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第四章
第一話
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花月から石高を聞いて取り敢えず大丈夫そうだと納得した。
まぁ、桜井家が潰れても光夜は花月一人くらいなら食わせていける自信はある。
口入れ屋に行けば用心棒の仕事くらいいくらでもあるだろうし、無ければ無いで辻斬りでも何でもするつもりだ。
と言っても辻斬りは花月が許さないだろうが。
て言うか、花月も用心棒くらいは出来るんだよな……。
なんだかんだ言って花月の方が強いのだ。
夜の稽古で花月と試合をしてもいつも負けてしまう。
これが他の弟子相手なら木刀では敵わなくても真剣なら自分が勝つ自信はある。
しかし花月は真剣でも強い。
早く強くなりたい。
そう思って信之介との試合も毎回全力で戦っている。
だが信之介とでさえ勝てるのは二回に一回だ。
強くなっている実感がまるでない。
「なぁ」
「何?」
「どうしたら強くなれるんだ?」
光夜の問いに、花月は小首を傾げた。
「どうしたの、急に」
「なんか全然強くなってねぇなって思って」
「強くなってるわよ」
「でも、花月にも勝てねぇし」
「私の方が年上なのよ。あんたより長くやってんだから当然でしょ」
花月が笑いながら光夜の額を突いた。
「信之介との勝負も……」
「それは村瀬さんも強くなってるからよ」
「じゃあ、もっと稽古すれば花月や信之介よりも強くなるのか?」
「そうなるわね。まぁ、村瀬さんも私もそう簡単に追い越されたりはしないけど」
花月が不敵な笑みを浮かべて言った。
絶対いつか追い越す。
光夜は心に誓った。
「いい? 今日は同時に行くわよ。あんたは後ろから」
夜の稽古場で花月と光夜は弦之丞と宗祐は少し離れた場所で話していた。
「若先生に聞こえてるけど良いのか?」
「作戦内緒にしたくらいで勝てると思う?」
それもそうだ……。
花月は宗祐の前に、光夜が後ろに立った。
花月が青眼に構え、足の裏を擦るようにして宗祐との間を詰めていく。
一足一刀の間境の半歩手前で止まった。
刹那!
一気に踏み込んで突きを放った。
同時に光夜も上段に構えた刀を振り下ろした。
宗祐は僅かに身体の向きを変えただけで二人の攻撃を躱す。
花月が袈裟に二の太刀を振り下ろした。
光夜が逆袈裟に振り上げる。
宗祐には少し足を引いた程度で避けられてしまう。
花月は宗祐の懐に飛び込んで横に払った。
光夜も背後から突っ込んで上段から振り下ろした。
宗祐が微かに足を引いて体を開く。
花月と光夜が交差し位置が入れ替わった。
花月は振り返り様、逆袈裟に振り上げた。
光夜が回し蹴りを放った。
宗祐は軽く身体を傾けただけでどちらも避けた。
「そこまで」
弦之丞の声で花月と光夜は動きを止めた。
花月も光夜も間合いの見極めは出来ている。
宗祐は最初と同じ場所に立ったままだ。
にも関わらず二人の攻撃は掠りもしなかった。
「今度は花月と光夜で遣ってみなさい」
弦之丞に言われて二人は三間の間を取って向き合った。
花月は青眼の構えのまま、静かに佇んでいる。
光夜も青眼の構えを取ると、足の裏を擦るようにじりじりと距離を縮めていった。
一足一刀の間境の半歩手前で一旦足を止める。
息を詰めるようにして花月に狙いを定めると一気に踏み込んで面を打った。
花月は僅かな動きで光夜の手に刀の切っ先を付けた。
「そこまで」
弦之丞が静かに言った。
「二人とも腕を上げたな」
「俺、強くなってますか」
「初めての時と比べると格段に良い」
「全然そんな感じしねぇけど」
宗祐や花月はともかく、信之介とですら未だに勝負は五分なのだ。
「お前達は比翼の鳥だ」
「比翼の鳥?」
「翼が片方しかない鳥だ」
「それで空が飛べるのですか?」
「一羽では飛べぬ。だから二羽の鳥が力を合わせて飛ぶのだ」
花月と光夜は顔を見合わせた。
「一人では敵わぬ敵も二人なら倒せる」
「それって、別に花月と俺じゃなくても」
「お前達は息が合っている。連携の取れぬ者同士で戦っても同士討ちをするだけだ」
確かに今まで夜の稽古で宗祐を相手に戦っている時に花月にぶつかっったことはない。
「花月が上手くやってくれてたのか」
「あんたの動きは読みやすいから見切るのが簡単なのよ」
花月はそう言ってから、
「そんなことも分からないようじゃまだまだね」
光夜の額を突いた。
比翼の鳥、か。
片割れが花月なら悪くねぇな。
そろそろ午前の稽古の時間だな……。
光夜は素振りをしていた木刀を稽古場に戻しに行った。
稽古が始まるまでに雑巾がけをして支度をしなければならないから実際の開始の時間より早く稽古場へ行かなければならない。
光夜が用具置き場から掃除用の桶を取り出したとき、
「た、大変だ!」
山田が飛び込んできた。顔が真っ青だ。
