Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -

月夜野 すみれ

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第七話

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「お前達もこの女の仲間だな。一緒に来てもらおう。それをよこせ」
 ケイは素早く安全装置をかけると大人しく拳銃を渡した。
 ラウルも銃を差し出す。

 男達は珍しそうに拳銃をためつすがめつしていた。
 安全装置がかかってるから暴発することはないだろう。
 暴発して自分の身体に穴を開けたとしても自業自得だが。

 男達はようやく拳銃をいじるのに飽きるとケイ達三人を連れて村長の家を出た。

「おい、どこならいいんだ?」
 ケイがティアに声を掛けると、
「なんだ?」
 自分が言われたんだと勘違いした男が振り返った。

「えっと……ここから離れたところなら……多分……」
 ティアはケイの言わんとしていることを正確に汲み取って答えた。

 村の中や近くでウィリディスの連中を倒せば村の人達に迷惑がかかる。
 ティアはそう考えて離れた場所を指定したらしい。

 密告して恩を仇で返すような連中に気を使う必要などないと思ったが、ここはティアに従うことにした。
 結局のところ、これはティアの問題だ。

 大分歩いたところで建物の明かりが見えてきた。
 他に明かりは見えないからあれがアジトだろう。

 もう明け方だ。半日以上歩いたことになる。
 そろそろいいだろう。

 ケイは後ろを歩いていた男の鳩尾に思い切り肘を打ち付けた。
 男が身体を折ったところで首筋に手刀を食らわせる。

 ケイが行動を起こしたのを見てラウルも自分の側にいた男を殴りつけた。

 ティアが巻き添えを食っては助けた意味がない。
 辺りを見回すとティアは少し離れたところに伏せていた。

 殴りかかってきた男の拳を軽くよけて鳩尾に拳を叩き込む。
 男が倒れる。

 最後の男をケイが蹴り倒すとティアは起きあがった。

 ケイとラウルは拳銃を倒れている男達から回収した。

 一瞬、このまま持たせておけばミールがウィリディスを壊滅させるんじゃないかと思ったがケイ自身この銃がないと困る。

 何よりミールが気付いてウィリディスを壊滅させるまでに、この銃でどれだけの人が殺されるか分かったものではない。――もっとも使い方を知ってるなら、の話だが。

「有難う」
 ティアが礼を言う。
「ここは奴らのアジトの近くなんだろ。早く逃げよう」
 ケイはティアとラウルを促した。
「ここなら村は大丈夫よね」
 ティアがそう言ったのを聞いてケイは呆れた。

 頭がいと思ったのは勘違いでホントはバカなのか……?

「お前を売った奴らだろうが!」
 ケイは思わず強い口調で言った。
「そう言う人がいるのは仕方ないのよ。村の暮らしは楽じゃないんだから」

 村の暮らしは楽ではないと言うが村に住んでいない者の方がずっと大変だ。
 食料の生産も出来ない場合が多いし、食料を保管しておくことも出来ないことが多いから皆、日々食い物を手に入れるために苦労している。
 餓死する者も珍しくないのだ。

「まさか、あの村に戻るなんて言わないだろうな」
 ケイが言った。
「言うわけないでしょ。北の方へ行こうと思うの。まだ農繁期に入ってないところ」
 ティアが答える。

 農繁期ではないと言うことは人手はいらないと言うことだ。
 ティアは歓迎されるだろうがケイとラウルはそうはいかない。

 まぁケイとラウルには携帯食がある。
 備蓄庫は大抵の地方にあるから食べるだけならそれほど苦労はしない。

「とりあえず、薬だけ置いてきたいの。薬さえあれば種が取れるから」
 ティアが言った。

 それでは村の人間達は良くてもティアはやっていけないのではないのか?

「お前はどうするんだ?」
 ケイの言葉にティアは考え込んだ。
「うーん、このラインはちょっと厳しいかもね。北回りで向こうのラインに行こうかな」

 幸いこの大陸の北端は、ぎりぎり亜寒帯に入るくらいだから夏なら向こうのラインに行くために通過することが出来る。

「どうやって食べていくつもりだ?」
 ケイ達のように携帯食も持たないティアが村以外の場所で食べられるとは思えなかった。

「森の中には食べられるものが結構あるのよ。川があれば魚が捕れるし」
 そう言ってから、
「魚を捕るのは結構得意なの」
 と自慢げに胸を張る。

「それに北の方の村でなら働けるかもしれないし」
「そういうことだったら、良かったら僕らも一緒に行っていいかな」
 ラウルがとんでもないことを言い出した。

「おい」
「僕達は特に目的地はないでしょ。ティアと一緒に農場で働けば食うに困らないじゃない。捜してる人の情報も村で聞けるかもしれないし」
 ラウルの言葉にティアは考え込んだようだった。

 まぁ、それが普通だ。
 ろくに知りもしない男二人と一緒に旅をするなど警戒して当然だ。

「ラウルは農場で働きたいの?」
 ティアが訊ねる。
「携帯食は味気ないからね。普通の食事が出来る仕事は何でも歓迎だよ」
 ラウルが答える。

 確かに、携帯食に飽き飽きしているのはラウルだけではない。

「まぁ、そう言うことなら……。助けてもらったしウィリディスはまだ私のこと狙ってるって分かったわけだからボディガードがいるのは心強いわね」
 ティアが言う。

 ケイとしては有難いがティアのような可愛い女の子に男としてみられてないのかもしれないと思うと少し複雑だった。

 だからといって、このまま別れたいというわけでもない。
 一緒にいられるのが嬉しくないと言えば嘘になる。

 まぁ、ケイ達とウィリディス、どちらの危険の方が大きいかを比べた結果と言うことだと思うことにしよう。

 三人が北へ向かって歩いているとティアは樹が生い茂っているところで足を止めた。

「どうかしたのか?」
 ケイが訊ねた。

「携帯食は食べ飽きたんでしょ。この草、食べられるのよ」
 ティアはそう言うと、
「これも……これも……」
 と次々に草を摘み始めた。

 ケイとラウルが見ている間にティアは草を抱えるほど大量の草を摘み取った。

「お鍋がないから料理は出来ないけど、食べやすい大きさに切ってサラダにすれば美味しいわよ」

 ティアは集めた草を広げた布の上に置くと、器の上に少しずつ載せナイフで一口サイズに切って簡単なサラダのようなものを作った。
 それを三人分の器に取り分ける。

 調味料などはなかったが、それでも味気ない携帯食よりよほどうまかった。
 なるほど、これならティアは森にいる限り食うに困らないだろう。
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