
え……。
この前、従兄の写真を見たときのムーシカが聴こえてきた。
しかし香奈の手にスマホはない。
今、ムーシコスがムーシカ奏でてるのに……。
つまりこのムーシカが聴こえているのは小夜だけなのだ。
途切れ途切れで歌詞もよく分からない。
楽器は弦楽器のようだがそれ以上のことは分からなかった。
既存のムーシカではないが、かといってムーシケーのムーシカでもない。
ムーシケーのムーシカなら伝わってくるのは旋律と歌詞で、楽器の演奏や歌声が聴こえてきたりはしない。
香奈以外で側にいるのは隣の席の清美だけだ。
清美は歌で告白したと聞いて本気で「信じられない!」という表情をしていたから間違いなく地球人だろう。
そもそもムーシコスなら歌で心の内を伝えてしまったと聞けば前の晩に聴こえたムーシカを歌っていたのが小夜だと気付くはずだ。
ムーシコスの奏でているムーシカはまだ聴こえている。
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