上 下
41 / 46

第四十一話

しおりを挟む
「そっか。うーん」
 ラウルが考え込む。
「和実の記憶があるケイに分からないんじゃ、僕らにはさっぱりだよね」
 ラウルがティアに言った。

「うーん」
 ティアが考え込むような表情になる。

 すぐに同意するだろうと思っていただけに、ティアのリアクションにどう反応すればいいのか分からなかった。

 ティアは何か心当たりでもあるのだろうか。

 そういえば……。

 すっかり忘れていたがティアも〝緑の魔法使い〟なのだ。

「ティア?」
 ラウルが訊ねるように声を掛けた。
「そうね。どうすればいいのかしら」
 ティアは曖昧に答えた。

 ケイとラウルは顔を見合わせる。

「全然分からない?」
 ラウルが再度訊ねた。
「うーん」
 ティアは首を傾げるだけだった。

 はっきりしないティアにじれてきた。

「何か心当たりでもあるのか? どこへ行けばいいとか」
「そう言うのは無い」
 ティアがきっぱりと言った。

 ケイはため息をついた。

 だったら今のリアクションはいったい何だったんだ。
 しかし、いくら待ってもティアはそれ以上何も言わなかった。

「そろそろ罠を見に行ってみるか」
 ケイは話題を変えた。

 今はこれ以上話していても建設的な答えは出てきそうになかった。

 ウサギはティアとラウルの罠にかかっていた。
 ケイのは上手く逃げられてしまっていた。

「たまたまよ」
 ティアはそう言うとウサギを料理し始めようとした。
「待った」
 ケイはティアを止めた。

「念のため、火は荒野で焚こう」
 ケイはそう言ってティアを止めた。

 隣の駅に着く頃には夕方になっているだろう。
 丁度夕食の時間だ。

「分かった。ケイはあっちで枝を集めて。ティアはケイと一緒に行って。僕はそっちで拾うから」
 ラウルはそう言うと立ち上がった。
 ケイとティアは薪になりそうな枝を集め始めた。

「どれくらい拾えばいいのかしら」
「とりあえず、持てるだけ持っていこう。荒野では手に入らないからな」
 ケイは拾う手を休めずに言った。

 ティアは分かったというように頷いた。
 薪を持てるだけ持って地下鉄の入り口に集合した三人は、そのまま中へと入っていった。

 隣の駅から外の荒野へ出たときには夕日は地平線の彼方に沈もうとしていた。

 ケイが薪に火をつけている間にティアとラウルはウサギの皮をいだ。
 ティアは上手にウサギの肉を骨から切り取り、それをラウルが串状に削った枝に刺して火にかけた。

 二羽しかいないから肉を薫製にする必要はなさそうだった。
 一羽は今夜の夕食で食べてしまうし、もう一羽は明日には食べてしまう。
 長期間保存するわけではないし、もう大分寒くなってきているからよく焼いておけば大丈夫だろう。

 夜空は東から徐々に西へと進行していき、西の空はオレンジから青紫へと色を変えていった。
 焼けた肉のうち、明日の分は地面に敷いたハンカチの上で冷ましていた。
 残りを三人で分け合う。

「肉なんて久しぶりだね」
 ラウルは嬉しそうにウサギの肉を食べていた。

 ティアは猫舌なのか少しずつかじっている。
 ケイもしばらくは食べることに専念した。

 どうせ話題は「これからどうするか」しか無く、答えもまた無い。

 緑地帯でエビルプラントを見つけてからもう大分たつ。
 もたもたしている暇はないしケイはこの問題に対処するために和実の記憶を移植されたのだ。

 なのに打つ手が見つからなかった。
 多分、ヒントは一花の映像に隠されていたのだろう。

 一花達も、まさか映像の再生中に電源が落ちるなどとは考えもしなかったから一度再生されたら消去されるようにプログラムしてしまったに違いない。
 だが一度しか再生されないのなら不慮の事故への対策がとられているはずだ。

 しかし和実の記憶にはない。
 祖父も何も言わなかった。

 そうなると、後は?

 和実ならこんなとき、どうした?

