歌のふる里

月夜野 すみれ

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第七章 LOVE SONG

第四話

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「遅くなるならなると連絡しろ! 心配するだろ!」
「すみません!」
 小夜と清美は柊矢に頭を下げた。
「もう用は済んだのか?」
「はい」
「じゃ、帰るぞ。君も送っていこうか?」
 柊矢が清美に訊ねた。
「あたしはいいです。またね、小夜」
「何を買ってたんだ?」
「あ、小物をちょっと」
 まさか、当の柊矢の誕生日プレゼントとは答えられず言葉を濁した。
「そうか」
 柊矢はそれ以上追求せずに駐車場に向かって歩き出した。

 夕食の片付けと、明日の弁当の下ごしらえを終えて部屋に戻ると、鞄の中に隠しておいたプレゼントを取り出した。
 グリーティングカード、先に買っておいて良かった。
 引き出しからカードを取り出して開いたものの、いざ書く段になると固まってしまった。
 なんて書けばいいんだろう。
 お誕生日おめでとうございます、だけじゃ素っ気ないよね。
 かといって、好きです、なんて書くわけにもいかない。
 わざわざ書くまでもなく、とっくにバレてはいるのだが。
 小夜はカードを閉じた。
 まだ今日の宿題をやっていない。カードの前でいつまでも固まっているわけにはいかない。
 勉強の息抜きに考えることにしよう。

「書けた!」
 小夜がグリーティングカードを持ち上げて、メッセージを読み返しているとき、鳥の鳴き声がした。
 え?
 気付くと外が明るかった。
 嘘!
 慌てて時計を見ると、もう朝食の支度をする時間だった。
 小夜は急いで部屋を飛び出した。

 朝食の支度しながら、グリーティングカードのメッセージを思い返していた。
 結局、徹夜して書いたのは、いつもお世話になってます、ありがとうございます、と言う無難なものだった。
 もうちょっと気の利いたことが書けたらなぁ。
 何とか朝食の支度は間に合った。
 食事を終え、後片付けをしてから部屋へ戻り、プレゼントとグリーティングカードを机の一番下の引き出しに入れると制服に着替えた。

「おい、支度は出来たか?」
 柊矢が小夜の部屋をノックした。
「あ、今行きます!」

「小夜、目の下にくまが出来てるよ」
 教室で会うなり清美が言った。
「柊矢さんの誕生日プレゼントに付けるグリーティングカードに書く言葉、考えてたら徹夜になっちゃって」
「明日だっけ? 柊矢さんの誕生日」
「うん」
「ぎりぎりだったね。間に合って良かったじゃん」
 清美の言葉に小夜は黙り込んだ。

「どうしたの?」
「どうしよう。どうやって渡したらいいと思う?」
 小夜が狼狽えたように言った。
「は? 一緒に住んでんだからいつだって渡せるでしょうが」
「でも、まだぎこちなくてちゃんと口もきけないのに、プレゼントなんて……」
「それ、分かってて買ったんでしょ」
 清美が呆れた様子で言った。
「だって、誕生日だって知ってるのに何もしないわけにはいかないし、いつもお世話になってるから」
「だったら普通に渡せばいいじゃん」
「それが出来ないから困ってるんじゃない」
 結局、解決策は見つからないまま放課後になってしまった。

 小夜はどうやってプレゼントを渡そうか迷ったまま夕食を作っていた。
 郵送……は、今からじゃ明日に間に合いそうにないし、物がグラスだから割れても困る。
 部屋の前にこっそり置いておくとか。
 そのとき、楸矢がフルートの練習を終えて台所に入ってきた。
 そうだ!

「おやつある?」
「ありますよ」
 小夜は昨日の残りの鶏の唐揚げを温めて出した。
「楸矢さん、お願いがあるんですけど……」
「何? 俺に出来ることならなんでも聞くよ」
 楸矢が唐揚げを食べながら答えた。
「柊矢さんへの誕生日プレゼント、渡してもらえませんか?」
「あ~、それはダメ」
「お願いします」
 小夜は手を合わせた。

「ダ~メ。そう言うのは自分で手渡ししなきゃ」
「でも、まだまともに口もきけない状態ですし」
「だからこそ渡して普通に喋れるようになればいいんじゃないの」
 小夜は溜息をついた。
「小夜ちゃん、部屋の前に置いておくって言うのもNGだからね」
 そう言われてしまっては部屋の前に置いておくという手も使えない。
 やっぱり手渡しするしかないかぁ。
 しょうがない、明日帰ったら渡してすぐに自分の部屋に逃げよう。

 翌日、学校から帰ってきて一旦部屋へ戻ると、プレゼントとカードを持って柊矢の部屋のドアをノックした。

「どうした?」
 出てきた柊矢にプレゼントとカードを押しつけた。
「お誕生日おめでとうございます!」
 そう言うと自分の部屋に駆け込んだ。
 柊矢が礼を言う暇もなかった。

 その日の夕食は柊矢の好きな物と甘さを抑えたバースディケーキを出した。
 柊矢がプレゼントとケーキの礼を言おうとした瞬間、小夜のムーシカラブソングが流れ始めた。
 すぐに他のムーソポイオスが加わり、霧生家の食卓は気まずい沈黙に包まれた。

 楸矢が風呂から上がって台所に水を飲みに行くと、柊矢が小夜から貰ったグラスにウィスキーをついでいるところだった。
 小夜は部屋にいるようだ。

「柊兄、どうするの?」
「何が?」
「小夜ちゃんのこと。ちゃんと返事してあげなきゃ可哀相だよ」
「分かってる」
 柊矢はそう言うと、グラスを持って二階の自室へ上がっていった。

「首尾は?」
 翌日、教室で待ち構えていた清美が訊ねた。
「うん、何とか渡せた」
「普通に口きけるようになった?」
 小夜は首を振った。
「なんで?」
「なんでって……」
 どちらかが口を開こうとするのを狙っているかのように小夜のムーシカラブソングが聴こえてくるのだ。とても話が出来るような状態ではない。

「じゃあ、次はバレンタインだね。バレンタインにはあたしも柊矢さんに渡すからね」
 そう宣言してから、
「小夜、手作りにする?」
 と訊ねた。
「うん、あんまり甘すぎるのは好きじゃないらしいから、甘さを控えめにしたのを作ろうかと」
「いいこと聞いた。あたしも甘くないの作ろっと」
 と言ってから、残念そうに、
「楸矢さんとも面識があれば渡すのになぁ」
 と言った。

「清美、一体何人に渡すの? 本命だけで」
「小夜、両手グーしてこっちに向けて」
 小夜に両手を握らせてから、
「十一、十二……」
 と自分の指を折って数え始めた。
「十五人だね」
「清美、それ多すぎ」
 小夜は呆れて言った。
 万が一複数の男がOKしてきたらどうする気なのだろう。

 それを訊ねてみると、
「ちゃんと優先順位つけてあるから大丈夫」
 と言う答えが返ってきた。

 そんな話をしているとき、ムーシカが聴こえてきた。
 これ、呼び出しのムーシカだ。
 でも、知らない女の人の声……。
 さすがに二度も引っかかるほどバカじゃない。
 後で柊矢さんに報告しておこう。

 しばらくすると、今度は沙陽からの呼び出しのムーシカが聴こえてきた。
 沙陽さんからって、明らかに罠だって分かってるのに、それに引っかかるほど頭が悪いと思われてるのかなぁ。
 小夜は密かに溜息をついた。
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