「どうした!?」
光夜や信之介達が山田の周りに集まる。
「あ、麻生殿が殺された!」
まぁ、桜井家が潰れても光夜は花月一人くらいなら食わせていける自信はある。
口入れ屋に行けば用心棒の仕事くらいいくらでもあるだろうし、無ければ無いで辻斬りでも何でもするつもりだ。
と言っても辻斬りは花月が許さないだろうが。
て言うか、花月も用心棒くらいは出来るんだよな……。
なんだかんだ言って花月の方が強いのだ。
夜の稽古で花月と試合をしてもいつも負けてしまう。
これが他の弟子相手なら木刀では敵わなくても真剣なら自分が勝つ自信はある。
しかし花月は真剣でも強い。
早く強くなりたい。
そう思って信之介との試合も毎回全力で戦っている。
だが信之介とでさえ勝てるのは二回に一回だ。
強くなっている実感がまるでない。
「なぁ」
「何?」
「どうしたら強くなれるんだ?」
光夜の問いに、花月は小首を傾げた。
「どうしたの、急に」
「なんか全然強くなってねぇなって思って」
「強くなってるわよ」
「でも、花月にも勝てねぇし」
「私の方が年上なのよ。あんたより長くやってんだから当然でしょ」
花月が笑いながら光夜の額を突いた。
「信之介との勝負も……」
「それは村瀬さんも強くなってるからよ」
「じゃあ、もっと稽古すれば花月や信之介よりも強くなるのか?」
「そうなるわね。まぁ、村瀬さんも私もそう簡単に追い越されたりはしないけど」
花月が不敵な笑みを浮かべて言った。
絶対いつか追い越す。
光夜は心に誓った。
「いい? 今日は同時に行くわよ。あんたは後ろから」
夜の稽古場で花月と光夜は弦之丞と宗祐は少し離れた場所で話していた。
「若先生に聞こえてるけど良いのか?」
「作戦内緒にしたくらいで勝てると思う?」
それもそうだ……。
花月は宗祐の前に、光夜が後ろに立った。
花月が青眼に構え、足の裏を擦るようにして宗祐との間を詰めていく。
一足一刀の間境の半歩手前で止まった。
刹那!
一気に踏み込んで突きを放った。
同時に光夜も上段に構えた刀を振り下ろした。
宗祐は僅かに身体の向きを変えただけで二人の攻撃を躱す。
花月が袈裟に二の太刀を振り下ろした。
光夜が逆袈裟に振り上げる。
宗祐には少し足を引いた程度で避けられてしまう。
花月は宗祐の懐に飛び込んで横に払った。
光夜も背後から突っ込んで上段から振り下ろした。
宗祐が微かに足を引いて体を開く。
花月と光夜が交差し位置が入れ替わった。
花月は振り返り様、逆袈裟に振り上げた。
光夜が回し蹴りを放った。
宗祐は軽く身体を傾けただけでどちらも避けた。
「そこまで」
弦之丞の声で花月と光夜は動きを止めた。
花月も光夜も間合いの見極めは出来ている。
宗祐は最初と同じ場所に立ったままだ。
にも関わらず二人の攻撃は掠りもしなかった。
「今度は花月と光夜で遣ってみなさい」
弦之丞に言われて二人は三間の間を取って向き合った。
花月は青眼の構えのまま、静かに佇んでいる。
光夜も青眼の構えを取ると、足の裏を擦るようにじりじりと距離を縮めていった。
一足一刀の間境の半歩手前で一旦足を止める。
息を詰めるようにして花月に狙いを定めると一気に踏み込んで面を打った。
花月は僅かな動きで光夜の手に刀の切っ先を付けた。
「そこまで」
弦之丞が静かに言った。
「二人とも腕を上げたな」
「俺、強くなってますか」
「初めての時と比べると格段に良い」
「全然そんな感じしねぇけど」
宗祐や花月はともかく、信之介とですら未だに勝負は五分なのだ。
「お前達は比翼の鳥だ」
「比翼の鳥?」
「翼が片方しかない鳥だ」
「それで空が飛べるのですか?」
「一羽では飛べぬ。だから二羽の鳥が力を合わせて飛ぶのだ」
花月と光夜は顔を見合わせた。
「一人では敵わぬ敵も二人なら倒せる」
「それって、別に花月と俺じゃなくても」
「お前達は息が合っている。連携の取れぬ者同士で戦っても同士討ちをするだけだ」
確かに今まで夜の稽古で宗祐を相手に戦っている時に花月にぶつかっったことはない。
「花月が上手くやってくれてたのか」
「あんたの動きは読みやすいから見切るのが簡単なのよ」
花月はそう言ってから、
「そんなことも分からないようじゃまだまだね」
光夜の額を突いた。
比翼の鳥、か。
片割れが花月なら悪くねぇな。
そろそろ午前の稽古の時間だな……。
光夜は素振りをしていた木刀を稽古場に戻しに行った。
稽古が始まるまでに雑巾がけをして支度をしなければならないから実際の開始の時間より早く稽古場へ行かなければならない。
光夜が用具置き場から掃除用の桶を取り出したとき、
「た、大変だ!」
山田が飛び込んできた。顔が真っ青だ。
「どうした!?」
光夜や信之介達が山田の周りに集まる。
「あ、麻生殿が殺された!」
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