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第二十八話

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 ベッドに入ったものの、目はさえていてとても眠れそうになかった。
 今はディスクを持ってない。
 ミールにいたときも持ってなかった。
 つまりそれより前にどこかへ隠したのだ。

 でも、どこに?

 翌朝、ティアが村にあった薬を混ぜて三倍体の種を二倍体に戻す薬を作った。
 これはどんな労働力より喜ばれた。

「村に置いてある普通の薬から作れるんだ」
 ラウルは驚いているようだった。
 ケイも感心していた。

 これは間違いなく〝緑の魔法使い〟だ。

 村を出るとケイは地図を見ながら歩いた。

「ケイ、転ぶわよ。地図なんか見てどうするの?」
 ティアの言葉にケイは立ち止まると二人の方を向いた。
「思い出したんだ」
 ケイは夢と夕辺の手品で思い出したことを話した。

「どこに隠したか見当つかないの?」
 ティアが訊ねた。
「多分、備蓄庫のどれかだ。あそこなら他の人間が入れないから取られる心配がない」
 ケイが答える。

「でも、どこの?」
「それを思い出そうとしてるんだ」
 ケイが言った。

「自分で隠したのに思い出せないの?」
「隠したのはおそらく祖父だ。俺はそんなもの隠した覚えはない」
「でも、それならどこに隠したか教えてくれたんじゃない?」
 ティアが言った。

 ラウルは何か考え込んでいるような表情でケイを見ていた。
 何を考えているのか聞こうと思ったとき、ラウルの方が口を開いた。

「ホントに備蓄庫に隠したのかな?」
「どういうこと?」
 ティアが訊ねる。

「備蓄庫は沢山ある上に、あれだけ多くの物が置いてあるんだよ。あんなところに隠したらケイが見つけられない可能性がある。ヒントも無しにそんな事するかな」
 ラウルが言った。

「じゃあ、ラウルはどこだと思うの?」
 ティアが聞いた。

「ケイ、絶対洗わないハンカチ持ってるよね」
「やだ、ハンカチ洗ってないの?」
 ティアが眉をひそめた。

「祖父の形見だから使ってないんだよ。だから洗う必要もないんだ」
 そう答えてから、
「まさか……」
 ハンカチを取りだして広げてみると隅の方に親指の爪の大きさくらいのものを縫い込んであるところがあった。
 そこを切ってみるとデータディスクが出てきた。

「これが……」
「うっかり洗濯しちゃったらどうするつもりだったのかしら」
 ティアが言った。

「多少の防水性はあるし、広げれば嫌でも目に付くから大丈夫だろ」
 ケイが答える。

「でも、これをどうすればいいの?」
「備蓄庫へ行こう。データディスクの中身を見る機械もあるはずだ」
 ケイが言った。

 三人は備蓄庫を捜しながら南へと向かった。

「探してないときはすぐ見つかるのに、いざ探すとなかなか見つからないわね」
 ティアが歩きながらぼやいた。

 備蓄庫を探しながら進んでいるため、今までのようにまっすぐ行くことが出来ない。
 ケイとラウルが交代で辺りを偵察し、残った方がティアと一緒に備蓄庫探しを続けていた。

「地図に備蓄庫の場所も載ってればいいのに」
「しょうがないだろ」

 備蓄庫が軍の施設だというケイの予想が当たっていれば場所は機密事項だ。
 軍事機密が地図に載っているわけがない。

 ようやくシーサイドベルトと内陸の境目近くに備蓄庫を見つけたときには数日たっていた。

 中に入るとケイは早速壁面の隅にあるスロットにデータディスクを入れた。
 壁面が明るくなり祖父が映し出された。

「壁に人が映ってる」
 ティアが驚いたように声を上げた。

「お前がこれを見ていると言うことはまだ思い出してないんだな。お前には和実・セネトの記憶が移植されている。破滅の日が迫っているんだ」
 祖父の言葉を聞いた瞬間、和実と言う人の記憶が頭の奥からわいてきた。

 自分は和実ではない。
 しかしケイには確かに和実の記憶があった。

 備蓄庫を開くことが出来たのも和実の知識があったからだ。

 和実は軍属ではなかったが、おそらく役に立つこともあるだろうと審判後にパスワードを入手していたのだろう。
 今ならティアやラウルに備蓄庫のパスワードを教えることが出来る。

「和実の記憶があるならどこへ行けばいいか分かるな。これは審判中の地図だから多少地形が違うはずだが、今の地図と付き合わせれば分かるだろう」
 祖父に変わって地図が映し出された。
 ケイは地図をプリントアウトした。

「なんで壁から紙が出てくるの?」
 ティアが再び驚いて言った。
「ここに細い穴があいてるだろ」
 ケイは紙が出てきたところを指した。

「あ、ホントだ」
 ティアは不思議そうに、しゃがんで穴を見つめていた。
「もう時間がない。お前が最後の望みなんだ。頼んだぞ」
 祖父はそれだけ言うと消えてしまった。

 ケイはもう少し祖父の声を聞いていたかった。
 再度映そうとしたが、一度再生されると消えるようになっていたのか、いくらやってももう映像は現れなかった。

 それでも未練がましくしばらく操作しようとしていたが、やがて諦めた。

「それで? 何が分かったの?」
 ティアが訊ねた。

「次に行く場所だ。クィエス研究所に行く」
「それってどこにあるの?」
 ティアが訊ねた。

「かなり内陸に入ったところだな」
「内陸なんてどうやっていくの?」
 ティアが小首をかしげて言った。
 エビルプラント帯のことを考えているのだろう。

「地下を通っていく」
 ケイはそう言うと今の地図とプリントアウトした地図を重ね合わせて光に透かした。

「どうして審判前と今の地形が違うの?」
「地形が変わるほどの兵器が使われたって事?」
 ティアとラウルが訊ねた。

「いや、兵器じゃない。地形を変えたのは間違いないが」
 ケイが答える。

 破壊力を考えれば兵器と言えないことはないが地形を変形させた目的は人を殺すことではなかった。
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