53 / 144
魂の還る惑星 第一章 Sirius-シリウス-
第一章 第七話
しおりを挟む
楸矢は鞄を開けると買ってきたばかりの教科書を見せた。
「西洋音楽史概論とかさ、音楽家ならともかく、それ以外の職業で役に立つと思う?」
椿矢は渡された教科書をパラパラとめくった。
「役には立たないかもしれないけど面白いよ」
「どこが?」
楸矢の問いに椿矢は西洋音楽史概論の教科書の開いたページを見せた。
「古代ギリシアのピタゴラスは〝天球の音楽〟って概念を提唱したの。天球の音楽って言うのは惑星とかの天体は運行するときに音を発してるんだけど、それは音楽になってて、でも、〝全ての人が知覚出来るわけではない〟って言ってるんだよね」
椿矢は大学で古典ギリシア語を専攻していたくらいだから天球の音楽についても前から知っていたのだろう。
「惑星が発する……聴こえる人と聴こえない人がいる音楽?」
椿矢はただ単にムーシカに古典ギリシア語のものが多いからと言うだけの理由でムーシコスが古代ギリシアに送られたのではないかと推測していたわけではないようだ。
古代ギリシアのことを色々学んだ上でのことなのだろう。
「そして、古代ギリシアでは音楽は宗教や政治、哲学、数学なんかにも関わってたの」
「宗教はともかく、政治や哲学にも?」
「数学の部分は疑問に思わないの?」
「音楽は数学の応用だって授業で習ったから」
「数学の方が音楽の応用なんだけど、それはともかく、ピタゴラスの後、プラトンがアリストクセノスの〝新しい音楽〟について批判してるんだけど、それは裏を返せば今の音楽って言うのはその頃出来たもので、それ以前は違ったってことでしょ」
確かにムーシカと地球の音楽はよく似てる。
実際、椿矢が公園で歌っているのを聴いても珍しい曲くらいにしか思わないから聴衆が集まってくるのだろう。
音楽をやっている楸矢でもムーシカと地球の音楽の違いは上手く説明出来ない。
ムーシコスに聴こえるかどうか以外に判別方法はないが、地球の音楽をムーソポイオスが歌ったりキタリステースが演奏しても聴こえない。
そっくりではあるがムーシカと地球の音楽は違う。
似て非なるもの。
それがムーシカと地球の音楽だ。
「つまり、音楽はムーシコスが地球に持ち込んだって事?」
「いや、ムーシコスが来る前から地球にも音楽はあったよ。ドイツで三万六千年前の笛が見つかってるからね」
「まぁ、興味深いのは認めるけどさ、それ知ったところで食ってける? 俺、普通に地球人と結婚したいし、ちゃんと自分の家族食わせてけるようになりたいんだよね」
「地球人って条件は外せないんだ」
椿矢が面白がってるような表情で言った。
「柊兄と小夜ちゃん見てたらムーシコスはちょっと……」
楸矢の心底嫌そうな表情に椿矢が苦笑した。
柊矢や小夜がどうこうではなく、ああいうカップルにはなりたくないということだろう。
「ムーシコス同士のカップルって皆ああなの? あんたの大伯母さんが地球人と逃げたって気持ち、すっげぇよく分かるんだけど」
他人事のように言っているが椿矢の大伯母というのは楸矢の先祖だ。
「まぁ、大体あんな感じだね。ほとんどが古典ギリシア語だから分からないだろうけどムーシカの大半はラブソングだよ」
「そうなの!?」
と言ったもののムーシカを思い浮かべたとき旋律と歌詞の他に感情も伝わってくる。
確かに今まで奏でたムーシカのほとんどは恋しい想いが伝わってきていた。
小夜のムーシカを聴いて初めてその感情が創ったムーシコスのものだったと知った。
「典型的なムーシコスってムーシカとパートナーのことしか考えてないから、パートナーがいるムーシコスはラブソングばっかり奏でてるんだよね。大抵は既存のムーシカで、自分で創ることは滅多にないけど、あの二人は多分、何かって言うとムーシカ創っちゃうと思うよ」
確かに一ヶ月かそこらの間に小夜が二曲、柊矢は半月足らずの間に三曲創っている。
しかも柊矢の曲は全てラブソングの上にそのうちの一曲はデュエットだ。
四六時中小夜ちゃんのこと考えてるってことか……。
「いつも小夜ちゃんのことばっか考えてるのに手ぇ出さないってすごい自制心だよね」
「自制心は関係ないよ。ムーシコス同士の夫婦って子供は多くても二人だし、いないことも珍しくないよ」
「もしかして、ムーシコスって繁殖期があったりするの? それとも子供が出来にくい体質とか?」
「そんな分かりやすい特徴あったらもっと簡単に地球人と区別付くでしょ。配偶者が地球人のムーシコスは子沢山の人、珍しくないし。ムーシコス同士のカップルにとって愛を確かめ合う行為ってムーシカ奏でることだけど、ムーシカ奏でても子供は出来ないから」
「それでよく絶滅しなかったね……」
地球人らしさの方が強い楸矢には理解しがたかった。
呆れた表情の楸矢を見て椿矢が笑った。
「あんたんちにもいるの? 何かっていうとムーシカ創っちゃうカップル」
「僕の周りにはいないよ。日本語のムーシカ、ほとんど無いでしょ」
「じゃあ、なんで創りまくるって思うの?」
「魂に刻まれるのはあくまでも旋律と歌詞だけで、作者は記録されないけど、曲調とか歌詞の言葉の使い方とかで、これとこれを創ったのは同じムーシコスだろうなっていうのは見当が付くでしょ」
確かにそれに関しては地球人の創る曲も同じだ。
作曲家や作詞家にはある程度、傾向があるから初めて聴いた曲でも作者の当たりが付くことは珍しくない。
もっともムーシカの歌詞自体はすぐに思い浮かべられるが原語だから知らない言葉だと歌詞の内容までは分からない。
椿矢は古典ギリシア語を知っていて歌詞が理解出来るから類似性に気付けるのだろう。
「数が膨大だから気付きづらいけど同じムーシコスが創ったなって思うムーシカ多いよ」
「西洋音楽史概論とかさ、音楽家ならともかく、それ以外の職業で役に立つと思う?」
椿矢は渡された教科書をパラパラとめくった。
「役には立たないかもしれないけど面白いよ」
「どこが?」
楸矢の問いに椿矢は西洋音楽史概論の教科書の開いたページを見せた。
「古代ギリシアのピタゴラスは〝天球の音楽〟って概念を提唱したの。天球の音楽って言うのは惑星とかの天体は運行するときに音を発してるんだけど、それは音楽になってて、でも、〝全ての人が知覚出来るわけではない〟って言ってるんだよね」
椿矢は大学で古典ギリシア語を専攻していたくらいだから天球の音楽についても前から知っていたのだろう。
「惑星が発する……聴こえる人と聴こえない人がいる音楽?」
椿矢はただ単にムーシカに古典ギリシア語のものが多いからと言うだけの理由でムーシコスが古代ギリシアに送られたのではないかと推測していたわけではないようだ。
古代ギリシアのことを色々学んだ上でのことなのだろう。
「そして、古代ギリシアでは音楽は宗教や政治、哲学、数学なんかにも関わってたの」
「宗教はともかく、政治や哲学にも?」
「数学の部分は疑問に思わないの?」
「音楽は数学の応用だって授業で習ったから」
「数学の方が音楽の応用なんだけど、それはともかく、ピタゴラスの後、プラトンがアリストクセノスの〝新しい音楽〟について批判してるんだけど、それは裏を返せば今の音楽って言うのはその頃出来たもので、それ以前は違ったってことでしょ」
確かにムーシカと地球の音楽はよく似てる。
実際、椿矢が公園で歌っているのを聴いても珍しい曲くらいにしか思わないから聴衆が集まってくるのだろう。
音楽をやっている楸矢でもムーシカと地球の音楽の違いは上手く説明出来ない。
ムーシコスに聴こえるかどうか以外に判別方法はないが、地球の音楽をムーソポイオスが歌ったりキタリステースが演奏しても聴こえない。
そっくりではあるがムーシカと地球の音楽は違う。
似て非なるもの。
それがムーシカと地球の音楽だ。
「つまり、音楽はムーシコスが地球に持ち込んだって事?」
「いや、ムーシコスが来る前から地球にも音楽はあったよ。ドイツで三万六千年前の笛が見つかってるからね」
「まぁ、興味深いのは認めるけどさ、それ知ったところで食ってける? 俺、普通に地球人と結婚したいし、ちゃんと自分の家族食わせてけるようになりたいんだよね」
「地球人って条件は外せないんだ」
椿矢が面白がってるような表情で言った。
「柊兄と小夜ちゃん見てたらムーシコスはちょっと……」
楸矢の心底嫌そうな表情に椿矢が苦笑した。
柊矢や小夜がどうこうではなく、ああいうカップルにはなりたくないということだろう。
「ムーシコス同士のカップルって皆ああなの? あんたの大伯母さんが地球人と逃げたって気持ち、すっげぇよく分かるんだけど」
他人事のように言っているが椿矢の大伯母というのは楸矢の先祖だ。
「まぁ、大体あんな感じだね。ほとんどが古典ギリシア語だから分からないだろうけどムーシカの大半はラブソングだよ」
「そうなの!?」
と言ったもののムーシカを思い浮かべたとき旋律と歌詞の他に感情も伝わってくる。
確かに今まで奏でたムーシカのほとんどは恋しい想いが伝わってきていた。
小夜のムーシカを聴いて初めてその感情が創ったムーシコスのものだったと知った。
「典型的なムーシコスってムーシカとパートナーのことしか考えてないから、パートナーがいるムーシコスはラブソングばっかり奏でてるんだよね。大抵は既存のムーシカで、自分で創ることは滅多にないけど、あの二人は多分、何かって言うとムーシカ創っちゃうと思うよ」
確かに一ヶ月かそこらの間に小夜が二曲、柊矢は半月足らずの間に三曲創っている。
しかも柊矢の曲は全てラブソングの上にそのうちの一曲はデュエットだ。
