47 / 87
第六章 計略と罠と
第三話
しおりを挟む
土曜日、六花が四天王のマンションへ行くと既に頼光が来ていた。
何故かリビングのソファではなくキッチンの椅子に座っている。
「頼光様、夕食の時に来……いらっしゃるのでは……」
「作って貰うだけじゃ悪いからさ、早めにいらしていただいたんだ」
「昔の話、色々聞きたいだろ」
金時と季武が言った。
「そんな事の為にですか!? 私は別に……」
「いや、話くらいでは足りないほど世話に成ってるからな」
「六花は何もしてませんけど……」
「気にしなくて良いよ。どうせ暇なんだし」
と言った綱を頼光が横目で睨み付けた。
綱が慌てて目を逸らす。
どうやらキッチンにいるのは料理中に話が出来るようにと言う配慮らしい。
緊張して失敗しないと良いんだけど……。
六花はそう思いながら冷蔵庫のドアを開けた。
今から作る牛すじの煮込みには使わないキャベツが三玉も入っていた。
「このキャベツ、何に使うんですか?」
「千切りの練習しようと思って。使って良いよ」
「なら、まずお昼ご飯作りますね」
六花はキャベツ二玉をそれぞれ四つに切るとキャベツと豚肉を焼いて醤油を絡めたものを作った。
一皿に四等分したキャベツを二つずつと焼いた豚肉を載せて出した。
五人が食べてる間に下拵えを始めた。
全員が食べ終えると金時が食器を持ってきて洗い始めた。
「金時さん、私が後で……」
「今時家事を全部女性に遣らせるとか無いよ。其より頼光様に話聞いたら?」
六花が頼光に目を向けると構わないと言うように頷いた。
「大江匡衡……さんは、頼光様と同じ世界の方ですか?」
「いや、人間だ」
「仲が良かったんですか?」
「まぁ、そう言えるかもしれんな」
「大江匡衡も何か伝説に成ってんの?」
「匡衡さんの手紙、頼光様の事べた褒めだったので……」
「手紙が残ってるのか?」
頼光が意外そうに言った。
「手紙そのものが残ってるかは分かりませんけど、昔の資料をデータベース化したものがあって文章だけはパソコンで見られるんです」
「態々検索して見付け出して読んだんだ……」
綱が呟いた。
六花は赤くなって俯いた。
季武に送られて家へ帰る途中、
「明日から民話研究会の彼る日は食事、作りに来なくて良いぞ」
と言われた。
「え……?」
もしかして毎日通うのは迷惑だったのだろうかと狼狽し掛けたが、
「夜の見回り前の打合せや頼光様への連絡は其の日にするから」
と言う答えが返ってきたので安心した。
「そう言う事なら」
六花は素直に頷いた。
実際は六花に隠すような話は無いし、仮に有ったとしても彼女が家に帰ってからすれば良いだけだ。
だが五馬から六花に友達が居ない理由を聞いた綱がそれを金時達に話した。
学校の友達が五馬を始めとした民話研究会の生徒だけだとしたら食事作りに来る為に出席出来ないのは不味いと言う事になったのだ。
いくら昔話が好きで、頼光四天王が六花のアイドルだとしても人間同士の雑談もしたいだろう。
学校で季武以外の生徒と話す機会が民話研究会くらいしか無いなら休ませる訳にはいかない。
しかも季武は付き合ってるつもりでも六花はそう思ってないとなれば尚更だ。
季武に断るのを任せたら六花を傷付けるか誤解させるような言い方をしかねない。
それで金時が口実を考えた。
六花は四天王の言葉を素直に信じるから打合せと言う話を変に勘繰ったりしないと考えたのだ。
日曜日の夜遅く、都内各所で人間の遺体の一部が発見され、翌朝のニュースで流れた。
TVでニュースを流しながら前日六花が作っていった朝食を食べていた四人が同時に顔を上げた。
「こりゃ、放課後まで放っとけねぇな」
貞光の言葉に頷くと、季武は六花に連絡を入れた。
休み時間、六花が廊下を歩いていると、
「六花ちゃん」
五馬が声を掛けてきた。
「五馬ちゃん、私に話し掛けない方が良いよ。ここ、目立つし……」
「でも、此、六花ちゃんに貰って欲しくて」
五馬はそう言って紫色の和紙で折った小さな動物を差し出した。
「あっ、可愛い」
「わたしのとお揃いで作ったの」
五馬はそう言って同じ物をポケットから出して見せた。
「ホントに貰って良いの?」
「六花ちゃんの為に作ったんだよ」
「ありがとう」
