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第二章 出会いと再会と
第八話
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さすが正義の味方!
と感動し掛けた六花に、
「暗示で誤魔化せるのは対応した人間だけだからな」
季武が淡々とした口調で水を差した。
例えば買い物なら店の仕入れの記録と売上が一致しなければ客の万引きか店員の内引きを疑われるし、金融機関なども同様に記録が合わなければ無実の人が横領の罪を着せられかねない。
暗示で誤魔化して手に入れると必ず記録のどこかに齟齬が生じる。
そこから異界の者の存在に気付かれる可能性が有る。
だから金が絡む事は誤魔化せない。
反ぐれ者は人間に気付かれて倒されても構わない(出来るかどうかは別として)。
だが討伐員は人間の殺害を禁じられている為、敵と見做されてしまうと動き辛くなる。
実際、都では頼光達が派遣される前も後も〝見える〟人間に敵視されて色々大変だったらしい。
だから存在を知られないようにしているのだ。
討伐の為に派遣されている者は世界中に大勢居る。
全ての記録を辻褄が合うように膨大な手間暇を掛けて改竄するくらいなら金を稼いで、きちんと支払いをした方が早い。
要は費用対効果の問題だ。
つまり、その点がクリア出来るならやるんだ……。
「人間に知られたらいけないなら私もダメなのでは……」
「信じてくれる人間なら構わねぇんだよ」
「イナちゃんは味方だからね」
貞光と金時が言った。
何となく過去の行いから六花を信用していると言う感じだ。
昔の私ってそんなに良い人だったのかな。
謙遜でもなんでもなく自分がそんなに良い人間だとは思えないのだが。
まぁ頼光様や四天王の味方なのは確かだけど。
「なら、俺、会社員に……」
「駄目だ!」
綱が言い終える前に再度四人が断固とした口調で突っ撥ねた。
綱はがっかりしていたが食い下がったりはしなかった。
理由は分からないが強く主張出来ない何かが有るらしい。
都立高校と会社員の共通点ってなんだろう。
六花は内心で首を傾げた。
「電気代も高いと言われたぞ。必要なとき以外パソコン使うな」
「そうは言ってもSNSのチェックは必須ですよ。今はSNSで獲物を漁る鬼が多いんですから」
SNSで獲物を捜す鬼と、それに目を光らせる頼光四天王……。
「ニュースを見るのにも必要ですし」
「ニュースはテレビで見ろ。ゲーム用に買ったんじゃないぞ」
「ゲームするんだ……」
泣く子も黙る頼光四天王がテレビゲーム……。
頭がくらくらした。
「ニュースはテレビよりネットの方が早いですよ」
「テレビはニュースの時間しか遣りませんから」
「臨時ニュースは基本的に反ぐれ者とは関係ないですし」
「其にオンラインゲームって友達付き合いに必要ですよ。ボイスチャットで結構色んな情報入ってきますので」
「家族間の遣り取り丸聞こえなの気付いてない人間って意外と多いんですよ」
「人前じゃ出来ないような話、結構してるよな」
「夫婦喧嘩とかは五月蠅ぇだけだけどな」
「ネットには結構鬼が居て呼び出して喰うとか良く有りますし」
「呼び出しなんて個人的な言伝だろ。そんなもの、お前達に見られるのか? 其で鬼を見付けた事が有るのか?」
頼光に問い詰められた金時達が返答に詰まった。
ちらっと背後を見ると季武が白い目で三人を見ていた。
どうやら季武はゲームをしないようだ。
「其から、スマホも成るべく使うな。もっと安く抑える工夫をしろ」
「スマホも友達付き合いに必要ですよ、な」
綱が同意を求めると、
「ネットに載らない口コミの情報とか有りますので」
「噂話とか都市伝説とか、案外馬鹿に成りませんよ」
「人が消えるのは大抵反ぐれ者の仕業ですから」
