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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第五話
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椿矢がお開きだというと聴衆は散っていったが小夜はその場に残っていた。
「今日は小夜ちゃんが相談?」
「今日は?」
小夜が小首を傾げると、
「なんでもない。それよりどうしたの?」
椿矢が訊ねた。
「その、椿矢さんのうちはクレーイス・エコーの家系なんですよね」
「榎矢の言ったこと真に受けないで。あいつ、真性のバカだから」
椿矢が白けた表情で言った。家系とか血筋とか言う言葉にかなり辟易しているようだ。
「ここ三代くらい続けて選ばれてたけど家系なんてご大層なものじゃないよ」
「でも、クレーイス・エコーのことよく知ってますよね? 教えていただけませんか?」
「どんなこと?」
椿矢がそう言いながら小夜の背後に向かって片手を軽く上げた。
振り返ると柊矢が歩いてくるところだった。
「待ち合わせですか?」
「いや、小夜ちゃんと待ち合わせじゃないなら今のムーシカ聴いて来たんでしょ」
「邪魔したか?」
柊矢は二人の側に来ると訊ねた。
「全然」
柊矢にそう答えると、小夜に、
「もうちょっと具体的に聞いてくれないと答えようがないよ」
と言った。
「つまり、ムーシケーの意志を知るためにしないといけないこととか、何かありますか? お坊さんが滝に打たれたりするみたいな……」
「滝に打たれてもムーシケーの意志は分からないと思うよ」
椿矢が可笑しそうに答えた。
「滝って言うのは例え話で、何か意志が分かるようになる修行みたいなこととか……」
小夜が真剣な表情で椿矢に訊ねた。
「いや、そもそもムーシケーに意志があって、しかもそれを示すことがあるなんて小夜ちゃんがクレーイス・エコーになるまで誰も知らなかったから」
椿矢が首を振った。
「皆クレーイスを貰うだけの名誉職だと思ってたくらいだし。だから、当然それを知るための修行とかもないよ」
「じゃあ、沙陽さんもムーシケーの意志は分からなかったんでしょうか?」
「分かったら外されたりしないでしょ」
「沙陽さんは無理矢理ムーシケーを溶かそうとしたから……」
「それを思いついたのはムーシケーに行ってクレーイス・エコーから外された後。沙陽、フラれると却ってムキになって自分のものにしたくなっちゃう性格みたいだね」
椿矢は面白がっているような表情で柊矢を見た。
柊矢は心底嫌そうな顔をした。
小夜は困ったように黙り込んだ。
「何かあったの?」
椿矢の問いに、
「ムーシケーが何か伝えようとしてきてるんですけど、それが何なのか分からなくて……」
小夜が答えた。
「今も言ったように、僕が知る限りムーシケーが意志を伝えてきたのは小夜ちゃんだけだよ。っていうか、もしかしたら今までも伝えようとしてたのに分かった人がいなかっただけかもしれないけど。どっちにしろ、誰も知らないんだから答えてあげられる人はいないよ。必要に迫ればもっとはっきり分かるように伝えてくるんじゃない? この前だってそうだったでしょ。それまでは待つしかないと思うよ」
小夜はがっかりした表情で椿矢に礼を言うと柊矢と一緒に帰途についた。
「ムーシケーの意志?」
楸矢が鰆の味噌漬けを食べながら聞き返した。
柊矢と小夜から、今日椿矢と中央公園で交わした話を聞いていた。
「何か伝えようとしてるんです。でも、それがなんなのか分からなくて……」
「うーん」
楸矢は首を捻った。
「俺、ムーシケーの意志なんて感じたことないし……。柊兄は?」
「ないな。椿矢の言うように焦らず待った方がいいんじゃないか?」
「だよね。そもそもムーシケーが何かして欲しいとしたら、それはムーシカ歌うことでしょ。だったら、ムーシカを伝えてきたらそれ歌えばいいだけじゃないの?」
柊矢が同感だというように頷いて、話はそれで終わった。
「清美、お父さん達の説得は? 上手くいきそう?」
休み時間、どこかから教室に戻ってきた清美を捕まえた香奈が訊ねた。
「え、あ、まだ、なんともいえないっていうか……」
あれだけ乗り気だった割には歯切れが悪い。
説得が難航している、という感じでもない。
「頑張ってなんとか説得して! お願い!」
香奈が真剣な表情で手を合わせた。
「う、うん。やってみる」
と頷くと清美は小夜の方にやってきた。
小夜が口を開く前に、
「ね、小夜、楸矢さんと彼女、上手くいってる?」
と訊ねてきた。
「え、さぁ? 聞いてないけど。なんで?」
「昨日、見ちゃったんだよね。楸矢さんと彼女が喧嘩してるところ」
「どこで?」
「新宿駅の近くで。だから、上手くいってるかどうか聞いてみて」
「清美……」
「上手くいってるかどうかだけじゃなくて、別れそうかどうかまでしっかり確認してね」
小夜は溜息を吐いた。
昨日、椿矢さんに彼女がいるか聞いておけば良かった。
榎矢は沙陽の仲間だったが、その点さえ抜きにすれば清美の好みのタイプだ。
椿矢と榎矢は兄弟だから似てるし、親戚だから二人と楸矢も面差しは似通ったところがある。
楸矢や榎矢と似ているのだから椿矢も好みだろう。
早めに椿矢さんに彼女がいるか確認して、いないようなら清美に紹介しよう。
椿矢が歌い終えてお開きを告げると聴衆が散っていった。
終わるのを待っていた楸矢が椿矢の隣に座った。
「今日は小夜ちゃんが相談?」
「今日は?」
小夜が小首を傾げると、
「なんでもない。それよりどうしたの?」
椿矢が訊ねた。
「その、椿矢さんのうちはクレーイス・エコーの家系なんですよね」
「榎矢の言ったこと真に受けないで。あいつ、真性のバカだから」
椿矢が白けた表情で言った。家系とか血筋とか言う言葉にかなり辟易しているようだ。
「ここ三代くらい続けて選ばれてたけど家系なんてご大層なものじゃないよ」
「でも、クレーイス・エコーのことよく知ってますよね? 教えていただけませんか?」
「どんなこと?」
椿矢がそう言いながら小夜の背後に向かって片手を軽く上げた。
振り返ると柊矢が歩いてくるところだった。
「待ち合わせですか?」
「いや、小夜ちゃんと待ち合わせじゃないなら今のムーシカ聴いて来たんでしょ」
「邪魔したか?」
柊矢は二人の側に来ると訊ねた。
「全然」
柊矢にそう答えると、小夜に、
「もうちょっと具体的に聞いてくれないと答えようがないよ」
と言った。
「つまり、ムーシケーの意志を知るためにしないといけないこととか、何かありますか? お坊さんが滝に打たれたりするみたいな……」
「滝に打たれてもムーシケーの意志は分からないと思うよ」
椿矢が可笑しそうに答えた。
「滝って言うのは例え話で、何か意志が分かるようになる修行みたいなこととか……」
小夜が真剣な表情で椿矢に訊ねた。
「いや、そもそもムーシケーに意志があって、しかもそれを示すことがあるなんて小夜ちゃんがクレーイス・エコーになるまで誰も知らなかったから」
椿矢が首を振った。
「皆クレーイスを貰うだけの名誉職だと思ってたくらいだし。だから、当然それを知るための修行とかもないよ」
「じゃあ、沙陽さんもムーシケーの意志は分からなかったんでしょうか?」
「分かったら外されたりしないでしょ」
「沙陽さんは無理矢理ムーシケーを溶かそうとしたから……」
「それを思いついたのはムーシケーに行ってクレーイス・エコーから外された後。沙陽、フラれると却ってムキになって自分のものにしたくなっちゃう性格みたいだね」
椿矢は面白がっているような表情で柊矢を見た。
柊矢は心底嫌そうな顔をした。
小夜は困ったように黙り込んだ。
「何かあったの?」
椿矢の問いに、
「ムーシケーが何か伝えようとしてきてるんですけど、それが何なのか分からなくて……」
小夜が答えた。
「今も言ったように、僕が知る限りムーシケーが意志を伝えてきたのは小夜ちゃんだけだよ。っていうか、もしかしたら今までも伝えようとしてたのに分かった人がいなかっただけかもしれないけど。どっちにしろ、誰も知らないんだから答えてあげられる人はいないよ。必要に迫ればもっとはっきり分かるように伝えてくるんじゃない? この前だってそうだったでしょ。それまでは待つしかないと思うよ」
小夜はがっかりした表情で椿矢に礼を言うと柊矢と一緒に帰途についた。
「ムーシケーの意志?」
楸矢が鰆の味噌漬けを食べながら聞き返した。
柊矢と小夜から、今日椿矢と中央公園で交わした話を聞いていた。
「何か伝えようとしてるんです。でも、それがなんなのか分からなくて……」
「うーん」
楸矢は首を捻った。
「俺、ムーシケーの意志なんて感じたことないし……。柊兄は?」
「ないな。椿矢の言うように焦らず待った方がいいんじゃないか?」
「だよね。そもそもムーシケーが何かして欲しいとしたら、それはムーシカ歌うことでしょ。だったら、ムーシカを伝えてきたらそれ歌えばいいだけじゃないの?」
柊矢が同感だというように頷いて、話はそれで終わった。
「清美、お父さん達の説得は? 上手くいきそう?」
休み時間、どこかから教室に戻ってきた清美を捕まえた香奈が訊ねた。
「え、あ、まだ、なんともいえないっていうか……」
あれだけ乗り気だった割には歯切れが悪い。
説得が難航している、という感じでもない。
「頑張ってなんとか説得して! お願い!」
香奈が真剣な表情で手を合わせた。
「う、うん。やってみる」
と頷くと清美は小夜の方にやってきた。
小夜が口を開く前に、
「ね、小夜、楸矢さんと彼女、上手くいってる?」
と訊ねてきた。
「え、さぁ? 聞いてないけど。なんで?」
「昨日、見ちゃったんだよね。楸矢さんと彼女が喧嘩してるところ」
「どこで?」
「新宿駅の近くで。だから、上手くいってるかどうか聞いてみて」
「清美……」
「上手くいってるかどうかだけじゃなくて、別れそうかどうかまでしっかり確認してね」
小夜は溜息を吐いた。
昨日、椿矢さんに彼女がいるか聞いておけば良かった。
榎矢は沙陽の仲間だったが、その点さえ抜きにすれば清美の好みのタイプだ。
椿矢と榎矢は兄弟だから似てるし、親戚だから二人と楸矢も面差しは似通ったところがある。
楸矢や榎矢と似ているのだから椿矢も好みだろう。
早めに椿矢さんに彼女がいるか確認して、いないようなら清美に紹介しよう。
椿矢が歌い終えてお開きを告げると聴衆が散っていった。
終わるのを待っていた楸矢が椿矢の隣に座った。
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