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第六章 セイレーネスの歌声
第三話
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話してみると、宗二は感じのいい人だった。
今大学三年生らしい。
話術が巧みで、いつの間にか小夜も宗二の話に引き込まれていた。
「ね、今度一緒に映画観に行かない? 清美ちゃんも一緒ならいいでしょ」
「行きたい! ね、小夜、行こうよ!」
「清美……」
清美は小夜が狙われてるということをすっかり忘れているらしい。
「お茶くらいならいいけど、映画とかは……」
そのお茶だって清美が一緒でなければ柊矢が許してくれるかどうか。
コーヒーを飲みながら横目で柊矢の方を窺うと、むすっとした顔でこちらを睨んでいる。
清美が一緒でもダメかも。
友達くらいにならなってもいいかな、と思い始めていたのだが、柊矢の反応を見ると男友達は認めてもらえそうになかった。
あれって、保護者としてダメって事なのかな。
それとも焼き餅?
焼き餅かもしれないと思うとちょっと嬉しかった。
「……ちゃん? 小夜ちゃん?」
「あ、はい」
「小夜、ちゃんと話聞いてた?」
「ごめん、ちょっとぼーっとしてたみたい」
「夢見がちなところも可愛いね」
「はぁ」
小夜は気の抜けた返事をした。
清美が呆れ顔で見ていた。
「お茶以外は全然ダメ?」
宗二が訊ねた。
「たまには買い物でもしようよ」
清美が言った。
小夜が宗二と二人きりで会うのを拒む限り、清美が側についていることになる。
つまり清美としてはそれだけ宗二といられることになるのだ。
小夜はコーヒーに口を付けながら上目遣いで清美を見た。
三人で一緒に行動していれば宗二は清美を好きになるかもしれない。
そうすれば今後は小夜抜きで会うようになるはずだ。
清美に宗二を押しつける結果になるが、彼女もそれを望んでるようだから問題ないだろう。
もう一度、宗二に目をやった。
やっぱり、どこかで会ったことあるのかな。
声も聞き覚えあるような……。
初対面ではないように思えるが、だとしたら宗二はそう言うはずだ。
多分、気のせいだろう。
「じゃあ、映画や買い物、行っていいか柊矢さんに聞いておきます。清美も一緒でいいならですけど」
「勿論、構わないよ」
その言葉に清美が宗二の死角になるところでガッツポーズをした。
清美、頼んだよ。
任せて!
女二人の視線での会話に、宗二は気付かなかったようだ。
「映画? 買い物?」
柊矢が前方を見たまま眉を顰めた。
帰りの車の中だった。
「清美があの人と付き合えるようになるまででいいんです。付き合い始めたら二人だけで会うようになるはずですから」
小夜が懇願するように言った。
「あいつはお前の方に気があったようだが?」
「でも、お互い全然知らない相手ですし、一緒にいるうちに清美の方を好きになるかもしれないですから」
柊矢は考え込んだ。
確かに、小夜をぱっと見て気に入ったんだとしても、清美の方が気が合うとなれば彼女の方を選ぶ可能性はある。
清美だって可愛い顔をしているのだ。
小夜は性格的に男に合わせるなんて無理だろうが、清美の方は相手の好みに合わせるタイプに見える。
狙ってる相手ならば尚のこと。
問題は……。
「買い物は店を限定してなら。勿論、送り迎えは俺がする。映画はダメだ。暗いところで襲われたら防ぎようがないからな」
「分かりました」
予想通りの答えだったので小夜は頷いた。
小夜はふと思いついて、
「柊矢さんと二人でも映画はダメですか?」
と聞いてみた。
「ホラーならいいぞ」
柊矢が意地悪な笑みで言った。
「遠慮しておきます」
「今回のことが決着するまではDVDで我慢してくれ」
「はい」
それほど映画が好きなわけではない小夜は素直に返事をした。
「買い物していくか?」
そろそろ大久保通りに近くなった。
買い物をするかどうかで右に曲がるか真っ直ぐか変わってくる。
「何か食べたいものありますか? 昨日は楸矢さんの好きなもの作りましたから、今日は柊矢さんの好きなもの作りますよ」
