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第六章 計略と罠と

第七話

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 放課後、六花は玄関に向かうため階段を降りていた。
 下から石川が上がってくる。
 六花は目を伏せた。

「六花ちゃん」
 五馬の声に顔を上げると手を振っていた。
 待っててくれたのだろう。
「五馬ちゃん」
 石川とれ違って五馬に微笑み掛けたとき何かが背中にぶつかった。
「きゃ!」
 六花が階段から足を踏み外す。
 次の瞬間、床に叩き付けられていた。

「六花ちゃん!」
 五馬が駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
 衝撃ですぐには動けなかった。
 五馬に手を借りてなんとか上半身を起こした。

「っつ……」
 六花が肩の痛みに顔をしかめた。
「保健室行こ。怪我ケガしてるかもしれないし」
「平気……痛っ!」
 五馬に支えられて立ち上がろうとすると右足に痛みが走った。
 どうやら足首をひねったらしい。

 六花は五馬の助けを借りて保健室へ向かった。

「ね、今の、の子が押したんでしょ」
 五馬が階段の方を振り返りながら言った。
「違うよ。私が足を踏み外しただけ」
本当ホントに? の子の仕返しが怖いからとかじゃなく?」
「そうじゃないよ」
「でも、他にも色々されてるでしょ。なんり返さないの?」
 五馬が訊ねた。
「やり返したらやり返されるよ。そんなこと繰り返してたら、いつまでも終わらないよ」
「悔しくないの? 頭にこない?」
「そりゃ、悔しいし悲しいけど喧嘩する方が嫌だよ。喧嘩しても嫌な気持ちになるだけだし」
 五馬がなんとも言えない表情を浮かべて六花を見ていた。

 保健室の先生に見てもらうと足首は軽くひねっただけだと言われた。
 後は肩の打ち身だった。

「どっちも二、三日で治ると思うわよ」
「ありがとうございます」
 包帯をきつく巻いてもらうと、なんとか一人で歩けるようになった。
「大した事なくて良かったね」
 五馬が言った。
「ありがとう、五馬ちゃん。この事、綱さんに言わないでね。季武君が知ったら心配するから」
「あ、御免ごめん、もう連絡しちゃった」
「え!」
 六花が声を上げるのと、
「六花!」
 季武が保健室に飛び込んでくるのは同時だった。

「季武君」
「歩いて大丈夫なのか? 病院へは……」
「大した事ないよ」
 六花は慌てて言った。
「六花ちゃん、御免ごめんね」
「気にしないで」
それじゃ、また明日ね」
「うん、ありがと」
 六花は五馬に手を振った。

 六花は保健の先生にも礼を言ってお辞儀じぎをすると保健室を出た。

「今日はぐ家に……」
「ホントに平気だよ」
 六花は季武の言葉を遮った。
「今日の夕食の為の下拵したごしらえ、冷蔵庫に入れてあるの。明日まで置いておいたらダメになっちゃうよ。食材捨てる事になったら頼光様に無駄遣い、叱られちゃうんじゃない?」
 六花がそう言うと季武は一瞬、言葉にまった。
 そして、
本当ホントに足は大丈夫なんだな」
 と念を押してから四天王のマンションへ向かった。

「ね、綱さん、五馬ちゃんに話さないの?」
 六花が季武に訊ねた。
渡辺綱わたなべのつな本人だって事なら話さないだろうな」
「五馬ちゃんは信じてくれるよ。鬼退治の話とか、きっと喜んでくれるよ」
いくら民話が好きだからって鬼がるなんて普通信じないぞ」
「昨日、茨木童子と戦った時、五馬ちゃんも一緒だったんでしょ」
「ああ」
「綱さんが鬼と戦ってたっ……」
「鬼が見えたのか!?」
 季武が六花の言葉をさえぎった。
「う、うん」
 六花が季武の勢いに気圧けおされたように頷いた。

 そう言えば六花が土蜘蛛に襲われた時、脚を振り下ろそうとしているのを見て「危ない!」と叫んでいた。
 五馬には土蜘蛛が見えていたのだ。
 やはり何かが引っ掛かる。
 だがそれがなんなのかどうしても分からなかった。

 都心から離れた場所で土蜘蛛達が集まっていた。

「仲間にってくれそうな奴は見付からないのか?」
 サチの問いにみな一様いちように首を振った。
「どうせ討伐員は倒した所で異界むこうで再生されるんだし、それなら危険を冒すだけ無駄だからって……」
「仮に核を砕いたとしても新しい討伐員を送ってくるだけだと」
此方こっちも」
 土蜘蛛達が次々に答えた。

しかも相手が頼光四天王あいつらって聞くと皆びびっちまうんだ」
態々わざわざ獲物えものが多い東京ここけてるのも頼光四天王あいつらるからだし」
「もう少し仲間が多ければ乗ってきそうな奴は何人かるが今の所たった四人だからな」
「なら増やそう」
 土蜘蛛の一人が言った。

如何どうやって」
異界むこうから連れてくればい」
「呼んだ所で頼光四天王あいつらる所なんか……」
異界むこうの連中は此方こっちの地理を知らないんだ。奴等やつらの任地だと言う事は黙ってればい」
 土蜘蛛達が顔を見合わせた。

此方こっちうま人間ものをたらふく喰わせてから討伐員がなくなれば食べ放題にると言うんだ」
「確かに彼奴あいつらの顔を知っている者はないんだ。黙ってれば頼光四天王あいつらだとは気付かないだろうな」
 メナが言った。

「人間の味を教えてるんだ。他のものが喰えなくように」
「そうっちまえば此方こっちのもんだな」
「一気に襲い掛かった方がい。の為にも呼び寄せてからしばらくは人間を喰わせながら何処どこかに隠れさせておこう」

 土蜘蛛達は異界の者を連れてくる者と隠れ家を用意する者の二手に分かれた。
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