光、さく

月夜野 すみれ

文字の大きさ
上 下
36 / 54
第四章

つまはいづくと

しおりを挟む
「双子だったら一人生きていればもう一人は諦めるでしょう。そうでなくても借金しなければならないところだったんですから」
 早太が言った。

 双子は何をするにも二倍の費用が掛かる。
 金が無くて困っていたのだし、双子を望んでいたわけでもないのだから片方が生きているのにもう片方を生き返らせてくれとは言わないだろう。
 生き返らせたかったのは一人しか授からなかったからだ。

 早太にそう理詰めで説明されると確かに納得はいくのだが――。
 そうなると花籠が狙われていたにも関わらず、いざ捕まったら違うと言われた理由の説明が付かない。
 証拠が無いと――。

 そういえば……。

「確か、出生届がどうのって言ってたよな? 自分の目で見たのか?」
 祥顕は早太に訊ねた。
「はい。出生証明書も出生届も戸籍も見ました」
 早太が頷く。

「コピーか何か取らなかったか?」

 書類にはちゃんと双子と書いてあるのに記憶を改竄かいざんされていて一人だと錯覚しているのかもしれない。
 前に出生届の話を聞いた時、早太は双子かどうかということには言及しなかった。

 祥顕の質問に早太は胸ポケットからスマホを取り出すと祥顕に差し出した。

 祥顕はそれを受け取ると画面に目を落とした。
 確かに写っている戸籍や住民票では花籠に兄弟はいない。
 写真を撮った日付も見てみたがしばらく前だ。

 デジタルデータは書き換え可能とは言え、早太がうかうかと狐達に改変させられてしまうとは思えないし、早太が連中と話を合わせるためにデータの日付を変えたとも思えない。
 おそらく写真は早太が以前撮ったデータのままだと考えていいだろう。

 花籠の母親の言葉と考え合わせると生まれた時に『香夜』と名付け、教団にそれを知られていたから死亡届はその名前で出し、出生届を『花籠』で出したとしたら辻褄が合う。
 狐が『花籠』を『香夜』と呼んでいたことも。

 だが、そうなると――。

 祥顕は画面を見ながら考え込んだ。
 双子だという記述がどこにもないから生まれた時は双子だったのが片方死んでしまったというわけではないのだろう。
 特に戸籍や住民票に唯一の子供として載っているとなると――。

 ホントは双子だが届けは一人分だけだったという可能性もなくはないがそれだと片方が学校には通えない。
 少なくとも公立学校は無理だろう。
 祥顕は礼を言ってスマホを早太に返した。

「狐のことはどうなってるんだ?」
 祥顕の問いに、
「ここ数日、動きらしい動きはありません」
 早太が答えた。

「なら連中が最近誰かをさらったりはしてないんだな」
「少なくとも私は聞いておりません」
 早太が言った。

「お前達に気付かれないように誘拐してたってことは?」
「絶対とは言い切れませんが、まずないと思います」
 ならば早太達が狐達に騙されているのでもない限り、香夜は誘拐されてはいないのだろう。

 それなら花籠が一人っ子だという話と符合する。
 香夜を捕らえたわけではないのなら記憶を消したり書類やデータを改竄したりする必要はないからだ。

 事前準備という事も考えられなくはないが、それなら花籠が標的だと思っていた時にやっていなければおかしい。
 だが花籠の親が花籠を忘れていたという話は聞いていない。香夜のことも。
 分からないことだらけだが一番の問題は――。

 花籠になんて説明したらいいんだ……。

 祥顕は頭を抱えた。
 記憶を改竄されているのが親や早太達ではなく花籠の方だとしても、花籠は香夜と双子だと信じているのだ。

 それを否定したりしたら花籠は自分を否定されたように感じるかもしれない。
 間違いなく傷付くだろうから花籠の言う事を肯定したいのだが嘘をくわけにもいかない。

「とりあえず、図書館に行かれた方がよろしいかと」
 早太に促されて祥顕は図書館に足を向けた。

 夜――

 病院の消灯時間になり、花籠はベッドに横になった。

 こっそりスマホを覗いたが、病室を出て行ってしばらくしてから、
「今から早太を探す」
 と言うメッセージが来たきりだ。

 祥顕は大学受験を控えていて勉強もしなければならないのだし、そもそも一介の高校生では書類なども簡単には調べられないだろう。
 すぐに結果が出るわけがないのだからかすわけにはいかない。

 何より自分では出来ないことを頼んでいるのだから催促など出来る立場ではない。
 香夜のことは心配だが今の花籠には何も出来ないのだ。
 入院しているから探しに行くことすら叶わない。

 香夜ちゃんが大変なときなのに何も出来ないなんて……。

 しかも双子だと主張したことで「倒れた時に頭を打ったのかもしれないから大事を取った方がいい」と医師に言われてしまい、退院出来る日が遠退とおのいてしまったのだ。
 少なくともこの前のように次の日に退院というのは無理そうだった。
 花籠は溜息をいた。

 病院の就寝時間は普段花籠が寝ている時間より大分早い。
 だが看護師にライトをけて本を読むどころかスマホやパソコンを使うのもダメだし、そもそも起きているのも禁止だと言われてしまった。
 朝の起床時間までは寝ていないといけないのだ。

 こんな時間に寝られるかな……。

 そう思ったものの目を閉じた途端、眠りに落ちてしまった。

 気付くと花籠は闇の中にいた。

「花籠ちゃん」
 その声に顔を上げると目の前に香夜がいた。
「香夜ちゃん!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...