柊矢はちょっと考えてから大久保通りを右折した。
「買い物なんだけどさ、丁度今、原宿のお店でセールやってるよ」
「え! 行きたい!」
そう答えてから、
「あ、でも、女の子の服の買い物なんて、宗二さんは嫌じゃないかな」
と小夜が言うと、
「じゃ、聞いてみる」
清美はいそいそとスマホを取りだして教室から出ていった。
宗二に電話する口実が出来たのが嬉しいらしい。
清美と宗二さんが上手くいくといいけど。
でも、そうなったら、私とはあんまり一緒にいられなくなっちゃうかな。
清美に念願の彼氏が出来るのは嬉しいが、ちょっぴり寂しい気もした。
「OKだって」
清美が帰ってきて言った。
「じゃ、服買いに行こうか。あ……」
「どうしたの?」
「なんでもない」
宗二に、柊矢の誕生日プレゼントの相談に乗ってもらおうかと思ったのだが、清美と上手くいくまではあまり積極的に話さない方がいいだろう。
「じゃ、今度の日曜日にね」
清美が言った。
日曜日、小夜は清美、宗二の二人とともに原宿の店に来ていた。
「こっちは?」
「え? こっちの方が良くない?」
限られた予算でベストの選択をするには、商品を厳選しなければならない。
自然とあっちをあわせてみたり、こっちをあわせてみたり、となってしまう。
店内は小夜と同い年くらいの女の子で溢れていた。
「このスカートと合わせるならこのブラウスだよね。でも、あのベストと合わせるならあっちのブラウスの方が……」
「でも、そうするとスカートが……」
服選びに夢中の二人に、宗二は完全に置いてけぼりを食った。
宗二の方も、とても口を出せる雰囲気ではないと悟ったのか、店の外でスマホをいじっていた。
清美も今だけは宗二を綺麗に忘れていた。
「やっぱり。向こうの方がいいかなぁ」
「それよりこっちの方がいいんじゃない?」
「小夜、あっちにしなよ。あたし、そっちにする。で、着たいときに貸しっこしようよ」
「いいよ。じゃ、次、隣の店行こうか」
「うん」
二人がレジをすませて店を出ると、宗二は壁にもたれていた。
今大学三年生らしい。
話術が巧みで、いつの間にか小夜も宗二の話に引き込まれていた。
「ね、今度一緒に映画観に行かない? 清美ちゃんも一緒ならいいでしょ」
「行きたい! ね、小夜、行こうよ!」
「清美……」
清美は小夜が狙われてるということをすっかり忘れているらしい。
「お茶くらいならいいけど、映画とかは……」
そのお茶だって清美が一緒でなければ柊矢が許してくれるかどうか。
コーヒーを飲みながら横目で柊矢の方を窺うと、むすっとした顔でこちらを睨んでいる。
清美が一緒でもダメかも。
友達くらいにならなってもいいかな、と思い始めていたのだが、柊矢の反応を見ると男友達は認めてもらえそうになかった。
あれって、保護者としてダメって事なのかな。
それとも焼き餅?
焼き餅かもしれないと思うとちょっと嬉しかった。
「……ちゃん? 小夜ちゃん?」
「あ、はい」
「小夜、ちゃんと話聞いてた?」
「ごめん、ちょっとぼーっとしてたみたい」
「夢見がちなところも可愛いね」
「はぁ」
小夜は気の抜けた返事をした。
清美が呆れ顔で見ていた。
「お茶以外は全然ダメ?」
宗二が訊ねた。
「たまには買い物でもしようよ」
清美が言った。
小夜が宗二と二人きりで会うのを拒む限り、清美が側についていることになる。
つまり清美としてはそれだけ宗二といられることになるのだ。
小夜はコーヒーに口を付けながら上目遣いで清美を見た。
三人で一緒に行動していれば宗二は清美を好きになるかもしれない。
そうすれば今後は小夜抜きで会うようになるはずだ。
清美に宗二を押しつける結果になるが、彼女もそれを望んでるようだから問題ないだろう。
もう一度、宗二に目をやった。
やっぱり、どこかで会ったことあるのかな。
声も聞き覚えあるような……。
初対面ではないように思えるが、だとしたら宗二はそう言うはずだ。
多分、気のせいだろう。
「じゃあ、映画や買い物、行っていいか柊矢さんに聞いておきます。清美も一緒でいいならですけど」
「勿論、構わないよ」
その言葉に清美が宗二の死角になるところでガッツポーズをした。
清美、頼んだよ。
任せて!
