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第七章
第七章 第五話
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「名無という弟は混血だったのか?」
「いや、あいつの母親も最可族よ」
この口振りだと、母親違いの弟という事なのだろう。
「お前が混血だから純血の弟を妬んでたのか?」
「わしの母も最可族だ。生粋のな!」
大鬼はそう言うと手を振り下ろした。
流が背後に跳ぶ。
後ろにいた鬼達は倒されていて残っているのは大鬼の周りにいた鬼達だけだ。
大鬼はたった一歩で流との間を詰めると再度腕を振り上げた。
その隙に流が懐に飛び込んで刀を払う。
鬼が刀を避けて後ろに飛び退く。
着地した瞬間、桐崎が背後から大鬼の背に刀を突き立てた。
鬼が目を剥いて後ろを振り返る。
「貴様! 手出し無用と言ったはずだ!」
「人間を喰う鬼との約束など守る筋合いはない」
桐崎はそう言うと突き立てた刀を横に払った。
腹が割けて臓腑が溢れる。
何か言おうと口を開き掛けた鬼の首を流が斬り裂いた。
喉笛が割けた鬼の言葉は音にならなかった。
残った鬼達が逃げだそうとしたが結界に阻まれて外に出られない。
いつの間にか小川が内側にも結界を張っていたらしく、外どころか建物の中に逃げ込むことすら出来なくなっていた。
流達は残った鬼達を残らず倒した。
他に残っていないか辺りの気配を探る。
それから流達は寺を後にした。
鬼が隠れていた時に備えて結界はそのままにしておくそうだ。
明日の昼、明るい時に来て建物の中などを隈なく調べると言っていた。
「鬼だって焼け死ぬんだろ。なら建物ごと燃やせば良いんじゃないのか?」
流がそう言うと、
「いや、ここは寺だ」
桐崎が答えた。
「だから?」
「仏像などがあるのに燃やすわけにはいかないだろう」
何故仏像を燃やしてはいけないのか理解出来ないと言う様子の流を見て小川は「やはり鬼は鬼だ」と言いたげな表情を浮かべた。
「しかし、家族ですら始末しようとしていたということは最可族というのは本当に見境なく殺し合っているようだな」
小川が言った。
「理由が分かれば流が狙われないように対策の立てようもあると思ったのだが、相手構わず殺して回っているなら手の打ちようがないな」
「弟は混血ではなかったというなら、混血というのも、いちゃもんのようなものだろうからな」
桐崎と小川はそう言うと溜息を吐いた。
混血がただの言い掛かりで実際はただ殺したいだけというのなら何をしたところで何らかの名目を付けて襲ってくるだろう。
というか、本当は言い訳も必要なくてただ襲いたいから襲ってきているだけなのかもしれない。
鬼には人間のように罪を取り締まる役職の者はいないだろうし、悪いことをしたら死んだあと地獄に落ちる、というような考えもない。
少なくとも流の知る限り。
何をしようとそれを取り締まって罰を与える者がいないから、どんな事でも平気で出来るのだ。
流だって水緒と一緒にいたいから町中で暮らしていくために言い付けに従っていると言うだけで、そうでなければ人間の決まり事など守らない。
流ですらそうなのだから人間の街で暮らしたいと思っていない鬼なら遣りたい放題だろう。
つまり流は死ぬまで命を狙われ続けるのだ。
鬼は人間を喰うから人間なら狙われないというわけでもない。
せいぜい人間なら危険なのは偶然鬼が襲ってきたところに居合わせた時だけだが、流の場合は向こうがわざわざ探し出してまで襲ってくるから人間よりも危険が多いという程度だ。
流は人間を喰いたいと思ったことはない。
腹を空かせてる時に人間が通り掛かっても喰いたいとは考えなかった。
熊や鹿は食っていたから小さい動物しか食えないわけではない。
人間が食い物に見えないから喰おうと思わないだけだ。
勿論、鬼を喰いたくなったこともないし流の方から襲ったこともない。