四六時中小夜ちゃんのこと考えてるってことか……。
「いつも小夜ちゃんのことばっか考えてるのに手ぇ出さないってすごい自制心だよね」
「自制心は関係ないよ。ムーシコス同士の夫婦って子供は多くても二人だし、いないことも珍しくないよ」
「もしかして、ムーシコスって繁殖期があったりするの? それとも子供が出来にくい体質とか?」
「そんな分かりやすい特徴あったらもっと簡単に地球人と区別付くでしょ。配偶者が地球人のムーシコスは子沢山の人、珍しくないし。ムーシコス同士のカップルにとって愛を確かめ合う行為ってムーシカ奏でることだけど、ムーシカ奏でても子供は出来ないから」
「それでよく絶滅しなかったね……」
地球人らしさの方が強い楸矢には理解しがたかった。
呆れた表情の楸矢を見て椿矢が笑った。
「あんたんちにもいるの? 何かっていうとムーシカ創っちゃうカップル」
「僕の周りにはいないよ。日本語のムーシカ、ほとんど無いでしょ」
「じゃあ、なんで創りまくるって思うの?」
「魂に刻まれるのはあくまでも旋律と歌詞だけで、作者は記録されないけど、曲調とか歌詞の言葉の使い方とかで、これとこれを創ったのは同じムーシコスだろうなっていうのは見当が付くでしょ」
確かにそれに関しては地球人の創る曲も同じだ。
作曲家や作詞家にはある程度、傾向があるから初めて聴いた曲でも作者の当たりが付くことは珍しくない。
もっともムーシカの歌詞自体はすぐに思い浮かべられるが原語だから知らない言葉だと歌詞の内容までは分からない。
椿矢は古典ギリシア語を知っていて歌詞が理解出来るから類似性に気付けるのだろう。
「数が膨大だから気付きづらいけど同じムーシコスが創ったなって思うムーシカ多いよ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら怜音/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ

神守君とゆかいなヤンデレ娘達
田布施月雄
ライト文芸
僕、神守礼は臆病だ。
周りにこんなに美人な女性に囲まれて何もできないなんて・・・・
不幸だ、不幸すぎる。
普通は『なんて幸せなんだろう』とそう思うよね?思うでしょ?
その状況だけだったら僕もそう思うんだ。
・・・・でも君たちは彼女らの怖さを知らないから。
彼女たちがヤンデレだったらどうする。
僕を巡ってヤンデレ娘達が暴れまくる、ラブコメドタバタストーリー。
果たして僕は彼女らをうまくなだめられるだろうか?
<この作品は他でも連載中>
春にとける、透明な白。
葵依幸
ライト文芸
彼女のことを綴る上で欠かせない言葉は「彼女は作家であった」ということだ。
僕が彼女を知ったその日から、そして、僕が彼女の「読者」になったその日から。
彼女は最後まで僕にとっての作家であり続けた。作家として言葉を残し続けた。
いまはもう、その声を耳にすることは出来ないけれど。もしかすると、跡形もなく、僕らの存在は消えてしまうのかもしれないけれど。作家であり続けた彼女の言葉はこの世界に残り続ける。残ってほしいと思う。だから、僕は彼女の物語をここに綴る事にした。
我儘で、自由で、傲慢で。
それでいて卑屈で、不自由で、謙虚だった長い黒髪が似合う、彼女の事を。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
卒業式は終わらない
木瓜
ライト文芸
「君が来るまで、待ってるから」
卒業式。
それは、かつての自分に別れを告げ、
蒼き空へと羽ばたく、旅立ちの日。
そして、新たな空で、新たな翼を育みながら、
人は何度も、その卒業の日を迎えるのです。
彼らの旅は、始まったばかり。
卒業式は、まだ終わりません。
今宵、上映されるは、先天的な病に苦しみながらも、級友との卒業式を望み続けた者と、
病に苦しむ友を、最後まで待ち焦がれた者の二人が織り成す、至極の友情物語。
二人の翼が、蒼き大空へと旅立つ、その時までどうかごゆるりとおくつろぎ下さい。

婚約者の恋人
クマ三郎@書籍発売中
恋愛
王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。
何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。
そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。
いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。
しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる