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魂の還る惑星 第一章 Sirius-シリウス-
第一章 第十二話
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ふと顔を上げると清美が心配そうに楸矢を見ていた。
「あ、大丈夫だよ。小夜ちゃんから聞いてない? 柊兄って仕事で不動産関係の手続きよくやってるからそういうの詳しいし、うちは弁護士や税理士もいるし。ちゃんと小夜ちゃんが困らないようにしてくれてるよ」
楸矢は安心させるように言った。
仮に小夜が無一文でも養えるだけの余裕はあるはずだ。
でなければ楸矢に私立大の医学部に行っても大丈夫、などと言ったりするわけがない。
楸矢の成績を知っているのに医学部を持ち出したのは、金のかかる私立大の医学部へ行けるだけの経済的余裕があるという意味だ。
「そうですよね。小夜の告白に対する返事がオリジナル曲の演奏だったって聞いたときはドン引きしましたけど、普段はまともそ……じゃなくて、頼りになりそうですよね」
清美が急いで言い直した。
「あはは。やっぱ引くよね~。セレナーデとかさぁ」
「小夜がその話したとき、楸矢さんどこにいたの?って聞いたんです。小夜、あたしが訊ねるまで、楸矢さんに聴こえてたことに気付いてなかったって知ったときには心の底から同情しましたよ」
清美の言葉に楸矢は苦笑した。それから真顔になると姿勢を正した。
「ところで、小夜ちゃんの経済状態が心配って、何かあったの?」
「いえ、ただ、柊矢さん達に色々遠慮してるみたいなので……。まだ、デートもしたことないんですよね? あたしが小夜から誘えばって言ったときも言葉を濁してましたし」
「ああ、なるほど」
そういえば、初めて家に友達――清美――を呼んだのも一緒に暮らし始めてから何ヶ月も経ってからだった。
それも楸矢を紹介して欲しいと頼み込まれてようやく呼んでいいか訊ねてきたくらいだから色々と遠慮しているのだろう。
食材の買い出しも楸矢達の方から言い出さない限り一人で行っている。
柊矢も楸矢も荷物を持つからだろう。
楽器の奏者の中には手にケガをしないように重い荷物を持たない者もいるが地球の音楽に疎い小夜はそんなことは知らないはずだ。
ただ荷物を持たせては悪いと思っているから一人で行っているのだ。
楸矢達からすればそれだけ大量の食材を買わなければいけないのは自分達が沢山食べるからなのだから、むしろそんなに重い荷物を女の子の小夜に持たせる方が申し訳ないのだが。
そういえば、この前のロールキャベツも単純に喜んでたが一個につきキャベツの葉を丸々一枚使うのだから当然丸ごと買ってきたはずだ。
柊矢と楸矢が二人で食べた数を考えるとキャベツ一つで足りたかどうかも怪しい。
それに新じゃがが旬だからとフライドポテトを作ってくれたことがあったがジャガイモだって一個か二個だけ買ってくるわけではない。
袋にはいくつも入ってるのだからそれだけでかなりの重さになる。
しかもフライドポテトはともかくロールキャベツは中身やスープなどに他の食材だって使っているのだ。
それを学校帰りに教科書などが入っている鞄と一緒に持っているのだから相当重かっただろう。
つい甘えてしまっていたが毎日の食材の買い出しは小柄な小夜にはかなりの重労働のはずだ。
他にも楸矢達の気付かないところで何かと気を遣っているかもしれない。
「小夜ちゃん、部活はしてなかったよね?」
柊矢はいつも楸矢が帰る時間には家にいたから小夜が歌っていたのは学校が終わってすぐの時間のはずだ。
部活をしていたならその時間に超高層ビルの側で歌っていたはずはない。
だから自分達に遠慮して部活を辞めたということはないと思うが確認しておきたかった。
「はい。そこは大丈夫です。うち、共学だから小夜、部活に入れないんですよ。男子と話せないんで。もちろん女子だけの部もありますけど、人見知りだし、運動部は体操服姿、男子に見られるかもしれないから嫌だって……」