女二人の視線での会話に、宗二は気付かなかったようだ。
「映画? 買い物?」
柊矢が前方を見たまま眉を顰めた。
帰りの車の中だった。
「清美があの人と付き合えるようになるまででいいんです。付き合い始めたら二人だけで会うようになるはずですから」
小夜が懇願するように言った。
「あいつはお前の方に気があったようだが?」
「でも、お互い全然知らない相手ですし、一緒にいるうちに清美の方を好きになるかもしれないですから」
柊矢は考え込んだ。
確かに、小夜をぱっと見て気に入ったんだとしても、清美の方が気が合うとなれば彼女の方を選ぶ可能性はある。
清美だって可愛い顔をしているのだ。
小夜は性格的に男に合わせるなんて無理だろうが、清美の方は相手の好みに合わせるタイプに見える。
狙ってる相手ならば尚のこと。
問題は……。
「買い物は店を限定してなら。勿論、送り迎えは俺がする。映画はダメだ。暗いところで襲われたら防ぎようがないからな」
「分かりました」
予想通りの答えだったので小夜は頷いた。
小夜はふと思いついて、
「柊矢さんと二人でも映画はダメですか?」
と聞いてみた。
「ホラーならいいぞ」
柊矢が意地悪な笑みで言った。
「遠慮しておきます」
「今回のことが決着するまではDVDで我慢してくれ」
「はい」
それほど映画が好きなわけではない小夜は素直に返事をした。
「買い物していくか?」
そろそろ大久保通りに近くなった。
買い物をするかどうかで右に曲がるか真っ直ぐか変わってくる。
「何か食べたいものありますか? 昨日は楸矢さんの好きなもの作りましたから、今日は柊矢さんの好きなもの作りますよ」
柊矢はちょっと考えてから大久保通りを右折した。
「買い物なんだけどさ、丁度今、原宿のお店でセールやってるよ」
「え! 行きたい!」
そう答えてから、
「あ、でも、女の子の服の買い物なんて、宗二さんは嫌じゃないかな」
と小夜が言うと、
「じゃ、聞いてみる」
清美はいそいそとスマホを取りだして教室から出ていった。
宗二に電話する口実が出来たのが嬉しいらしい。
清美と宗二さんが上手くいくといいけど。
でも、そうなったら、私とはあんまり一緒にいられなくなっちゃうかな。
清美に念願の彼氏が出来るのは嬉しいが、ちょっぴり寂しい気もした。
「OKだって」
清美が帰ってきて言った。
「じゃ、服買いに行こうか。あ……」
「どうしたの?」
「なんでもない」
宗二に、柊矢の誕生日プレゼントの相談に乗ってもらおうかと思ったのだが、清美と上手くいくまではあまり積極的に話さない方がいいだろう。
「じゃ、今度の日曜日にね」
清美が言った。
日曜日、小夜は清美、宗二の二人とともに原宿の店に来ていた。
「こっちは?」
「え? こっちの方が良くない?」
限られた予算でベストの選択をするには、商品を厳選しなければならない。
自然とあっちをあわせてみたり、こっちをあわせてみたり、となってしまう。
店内は小夜と同い年くらいの女の子で溢れていた。
「このスカートと合わせるならこのブラウスだよね。でも、あのベストと合わせるならあっちのブラウスの方が……」
「でも、そうするとスカートが……」
服選びに夢中の二人に、宗二は完全に置いてけぼりを食った。
宗二の方も、とても口を出せる雰囲気ではないと悟ったのか、店の外でスマホをいじっていた。
清美も今だけは宗二を綺麗に忘れていた。
「やっぱり。向こうの方がいいかなぁ」
「それよりこっちの方がいいんじゃない?」
「小夜、あっちにしなよ。あたし、そっちにする。で、着たいときに貸しっこしようよ」
「いいよ。じゃ、次、隣の店行こうか」
「うん」
二人がレジをすませて店を出ると、宗二は壁にもたれていた。
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