向こうも放っておいてくれれば何事も無く過ごせるのに。
水緒と二人で静かにくらしていくというのは無理なのか……。
翌日の朝、流は桐崎や小川と共に夕辺の寺に向かった。
中を見分して鬼が隠れていないことを確かめると三人は外に出た。
小川が結界を解いて三人は寺を後にする。
大分離れたところで、ふと振り返ると男が寺に入っていくのが目に入った。
あれは鬼だ……。
おそらく結界が解かれるのを待っていたのだろう。
生きている鬼がいないことは外からでも分かるだろうに何故結界が解かれるのを待っていたのか分からないが、わざわざ鬼の死体を見に行くなど酔狂な者がいるものだ。
まぁ流には関係ないし、急いで家に帰れば水緒は水茶屋に行ける。
水緒を一人で出歩かせたくないから帰りを待たせているのだ。
出来れば水茶屋を休みたくないだろうから行かれるものなら行かせてやりたい。
そう思って前を向こうとした時、ちらっと鬼の横顔が見えた。
あれは保科じゃ……。
流が保科の顔を見たのは短い時間だけだし、今日も一瞬だったから断言は出来ない。
ただ水緒が保科らしい者を見たといっていたし、セミ女もそれらしきことを言っていたような気がする。
セミの言ったことだろうと鬼に関する事ならきちんと覚えておくべきだった。
どうせ向こうから襲ってくるとは言っても相手のことが分かっていれば側に近寄らないようにすることも出来るはずだ。
次からはセミ女の話もちゃんと聞いておこう。
とは言え、このごろセミを見掛けてなかったような気がするのだが、また出てくるだろうか。
夕方、流は水茶屋に向かって歩いていた。
つねがいつものように後ろで何か言っている。
姿を消していたのは二、三日だけでまた姿を現した。
ミンミンゼミの声はほとんどしなくなってツクツクホウシが鳴き始めているというのにこの女は夏が終わっても消えないようだ。
セミと一緒に消えてくれれば良いのに、と思い掛けてから一応聞いた話は覚えておくことにしたのを思い出した。
セミの声などうるさいだけなのに耳を傾けないといけないと思うとうんざりするが水緒を守るためだから仕方ない。
「いや、あいつの母親も最可族よ」
この口振りだと、母親違いの弟という事なのだろう。
「お前が混血だから純血の弟を妬んでたのか?」
「わしの母も最可族だ。生粋のな!」
大鬼はそう言うと手を振り下ろした。
流が背後に跳ぶ。
後ろにいた鬼達は倒されていて残っているのは大鬼の周りにいた鬼達だけだ。
大鬼はたった一歩で流との間を詰めると再度腕を振り上げた。
その隙に流が懐に飛び込んで刀を払う。
鬼が刀を避けて後ろに飛び退く。
着地した瞬間、桐崎が背後から大鬼の背に刀を突き立てた。
鬼が目を剥いて後ろを振り返る。
「貴様! 手出し無用と言ったはずだ!」
「人間を喰う鬼との約束など守る筋合いはない」
桐崎はそう言うと突き立てた刀を横に払った。
腹が割けて臓腑が溢れる。
何か言おうと口を開き掛けた鬼の首を流が斬り裂いた。
喉笛が割けた鬼の言葉は音にならなかった。
残った鬼達が逃げだそうとしたが結界に阻まれて外に出られない。
いつの間にか小川が内側にも結界を張っていたらしく、外どころか建物の中に逃げ込むことすら出来なくなっていた。
流達は残った鬼達を残らず倒した。
他に残っていないか辺りの気配を探る。
それから流達は寺を後にした。
鬼が隠れていた時に備えて結界はそのままにしておくそうだ。
明日の昼、明るい時に来て建物の中などを隈なく調べると言っていた。
「鬼だって焼け死ぬんだろ。なら建物ごと燃やせば良いんじゃないのか?」
流がそう言うと、
「いや、ここは寺だ」
桐崎が答えた。
「だから?」
「仏像などがあるのに燃やすわけにはいかないだろう」
何故仏像を燃やしてはいけないのか理解出来ないと言う様子の流を見て小川は「やはり鬼は鬼だ」と言いたげな表情を浮かべた。
「しかし、家族ですら始末しようとしていたということは最可族というのは本当に見境なく殺し合っているようだな」
小川が言った。
