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第二十話

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「村の周りに怪しいやつはいた?」
 ティアが平静を装った声で訊ねた。
「いや、今のところはいない」
 ケイもなんとかいつも通りの声で答える。

「じゃあ、村に行きましょう」
「だめだ」
「どうしてよ! こんなところからじゃ村が全然見えないじゃない」
「村に火がつけられれば煙が見える」
 ケイの言葉にティアは怒った様子で歩き出した。

 ケイはティアの手を引いて止めた。
 それだけでも鼓動が速くなった。

「村に火がつけられるかもしれないのに、こんなところで見てろっていうの?」
 ティアが怒ったように言う。

「ミールに襲われたら俺達だけじゃどうしようもない」
「だから黙ってみてるの? それならいてもいなくても同じじゃない!」

 確かにティアの言う通りだ。
 しかし他にどうしようもないのも事実だった。

「もっと近くに行っちゃダメなの?」
「ダメだ。これ以上近づいたら連中が来たとき見つかる」
 ケイがそう言うとティアは樹に登りだした。

「おい、何するんだ」
「樹の上からならもう少しよく見えるかと思って」

 無茶をするな、と止めかけて、ティアはウィリディスの追求を逃れるために樹の上で三日も過ごしたくらいなのだから問題ないだろう、と思い直した。

 それでティアの気が済むならやらせておこう……。

 そう考えた直後、
「きゃあ!」
 悲鳴と共に樹の枝が揺さぶられる音がして木の葉と共にティアが落ちてきた。

 ケイは危ういところでティアを受け止めた。
 弾みで二人は地面に倒れ込む。

 ティアの顔が目の前にあった。
 ついさっき裸を見たばかりでとてもまともに見られないと思っていたのに。

 ケイは慌てて身体を起こすと顔を背けた。頬が火照っている。
 多分耳まで赤くなってるだろう。動悸が速くなっている。
 このままでは心臓が過労で止まってしまいそうだ。

「何やってるんだ!」
 ケイはわざと怒ったような声を出した。

「しょうがないでしょ! 足が滑ったのよ!」
 ティアも言い返す。

「ウィリディスに追われたとき、三日間樹の上で過ごしたって言ってたじゃないか」
「あのときは、見つからないように必死で樹にしがみついてたの!」
「樹に登るときはいつもそうしろ。いつも都合良く助けられるわけじゃないんだ」
 ケイはティアに背を向けたまま言った。

「……それにしても水に落ちたり樹から落ちたり、案外そそっかしいんだな」
「悪かったわね」
 ティアがむくれたような声で言った。

 それから、
「ありがと」
 と、やっと聞き取れるくらいの声で言った。

「いや、別に……」
「初めて助けてもらったときのお礼もまだ言ってなかったわよね。どうも有難う」
「もういい」

 ケイはいたたまれなくなって、
「偵察に行ってくる」
 と言い残すと、帰ってきたばかりじゃない、という突っ込みが入る前にその場を離れた。

 ケイとティアは三日ほど様子を見ていたが村が襲われそうな気配はなかった。

「ねぇ、村に行っちゃダメなの?」
「ダメだって言ってるだろ」
「どうしても?」
「どうしても!」

 ケイとティアは一日に何度もこんなやりとりを繰り返していた。

 強引に行こうとしたら力づくで止めるつもりだったが、ティアはふくれっ面をしながらも大人しくしていた。
 安全面に関してはケイを信頼してくれているようだ。

 ケイとティアはそのまま川のそばの樹立の中で野宿していた。
 ラウルがいないこともあってケイの眠りはいつも以上に浅かった。

 寝ているときでも怪しい物音に気を配っていなければならない。
 ラウルがいればケイが察知出来なくても彼が気付いてくれるのだが。

 浅い眠りの中、祖父の夢を見た。
 いつものように手品をしながら何かを話していた。

 ケイは緑の魔法使いについて聞きたかった。
 しかし何故か声が出なかった。

 祖父は何かを言いながら手品をしている。
 ケイは必死で祖父に質問しようとしていた。
 だが、どうしても声が出ない。

 もどかしい思いをしているとき祖父がスカーフの中から何かを取りだした。
 それが何かを確かめようとしたとき物音がして目が覚めた。

 即座に拳銃を握りしめて辺りの様子を窺う。
 なんの気配もない。

 念のため偵察に出ようとしたときティアが寝言を言った。
 上半身が毛布からはみ出している。

 ティアが寝返りをうったのか……。

 ケイはティアに毛布をかけ直してやった。
 拍子抜けしたが目が覚めたことだし一応偵察に行くことにした。
 辺りを一回りしたが特に何もなかった。
 やはりティアの寝返りの音だったようだ。

 五日目にラウルがやってきた。

「ここへ来る途中で他の村の様子も見てきたけど襲われたのはあそこだけだったよ」
 ラウルが報告した。
「そうか」
 ケイはそう言うと立ち上がった。

「ミールはもういないな?」
 ケイが問うと、
「うん」
 ラウルが頷いた。

「よし、あの村に戻ってみよう」
 ケイはそう言ってティア達と共にミールに燃やされた村に向かって歩き出した。

  * *

「子供がほしいの」
 一花が真剣な顔をして話を切りだした。

 この頃には一花は和実と一緒に暮らしていた。
 ただ、一花の資料の山までは和実に部屋には入らないので、一花の部屋は借りたままだった。

 結婚しないまま子供を作るのは別に珍しいことではないし、和実も一花との子供は欲しかった。
 和実としては結婚するつもりで、もう指輪も買ってあった。
 後はプロポーズするだけだ。
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