貞光と金時が賛同した。
どこそこの廃屋へ行って帰ってきた者が居ない等と言う場所は大抵反ぐれ者の住み家らしい。
「季武君以外はお友達が居るんですね」
「季武は人付き合い出来ねぇんだよ」
「其で村に住めなくて行き倒れに成ったくらいだからね」
「イナちゃん以外完全無視だもんな」
人付き合いが嫌いな季武が六花を無視出来ないのは弁当を作ってるからだと思うが、そこまで悲惨な食生活を送っているのかと思うとますます心配になってくる。
今は弁当を買えるから行き倒れの心配は無いと思うが。
不意に頼光が辺りを見回した。
「如何かなさいましたか?」
金時が訊ねた。
頼光は暫く黙っていた。
四天王は互いに視線を交わした後、辺りの気配を探りながら周囲を見渡した。
濃紺のスーツを着た二人組の男性や、お洒落な服装の女性、話をしながら歩いている学生達、犬の散歩をしている初老の夫婦。
いつも通りの光景だ。
特に異変は感じられない。
「お前達を見張っている者がいるかもしれん。十分気を付けろ」
頼光はそう告げると、季武に、
「今日はもう遅い、季武、イ……六花ちゃんを送ってやれ。私も帰るがもっと出費を抑えるように努めろ」
と言った。
六花は頼光と四天王に別れを告げると季武と共に公園を後にした。
深夜、頼光は四天王と共に郊外の駅前に居た。
強い鬼がここに居るのだ。
四天王の任地では無いのだがこの地の担当者が遣られて取り逃がしてしまったので頼光が派遣された。
頼光に従って四天王も随行していた。
夜遅い時間で店舗はどこも閉まっている。
駅前と住宅街の辺りにはコンビニが有って営業しているがこの辺りにはオフィスビルしかないので建物の中に居る人間の気配はどこも一人か二人だ。恐らく警備員だろう。
頼光が居る事で季武以外の三人は神経を尖らせていた。
「居た!」
周囲を見回していた頼光が鬼の気配を察知して駆け出した。
四天王も跡を追って走り出す。
頼光の方が力が強い分、気配を感知出来る範囲も広い。
四人には未だ鬼の気配を感じ取れないでいた。
と感動し掛けた六花に、
「暗示で誤魔化せるのは対応した人間だけだからな」
季武が淡々とした口調で水を差した。
例えば買い物なら店の仕入れの記録と売上が一致しなければ客の万引きか店員の内引きを疑われるし、金融機関なども同様に記録が合わなければ無実の人が横領の罪を着せられかねない。
暗示で誤魔化して手に入れると必ず記録のどこかに齟齬が生じる。
そこから異界の者の存在に気付かれる可能性が有る。
だから金が絡む事は誤魔化せない。
反ぐれ者は人間に気付かれて倒されても構わない(出来るかどうかは別として)。
だが討伐員は人間の殺害を禁じられている為、敵と見做されてしまうと動き辛くなる。
実際、都では頼光達が派遣される前も後も〝見える〟人間に敵視されて色々大変だったらしい。
だから存在を知られないようにしているのだ。
討伐の為に派遣されている者は世界中に大勢居る。
全ての記録を辻褄が合うように膨大な手間暇を掛けて改竄するくらいなら金を稼いで、きちんと支払いをした方が早い。
要は費用対効果の問題だ。
つまり、その点がクリア出来るならやるんだ……。
「人間に知られたらいけないなら私もダメなのでは……」
「信じてくれる人間なら構わねぇんだよ」
「イナちゃんは味方だからね」
貞光と金時が言った。
何となく過去の行いから六花を信用していると言う感じだ。
昔の私ってそんなに良い人だったのかな。
謙遜でもなんでもなく自分がそんなに良い人間だとは思えないのだが。
まぁ頼光様や四天王の味方なのは確かだけど。
「なら、俺、会社員に……」
「駄目だ!」
綱が言い終える前に再度四人が断固とした口調で突っ撥ねた。
綱はがっかりしていたが食い下がったりはしなかった。
理由は分からないが強く主張出来ない何かが有るらしい。
都立高校と会社員の共通点ってなんだろう。
六花は内心で首を傾げた。
「電気代も高いと言われたぞ。必要なとき以外パソコン使うな」
「そうは言ってもSNSのチェックは必須ですよ。今はSNSで獲物を漁る鬼が多いんですから」
SNSで獲物を捜す鬼と、それに目を光らせる頼光四天王……。
「ニュースを見るのにも必要ですし」
「ニュースはテレビで見ろ。ゲーム用に買ったんじゃないぞ」
「ゲームするんだ……」
泣く子も黙る頼光四天王がテレビゲーム……。
頭がくらくらした。
「ニュースはテレビよりネットの方が早いですよ」
「テレビはニュースの時間しか遣りませんから」
「臨時ニュースは基本的に反ぐれ者とは関係ないですし」
「其にオンラインゲームって友達付き合いに必要ですよ。ボイスチャットで結構色んな情報入ってきますので」
「家族間の遣り取り丸聞こえなの気付いてない人間って意外と多いんですよ」
「人前じゃ出来ないような話、結構してるよな」
「夫婦喧嘩とかは五月蠅ぇだけだけどな」
「ネットには結構鬼が居て呼び出して喰うとか良く有りますし」
「呼び出しなんて個人的な言伝だろ。そんなもの、お前達に見られるのか? 其で鬼を見付けた事が有るのか?」
頼光に問い詰められた金時達が返答に詰まった。
ちらっと背後を見ると季武が白い目で三人を見ていた。
どうやら季武はゲームをしないようだ。
「其から、スマホも成るべく使うな。もっと安く抑える工夫をしろ」
「スマホも友達付き合いに必要ですよ、な」
綱が同意を求めると、
「ネットに載らない口コミの情報とか有りますので」
「噂話とか都市伝説とか、案外馬鹿に成りませんよ」
「人が消えるのは大抵反ぐれ者の仕業ですから」
貞光と金時が賛同した。
どこそこの廃屋へ行って帰ってきた者が居ない等と言う場所は大抵反ぐれ者の住み家らしい。
「季武君以外はお友達が居るんですね」
「季武は人付き合い出来ねぇんだよ」
「其で村に住めなくて行き倒れに成ったくらいだからね」
「イナちゃん以外完全無視だもんな」
人付き合いが嫌いな季武が六花を無視出来ないのは弁当を作ってるからだと思うが、そこまで悲惨な食生活を送っているのかと思うとますます心配になってくる。
今は弁当を買えるから行き倒れの心配は無いと思うが。
不意に頼光が辺りを見回した。
「如何かなさいましたか?」
金時が訊ねた。
頼光は暫く黙っていた。
四天王は互いに視線を交わした後、辺りの気配を探りながら周囲を見渡した。
濃紺のスーツを着た二人組の男性や、お洒落な服装の女性、話をしながら歩いている学生達、犬の散歩をしている初老の夫婦。
いつも通りの光景だ。
特に異変は感じられない。
「お前達を見張っている者がいるかもしれん。十分気を付けろ」
頼光はそう告げると、季武に、
「今日はもう遅い、季武、イ……六花ちゃんを送ってやれ。私も帰るがもっと出費を抑えるように努めろ」
と言った。
六花は頼光と四天王に別れを告げると季武と共に公園を後にした。
深夜、頼光は四天王と共に郊外の駅前に居た。
強い鬼がここに居るのだ。
四天王の任地では無いのだがこの地の担当者が遣られて取り逃がしてしまったので頼光が派遣された。
頼光に従って四天王も随行していた。
夜遅い時間で店舗はどこも閉まっている。
駅前と住宅街の辺りにはコンビニが有って営業しているがこの辺りにはオフィスビルしかないので建物の中に居る人間の気配はどこも一人か二人だ。恐らく警備員だろう。
頼光が居る事で季武以外の三人は神経を尖らせていた。
「居た!」
周囲を見回していた頼光が鬼の気配を察知して駆け出した。
四天王も跡を追って走り出す。
頼光の方が力が強い分、気配を感知出来る範囲も広い。
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