「理由が分かれば流が狙われないように対策の立てようもあると思ったのだが、相手構わず殺して回っているなら手の打ちようがないな」
「弟は混血ではなかったというなら、混血というのも、いちゃもんのようなものだろうからな」
桐崎と小川はそう言うと溜息を吐いた。
混血がただの言い掛かりで実際はただ殺したいだけというのなら何をしたところで何らかの名目を付けて襲ってくるだろう。
というか、本当は言い訳も必要なくてただ襲いたいから襲ってきているだけなのかもしれない。
鬼には人間のように罪を取り締まる役職の者はいないだろうし、悪いことをしたら死んだあと地獄に落ちる、というような考えもない。
少なくとも流の知る限り。
何をしようとそれを取り締まって罰を与える者がいないから、どんな事でも平気で出来るのだ。
流だって水緒と一緒にいたいから町中で暮らしていくために言い付けに従っていると言うだけで、そうでなければ人間の決まり事など守らない。
流ですらそうなのだから人間の街で暮らしたいと思っていない鬼なら遣りたい放題だろう。
つまり流は死ぬまで命を狙われ続けるのだ。
鬼は人間を喰うから人間なら狙われないというわけでもない。
せいぜい人間なら危険なのは偶然鬼が襲ってきたところに居合わせた時だけだが、流の場合は向こうがわざわざ探し出してまで襲ってくるから人間よりも危険が多いという程度だ。
流は人間を喰いたいと思ったことはない。
腹を空かせてる時に人間が通り掛かっても喰いたいとは考えなかった。
熊や鹿は食っていたから小さい動物しか食えないわけではない。
人間が食い物に見えないから喰おうと思わないだけだ。
勿論、鬼を喰いたくなったこともないし流の方から襲ったこともない。
向こうも放っておいてくれれば何事も無く過ごせるのに。
水緒と二人で静かにくらしていくというのは無理なのか……。
翌日の朝、流は桐崎や小川と共に夕辺の寺に向かった。
中を見分して鬼が隠れていないことを確かめると三人は外に出た。
小川が結界を解いて三人は寺を後にする。
大分離れたところで、ふと振り返ると男が寺に入っていくのが目に入った。
あれは鬼だ……。
おそらく結界が解かれるのを待っていたのだろう。
生きている鬼がいないことは外からでも分かるだろうに何故結界が解かれるのを待っていたのか分からないが、わざわざ鬼の死体を見に行くなど酔狂な者がいるものだ。
まぁ流には関係ないし、急いで家に帰れば水緒は水茶屋に行ける。
水緒を一人で出歩かせたくないから帰りを待たせているのだ。
出来れば水茶屋を休みたくないだろうから行かれるものなら行かせてやりたい。
そう思って前を向こうとした時、ちらっと鬼の横顔が見えた。
あれは保科じゃ……。
流が保科の顔を見たのは短い時間だけだし、今日も一瞬だったから断言は出来ない。
ただ水緒が保科らしい者を見たといっていたし、セミ女もそれらしきことを言っていたような気がする。
セミの言ったことだろうと鬼に関する事ならきちんと覚えておくべきだった。
どうせ向こうから襲ってくるとは言っても相手のことが分かっていれば側に近寄らないようにすることも出来るはずだ。
次からはセミ女の話もちゃんと聞いておこう。
とは言え、このごろセミを見掛けてなかったような気がするのだが、また出てくるだろうか。
夕方、流は水茶屋に向かって歩いていた。
つねがいつものように後ろで何か言っている。
姿を消していたのは二、三日だけでまた姿を現した。
ミンミンゼミの声はほとんどしなくなってツクツクホウシが鳴き始めているというのにこの女は夏が終わっても消えないようだ。
セミと一緒に消えてくれれば良いのに、と思い掛けてから一応聞いた話は覚えておくことにしたのを思い出した。
セミの声などうるさいだけなのに耳を傾けないといけないと思うとうんざりするが水緒を守るためだから仕方ない。
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