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第十六話

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 ルードのために村人の何人かは競技場作りにかり出された。

 各村との中間辺りで平坦な場所にルードの競技場が作られるらしい。
 競技場は草を刈って競争のコースや格闘技のリングをロープで区切り、弓の的を設置し、競技場と観客席を隔てるためのロープが張って作られた。

 その間も村では刈り入れが続いていた。

「ティアって植物のことよく知ってるよね」
 ラウルが言った。
「ありがと」
 ティアが軽い口調で受ける。

 ケイ達は昼食のあとのお茶を飲みながら話していた。
 ラウルはすっかりティアに心酔していた。
 それから少し首を傾げてケイの方を見た。

「ケイ、確か緑の魔法使いを捜してるって言ってなかった?」
 ラウルはケイ自身、言ったことを忘れていた話を覚えていた。

「どういうこと?」
 ティアが訊ねた。
「祖父に捜せって言われたんだ」
 ケイが答えた。

「どうして?」
「さぁな。会えば分かるとしか言わなかった」
 ケイが祖父から聞いたのは捜せという言葉だけだ。

「会ったら何をするのかも分からないの?」
 ラウルの質問に、
「多分、何か頼まれごとをしてそれで終わりだろ」
 ケイが答えた。
「ふぅん」
 ティアは黙ってケイの顔を見ていた。

「緑の魔法使いって言うのは『最後の審判』の前に実際にいた植物学者だ」
 ケイはおもむろに言った。
「そうだったの? 今まで聞いたことなかったけど」
 ラウルに言われてケイは首をかしげた。

 そう言われればその通りだ。
 何故自分がそんなことを知っているんだろうか。

「それで? 今も探してるの?」
 ラウルが話を促す。
「審判前に大人だったんだから、もうかなりの年だろ」
 ケイが言った。

『最後の審判』から既に三十年もたっている。

「とても生きてるとは思えないな。仮に生きていたとしても、この大陸にいるとは限らないし」
 ケイの話を聞きながらティアは何か考え込んでるような表情をしていた。

「ところで、これからどうするの?」
 ラウルが訊ねてきた。

 ケイ自身それを考えていた。
 農繁期のうはんきなら労働力は歓迎されるから、いても邪魔にはならなかった。
 しかし、これから農閑期のうかんきを迎える。

 いくらティアのおかげで種が取れたと言ってもウィリディスから種を買うのをやめるわけにはいかない。
 余計な人間を養うだけのゆとりはないはずだ。

「とりあえず南に行きましょ」
 ティアがそう言うと、
「南に何かあるの?」
 ラウルが訊ねた。

「赤道付近まで行けば食料は森でいつでも採れるし、夜の寒さを心配する必要もないでしょ」
 ティアが答える。

「食料とかの心配なら、わざわざ赤道付近まで行かなくても備蓄庫があるからなんとかなるよ」
 ラウルが言った。

「ね、ケイもラウルも、ホントに他にすることないの?」
 ティアが訊ねた。
「強いて言えば緑の魔法使い捜しかな。ね、ケイ」
 ラウルが言う。
「そのことならもう言っただろう」
 ケイは話を切り上げるように答えた。

 生きてるかどうかも分からない人間を探すなど時間と労力の無駄だ。

「でも、おじいさんがわざわざ捜せって言ったんだから絶対何かあるんだよ」
 ラウルが珍しく譲らなかった。
「面倒事を頼まれでもしたらどうするんだ」
 ケイがラウルに答える。

 ティアはしばらく黙っていた。
 それからおもむろに口を開いた。

「悪いけど、して欲しいことは特にないわ。既にボディガードだって言うことをのぞけば」
 ケイとラウルは同時にティアを見た。

「君が緑の魔法使い!?」
 ラウルが驚いたように言った。

 ケイも信じられない思いでティアを見ていた。

「そう呼ばれることもあるわ。私で三人目よ」
 ティアが答える。

「じゃあ、おじいさんが言ってたのって一人目か二人目だったのかな」
「一人目って言うのは多分審判前の人のことよね。その人の消息は知らない。でも二人目は私の母よ」

 ティアの母はもう死んでいる。
 ケイの祖父が言っていた緑の魔法使いがティアでないなら、死んだティアの母か消息が分からない一人目ということになる。

 ラウルはケイ本人よりも気落ちした様子で肩を落とした。

「ごめんね」
 ティアが申し訳なさそうに謝ると、
「あ、ティアのせいじゃないよ」
 ラウルは慌てて言った。

「緑の魔法使いが他にいないとは限らないわよ」
 ティアが言った。

 慰めてくれているのだろう。
 ケイはどう考えればいいのか分からなかった。
 これで祖父がケイに何をさせたかったのか分からなくなってしまった。

 祖父は何を言いたかったのだろうか。
 何をさせたかったのだろう。

 ボディガードではない。
 祖父はケイが戦闘訓練を受けるなんて知らなかったのだから。

 年齢的にいってティアが祖父の言っていた緑の魔法使いとは考えにくい。
 ケイとは同い年なのだ。ケイが幼かったときはティアも幼かった。
 ティアの母だとしたら、もう死んでしまっているのだからどうしようもない。

 残るは審判前に緑の魔法使いと呼ばれていた科学者だ。
 しかし、その人はこの大陸にいるのかも分からない。

 ラウルは納得いかない表情で何か考え込んでいた。

「おじいさんが捜せって言ってたって事は、この大陸にいるのは確かなんじゃないかな。十年前だって他の大陸へ行けなかったことは同じなんだし」
 ラウルが諦めきれない様子で言った。

「絶対会ってほしいなら何か行方のヒントみたいなのも聞いてるんじゃないの?」
 ティアがそう言うと、
「そうだよ!」
 ラウルが強く同意する。

 祖父は何か手がかりになるようなことを言っていただろうか……?

 ケイが考え込む。
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