4 / 54
第一章
なつかしきよに
しおりを挟む
「ーーーー!」
悲鳴を聞いて振り返ると黒いものが空から少女に飛び掛かってくるところだった。
祥顕は咄嗟に少女の腕を掴んで自分と場所を入れ替えた。
黒いものが祥顕に突っ込んでくる。
やられる……!
その瞬間、
〝ほととぎす……〟
誰かの声が聞こえた。
夕辺聞こえた声だ。
〝……名をも雲井に あぐるかな〟
「弓はり月の いるにまかせて」
思わず言葉が口を突いて出た。
その瞬間、どこからか日本刀が飛んできた。
祥顕の足下に太刀が突き立つ。
「何をする!」
祥顕が眼帯の男に怒鳴った。
「私めは何もしておりません」
男が冷静な声で答える。
確かに男の刀ではない。
男は刀を手に持っている。
「それはあなたが拝領された太刀。持ち主の元に戻られただけです」
眼帯の男の言葉に祥顕は太刀を掴んで引き抜き構えてみた。
そう言われてみれば手にしっくり馴染……まない。
「ホントに俺の刀か?」
「……そういえば、お使いになられたことはありませんでしたな」
眼帯の男が答える。
まぁどちらにしろ刀など使ったことはないのだから同じ事だ。
「それより……」
男が空に目を向けて身構える。
ほぼ同時に月明かりが陰った。
祥顕も刀を構えた。
弓と同じく訓練したことがあるかのように太刀も自然に遣える。
まるで身体が覚えているかのようだ。
弓道も剣道も習ったことはないのだが。
空から飛び掛かってくるなら人間ではないだろう。
祥顕は太刀を振りかぶると斜めに払う。
黒い影が塵となって消えた。
眼帯の男が残る一体を倒す。
やはり塵になった。
周りを見回すと狐面は一人もいなかった。
祥顕は刀を構えたまま男達の方を向いた。
女の子を狙っていたのはこの男達も同じだ。
しかも刃物――日本刀で斬り掛かったのだから殺意があったのは間違いないだろう。
だとしたら気を緩めるわけにはいかない。
この眼帯の男やその仲間達も敵だ。
「あなたと戦う気はありません。その娘を渡して下さい」
「そんなこと出来るわけないだろ」
祥顕が刀を構え直す。
とはいえ、人間を斬ったら傷害罪、殺してしまったら傷害致死罪か下手したら殺人罪だ。
日本刀を持っていたのでは正当防衛は通らないだろう。
刃物慣れしているようだから脅しにもならないはずだ。
かといって素手で複数の男達を相手にして少女が逃げ切る時間を稼げるだろうか。
祥顕が考えを巡らせていると、
「……我らと共に戦ってほしいとは申しません」
男が口を開いた。
「頼まれても断るからな」
「ですが、せめて引いていただきたい」
「断る」
即答した祥顕に眼帯の男が苦笑する。
「少しくらいは考えていただきたいのですが……」
「出来ない相談だな」
「其奴はこの国に災いをもたらします」
「はぁ?」
「私、そんな事……」
祥顕と少女が同時に言った。
「拗れさせすぎだろ。中学生の女――」
「高校生です」
少女が訂正する。
「――女の子にそんなこと出来るかよ」
そういえばこの前も厨二っぽいこと言ってたな……。
「今は普通の高校生ですが、いずれ……」
「何ごっこかは知らないが無関係の人間を巻き込むな。よそでやれ」
言葉を遮った祥顕に反論しようとした眼帯の男は少女の方に目を向けて口を噤んだ。
視線だけ後ろに送ると少女がスマホを持っている。
おそらく通報したのだろう。
眼帯の男は仕方なさそうに仲間達に合図をすると去っていった。
「それじゃ」
祥顕がそう言うと、
「え?」
少女が戸惑ったような表情を浮かべる。
祥顕が送ると申し出ると思ったのだろう。
「行き先、この近くだろ。なら何かあったら大声出してくれれば聞こえるはずだから」
