上 下
45 / 46

第四十五話

しおりを挟む
「よせ!」
 ケイの言葉はラウルに届いていないようだった。

「ある日、目覚めたら世界は全く変わってしまっていた」
 ラウルはティアの方を向いた。
「レイミア。君もいない」
 ラウルは銃口をティアに向けた。

「やめろ!」
 ケイが声を上げる。
「ラウル、俺に任せてくれ。ちゃんとこの星を元通りにする」

「それで?」
「だから、こんな事はやめてくれ」

 ケイはこんな事になってもまだラウルのことは友達だと思っていた。

 ラウルはスパイドの犠牲者にすぎない。
 それにケイが友達だと思っているのはデート博士ではない。
 ラウル本人の人格だ。

「どうして?」
 ラウルはケイのことが分からないような表情で言った。

「この星が戻ったからってどうなる? 僕のいた時代には戻れないのに」
「分かってる、それでも……」

「うるさい! 手に入らないものなんか無くなればいいんだ! みんな消えてしまえばいい!」
 ラウルは叩きつけるようにエンターキーを押した。

 目に見えないレーザー光線がラウルを打ち抜く。

「ラウル!」
 ケイはラウルに駆け寄った。

 ラウルは事切れていた。

 ケイはラウルを部屋の隅に運んだ。
 たとえ裏切られていたのだとしても友達だったのだ。
 後で手厚く葬るつもりだ。

「何故、あいつにやらせなかったんだ……」
 ケイが呟く。

 あの男に入力させていれば死んだのはあの男だったはずだ。
 ラウルなら、ケイが嘘を教えたと気付いても良さそうなものなのに。

「どっちでもいいと思ったんじゃないかしら」
 ティアの声にケイは驚いて振り返った。

 いつの間にか意識が戻っていたらしい。
 ティアはコントロールパネルの前に立っていた。

「だって、この星を壊したら、どちらにしろ自分も死んじゃうんでしょ。だったら、あの場で撃たれて死んでも同じじゃない」
 ティアが言った。

「博士はホントはずっと死にたかったのかもしれない。でもラウル自身は死にたくなかったから今まで生きてきたのかも」
 ティアの言葉にケイはラウルの顔を見下ろした。

 そうなんだろうか……。
 そうかもしれない……。

 死にたいデート博士と、死にたくないラウル。
 その二人の意識がせめぎ合っていたのかもしれない。

 スパイドは自分の野望のために大勢の人間を傷つけた。
 和実がジムを騙したスパイドを許せないと思ったように、ケイもラウルやデート博士を利用したスパイドを許せないと思った。

 しかしスパイドは既に死んでいる。
 ケイはラウルの顔にハンカチをかけた。

「これからパスワードを入力する」
 ケイはそう言ってコントロールパネルに向かおうとした。
「待って」
 ティアの何かを決心したような声にケイは顔を上げた。

「三十年も放っておかれたもなんでしょう。正しいパスワードを入力しても誤作動であの兵器に撃たれるかもしれない」
 そう言うとティアはパネルの上に手を置いた。

「だが……」
 入力しないならここまで来た意味がない。

 ケイは訳が分からないままティアを見た。

 ティアは、

 E

 のキーを押した。

 ケイがハッとする。

 まさか……。

 A

「よせ! 本当に誤作動したらどうする!」

 R

「あなたが無事なら直せる」

 T

「やめろ!」

 ティアだけは失いたくない!

 H

 ケイが駆け出す。

 ケイがティアに飛び付くのと彼女の指先がエンターキーに触れたのは同時だった。

 その瞬間、全ての明かりが落ちた。
 室内が暗闇に包まれる。

 腕の中にティアの息づかいを感じてケイは胸を撫で下ろした。
 誤作動はしなかったのだ。

「これって、この研究所を封印するためのパスワードだったの?」
 ティアが驚いたように言った。

 違う……。

 ケイが答える前に、真っ暗な部屋の中央に青い球形の立体映像が現れた。

 青い球体は白いものをまといながらゆっくり回転していた。
 所々に緑が見える。

 あれはこの星アウラ

 違う。

 あれは地球。

 全ての生物と人類の母なる星Mother EARTH

 ゆっくりと惑星の映像が変化していき、やがてアウラに変わった。

 ケイとティアが映像に見とれているうちに、三十年間眠っていた装置が息を吹き返した。

 次々と装置のランプがついて部屋が明るくなっていく。
 ケイがコンソールを操作すると中央の巨大なスクリーンに星系図が映った。

「これ、なに?」
 ティアが見上げる。
「この星系だよ。四つ目の丸いのがこの星だ」
 ケイが指差す。

 更にいくつかの操作をした。
 星系のアウラの部分が拡大した。
 アウラに点の集まりが徐々に近づいてくる。

「この星に近づいてくる点は?」
「ノア・ワンだ」

 審判前、戦争を終わらせるために進行中だったプロジェクト・ノア。

 その一環としてアウラの植物はノア・ワンに、動物はノア・ツーに乗せられてアウラの衛星軌道上を回っていた。

 プロジェクト・ノアは戦争を終わらせるために立てられた計画だった。

 水槽に新しい魚を入れると前からいた魚と争いになる。
 それをやめさせるには、いったん水槽の水を半分にして、それまでの縄張りを壊してやる必要がある。

 プロジェクト・ノアの原理もそれと同じである。
 いったんアウラの住民を全てアウラⅡに移すことで国家という縄張りを崩し、その間に荒れたアウラの大地を復旧するはずだったのだ。

「ノアⅠ、Ⅱが下りてくればアウラに動植物は戻る。だけど今のように内陸に雨が降らないんじゃどうしようもない。かといってもう一度大地を動かしたら今度こそアウラの人間は全滅する」

「じゃあ、どうするの?」
 ティアが訊ねた。

 ケイがコンソールを操作するとアウラを取り巻くように二百以上の点がついた。
 アウラの周りを回る無数の人工衛星だ。

 気象衛星などもあるがほとんどは軍事衛星である。
 戦争の負の遺産だ。
 衛星軌道上からレーザー兵器で地上に狙いを付けている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

博士が見た風景

Euclase
SF
博士と助手の不思議な研究

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...