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第七章 LOVE SONG
第二話
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小夜は頭を下げてそれを受け取ると涙を抑えた。
柊矢が慰めるように小夜の頭を自分の胸に寄せた。
「恋人なのは確か?」
椿矢が訊ねた。
「はい」
「となると、一つ分かったことがあるね」
「なんだ?」
「沙陽は小夜ちゃんの前のクレーイス・エコーだった」
「ホント?」
楸矢が疑わしげに訊ねた。
「今回の小夜ちゃんと同じようにムーシケーに行ったのがその証拠だよ」
「だが、神殿のことは聞いたがムーシケーのムーシカのことは何も言ってなかったぞ」
「聴こえなかったからでしょ。だからムーシケーは沙陽から小夜ちゃんに乗り換えた。聴こえなかったってことはムーシケーの気持ちが分からないってことだから。ムーシケーに共感出来ない人にクレーイス・エコーは任せられないからね」
それはあり得ると柊矢は思った。
歌詞がなくても泣いてしまうほど感情を激しく揺さぶるような旋律を奏でてしまうくらい強く相手を想う気持ちは、ムーシコスかどうかで恋人を選ぶ沙陽には理解出来ないだろう。
だが、沙陽の性格からして、自分が外されて小夜が選び直されたのは我慢ならなかったはずだ。
多分、小夜が選ばれたのは柊矢と小夜の前に森が現れた時だろう。
部屋でクレーイスを拾ったのはあの日だし、あのとき、小夜は初めて森を見たと言っていた。
そして、沙陽が小夜の家に火を付けたのはその直後だ。
柊矢と楸矢は椿矢の祖父が亡くなってすぐにクレーイス・エコーに選ばれたのだろう。
椿矢の祖父が亡くなるとクレーイスも無くなったと言っていた。
多分、椿矢の祖父の元から柊矢達の祖父の遺品に移ってきたのだろう。
柊矢は沙陽と付き合っていた頃、クレーイスを沙陽に渡そうと思っていた。
本来なら柊矢を通じて沙陽に渡されるはずだったのだ。
沙陽がクレーイス・エコーのままだったら柊矢と別れたとしても、クレーイスは彼女の元へ移っていただろう。
だが、沙陽はクレーイス・エコーから外されたので、彼女の手にクレーイスが渡らなかったのだ。
何故、柊矢が小夜にクレーイスを渡す前に彼女がクレーイス・エコーに選ばれたことを沙陽が知ったのかは分からないが。
「どうして、ムーシケー自身は起きてるのに地上のもの達を眠らせているんでしょう」
「多分、グラフェーと関係があるんじゃないかな」
「ホントか?」
「あくまで想像だけどね」
椿矢は肩をすくめた。
「私にもっと力があればグラフェーのことが分かったんでしょうか?」
「それはどうかな。小夜ちゃんはあくまでムーシケーのクレーイス・エコーだからね」
「まぁ、ムーシケーがその気になったら教えてくれるだろ」
小夜や沙陽にムーシケーを見せたと言うことは、何が何でも隠そうとしているわけではないようだ。
今はそのときを待つしかない。
小夜は夕食が終わると音楽室で、さっきから胸に沸き上がってきていたムーシカを歌っていた。
ムーシケーのラブソングを聴いて浮かんできた曲だった。
新しいムーシカだから他のムーシコスは大人しく聴いていた。
「参ったな」
楸矢は小夜の歌声を聞きながら頭を抱えた。
柊矢はさっきコーヒーカップを持って二階へと上がってしまった。
「小夜ちゃん、ストレートすぎ」
歌詞に、恋とか愛とか好きとか言う言葉は入っていないが、これは明らかに柊矢を想うムーシカだった。
柊矢もそれに気付いたから楸矢と顔を合わせづらくて自室へ逃げたのだろう。
「ムーシカってムーシコスの感情そのものだったんだなぁ……」
小夜が喉を治してくれたお礼のムーシカを歌ったことがあったが、それ以外ではムーシカが創られるところに居合わせたことがなかったから、ここまではっきり感情が表れるものだとは知らなかった。
今日、小夜がムーシケーのムーシカがラブソングだったと言ったとき、歌詞がなかったのになんでラブソングだって言い切れるんだろうと思ったが、確かにこれだけ露骨に感情が表れてれば歌詞がなくてもはっきり分かる。
喉が治ったときのムーシカはお礼の意味で歌われたが、多分お礼のムーシカとして創られたものではなかったのだろう。
おそらく、歌えなかった時期に出来たムーシカだったのだ。
だから、ピアノを教えて欲しいと頼んできたのだろう。
自分が創ったムーシカを伝えられるようになりたかったのだ。
椿矢の祖父の伯母(大伯母)が地球人と駆け落ちしたらしいが、創ったムーシカにここまで剥き出しの感情が表れてしまうのだとしたら、
「そりゃ、地球人と逃げたくなるよなぁ」
楸矢は、椿矢の大伯母に深く共感した。