『家』ではなく『行き先』と言ったのは以前の花籠の嘘に合わせてくれているからだろう。
声が届くというのも自宅がこの近くだということに気付いているからだ。
住宅街の中など家しかないのだから当然と言えば当然だが。
「あの……ありがとうございました!」
花籠が頭を下げると祥顕は笑って踵を返した。
やっぱり先輩、格好良い……。
先輩と仲良くなれた香夜ちゃんが羨ましいな……。
そんな事を考えながら祥顕の背中を見送った花籠は家に向かった。
―― 我が宿の 花は妬くや 思ふらん よその梢に 分くる心を ――
新学期の休み時間――。
「弓弦、お前も行かないか?」
クラスメイトの酒井が声を掛けてきた。
他のクラスメイト達が一緒だ。
「どこへ?」
「一年の教室。新入生にすっげぇ可愛い子がいるっていうから見に行くんだ」
酒井の言葉に祥顕は呆れる。
「用もないのに顔だけ見にいくなんてやめとけ」
祥顕は酒井を窘めた。
「お前には女の子に縁がない俺達の気持ちは分かんねぇよ」
「ガツガツしてるのってみっともないよね」
側で聞いていた宮田が言った。
宮田はサッカー部のエースで女子にもモテている男子だ。
「そんなんだからモテないって分からないのかな」
宮田がそう言うと酒井達は明らかに腹を立てているような表情を浮かべた。
別にそこまでは思ってないんだが……。
「そりゃ、お前らは見に来られる側だからそんな事が言えんだよ」
「俺を誰かがわざわざ見に来たことなんかないぞ」
祥顕の言葉に酒井を含めた周りのクラスメイト達が呆れた表情になる。
なんか変なこと言ったか……?
祥顕は首を傾げた。
女の子が見に来たという話は聞いてないが……。
「お前な……」
「よせ、時間がもったいない。早く行こうぜ」
そう言うと酒井はクラスメイト達と連れ立って出ていった。
悲鳴を聞いて振り返ると黒いものが空から少女に飛び掛かってくるところだった。
祥顕は咄嗟に少女の腕を掴んで自分と場所を入れ替えた。
黒いものが祥顕に突っ込んでくる。
やられる……!
その瞬間、
〝ほととぎす……〟
誰かの声が聞こえた。
夕辺聞こえた声だ。
〝……名をも雲井に あぐるかな〟
「弓はり月の いるにまかせて」
思わず言葉が口を突いて出た。
その瞬間、どこからか日本刀が飛んできた。
祥顕の足下に太刀が突き立つ。
「何をする!」
祥顕が眼帯の男に怒鳴った。
「私めは何もしておりません」
男が冷静な声で答える。
確かに男の刀ではない。
男は刀を手に持っている。
「それはあなたが拝領された太刀。持ち主の元に戻られただけです」
眼帯の男の言葉に祥顕は太刀を掴んで引き抜き構えてみた。
そう言われてみれば手にしっくり馴染……まない。
「ホントに俺の刀か?」
「……そういえば、お使いになられたことはありませんでしたな」
眼帯の男が答える。
まぁどちらにしろ刀など使ったことはないのだから同じ事だ。
「それより……」
男が空に目を向けて身構える。
ほぼ同時に月明かりが陰った。
祥顕も刀を構えた。
弓と同じく訓練したことがあるかのように太刀も自然に遣える。
まるで身体が覚えているかのようだ。
弓道も剣道も習ったことはないのだが。
空から飛び掛かってくるなら人間ではないだろう。
祥顕は太刀を振りかぶると斜めに払う。
黒い影が塵となって消えた。
眼帯の男が残る一体を倒す。
やはり塵になった。
周りを見回すと狐面は一人もいなかった。
祥顕は刀を構えたまま男達の方を向いた。
女の子を狙っていたのはこの男達も同じだ。
しかも刃物――日本刀で斬り掛かったのだから殺意があったのは間違いないだろう。
だとしたら気を緩めるわけにはいかない。
この眼帯の男やその仲間達も敵だ。
「あなたと戦う気はありません。その娘を渡して下さい」
「そんなこと出来るわけないだろ」
祥顕が刀を構え直す。
とはいえ、人間を斬ったら傷害罪、殺してしまったら傷害致死罪か下手したら殺人罪だ。
日本刀を持っていたのでは正当防衛は通らないだろう。
刃物慣れしているようだから脅しにもならないはずだ。
かといって素手で複数の男達を相手にして少女が逃げ切る時間を稼げるだろうか。
祥顕が考えを巡らせていると、
「……我らと共に戦ってほしいとは申しません」
男が口を開いた。
「頼まれても断るからな」
「ですが、せめて引いていただきたい」
「断る」
即答した祥顕に眼帯の男が苦笑する。
「少しくらいは考えていただきたいのですが……」
「出来ない相談だな」
「其奴はこの国に災いをもたらします」
「はぁ?」
「私、そんな事……」
祥顕と少女が同時に言った。
「拗れさせすぎだろ。中学生の女――」
「高校生です」
少女が訂正する。
「――女の子にそんなこと出来るかよ」
そういえばこの前も厨二っぽいこと言ってたな……。
「今は普通の高校生ですが、いずれ……」
「何ごっこかは知らないが無関係の人間を巻き込むな。よそでやれ」
言葉を遮った祥顕に反論しようとした眼帯の男は少女の方に目を向けて口を噤んだ。
視線だけ後ろに送ると少女がスマホを持っている。
おそらく通報したのだろう。
眼帯の男は仕方なさそうに仲間達に合図をすると去っていった。
「それじゃ」
祥顕がそう言うと、
「え?」
少女が戸惑ったような表情を浮かべる。
祥顕が送ると申し出ると思ったのだろう。
「行き先、この近くだろ。なら何かあったら大声出してくれれば聞こえるはずだから」
『家』ではなく『行き先』と言ったのは以前の花籠の嘘に合わせてくれているからだろう。
声が届くというのも自宅がこの近くだということに気付いているからだ。
住宅街の中など家しかないのだから当然と言えば当然だが。
「あの……ありがとうございました!」
花籠が頭を下げると祥顕は笑って踵を返した。
やっぱり先輩、格好良い……。
先輩と仲良くなれた香夜ちゃんが羨ましいな……。
そんな事を考えながら祥顕の背中を見送った花籠は家に向かった。
―― 我が宿の 花は妬くや 思ふらん よその梢に 分くる心を ――
新学期の休み時間――。
「弓弦、お前も行かないか?」
クラスメイトの酒井が声を掛けてきた。
他のクラスメイト達が一緒だ。
「どこへ?」
「一年の教室。新入生にすっげぇ可愛い子がいるっていうから見に行くんだ」
酒井の言葉に祥顕は呆れる。
「用もないのに顔だけ見にいくなんてやめとけ」
祥顕は酒井を窘めた。
「お前には女の子に縁がない俺達の気持ちは分かんねぇよ」
「ガツガツしてるのってみっともないよね」
側で聞いていた宮田が言った。
宮田はサッカー部のエースで女子にもモテている男子だ。
「そんなんだからモテないって分からないのかな」
宮田がそう言うと酒井達は明らかに腹を立てているような表情を浮かべた。
別にそこまでは思ってないんだが……。
「そりゃ、お前らは見に来られる側だからそんな事が言えんだよ」
「俺を誰かがわざわざ見に来たことなんかないぞ」
祥顕の言葉に酒井を含めた周りのクラスメイト達が呆れた表情になる。
なんか変なこと言ったか……?
祥顕は首を傾げた。
女の子が見に来たという話は聞いてないが……。
「お前な……」
「よせ、時間がもったいない。早く行こうぜ」
そう言うと酒井はクラスメイト達と連れ立って出ていった。
3
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる