Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -

月夜野 すみれ

文字の大きさ
上 下
13 / 46

第十三話

しおりを挟む
「おい、ボブ! ボブが倒れた!」
 突然、村の青年が声が聞こえてきた。

 その声に農作業をしていたもの達が集まってきた。
 ボブというのは二十歳を少しすぎたくらいの青年だった。
 真っ赤な顔をして倒れている。

「熱中症だな」
「急いで涼しいところに運べ」
 近くにいた人達が言った。

 ケイと村の青年がボブを日陰で風の通る場所へと運んだ。
 村の女性がバケツに入れた水を運んでくる。

 ボブの上着を脱がせ、水を吸わせて絞った布を額と首と脇の下に当てた。
 それから水を飲ませる。

「すまない、こいつも頼む」
 そう言って別の若者が運ばれてきた。
 照りつける日差しがきつく、熱中症で倒れるものが次々と出た。

「熱いわね。夏だから仕方ないんだけど」
 午前の仕事が終わり、昼食を食べた後、水を飲みながらティアが言った。

「雨が降れば少しは涼しくなるんですが」
 ケイ達に食事を出してくれた年配の女性は、そう言うと台所に戻っていった。

「どうして雨が降ると涼しくなるんだ?」
 村の若者の一人が不思議そうに言った。

「水が蒸発するとき地面の熱を奪っていくから気温が下がるんだ」
 ケイが説明した。

「それなら打ち水でも同じじゃないのか」
 若者が言う。

「雨なら広範囲に水がかれるから、より涼しいって事じゃないのか。それに雨なら空気中の熱も奪うだろうし」

 打ち水は水を汲んでこなければならない関係で人が運べる範囲にしかけない。
 しかし雨なら辺り一帯が濡れるし量も遙かに多い。
 その分、打ち水より効果があるのだろう。

「そんなもんかね」
 若者はそう言うと行ってしまった。

 一番暑い時間帯は熱中症をさけるためにも休みになる。
 木陰で涼みながら昼寝をするものもいた。

 ケイ達は大抵涼しい場所でおしゃべりをしていた。

 作物の生育は順調だった。

「こんなに実がなっているのは前回ティア様がいらしたとき以来だ」
 村人は口々にそう言ってティアを有難がる。
 この調子なら、よほどのことがない限り豊作は間違いない。

「すごいね、魔法みたいだ」
 ラウルが感心して言った。

 昼食をとった後、三人で固まって座りながらお茶を飲んでいた。
 食後に三人で固まるのが習慣になっていた。
 村にもケイ達に年が近い人間はいたがやはり三人はよそ者だ。

 ティアはこれだけの美少女なのだから、もっとモテても良さそうなものだが賓客ひんきゃくということで近付きがたいのだろう。

 ティアのアドバイスの成果を見ていれば大事に扱って正解だったのがよく分かる。
 だから敬意は払っているが友達になろうとはしなかった。

 ティアは最初のうち、村人、特に同世代の人間と親しくなろうと心を砕いていたようだったが結局諦めた。
 声をかけられれば返事はするが会話まで発展しないのだ。

 ティアに声をかけられると嬉しそうにする青年達も、大人達に睨まれてすぐに離れていってしまった。

 最初から心を開いていたのは幼い子供達で、ティアは暇があると子供達と遊んでいた。
 それを見るとラウルは樹の枝を取ってきて削り始めた。

「何してるんだ?」
 ケイが訊ねた。
「あの子達におもちゃでも作ってやろうと思って。動物なら多少れるんだ」
 ラウルが木彫りの人形をあげると子供達は喜んで遊び始めた。

 ティアやラウルが子供達と遊んでいるところを眺めているとティアがやってきた。

「ケイは子供、嫌い?」
「別に嫌いってわけじゃない」
「じゃあ、一緒に遊ばない?」
 ケイは返答に詰まった。
 子供が嫌いなわけではないが、どう接すればいいのか分からない。

 ティアやラウルのように自然に子供達の中に入っていくのはケイにとっては難しかった。

「ケイのおじいさん、手品が出来るって言ってたわよね。ケイはそれ教わってないの?」
 ティアが訊ねた。
「多少なら……」
「なら、それを見せてあげれば?」
 ティアはそう言うとケイを子供達の前に強引に引っ張っていった。

 失敗しないように祈りながら久しぶりの手品を始めた。

 空中からコインを取り出して見せ、それを握って手のひらを開いたときには消してみせる。
 そしてまたコインを出すと今度は二つ、三つと増やす。

 一動作ごとに子供達が歓声を上げた。
 多少失敗してしまったが、それさえもウケたようだった。

 終わると子供達は教えてくれとせがんだ。
 ケイは簡単なものを教え始めた。

 ティアやラウルも子供達と一緒になって真剣にケイの説明を聞いていた。
 簡単な手品が村の子供達の間でちょっとした流行になった。

 ある日、指導へ行った村からの帰り道、ティアが珍しく寄り道したいと言った。

「いいけど、どこへ行くの?」
「あの森によりたいの」
 ティアが少し離れたところにある森を指した。

 ラウルがケイを見る。
 ケイは肩をすくめた。

 どうせ自分達は護衛だ。ティアの行きたいところについていけばいい。

 ティアは森に入ると樹の枝がとぎれて日差しが差し込んでいるところを目指した。
 そこでしばらく草をかき分けて何かを探していた。

「何を探してるの?」
「えっとね……あ。あった!」
 ティアは花の咲いている草を指した。

「これ、葉っぱが甘いの」
 ティアはそう言うと葉っぱをちぎってケイとラウルに手渡した。
 噛んでみると確かに甘い。

「葉っぱだけだと探しづらいから花が咲く季節を待ってたの」
 ティアはその草を根本から掘り返した。
 同じ草をいくつか掘り返すと大事そうに抱える。
「あの子達へのおみやげよ」
 ティアはそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

歌のふる里

月夜野 すみれ
ライト文芸
風の中に歌が聴こえる。 いつも聴こえる美しい旋律の歌。 どこにいても聴こえるのに、どこを捜しても歌っている人間を見つけることが出来ない。 しかし、あるとき、霧生柊矢(きりゅうとうや)は歌っている少女霞乃小夜(かすみのさよ)と出会った。 柊矢は、内気そうな少女に話しかけることも出来ず、ただ歌を聴いているだけの日々が続いていた。 ある日、二人の前に白く半透明な巨木の森が出現した。 二人が見ている前で森はまた消えていった。 その夜、柊矢の所有しているアパートの近所で火事が起きたという知らせに現場へ行ってみると小夜がいた。 燃えていたのは小夜の家だった。 たった一人の肉親である祖父を亡くした小夜を、成り行きで柊矢が引き取った。 その後、柊矢と小夜はやはり、普通の人には聴こえない歌を歌う青年と知り合った。 その青年、椿矢(しゅんや)から普通の人に聴こえない歌が聴こえるのはムーシコスという人種だと教えられる。 そして、柊矢の前に、昔、白い森へ入っていって消えた元恋人霍田沙陽(つるたさよ)が現れた。沙陽もまたムーシコスだった。 柊矢は沙陽に、ムーシコスは大昔、あの白い森から来たから帰るのに協力してほしいと言われる。 しかし、沙陽は小夜の家の火事に関わっていた。 柊矢と小夜、柊矢の弟楸矢(しゅうや)は森への帰還を目指す帰還派との争いに巻き込まれる。 「歌のふる里」の最終話の次話から続編の「魂の還る惑星」が始まります。 小説家になろうとカクヨム、note、ノベマにも同じものを投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...