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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第八話
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放課後、小夜は柊矢との待ち合わせ場所に向かっていた。
道路の向こうにいる柊矢が小夜に気付いて片手を挙げる。
これ、ムーシカ?
なんだか嫌な感じのムーシカが聴こえてきた。
歌っているのは一人だし演奏もない。
他のムーシコスは奏でていないから聴こえてないのだろうが小夜に対する呼び出しのムーシカではない。
一瞬、クラクションの音が聞こえたような気がしたとき、胸元のクレーイスが熱くなったかと思うと目の前に白い壁のようなものが出現して道を遮られ足を止めた。
これは旋律で凍り付いているムーシケーの巨木だ。
小夜の真ん前に立っている。ムーサの森の樹はどれも高さが二百メートル前後はあるから当然幹も物凄く太い。
だから正面にあると視界を完全に塞がれてしまうのだ。
ここ、ムーサの森?
小夜は思わず辺りを見回した。
その途端、森が消え、鳴り続けるクラクションと悲鳴や怒号が聞こえた。
クラクションの鳴っている方を見ると、交差点の真ん中で小型車がタクシーの側面にぶつかって止まっていた。
小夜が渡ろうとしていた横断歩道は歩行者用の信号が青で他の車は止まっている。
小型車だけ信号を無視して横断歩道を突っ切り、走っていたタクシーの横っ腹にぶつかったのだ。
タクシーの後ろのバスも際どいところで止まっている。あと少しでタクシーは後ろからも追突されるところだったのだ。
「小夜!」
柊矢が走って横断歩道を渡ってくると、小夜の両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「無事か? ケガは?」
「柊矢さん……」
小夜は柊矢を見上げた後、もう一度、事故現場に目を向けてようやく状況を理解した。
多分あのまま歩いていたら信号無視の車に跳ねられていたのだろう。
それでムーシケーが小夜を足止めしたのだ。
パトカーのサイレンの音が近付いてくる。
少し遅れて救急車のサイレンも聞こえてきた。
「無事で良かった」
柊矢に抱きしめられながら小夜は車を見ていた。
帰れない理由は分かったんだから帰還派じゃないはず……。
だけど、この事故はムーシカのせいだ。
ムーシケーが守ってくれたことから考えても狙われたのは小夜で間違いない。
でも、どうして……。
椿矢がお開きだというと聴衆の女性が、
「いつもより少なくないですか?」
と残念そうに言った。
「ごめん、ちょっと喉が痛くて」
椿矢がそう答えると女性は「お大事に」と言って帰っていった。
実際には他のムーソポイオスがデュエットを歌い始めたからなのだが、それが分かっているのは楸矢だけだろう。
デュエットを歌っているのは知らない男女のムーソポイオス二人だった。
どうやら最近よくデュエットが聴こえるから流行り始めたようだ。
演奏と副旋律のコーラスはいるものの主旋律は二人で歌っていた。
「このデュエット歌ってるムーソポイオスの二人もカップルなのかな」
楸矢は椿矢の隣に座りながら言った。
「どうかな。近くにいる必要ないから顔も知らない相手ともデュエット出来るからね」
とはいえ、さすがに人前でデュエットの片方のパートだけ歌ったら変に思われる。
今、歌っている二人も別々の場所にいるなら一人か、誰かと一緒なのだとしたらムーシコス――おそらくキタリステース――なのだろう。
「柊兄がムーソポイオスだったら、これ延々と聴かされてたってことだよね」
「そうなるね」
椿矢が、うんざりした顔の楸矢を面白そうに見ながら答えた。
「相変わらず仲良いんだ、あの二人」
「うん。もう見せつけられてるこっちは頭がおかしくなりそう。地球人の音楽家なら曲の解釈の違いとかで喧嘩も珍しくないのに」
楸矢は溜息を吐いた。
「へぇ、音楽家ってそんなことで喧嘩するんだ」
「知らないの? ムーシコスの一族なら音楽家も結構いると思ってた」
楸矢は音楽――クラシック限定だが――にはそれなりに詳しいがムーシコスのことは殆ど知らない。
逆に椿矢はムーシコスのことは熟知しているが地球の音楽に関する知識は音楽の授業で習った程度だから皆無に等しい。
以前、柊矢に「音楽は地球にもある」と言ったが、やはり椿矢もムーシコスだから音楽とはムーシカのことで地球の音楽は必要に迫られたときしか聴かない。
「ムーシコスの一族だから地球の音楽は聴かないんだよ。生まれた時から家族がムーシカ奏でてるから地球の音楽は学校の授業で聴くくらいなんだよね」
「ふぅん。クラシックは解釈の違いで殴り合いになることもあるよ」
「クラシック音楽の合奏とかすごく平和そうな感じなのに? ロックとかヘヴィメタとかならともかく、パッヘルベルのカノンとかを喧嘩しながら弾いてるの?」
椿矢が意外そうな表情をした。
「喧嘩するときは演奏中断するよ。良い楽器って下手したらそこらの家より高いから壊すと大変だし」
「いや、そこじゃなくて……」
「ロックやヘヴィメタのことはよく知らないけど、でも、その辺の新しい音楽はあんまり解釈とか気にしないんじゃない? 歌詞もあるし。それに、大抵は作った人が生きてるから解釈とかあったとしても、それを伝えられるでしょ。死んじゃってたとしてもインタビューとか残ってるだろうし。クラシックは殆どの作曲者がもう死んじゃってるし、基本的に楽器の演奏だけだからね。楽譜に書いてある指示も曖昧だったりするし。だから、弦楽器は調弦とかでも喧嘩になることあるって言ってた」
「柊矢君も喧嘩したことあるの?」
「柊兄は授業で弦楽四重奏演奏することになったとき、調弦だの解釈だので他の三人が言い争ってるの放っといて一人でヴァイオリン弾いてて仲裁しろって教師に怒られたんだって」
それを聴いて椿矢は笑った。
やはり柊矢は骨の髄からキタリステースなのだ。
演奏以外のことに興味がないから解釈なんかどうでもいいし、どうでもいいから主張する事もない。
だから喧嘩にもならない。
「ムーシカには解釈なんてないからねぇ」
ムーシコスは皆好きなように奏でているからキタリステースの演奏も合奏とはいっても実質的には独奏である。
道路の向こうにいる柊矢が小夜に気付いて片手を挙げる。
これ、ムーシカ?
なんだか嫌な感じのムーシカが聴こえてきた。
歌っているのは一人だし演奏もない。
他のムーシコスは奏でていないから聴こえてないのだろうが小夜に対する呼び出しのムーシカではない。
一瞬、クラクションの音が聞こえたような気がしたとき、胸元のクレーイスが熱くなったかと思うと目の前に白い壁のようなものが出現して道を遮られ足を止めた。
これは旋律で凍り付いているムーシケーの巨木だ。
小夜の真ん前に立っている。ムーサの森の樹はどれも高さが二百メートル前後はあるから当然幹も物凄く太い。
だから正面にあると視界を完全に塞がれてしまうのだ。
ここ、ムーサの森?