六花の頬が嬉しさでうっすらと赤く染まった。
友達からのプレゼントも、お揃いの物も初めてだ。
六花は無くさないようにスカートのポケットに入れた。
六花は石川が教室のドアの向こうに居る事に気付いていなかった。
石川はドアの窓から六花と五馬を見ていた。
次の休み時間、六花は周囲を石川と取り巻きに囲まれた。
取り巻きに六花を押さえ付けさせると、石川は六花のスカートのポケットに手を入れて五馬から貰った折紙を取り出した。
「返して!」
六花が叫んだ。
石川が身を翻して教室から駆け出していくと取り巻き達も離れた。
六花は急いで石川の跡を追って走り出した。
廊下に出た直後、ドアの脇に居た石川の取り巻きが六花に足を掛けた。
六花が派手に転ぶ。
周囲から笑い声が聞こえたが気にしている暇は無い。
急いで起き上がったが石川の姿は見えなかった。
六花は学校中を探し回った。
予鈴が聞こえてきても教室へは戻らず隅々まで見て回った。
最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り生徒達が教室から出てきても六花は未だ探し回っていた。
そこへ五馬が遣ってきた。
「六花ちゃん、此……」
五馬の掌には切り刻まれた折り紙が載っていた。
六花は息を飲んだ。
「ゴミ捨て場に落ちてたんだけど……」
それを聞いた途端、六花の目から涙が溢れてきた。
「ごめん、ごめんね。五馬ちゃん、ごめんね」
六花は泣きじゃくりながら、ひたすら「ごめんね」と繰り返した。
「分かってるよ。彼の子達でしょ」
五馬はそう言ってくれたが涙が止まらなかった。
今までの鬱屈した思いが堰を切ったように溢れてきた。
五馬は六花が落ち着くまで付き添っていてくれた。
何故かリビングのソファではなくキッチンの椅子に座っている。
「頼光様、夕食の時に来……いらっしゃるのでは……」
「作って貰うだけじゃ悪いからさ、早めにいらしていただいたんだ」
「昔の話、色々聞きたいだろ」
金時と季武が言った。
「そんな事の為にですか!? 私は別に……」
「いや、話くらいでは足りないほど世話に成ってるからな」
「六花は何もしてませんけど……」
「気にしなくて良いよ。どうせ暇なんだし」
と言った綱を頼光が横目で睨み付けた。
綱が慌てて目を逸らす。
どうやらキッチンにいるのは料理中に話が出来るようにと言う配慮らしい。
緊張して失敗しないと良いんだけど……。
六花はそう思いながら冷蔵庫のドアを開けた。
今から作る牛すじの煮込みには使わないキャベツが三玉も入っていた。
「このキャベツ、何に使うんですか?」
「千切りの練習しようと思って。使って良いよ」
「なら、まずお昼ご飯作りますね」
六花はキャベツ二玉をそれぞれ四つに切るとキャベツと豚肉を焼いて醤油を絡めたものを作った。
一皿に四等分したキャベツを二つずつと焼いた豚肉を載せて出した。
五人が食べてる間に下拵えを始めた。
全員が食べ終えると金時が食器を持ってきて洗い始めた。
「金時さん、私が後で……」
「今時家事を全部女性に遣らせるとか無いよ。其より頼光様に話聞いたら?」
六花が頼光に目を向けると構わないと言うように頷いた。
「大江匡衡……さんは、頼光様と同じ世界の方ですか?」
「いや、人間だ」
「仲が良かったんですか?」
「まぁ、そう言えるかもしれんな」
「大江匡衡も何か伝説に成ってんの?」
「匡衡さんの手紙、頼光様の事べた褒めだったので……」
「手紙が残ってるのか?」
頼光が意外そうに言った。
「手紙そのものが残ってるかは分かりませんけど、昔の資料をデータベース化したものがあって文章だけはパソコンで見られるんです」
「態々検索して見付け出して読んだんだ……」
綱が呟いた。
六花は赤くなって俯いた。
季武に送られて家へ帰る途中、
「明日から民話研究会の彼る日は食事、作りに来なくて良いぞ」
と言われた。
「え……?」
もしかして毎日通うのは迷惑だったのだろうかと狼狽し掛けたが、
「夜の見回り前の打合せや頼光様への連絡は其の日にするから」
と言う答えが返ってきたので安心した。
「そう言う事なら」
六花は素直に頷いた。
実際は六花に隠すような話は無いし、仮に有ったとしても彼女が家に帰ってからすれば良いだけだ。
