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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第四話
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「清美、今日はかなり機嫌がいいね」
涼花が、深雪と話している清美を見ながら言った。
「そうだね」
彼が出来たら真っ先に報告してくるはずだがそれは聞いてない。
きっと他に何か良いことでもあったのだろう。
もしかして香奈の親戚の家に行っていいってお許しが出たのかな。
「小夜、行ってもいいか聞いてくれた?」
香奈が訊ねてきた。
「ごめん、まだ」
「清美は? 行けそうって言ってた?」
「聞いてないけど」
「これ見せれば絶対食いつくと思ったのになぁ」
香奈がスマホを見た。
小夜がその画面に目を向けたとき、クレーイスからムーシカが途切れ途切れに伝わってきた。
歌詞はよく聴き取れないが演奏は弦楽器のようだ。
既存のムーシカではないがムーシケーのムーシカでもない。
はっきりとは分からないが伝わってくる感情からしてムーシコスの誰かが創ったムーシカだろう。
でも、ムーシコスが創ったムーシカならどうして魂に刻まれてないんだろう。
「ね、それ、よく見せて」
小夜が頼むと香奈がスマホを渡してくれた。
写真を見てみたがクレーイスが何に反応しているのか分からない。
「ちょっと、小夜。柊矢さんがいるのになんで香奈の従兄の写真、そんな食い入るように見てんのよ」
いつの間にか側に来ていた清美が言った。
「従兄の人を見てるわけじゃないよ」
清美は香奈のスマホを小夜から受け取ると、
「香奈、他の写真ないの?」
と言って画面をフリックした。
違う画像が表示された途端ムーシカが止まった。
今、表示されている画面にはスカイツリーが写っている。
「香奈、今の写真、親戚の家の近く?」
小夜が訊ねた。
「学校って言ってたよ」
「他に学校かその近所が写ってる写真、無い?」
「風景だけの写真なんか無いよ。特に景色が良いわけじゃないし」
小夜はちょっと考えてから高校の学費を調べたときのことを思い出した。
ホームページに載っている校舎の写真に背景が写っていた。
「その従兄の通ってる高校の名前、教えて」
香奈は学校名は覚えてなかったが、県立だというので親戚の住所と通学手段や時間を聞いて高校を探してみた。
おそらくここだろうと当たりを付けた高校のホームページに掲載されている写真の背景はほとんどが空だった。
クレーイスは特に反応しない。
しかし香奈の従兄やその友達に反応したような感じではなかった。
多分、背景の何かだと思うんだけど……。
小夜が考え込んでいると、
「学校の周りの景色が見たいの?」
と清美が訊ねてきたので首肯した。
「なら、その学校のFacebook見たら? 学校が載せてなくても在校生や卒業生が学校周辺の写真載せてるんじゃない? あとインスタとか」
「そっか。ありがと、清美」
小夜は高校やその在校生、卒業生のFacebookやInstagramを見てみたが、やはりクレーイスがどこに反応したのか分からなかった。
香奈の従兄やその友達のページも見たがクレーイスは反応しなかったから、やはり背景の何かのようだがそれがなんなのか分からない。
さっきのムーシカ、この前、楸矢さんの本を見たときのムーシカに似てたような……。
ムーシケーのムーシカじゃないけどクレーイスから聴こえてきたんだからムーシケーが伝えてきたのは間違いないはず……。
「ん?」
楸矢は顔を上げた。
小夜と椿矢のデュエットが聴こえる。
二人で一緒に歌っているなら中央公園だろう。
最近は四六時中柊矢と歌っているのに椿矢とまで歌うなんて、ホントにムーシコスってムーシカが好きなんだな、と痛感させられる。
そして柊矢と小夜ほどムーシコスらしいムーシコスはいないという椿矢の言葉にも。
これだけ好きならムーシケーのムーシカも平気で聴いていられただろう。
楸矢はげんなりした。
「どうしたんですか?」
清美が不思議そうな顔で訊ねた。
楸矢と清美は新宿駅近くの喫茶店にいた。
楸矢が清美を、小夜のことで話があると言って呼び出したのだ。
「なんでもない」
「柊矢さんと小夜、そんなにしょっちゅうイチャイチャしてるんですか?」
どうやら楸矢が、家での柊矢と小夜を思い出してうんざりした顔をしたのかと思ったようだ。
「まぁね。あ、でも、遺産のことは確認しておいたよ。ちゃんとあるって」
柊矢から聞いた話を掻い摘まんで話した。
「ありがとうございます」
「手続きしたの俺じゃないよ」
楸矢が笑って手を振った。
「でも、あたしが柊矢さんに質問するわけにはいきませんから。楸矢さんに聞いてもらえて助かりました」
確かに赤の他人が遺産のことを訊ねるわけにはいかないだろう。
「お金の心配がないなら、後はデートですね」
「そ。俺に見えないところでベタベタする分には全然構わないし。大学の寮、断られちゃったし、そうなると……」
楸矢が入り口を見て顔を引き攣らせた。
清美が振り返ると、楸矢の彼女の聖子が店に入ってくるところだった。
「ま、待ち合わせだったんですか?」
「まさか」
聖子は真っ直ぐ二人の方へ向かってきた。
「楸矢」
「ちょ、ちょっと待って。清美ちゃん、ごめんね」
楸矢は、自分と清美の勘定書きを掴むと聖子の腕をとって慌ててレジに向かった。
楸矢が会計をすませて店の外に出た途端、聖子との口論が始まった。
声は全く聞こえないから何を言い争っているのかは分からなかった。
やがて楸矢は聖子の腕を掴むとどこかへ歩いていった。
涼花が、深雪と話している清美を見ながら言った。
「そうだね」
彼が出来たら真っ先に報告してくるはずだがそれは聞いてない。
きっと他に何か良いことでもあったのだろう。
もしかして香奈の親戚の家に行っていいってお許しが出たのかな。
「小夜、行ってもいいか聞いてくれた?」
香奈が訊ねてきた。
「ごめん、まだ」
「清美は? 行けそうって言ってた?」
「聞いてないけど」
「これ見せれば絶対食いつくと思ったのになぁ」
香奈がスマホを見た。
小夜がその画面に目を向けたとき、クレーイスからムーシカが途切れ途切れに伝わってきた。
歌詞はよく聴き取れないが演奏は弦楽器のようだ。
既存のムーシカではないがムーシケーのムーシカでもない。
はっきりとは分からないが伝わってくる感情からしてムーシコスの誰かが創ったムーシカだろう。
でも、ムーシコスが創ったムーシカならどうして魂に刻まれてないんだろう。
「ね、それ、よく見せて」
小夜が頼むと香奈がスマホを渡してくれた。
写真を見てみたがクレーイスが何に反応しているのか分からない。
「ちょっと、小夜。柊矢さんがいるのになんで香奈の従兄の写真、そんな食い入るように見てんのよ」
いつの間にか側に来ていた清美が言った。
「従兄の人を見てるわけじゃないよ」
清美は香奈のスマホを小夜から受け取ると、
「香奈、他の写真ないの?」
と言って画面をフリックした。
違う画像が表示された途端ムーシカが止まった。
今、表示されている画面にはスカイツリーが写っている。
「香奈、今の写真、親戚の家の近く?」
小夜が訊ねた。
「学校って言ってたよ」
「他に学校かその近所が写ってる写真、無い?」
「風景だけの写真なんか無いよ。特に景色が良いわけじゃないし」
小夜はちょっと考えてから高校の学費を調べたときのことを思い出した。
ホームページに載っている校舎の写真に背景が写っていた。
「その従兄の通ってる高校の名前、教えて」
香奈は学校名は覚えてなかったが、県立だというので親戚の住所と通学手段や時間を聞いて高校を探してみた。
おそらくここだろうと当たりを付けた高校のホームページに掲載されている写真の背景はほとんどが空だった。
クレーイスは特に反応しない。
しかし香奈の従兄やその友達に反応したような感じではなかった。
多分、背景の何かだと思うんだけど……。
小夜が考え込んでいると、
「学校の周りの景色が見たいの?」
と清美が訊ねてきたので首肯した。
「なら、その学校のFacebook見たら? 学校が載せてなくても在校生や卒業生が学校周辺の写真載せてるんじゃない? あとインスタとか」
「そっか。ありがと、清美」
小夜は高校やその在校生、卒業生のFacebookやInstagramを見てみたが、やはりクレーイスがどこに反応したのか分からなかった。
香奈の従兄やその友達のページも見たがクレーイスは反応しなかったから、やはり背景の何かのようだがそれがなんなのか分からない。
さっきのムーシカ、この前、楸矢さんの本を見たときのムーシカに似てたような……。
ムーシケーのムーシカじゃないけどクレーイスから聴こえてきたんだからムーシケーが伝えてきたのは間違いないはず……。
「ん?」
楸矢は顔を上げた。
小夜と椿矢のデュエットが聴こえる。
二人で一緒に歌っているなら中央公園だろう。
最近は四六時中柊矢と歌っているのに椿矢とまで歌うなんて、ホントにムーシコスってムーシカが好きなんだな、と痛感させられる。
そして柊矢と小夜ほどムーシコスらしいムーシコスはいないという椿矢の言葉にも。
これだけ好きならムーシケーのムーシカも平気で聴いていられただろう。
楸矢はげんなりした。
「どうしたんですか?」
清美が不思議そうな顔で訊ねた。
楸矢と清美は新宿駅近くの喫茶店にいた。
楸矢が清美を、小夜のことで話があると言って呼び出したのだ。
「なんでもない」
「柊矢さんと小夜、そんなにしょっちゅうイチャイチャしてるんですか?」
どうやら楸矢が、家での柊矢と小夜を思い出してうんざりした顔をしたのかと思ったようだ。
「まぁね。あ、でも、遺産のことは確認しておいたよ。ちゃんとあるって」
柊矢から聞いた話を掻い摘まんで話した。
「ありがとうございます」
「手続きしたの俺じゃないよ」
楸矢が笑って手を振った。
「でも、あたしが柊矢さんに質問するわけにはいきませんから。楸矢さんに聞いてもらえて助かりました」
確かに赤の他人が遺産のことを訊ねるわけにはいかないだろう。
「お金の心配がないなら、後はデートですね」
「そ。俺に見えないところでベタベタする分には全然構わないし。大学の寮、断られちゃったし、そうなると……」
楸矢が入り口を見て顔を引き攣らせた。
清美が振り返ると、楸矢の彼女の聖子が店に入ってくるところだった。
「ま、待ち合わせだったんですか?」
「まさか」
聖子は真っ直ぐ二人の方へ向かってきた。
「楸矢」
「ちょ、ちょっと待って。清美ちゃん、ごめんね」
楸矢は、自分と清美の勘定書きを掴むと聖子の腕をとって慌ててレジに向かった。
楸矢が会計をすませて店の外に出た途端、聖子との口論が始まった。
声は全く聞こえないから何を言い争っているのかは分からなかった。
やがて楸矢は聖子の腕を掴むとどこかへ歩いていった。
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