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魂の還る惑星 第一章 Sirius-シリウス-
第一章 第七話
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楸矢は鞄を開けると買ってきたばかりの教科書を見せた。
「西洋音楽史概論とかさ、音楽家ならともかく、それ以外の職業で役に立つと思う?」
椿矢は渡された教科書をパラパラとめくった。
「役には立たないかもしれないけど面白いよ」
「どこが?」
楸矢の問いに椿矢は西洋音楽史概論の教科書の開いたページを見せた。
「古代ギリシアのピタゴラスは〝天球の音楽〟って概念を提唱したの。天球の音楽って言うのは惑星とかの天体は運行するときに音を発してるんだけど、それは音楽になってて、でも、〝全ての人が知覚出来るわけではない〟って言ってるんだよね」
椿矢は大学で古典ギリシア語を専攻していたくらいだから天球の音楽についても前から知っていたのだろう。
「惑星が発する……聴こえる人と聴こえない人がいる音楽?」
椿矢はただ単にムーシカに古典ギリシア語のものが多いからと言うだけの理由でムーシコスが古代ギリシアに送られたのではないかと推測していたわけではないようだ。
古代ギリシアのことを色々学んだ上でのことなのだろう。
「そして、古代ギリシアでは音楽は宗教や政治、哲学、数学なんかにも関わってたの」
「宗教はともかく、政治や哲学にも?」
「数学の部分は疑問に思わないの?」
「音楽は数学の応用だって授業で習ったから」
「数学の方が音楽の応用なんだけど、それはともかく、ピタゴラスの後、プラトンがアリストクセノスの〝新しい音楽〟について批判してるんだけど、それは裏を返せば今の音楽って言うのはその頃出来たもので、それ以前は違ったってことでしょ」
確かにムーシカと地球の音楽はよく似てる。
実際、椿矢が公園で歌っているのを聴いても珍しい曲くらいにしか思わないから聴衆が集まってくるのだろう。
音楽をやっている楸矢でもムーシカと地球の音楽の違いは上手く説明出来ない。
ムーシコスに聴こえるかどうか以外に判別方法はないが、地球の音楽をムーソポイオスが歌ったりキタリステースが演奏しても聴こえない。
そっくりではあるがムーシカと地球の音楽は違う。
似て非なるもの。
それがムーシカと地球の音楽だ。
「つまり、音楽はムーシコスが地球に持ち込んだって事?」
「いや、ムーシコスが来る前から地球にも音楽はあったよ。ドイツで三万六千年前の笛が見つかってるからね」
「まぁ、興味深いのは認めるけどさ、それ知ったところで食ってける? 俺、普通に地球人と結婚したいし、ちゃんと自分の家族食わせてけるようになりたいんだよね」
「地球人って条件は外せないんだ」
椿矢が面白がってるような表情で言った。
「柊兄と小夜ちゃん見てたらムーシコスはちょっと……」
楸矢の心底嫌そうな表情に椿矢が苦笑した。
柊矢や小夜がどうこうではなく、ああいうカップルにはなりたくないということだろう。
「ムーシコス同士のカップルって皆ああなの? あんたの大伯母さんが地球人と逃げたって気持ち、すっげぇよく分かるんだけど」
他人事のように言っているが椿矢の大伯母というのは楸矢の先祖だ。
「まぁ、大体あんな感じだね。ほとんどが古典ギリシア語だから分からないだろうけどムーシカの大半はラブソングだよ」
「そうなの!?」
と言ったもののムーシカを思い浮かべたとき旋律と歌詞の他に感情も伝わってくる。
確かに今まで奏でたムーシカのほとんどは恋しい想いが伝わってきていた。
小夜のムーシカを聴いて初めてその感情が創ったムーシコスのものだったと知った。