 記憶はあるのに和実と同じ考え方は出来なかった。
 多分、本来の人格と移植された記憶が衝突しないようにするための処置なのだろう。

「ねぇ、やっぱり、何かあるとしたら研究所じゃない?」
 ラウルが言った。
「そうだな」
 確かに他に思いつくところはなかった。

 また地下鉄の線路を何日も歩くのかと重うとうんざりしたが仕方がない。
 最初に行ったとき諦めるのが早すぎたのだ。

 もっとよく探してみるべきだった。
 ティアにも異論はないようだったのでクィエス研究所に戻ることにした。

 幸い地下鉄の入り口はすぐそこにある。
 三人は山菜を採れるだけ採っていくことにした。

 最初の一日だけでも非常食を食べずにすむようにとの思いからだった。
 まともな食事――山菜や野菜、果樹など――を一度食べなれてしまうと携帯食は味気なく、ぱさぱさとした口当たりなど食べるのは心理的にもつらくなってきたのだ。

 本当に研究所で何か見つけられるのか。
 ケイは山菜を探しながら、そんなことを考えていた。
 まだ全てを思い出したわけではないのではないかという気がするのだ。

 多分、全て思い出せば……。

「ケイ!」
 物思いに耽っていたケイはティアの声で我に返った。
 いつの間にか囲まれていた。

 しまった!

 ミールの一人がティアを羽交い締めにしていた。
 ラウルも銃を突きつけられて両手をあげている。

「一緒に来てもらおうか」
 ミールが言った。

「どこへ連れてくつもり?」
 ティアは男を睨み付けた。
「知ってどうなる。どうせ死ぬんだ」
 ミールが答える。

「武器や兵器を持った人や、作ってた人を殺して回って、それでどうなるの!」
 ティアが男を睨んだまま言った。
「生意気な口を利くな!」
 ミールの隊員がティアを小突く。

「みんな必死で生きてるのに、そんなことして許されると思ってるの!」
「お前に分かるか! あの地獄を知らずに産まれてきたお前らに!」
 年輩の男が激高して怒鳴りつけた。

「生物兵器の研究施設から漏れだした伝染病で次々と人が倒れていった。家族や友が苦しんで死んでいくのをただ見てるだけだったんだ」
 男の言葉をティアは黙って聞いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我らおっさん・サークル「異世界召喚予備軍」

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
青春
おっさんの、おっさんによる、おっさんのためのほろ苦い青春ストーリー サラリーマン・寺崎正・四〇歳。彼は何処にでもいるごく普通のおっさんだ。家族のために黙々と働き、家に帰って夕食を食べ、風呂に入って寝る。そんな真面目一辺倒の毎日を過ごす、無趣味な『つまらない人間』がある時見かけた奇妙なポスターにはこう書かれていた――サークル「異世界召喚予備軍」、メンバー募集!と。そこから始まるちょっと笑えて、ちょっと勇気を貰えて、ちょっと泣ける、おっさんたちのほろ苦い青春ストーリー。

歌のふる里

月夜野 すみれ
ライト文芸
風の中に歌が聴こえる。 いつも聴こえる美しい旋律の歌。 どこにいても聴こえるのに、どこを捜しても歌っている人間を見つけることが出来ない。 しかし、あるとき、霧生柊矢(きりゅうとうや)は歌っている少女霞乃小夜(かすみのさよ)と出会った。 柊矢は、内気そうな少女に話しかけることも出来ず、ただ歌を聴いているだけの日々が続いていた。 ある日、二人の前に白く半透明な巨木の森が出現した。 二人が見ている前で森はまた消えていった。 その夜、柊矢の所有しているアパートの近所で火事が起きたという知らせに現場へ行ってみると小夜がいた。 燃えていたのは小夜の家だった。 たった一人の肉親である祖父を亡くした小夜を、成り行きで柊矢が引き取った。 その後、柊矢と小夜はやはり、普通の人には聴こえない歌を歌う青年と知り合った。 その青年、椿矢(しゅんや)から普通の人に聴こえない歌が聴こえるのはムーシコスという人種だと教えられる。 そして、柊矢の前に、昔、白い森へ入っていって消えた元恋人霍田沙陽(つるたさよ)が現れた。沙陽もまたムーシコスだった。 柊矢は沙陽に、ムーシコスは大昔、あの白い森から来たから帰るのに協力してほしいと言われる。 しかし、沙陽は小夜の家の火事に関わっていた。 柊矢と小夜、柊矢の弟楸矢(しゅうや)は森への帰還を目指す帰還派との争いに巻き込まれる。 「歌のふる里」の最終話の次話から続編の「魂の還る惑星」が始まります。 小説家になろうとカクヨム、note、ノベマにも同じものを投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

処理中です...