清美は楸矢が何を知りたかったのか分かったようだ。
「それもあって経済状態が心配だったんです」
「え?」
「だって、男子に体操服姿を見られるのも嫌なら女子校に行きますよね。でも、都立って女子校がないじゃないですか。だから、もしかして経済的に余裕がなくて私立に行けなかったのかなって」
確かに都立高校は共学のみだ。
男女比が物凄く偏っていて女子校っぽいところもあるとは聞いているが男子が全くいない都立高はないはずだ。
女子校に行きたければ国立か私立ということになる。
国立ならお茶の水女子大の附属高校が女子校だが小夜が住んでた所からだと交通費が掛かる。
小夜の通っている高校は都立高の中では上位十位以内のところだからお茶大附属も狙えたはずだ。
お茶大附属に落ちたのでないなら徒歩で通えた都立高に行っているのは往復千円弱の交通費を節約したかったという可能性がある。
お茶大附属は池袋駅からそう遠くないので時間がかかってもいいなら西新宿から徒歩通学も出来なくはないが片道一時間以上も歩いて通うのは現実的ではない。
「お祖父さんが生きてた頃の経済状態は分からないけど、仮に遺産がなくても、うちは小夜ちゃん一人くらい養ってあげられるから心配いらないよ。まぁ、遺産はあるはずだけど。今度、柊兄に聞いておくよ」
「ありがとうございます。小夜に楸矢さん達みたいな親戚がいてホントに良かったです」
「親戚?」
「違うんですか?」
「いや、親戚だよ。ただ、小夜ちゃん、俺達のことなんて説明したのか聞いてなかったから」
楸矢は慌てて誤魔化した。
「何も聞いてませんけど、小夜は知らない男の人とは話せないので普通に話してるのは親戚だからかと。それに、柊矢さんが後見人になってますし」
「うん、遠縁の親戚なんだ」
地球人は皆遡れば一人の女性に行き着くと聞いたことがある。
ならムーシコス同士の霧生家と霞乃家も一人くらいは共通の先祖がいるだろう。
「ね、清美ちゃん、小夜ちゃんが何か遠慮してるのに気付いたら、なんでもいいから教えてくれない? 多分、俺達じゃ気付けないこと多いと思うし、小夜ちゃん、自分からは言ってくれないでしょ」
「はい! 任せて下さい」
清美が勢いよく頷いた。
「あ、大丈夫だよ。小夜ちゃんから聞いてない? 柊兄って仕事で不動産関係の手続きよくやってるからそういうの詳しいし、うちは弁護士や税理士もいるし。ちゃんと小夜ちゃんが困らないようにしてくれてるよ」
楸矢は安心させるように言った。
仮に小夜が無一文でも養えるだけの余裕はあるはずだ。
でなければ楸矢に私立大の医学部に行っても大丈夫、などと言ったりするわけがない。
楸矢の成績を知っているのに医学部を持ち出したのは、金のかかる私立大の医学部へ行けるだけの経済的余裕があるという意味だ。
「そうですよね。小夜の告白に対する返事がオリジナル曲の演奏だったって聞いたときはドン引きしましたけど、普段はまともそ……じゃなくて、頼りになりそうですよね」
清美が急いで言い直した。
「あはは。やっぱ引くよね~。セレナーデとかさぁ」
「小夜がその話したとき、楸矢さんどこにいたの?って聞いたんです。小夜、あたしが訊ねるまで、楸矢さんに聴こえてたことに気付いてなかったって知ったときには心の底から同情しましたよ」
清美の言葉に楸矢は苦笑した。それから真顔になると姿勢を正した。
「ところで、小夜ちゃんの経済状態が心配って、何かあったの?」
「いえ、ただ、柊矢さん達に色々遠慮してるみたいなので……。まだ、デートもしたことないんですよね? あたしが小夜から誘えばって言ったときも言葉を濁してましたし」
「ああ、なるほど」
そういえば、初めて家に友達――清美――を呼んだのも一緒に暮らし始めてから何ヶ月も経ってからだった。
それも楸矢を紹介して欲しいと頼み込まれてようやく呼んでいいか訊ねてきたくらいだから色々と遠慮しているのだろう。
食材の買い出しも楸矢達の方から言い出さない限り一人で行っている。
柊矢も楸矢も荷物を持つからだろう。
楽器の奏者の中には手にケガをしないように重い荷物を持たない者もいるが地球の音楽に疎い小夜はそんなことは知らないはずだ。
ただ荷物を持たせては悪いと思っているから一人で行っているのだ。
楸矢達からすればそれだけ大量の食材を買わなければいけないのは自分達が沢山食べるからなのだから、むしろそんなに重い荷物を女の子の小夜に持たせる方が申し訳ないのだが。
そういえば、この前のロールキャベツも単純に喜んでたが一個につきキャベツの葉を丸々一枚使うのだから当然丸ごと買ってきたはずだ。
柊矢と楸矢が二人で食べた数を考えるとキャベツ一つで足りたかどうかも怪しい。
それに新じゃがが旬だからとフライドポテトを作ってくれたことがあったがジャガイモだって一個か二個だけ買ってくるわけではない。
袋にはいくつも入ってるのだからそれだけでかなりの重さになる。
しかもフライドポテトはともかくロールキャベツは中身やスープなどに他の食材だって使っているのだ。
それを学校帰りに教科書などが入っている鞄と一緒に持っているのだから相当重かっただろう。
つい甘えてしまっていたが毎日の食材の買い出しは小柄な小夜にはかなりの重労働のはずだ。
他にも楸矢達の気付かないところで何かと気を遣っているかもしれない。
「小夜ちゃん、部活はしてなかったよね?」
柊矢はいつも楸矢が帰る時間には家にいたから小夜が歌っていたのは学校が終わってすぐの時間のはずだ。
部活をしていたならその時間に超高層ビルの側で歌っていたはずはない。
だから自分達に遠慮して部活を辞めたということはないと思うが確認しておきたかった。
「はい。そこは大丈夫です。うち、共学だから小夜、部活に入れないんですよ。男子と話せないんで。もちろん女子だけの部もありますけど、人見知りだし、運動部は体操服姿、男子に見られるかもしれないから嫌だって……」
清美は楸矢が何を知りたかったのか分かったようだ。
「それもあって経済状態が心配だったんです」
「え?」
「だって、男子に体操服姿を見られるのも嫌なら女子校に行きますよね。でも、都立って女子校がないじゃないですか。だから、もしかして経済的に余裕がなくて私立に行けなかったのかなって」
確かに都立高校は共学のみだ。
男女比が物凄く偏っていて女子校っぽいところもあるとは聞いているが男子が全くいない都立高はないはずだ。
女子校に行きたければ国立か私立ということになる。
国立ならお茶の水女子大の附属高校が女子校だが小夜が住んでた所からだと交通費が掛かる。
小夜の通っている高校は都立高の中では上位十位以内のところだからお茶大附属も狙えたはずだ。
お茶大附属に落ちたのでないなら徒歩で通えた都立高に行っているのは往復千円弱の交通費を節約したかったという可能性がある。
お茶大附属は池袋駅からそう遠くないので時間がかかってもいいなら西新宿から徒歩通学も出来なくはないが片道一時間以上も歩いて通うのは現実的ではない。
「お祖父さんが生きてた頃の経済状態は分からないけど、仮に遺産がなくても、うちは小夜ちゃん一人くらい養ってあげられるから心配いらないよ。まぁ、遺産はあるはずだけど。今度、柊兄に聞いておくよ」
「ありがとうございます。小夜に楸矢さん達みたいな親戚がいてホントに良かったです」
「親戚?」
「違うんですか?」
「いや、親戚だよ。ただ、小夜ちゃん、俺達のことなんて説明したのか聞いてなかったから」
楸矢は慌てて誤魔化した。
「何も聞いてませんけど、小夜は知らない男の人とは話せないので普通に話してるのは親戚だからかと。それに、柊矢さんが後見人になってますし」
「うん、遠縁の親戚なんだ」
地球人は皆遡れば一人の女性に行き着くと聞いたことがある。
ならムーシコス同士の霧生家と霞乃家も一人くらいは共通の先祖がいるだろう。
「ね、清美ちゃん、小夜ちゃんが何か遠慮してるのに気付いたら、なんでもいいから教えてくれない? 多分、俺達じゃ気付けないこと多いと思うし、小夜ちゃん、自分からは言ってくれないでしょ」
「はい! 任せて下さい」
清美が勢いよく頷いた。
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