「典型的なムーシコスってムーシカとパートナーのことしか考えてないから、パートナーがいるムーシコスはラブソングばっかり奏でてるんだよね。大抵は既存のムーシカで、自分で創ることは滅多にないけど、あの二人は多分、何かって言うとムーシカ創っちゃうと思うよ」
確かに一ヶ月かそこらの間に小夜が二曲、柊矢は半月足らずの間に三曲創っている。
しかも柊矢の曲は全てラブソングの上にそのうちの一曲はデュエットだ。
四六時中小夜ちゃんのこと考えてるってことか……。
「いつも小夜ちゃんのことばっか考えてるのに手ぇ出さないってすごい自制心だよね」
「自制心は関係ないよ。ムーシコス同士の夫婦って子供は多くても二人だし、いないことも珍しくないよ」
「もしかして、ムーシコスって繁殖期があったりするの? それとも子供が出来にくい体質とか?」
「そんな分かりやすい特徴あったらもっと簡単に地球人と区別付くでしょ。配偶者が地球人のムーシコスは子沢山の人、珍しくないし。ムーシコス同士のカップルにとって愛を確かめ合う行為ってムーシカ奏でることだけど、ムーシカ奏でても子供は出来ないから」
「それでよく絶滅しなかったね……」
地球人らしさの方が強い楸矢には理解しがたかった。
呆れた表情の楸矢を見て椿矢が笑った。
「あんたんちにもいるの? 何かっていうとムーシカ創っちゃうカップル」
「僕の周りにはいないよ。日本語のムーシカ、ほとんど無いでしょ」
「じゃあ、なんで創りまくるって思うの?」
「魂に刻まれるのはあくまでも旋律と歌詞だけで、作者は記録されないけど、曲調とか歌詞の言葉の使い方とかで、これとこれを創ったのは同じムーシコスだろうなっていうのは見当が付くでしょ」
確かにそれに関しては地球人の創る曲も同じだ。
作曲家や作詞家にはある程度、傾向があるから初めて聴いた曲でも作者の当たりが付くことは珍しくない。
もっともムーシカの歌詞自体はすぐに思い浮かべられるが原語だから知らない言葉だと歌詞の内容までは分からない。
椿矢は古典ギリシア語を知っていて歌詞が理解出来るから類似性に気付けるのだろう。
「数が膨大だから気付きづらいけど同じムーシコスが創ったなって思うムーシカ多いよ」
「西洋音楽史概論とかさ、音楽家ならともかく、それ以外の職業で役に立つと思う?」
椿矢は渡された教科書をパラパラとめくった。
「役には立たないかもしれないけど面白いよ」
「どこが?」
楸矢の問いに椿矢は西洋音楽史概論の教科書の開いたページを見せた。
「古代ギリシアのピタゴラスは〝天球の音楽〟って概念を提唱したの。天球の音楽って言うのは惑星とかの天体は運行するときに音を発してるんだけど、それは音楽になってて、でも、〝全ての人が知覚出来るわけではない〟って言ってるんだよね」
椿矢は大学で古典ギリシア語を専攻していたくらいだから天球の音楽についても前から知っていたのだろう。
「惑星が発する……聴こえる人と聴こえない人がいる音楽?」
椿矢はただ単にムーシカに古典ギリシア語のものが多いからと言うだけの理由でムーシコスが古代ギリシアに送られたのではないかと推測していたわけではないようだ。
古代ギリシアのことを色々学んだ上でのことなのだろう。
「そして、古代ギリシアでは音楽は宗教や政治、哲学、数学なんかにも関わってたの」
「宗教はともかく、政治や哲学にも?」
「数学の部分は疑問に思わないの?」
「音楽は数学の応用だって授業で習ったから」
「数学の方が音楽の応用なんだけど、それはともかく、ピタゴラスの後、プラトンがアリストクセノスの〝新しい音楽〟について批判してるんだけど、それは裏を返せば今の音楽って言うのはその頃出来たもので、それ以前は違ったってことでしょ」
確かにムーシカと地球の音楽はよく似てる。
実際、椿矢が公園で歌っているのを聴いても珍しい曲くらいにしか思わないから聴衆が集まってくるのだろう。
音楽をやっている楸矢でもムーシカと地球の音楽の違いは上手く説明出来ない。