小夜は思わず辺りを見回した。
その途端、森が消え、鳴り続けるクラクションと悲鳴や怒号が聞こえた。
クラクションの鳴っている方を見ると、交差点の真ん中で小型車がタクシーの側面にぶつかって止まっていた。
小夜が渡ろうとしていた横断歩道は歩行者用の信号が青で他の車は止まっている。
小型車だけ信号を無視して横断歩道を突っ切り、走っていたタクシーの横っ腹にぶつかったのだ。
タクシーの後ろのバスも際どいところで止まっている。あと少しでタクシーは後ろからも追突されるところだったのだ。
「小夜!」
柊矢が走って横断歩道を渡ってくると、小夜の両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「無事か? ケガは?」
「柊矢さん……」
小夜は柊矢を見上げた後、もう一度、事故現場に目を向けてようやく状況を理解した。
多分あのまま歩いていたら信号無視の車に跳ねられていたのだろう。
それでムーシケーが小夜を足止めしたのだ。
パトカーのサイレンの音が近付いてくる。
少し遅れて救急車のサイレンも聞こえてきた。
「無事で良かった」
柊矢に抱きしめられながら小夜は車を見ていた。
帰れない理由は分かったんだから帰還派じゃないはず……。
だけど、この事故はムーシカのせいだ。
ムーシケーが守ってくれたことから考えても狙われたのは小夜で間違いない。
でも、どうして……。
椿矢がお開きだというと聴衆の女性が、
「いつもより少なくないですか?」
と残念そうに言った。
「ごめん、ちょっと喉が痛くて」
椿矢がそう答えると女性は「お大事に」と言って帰っていった。
実際には他のムーソポイオスがデュエットを歌い始めたからなのだが、それが分かっているのは楸矢だけだろう。
デュエットを歌っているのは知らない男女のムーソポイオス二人だった。
どうやら最近よくデュエットが聴こえるから流行り始めたようだ。
演奏と副旋律のコーラスはいるものの主旋律は二人で歌っていた。
「このデュエット歌ってるムーソポイオスの二人もカップルなのかな」
楸矢は椿矢の隣に座りながら言った。
「どうかな。近くにいる必要ないから顔も知らない相手ともデュエット出来るからね」
とはいえ、さすがに人前でデュエットの片方のパートだけ歌ったら変に思われる。
今、歌っている二人も別々の場所にいるなら一人か、誰かと一緒なのだとしたらムーシコス――おそらくキタリステース――なのだろう。
「柊兄がムーソポイオスだったら、これ延々と聴かされてたってことだよね」
「そうなるね」
椿矢が、うんざりした顔の楸矢を面白そうに見ながら答えた。
「相変わらず仲良いんだ、あの二人」
「うん。もう見せつけられてるこっちは頭がおかしくなりそう。地球人の音楽家なら曲の解釈の違いとかで喧嘩も珍しくないのに」
楸矢は溜息を吐いた。
「へぇ、音楽家ってそんなことで喧嘩するんだ」
「知らないの? ムーシコスの一族なら音楽家も結構いると思ってた」
楸矢は音楽――クラシック限定だが――にはそれなりに詳しいがムーシコスのことは殆ど知らない。
逆に椿矢はムーシコスのことは熟知しているが地球の音楽に関する知識は音楽の授業で習った程度だから皆無に等しい。
以前、柊矢に「音楽は地球にもある」と言ったが、やはり椿矢もムーシコスだから音楽とはムーシカのことで地球の音楽は必要に迫られたときしか聴かない。
「ムーシコスの一族だから地球の音楽は聴かないんだよ。生まれた時から家族がムーシカ奏でてるから地球の音楽は学校の授業で聴くくらいなんだよね」
「ふぅん。クラシックは解釈の違いで殴り合いになることもあるよ」
「クラシック音楽の合奏とかすごく平和そうな感じなのに? ロックとかヘヴィメタとかならともかく、パッヘルベルのカノンとかを喧嘩しながら弾いてるの?」
椿矢が意外そうな表情をした。
「喧嘩するときは演奏中断するよ。良い楽器って下手したらそこらの家より高いから壊すと大変だし」
「いや、そこじゃなくて……」
「ロックやヘヴィメタのことはよく知らないけど、でも、その辺の新しい音楽はあんまり解釈とか気にしないんじゃない? 歌詞もあるし。それに、大抵は作った人が生きてるから解釈とかあったとしても、それを伝えられるでしょ。死んじゃってたとしてもインタビューとか残ってるだろうし。クラシックは殆どの作曲者がもう死んじゃってるし、基本的に楽器の演奏だけだからね。楽譜に書いてある指示も曖昧だったりするし。だから、弦楽器は調弦とかでも喧嘩になることあるって言ってた」
「柊矢君も喧嘩したことあるの?」
「柊兄は授業で弦楽四重奏演奏することになったとき、調弦だの解釈だので他の三人が言い争ってるの放っといて一人でヴァイオリン弾いてて仲裁しろって教師に怒られたんだって」
それを聴いて椿矢は笑った。
やはり柊矢は骨の髄からキタリステースなのだ。
演奏以外のことに興味がないから解釈なんかどうでもいいし、どうでもいいから主張する事もない。
だから喧嘩にもならない。
「ムーシカには解釈なんてないからねぇ」
ムーシコスは皆好きなように奏でているからキタリステースの演奏も合奏とはいっても実質的には独奏である。
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