椿矢の家はムーシコスの家系らしいから周囲にいるのはムーシコスばかりだったはずだし、そうだとするとこういう場面に出くわすこともよくあっただろう。
こんなことが頻繁にあったら身が持たない。
椿矢がムーシコスの血は大分薄れてきていると言っていたらしいが、四千年という時間経過のせいだけではなく、多分、これに耐えかねて地球人を選んだ者が多かったのではないだろうか。
いくらムーシコスが音楽に弱いとは言え、これが平気なのは相当な音楽バカだけだろう。
俺も絶対地球人と結婚しよう。
楸矢はそう心に誓った。
小夜のムーシカを聴きながら、
「明日からどんな顔して会えばいいんだろ」
と独りごちた。
「小夜、なんかあったの?」
教室に入るなり清美が聞いてきた。
車から降りたときの柊矢と小夜のぎこちない様子を見ていたらしい。
「清美……、どうしよう……、私、柊矢さんのこと好きになっちゃったみたい」
「小夜、それ今更過ぎだから」
清美が冷めた口調で言った。
「今までも好きだと思ってたの! 柊矢さんの前で好きって言っちゃったこともあったけど、それが恋だと思ってたけど、全然違った! どうしよう! どうしたらいい?」
小夜は狼狽えた様子で言った。
「どうしようって、どうしようもないでしょ。もう告白したなら……」
「してない!」
小夜が強く否定した。それから自信がなさそうに、
「したことになるのかな?」
と首を傾げた。
「してなかったら柊矢さんまであんな態度取るわけないじゃん」
清美が冷たい声で言った。
「柊矢さんの聞いてるところでム……歌、歌ったの。柊矢さんを想う歌……」
小夜の声がだんだん小さくなっていった。
「でも、あんなにはっきり意思表示するつもりはなかったの」
小夜が言い訳するように言った。
「楸矢さんまでまともに顔あわせてくれないし」
「二人の目の前で歌ったの?」
清美が信じられないという顔をした。
「目の前じゃなくて、別の部屋だけど……」
「一応確認のために聞くけど、その歌って小夜のオリジナルソング?」
小夜は頷いた。
「うわ、それ痛すぎ!」
清美が大袈裟に仰け反った。
「そりゃ、どん引きするわ」
ムーシコスではない清美には歌――ムーシカ――で想いを伝えてしまったというのは理解できないのだ。
四千年も共存してきたのに、まだムーシコスと地球人の間には分かり合えない溝がある。
そのとき、夕辺小夜が歌ったムーシカが聴こえてきた。
嘘!
突然真っ赤になった小夜に、
「小夜、どうしたの?」
清美が驚いた様子で顔を覗き込んできた。
「もうダメ。死にたい」
小夜は机に突っ伏した。
柊矢が慰めるように小夜の頭を自分の胸に寄せた。
「恋人なのは確か?」
椿矢が訊ねた。
「はい」
「となると、一つ分かったことがあるね」
「なんだ?」
「沙陽は小夜ちゃんの前のクレーイス・エコーだった」
「ホント?」
楸矢が疑わしげに訊ねた。
「今回の小夜ちゃんと同じようにムーシケーに行ったのがその証拠だよ」
「だが、神殿のことは聞いたがムーシケーのムーシカのことは何も言ってなかったぞ」
「聴こえなかったからでしょ。だからムーシケーは沙陽から小夜ちゃんに乗り換えた。聴こえなかったってことはムーシケーの気持ちが分からないってことだから。ムーシケーに共感出来ない人にクレーイス・エコーは任せられないからね」
それはあり得ると柊矢は思った。
歌詞がなくても泣いてしまうほど感情を激しく揺さぶるような旋律を奏でてしまうくらい強く相手を想う気持ちは、ムーシコスかどうかで恋人を選ぶ沙陽には理解出来ないだろう。
だが、沙陽の性格からして、自分が外されて小夜が選び直されたのは我慢ならなかったはずだ。
多分、小夜が選ばれたのは柊矢と小夜の前に森が現れた時だろう。
部屋でクレーイスを拾ったのはあの日だし、あのとき、小夜は初めて森を見たと言っていた。
そして、沙陽が小夜の家に火を付けたのはその直後だ。
柊矢と楸矢は椿矢の祖父が亡くなってすぐにクレーイス・エコーに選ばれたのだろう。
椿矢の祖父が亡くなるとクレーイスも無くなったと言っていた。
多分、椿矢の祖父の元から柊矢達の祖父の遺品に移ってきたのだろう。
柊矢は沙陽と付き合っていた頃、クレーイスを沙陽に渡そうと思っていた。
本来なら柊矢を通じて沙陽に渡されるはずだったのだ。
沙陽がクレーイス・エコーのままだったら柊矢と別れたとしても、クレーイスは彼女の元へ移っていただろう。
だが、沙陽はクレーイス・エコーから外されたので、彼女の手にクレーイスが渡らなかったのだ。
何故、柊矢が小夜にクレーイスを渡す前に彼女がクレーイス・エコーに選ばれたことを沙陽が知ったのかは分からないが。
「どうして、ムーシケー自身は起きてるのに地上のもの達を眠らせているんでしょう」
「多分、グラフェーと関係があるんじゃないかな」
「ホントか?」
「あくまで想像だけどね」
椿矢は肩をすくめた。
「私にもっと力があればグラフェーのことが分かったんでしょうか?」
「それはどうかな。小夜ちゃんはあくまでムーシケーのクレーイス・エコーだからね」
「まぁ、ムーシケーがその気になったら教えてくれるだろ」
小夜や沙陽にムーシケーを見せたと言うことは、何が何でも隠そうとしているわけではないようだ。
今はそのときを待つしかない。
小夜は夕食が終わると音楽室で、さっきから胸に沸き上がってきていたムーシカを歌っていた。
ムーシケーのラブソングを聴いて浮かんできた曲だった。
新しいムーシカだから他のムーシコスは大人しく聴いていた。
「参ったな」
楸矢は小夜の歌声を聞きながら頭を抱えた。
柊矢はさっきコーヒーカップを持って二階へと上がってしまった。
「小夜ちゃん、ストレートすぎ」
歌詞に、恋とか愛とか好きとか言う言葉は入っていないが、これは明らかに柊矢を想うムーシカだった。
柊矢もそれに気付いたから楸矢と顔を合わせづらくて自室へ逃げたのだろう。
「ムーシカってムーシコスの感情そのものだったんだなぁ……」
小夜が喉を治してくれたお礼のムーシカを歌ったことがあったが、それ以外ではムーシカが創られるところに居合わせたことがなかったから、ここまではっきり感情が表れるものだとは知らなかった。
今日、小夜がムーシケーのムーシカがラブソングだったと言ったとき、歌詞がなかったのになんでラブソングだって言い切れるんだろうと思ったが、確かにこれだけ露骨に感情が表れてれば歌詞がなくてもはっきり分かる。
喉が治ったときのムーシカはお礼の意味で歌われたが、多分お礼のムーシカとして創られたものではなかったのだろう。
おそらく、歌えなかった時期に出来たムーシカだったのだ。
だから、ピアノを教えて欲しいと頼んできたのだろう。
自分が創ったムーシカを伝えられるようになりたかったのだ。
椿矢の祖父の伯母(大伯母)が地球人と駆け落ちしたらしいが、創ったムーシカにここまで剥き出しの感情が表れてしまうのだとしたら、
「そりゃ、地球人と逃げたくなるよなぁ」
楸矢は、椿矢の大伯母に深く共感した。
椿矢の家はムーシコスの家系らしいから周囲にいるのはムーシコスばかりだったはずだし、そうだとするとこういう場面に出くわすこともよくあっただろう。
こんなことが頻繁にあったら身が持たない。
椿矢がムーシコスの血は大分薄れてきていると言っていたらしいが、四千年という時間経過のせいだけではなく、多分、これに耐えかねて地球人を選んだ者が多かったのではないだろうか。
いくらムーシコスが音楽に弱いとは言え、これが平気なのは相当な音楽バカだけだろう。
俺も絶対地球人と結婚しよう。
楸矢はそう心に誓った。
小夜のムーシカを聴きながら、
「明日からどんな顔して会えばいいんだろ」
と独りごちた。
「小夜、なんかあったの?」
教室に入るなり清美が聞いてきた。
車から降りたときの柊矢と小夜のぎこちない様子を見ていたらしい。
「清美……、どうしよう……、私、柊矢さんのこと好きになっちゃったみたい」
「小夜、それ今更過ぎだから」
清美が冷めた口調で言った。
「今までも好きだと思ってたの! 柊矢さんの前で好きって言っちゃったこともあったけど、それが恋だと思ってたけど、全然違った! どうしよう! どうしたらいい?」
小夜は狼狽えた様子で言った。
「どうしようって、どうしようもないでしょ。もう告白したなら……」
「してない!」
小夜が強く否定した。それから自信がなさそうに、
「したことになるのかな?」
と首を傾げた。
「してなかったら柊矢さんまであんな態度取るわけないじゃん」
清美が冷たい声で言った。
「柊矢さんの聞いてるところでム……歌、歌ったの。柊矢さんを想う歌……」
小夜の声がだんだん小さくなっていった。
「でも、あんなにはっきり意思表示するつもりはなかったの」
小夜が言い訳するように言った。
「楸矢さんまでまともに顔あわせてくれないし」
「二人の目の前で歌ったの?」
清美が信じられないという顔をした。
「目の前じゃなくて、別の部屋だけど……」
「一応確認のために聞くけど、その歌って小夜のオリジナルソング?」
小夜は頷いた。
「うわ、それ痛すぎ!」
清美が大袈裟に仰け反った。
「そりゃ、どん引きするわ」
ムーシコスではない清美には歌――ムーシカ――で想いを伝えてしまったというのは理解できないのだ。
四千年も共存してきたのに、まだムーシコスと地球人の間には分かり合えない溝がある。
そのとき、夕辺小夜が歌ったムーシカが聴こえてきた。
嘘!
突然真っ赤になった小夜に、
「小夜、どうしたの?」
清美が驚いた様子で顔を覗き込んできた。
「もうダメ。死にたい」
小夜は机に突っ伏した。
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