ムーシコスに聴こえるかどうか以外に判別方法はないが、地球の音楽をムーソポイオスが歌ったりキタリステースが演奏しても聴こえない。
そっくりではあるがムーシカと地球の音楽は違う。
似て非なるもの。
それがムーシカと地球の音楽だ。
「つまり、音楽はムーシコスが地球に持ち込んだって事?」
「いや、ムーシコスが来る前から地球にも音楽はあったよ。ドイツで三万六千年前の笛が見つかってるからね」
「まぁ、興味深いのは認めるけどさ、それ知ったところで食ってける? 俺、普通に地球人と結婚したいし、ちゃんと自分の家族食わせてけるようになりたいんだよね」
「地球人って条件は外せないんだ」
椿矢が面白がってるような表情で言った。
「柊兄と小夜ちゃん見てたらムーシコスはちょっと……」
楸矢の心底嫌そうな表情に椿矢が苦笑した。
柊矢や小夜がどうこうではなく、ああいうカップルにはなりたくないということだろう。
「ムーシコス同士のカップルって皆ああなの? あんたの大伯母さんが地球人と逃げたって気持ち、すっげぇよく分かるんだけど」
他人事のように言っているが椿矢の大伯母というのは楸矢の先祖だ。
「まぁ、大体あんな感じだね。ほとんどが古典ギリシア語だから分からないだろうけどムーシカの大半はラブソングだよ」
「そうなの!?」
と言ったもののムーシカを思い浮かべたとき旋律と歌詞の他に感情も伝わってくる。
確かに今まで奏でたムーシカのほとんどは恋しい想いが伝わってきていた。
小夜のムーシカを聴いて初めてその感情が創ったムーシコスのものだったと知った。
「典型的なムーシコスってムーシカとパートナーのことしか考えてないから、パートナーがいるムーシコスはラブソングばっかり奏でてるんだよね。大抵は既存のムーシカで、自分で創ることは滅多にないけど、あの二人は多分、何かって言うとムーシカ創っちゃうと思うよ」
確かに一ヶ月かそこらの間に小夜が二曲、柊矢は半月足らずの間に三曲創っている。
しかも柊矢の曲は全てラブソングの上にそのうちの一曲はデュエットだ。
四六時中小夜ちゃんのこと考えてるってことか……。
「いつも小夜ちゃんのことばっか考えてるのに手ぇ出さないってすごい自制心だよね」
「自制心は関係ないよ。ムーシコス同士の夫婦って子供は多くても二人だし、いないことも珍しくないよ」
「もしかして、ムーシコスって繁殖期があったりするの? それとも子供が出来にくい体質とか?」
「そんな分かりやすい特徴あったらもっと簡単に地球人と区別付くでしょ。配偶者が地球人のムーシコスは子沢山の人、珍しくないし。ムーシコス同士のカップルにとって愛を確かめ合う行為ってムーシカ奏でることだけど、ムーシカ奏でても子供は出来ないから」
「それでよく絶滅しなかったね……」
地球人らしさの方が強い楸矢には理解しがたかった。
呆れた表情の楸矢を見て椿矢が笑った。
「あんたんちにもいるの? 何かっていうとムーシカ創っちゃうカップル」
「僕の周りにはいないよ。日本語のムーシカ、ほとんど無いでしょ」
「じゃあ、なんで創りまくるって思うの?」
「魂に刻まれるのはあくまでも旋律と歌詞だけで、作者は記録されないけど、曲調とか歌詞の言葉の使い方とかで、これとこれを創ったのは同じムーシコスだろうなっていうのは見当が付くでしょ」
確かにそれに関しては地球人の創る曲も同じだ。
作曲家や作詞家にはある程度、傾向があるから初めて聴いた曲でも作者の当たりが付くことは珍しくない。
もっともムーシカの歌詞自体はすぐに思い浮かべられるが原語だから知らない言葉だと歌詞の内容までは分からない。
椿矢は古典ギリシア語を知っていて歌詞が理解出来るから類似性に気付けるのだろう。
「数が膨大だから気付きづらいけど同じムーシコスが創ったなって思うムーシカ多いよ」
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