だが五馬から六花に友達が居ない理由を聞いた綱がそれを金時達に話した。
学校の友達が五馬を始めとした民話研究会の生徒だけだとしたら食事作りに来る為に出席出来ないのは不味いと言う事になったのだ。
いくら昔話が好きで、頼光四天王が六花のアイドルだとしても人間同士の雑談もしたいだろう。
学校で季武以外の生徒と話す機会が民話研究会くらいしか無いなら休ませる訳にはいかない。
しかも季武は付き合ってるつもりでも六花はそう思ってないとなれば尚更だ。
季武に断るのを任せたら六花を傷付けるか誤解させるような言い方をしかねない。
それで金時が口実を考えた。
六花は四天王の言葉を素直に信じるから打合せと言う話を変に勘繰ったりしないと考えたのだ。
日曜日の夜遅く、都内各所で人間の遺体の一部が発見され、翌朝のニュースで流れた。
TVでニュースを流しながら前日六花が作っていった朝食を食べていた四人が同時に顔を上げた。
「こりゃ、放課後まで放っとけねぇな」
貞光の言葉に頷くと、季武は六花に連絡を入れた。
休み時間、六花が廊下を歩いていると、
「六花ちゃん」
五馬が声を掛けてきた。
「五馬ちゃん、私に話し掛けない方が良いよ。ここ、目立つし……」
「でも、此、六花ちゃんに貰って欲しくて」
五馬はそう言って紫色の和紙で折った小さな動物を差し出した。
「あっ、可愛い」
「わたしのとお揃いで作ったの」
五馬はそう言って同じ物をポケットから出して見せた。
「ホントに貰って良いの?」
「六花ちゃんの為に作ったんだよ」
「ありがとう」
六花の頬が嬉しさでうっすらと赤く染まった。
友達からのプレゼントも、お揃いの物も初めてだ。
六花は無くさないようにスカートのポケットに入れた。
六花は石川が教室のドアの向こうに居る事に気付いていなかった。
石川はドアの窓から六花と五馬を見ていた。
次の休み時間、六花は周囲を石川と取り巻きに囲まれた。
取り巻きに六花を押さえ付けさせると、石川は六花のスカートのポケットに手を入れて五馬から貰った折紙を取り出した。
「返して!」
六花が叫んだ。
石川が身を翻して教室から駆け出していくと取り巻き達も離れた。
六花は急いで石川の跡を追って走り出した。
廊下に出た直後、ドアの脇に居た石川の取り巻きが六花に足を掛けた。
六花が派手に転ぶ。
周囲から笑い声が聞こえたが気にしている暇は無い。
急いで起き上がったが石川の姿は見えなかった。
六花は学校中を探し回った。
予鈴が聞こえてきても教室へは戻らず隅々まで見て回った。
最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り生徒達が教室から出てきても六花は未だ探し回っていた。
そこへ五馬が遣ってきた。
「六花ちゃん、此……」
五馬の掌には切り刻まれた折り紙が載っていた。
六花は息を飲んだ。
「ゴミ捨て場に落ちてたんだけど……」
それを聞いた途端、六花の目から涙が溢れてきた。
「ごめん、ごめんね。五馬ちゃん、ごめんね」
六花は泣きじゃくりながら、ひたすら「ごめんね」と繰り返した。
「分かってるよ。彼の子達でしょ」
五馬はそう言ってくれたが涙が止まらなかった。
今までの鬱屈した思いが堰を切ったように溢れてきた。
五馬は六花が落ち着くまで付き添っていてくれた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
悪者とお姫様
三浦常春
キャラ文芸
はらりと落ちた黒髪が視界を囲う。ジージーと、いつもはうるさい虫の声が遠のき、躍動する心臓が鬱陶しいほどに主張する。いつかのように密着した幼馴染の肌は燃えるように熱かった。
「いっぱい悪戯されて、食べられちゃうんだよ。ぺろりって。教えてくれたでしょ、リナちゃん」
―――――――
幼馴染同士の百合です。
カップリング要素としては人妻×大学生。
おもしろかったorグッとくるものがあったら、星やハート、コメント、フォロー等をお願いします! 執筆の励みになります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる