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第五章
きりかかる
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「いや、あれだけそっくりなんだぞ。花籠より前に知り合ってたら初めて花籠と会った時にお姉さんと間違ってたはずだ」
「そ、そうですか……」
花籠は祥顕の返事を訊いて肩を落とした。
やはり花籠と香夜の見分けが付くから間違えなかったわけではなく、本当に知り合いではなかったのだ。
そっか、やっぱり先輩も間違えるんだ……。
花籠は祥顕に気取られないようにしながらも気落ちしていた。
とはいえ、間違えるというのなら花籠と会ったとき気付かなかったのは本当に面識がなかったと言うことになる。
「花籠の言う通り双子だったってことは事実だったな」
「え……あ、そうですね」
自分の言っていることが証明されたと分かったのは良かったのだが、今度は香夜の事が心配になった。
皆が香夜のことを忘れている状態では学校に行くどころか家にすら帰ってこられないのではないだろうか。
香夜ちゃん、どこにいるんだろ……。
今、どうしてるのかな……。
「とりあえず帰ろう」
祥顕の言葉に花籠は歩き出した。
「あ……」
祥顕が足を止めたので花籠が視線を追い掛けるとクレープ屋があった。
その隣にアイスのワゴンも出ている。
「クレープとアイス、どっちがいい?」
祥顕が嬉しそうに言った。
「え、えっと……」
花籠が店の方に目を向ける。
どっちがいいかな……。
先輩はどっちがいいんだろ……。
この様子だとクレープも好きかもしれない……。
それなら今日はクレープの方がいいのだろうか。
花籠が考えていると、
「じゃ、両方」
と言って祥顕が歩き出した。
「え!? あ、じゃあ、割り勘で!」
花籠は慌てて言った。
祥顕は大学受験を控えているのだ。
奢りの金を稼ぐためのバイトなどさせるわけにはいかない。
「いや、俺が誘ったんだし……」
「いえ、その方が遠慮なく食べたいの注文出来ますから……」
「そうか」
祥顕はなんとも言えない表情で頷くとクレープの店に向かった。
もしかして、奢ってもらっている間は早まらないと思われてるのかな……。
奢ってもらうのが好きな女の子だとは思われたくないのだが――。
夜――
図書館から出た祥顕が道端の街灯にもたれると程なく早太がやってきた。
「連絡先をお教えしますので御用の時はそちらに」
早太はスマホを出しながら言った。
「花籠のこと、調べてるか? あるいは香夜のこと」
祥顕は早太と連絡先を交換しながら言った。
「何かございましたか?」
早太がスマホを仕舞いながら訊ねた。
「香夜に会った」
祥顕が答えた。
「本当ですか!? どちらで……」
「花籠が入院してる病院だ。間違いなく花籠とは別人だった。それに瓜二つなのもホントだ」
祥顕が言った。
「では今はどこにいるのですか?」
と早太が問う。
早太も同じ事を考えたのだ。
親が覚えていないのなら家にいるはずはない、と。
祥顕は溜息を吐いた。
そう、一番の問題がそれなのである。
母親は祥顕の前で花籠は一人っ子だと言った。
祥顕に隠そうとしていた風ではなく、本気で一人だと思っていたようだから香夜が自宅にいるとは考えにくい。
かといって高校生の小遣いではネットカフェなどに何泊も出来るわけがない。
清潔な身形をしていたから野宿をしているとは思えないし、そうなると誰かの家に転がり込んでいると考えるのが妥当だ。――例えば白浪のアジトとか。
香夜が友達の家というのは考えづらい。
親が忘れたのに友達が覚えているとは思えないからだ。
しかし花籠は、狐にはっきりと〝魂の器〟ではないと言われたと言うから〝かぐや〟というのが香夜のことなら覚醒のための儀式とやらをしたはずだ。
狐から逃げて捕まっていなかった可能性もなくはないが、それだと親が娘のことを忘れてしまったことの説明が付かない。
香夜も狐に捕まって儀式をして間違いだと分かったとしたら花籠が言っていた供物というものにされただろうし、そうなると生きているのに連中のところにいるのは覚醒したからだろう。
希望があるとすれば祥顕を騙せなかったという点か。
首魁に早太の言うような能力があるなら祥顕を簡単に騙せたはずだ。
それが出来なかったという事は香夜も違うのかもしれない。
希望的観測でしかないが。
「花籠は作られた人間だって言ってたよな。〝魂の器〟を人工授精で産ませるんじゃないなら花籠は普通の人間だって言うことじゃないのか?」
祥顕は疑問を口にした。
超音波写真があったということは花籠の母親が子供を妊娠していたのは間違いないはずだし、〝魂の器〟が女性から生まれてくるのではないならお腹にいた子供は人間と言うことになる。
色々考えてみたが、西行が人工授精的なもので女性に子供を産ませたとは思えないし、子供が欲しいなら普通に作れば良かっただろう。
わざわざ人造人間など作る必要はないはずだ。
西行には子供がいたから子供を作る能力が無かったわけではない。
となると西行は大人を作りたかったのだろうし、それと同じ技術で作ったのだとすれば〝魂の器〟も大人か、そうではなくてもある程度成長した子供を作ろうとしたのではないだろうか。
〝魂の器〟が赤ん坊だったというのが腑に落ちなかった。
「赤ん坊を作ったのは我々にも意外でした」
今までの〝魂の器〟は大人だったからだ。
おそらく時間がなくて急いでいたから材料が少なくてすむ赤ん坊だったか、技術的に未熟な者が作ったから赤ん坊になってしまったのではないかというのが早太達の推測だった。
「そ、そうですか……」
花籠は祥顕の返事を訊いて肩を落とした。
やはり花籠と香夜の見分けが付くから間違えなかったわけではなく、本当に知り合いではなかったのだ。
そっか、やっぱり先輩も間違えるんだ……。
花籠は祥顕に気取られないようにしながらも気落ちしていた。
とはいえ、間違えるというのなら花籠と会ったとき気付かなかったのは本当に面識がなかったと言うことになる。
「花籠の言う通り双子だったってことは事実だったな」
「え……あ、そうですね」
自分の言っていることが証明されたと分かったのは良かったのだが、今度は香夜の事が心配になった。
皆が香夜のことを忘れている状態では学校に行くどころか家にすら帰ってこられないのではないだろうか。
香夜ちゃん、どこにいるんだろ……。
今、どうしてるのかな……。
「とりあえず帰ろう」
祥顕の言葉に花籠は歩き出した。
「あ……」
祥顕が足を止めたので花籠が視線を追い掛けるとクレープ屋があった。
その隣にアイスのワゴンも出ている。
「クレープとアイス、どっちがいい?」
祥顕が嬉しそうに言った。
「え、えっと……」
花籠が店の方に目を向ける。
どっちがいいかな……。
先輩はどっちがいいんだろ……。
この様子だとクレープも好きかもしれない……。
それなら今日はクレープの方がいいのだろうか。
花籠が考えていると、
「じゃ、両方」
と言って祥顕が歩き出した。
「え!? あ、じゃあ、割り勘で!」
花籠は慌てて言った。
祥顕は大学受験を控えているのだ。
奢りの金を稼ぐためのバイトなどさせるわけにはいかない。
「いや、俺が誘ったんだし……」
「いえ、その方が遠慮なく食べたいの注文出来ますから……」
「そうか」
祥顕はなんとも言えない表情で頷くとクレープの店に向かった。
もしかして、奢ってもらっている間は早まらないと思われてるのかな……。
奢ってもらうのが好きな女の子だとは思われたくないのだが――。
夜――
図書館から出た祥顕が道端の街灯にもたれると程なく早太がやってきた。
「連絡先をお教えしますので御用の時はそちらに」
早太はスマホを出しながら言った。
「花籠のこと、調べてるか? あるいは香夜のこと」
祥顕は早太と連絡先を交換しながら言った。
「何かございましたか?」
早太がスマホを仕舞いながら訊ねた。
「香夜に会った」
祥顕が答えた。
「本当ですか!? どちらで……」
「花籠が入院してる病院だ。間違いなく花籠とは別人だった。それに瓜二つなのもホントだ」
祥顕が言った。
「では今はどこにいるのですか?」
と早太が問う。
早太も同じ事を考えたのだ。
親が覚えていないのなら家にいるはずはない、と。
祥顕は溜息を吐いた。
そう、一番の問題がそれなのである。
母親は祥顕の前で花籠は一人っ子だと言った。
祥顕に隠そうとしていた風ではなく、本気で一人だと思っていたようだから香夜が自宅にいるとは考えにくい。
かといって高校生の小遣いではネットカフェなどに何泊も出来るわけがない。
清潔な身形をしていたから野宿をしているとは思えないし、そうなると誰かの家に転がり込んでいると考えるのが妥当だ。――例えば白浪のアジトとか。
香夜が友達の家というのは考えづらい。
親が忘れたのに友達が覚えているとは思えないからだ。
しかし花籠は、狐にはっきりと〝魂の器〟ではないと言われたと言うから〝かぐや〟というのが香夜のことなら覚醒のための儀式とやらをしたはずだ。
狐から逃げて捕まっていなかった可能性もなくはないが、それだと親が娘のことを忘れてしまったことの説明が付かない。
香夜も狐に捕まって儀式をして間違いだと分かったとしたら花籠が言っていた供物というものにされただろうし、そうなると生きているのに連中のところにいるのは覚醒したからだろう。
希望があるとすれば祥顕を騙せなかったという点か。
首魁に早太の言うような能力があるなら祥顕を簡単に騙せたはずだ。
それが出来なかったという事は香夜も違うのかもしれない。
希望的観測でしかないが。
「花籠は作られた人間だって言ってたよな。〝魂の器〟を人工授精で産ませるんじゃないなら花籠は普通の人間だって言うことじゃないのか?」
祥顕は疑問を口にした。
超音波写真があったということは花籠の母親が子供を妊娠していたのは間違いないはずだし、〝魂の器〟が女性から生まれてくるのではないならお腹にいた子供は人間と言うことになる。
色々考えてみたが、西行が人工授精的なもので女性に子供を産ませたとは思えないし、子供が欲しいなら普通に作れば良かっただろう。
わざわざ人造人間など作る必要はないはずだ。
西行には子供がいたから子供を作る能力が無かったわけではない。
となると西行は大人を作りたかったのだろうし、それと同じ技術で作ったのだとすれば〝魂の器〟も大人か、そうではなくてもある程度成長した子供を作ろうとしたのではないだろうか。
〝魂の器〟が赤ん坊だったというのが腑に落ちなかった。
「赤ん坊を作ったのは我々にも意外でした」
今までの〝魂の器〟は大人だったからだ。
おそらく時間がなくて急いでいたから材料が少なくてすむ赤ん坊だったか、技術的に未熟な者が作ったから赤ん坊になってしまったのではないかというのが早太達の推測だった。
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