7 / 11
第7話
しおりを挟む
「小夜、なに作るの? クッキーは湿気ちゃうよね?」
「そうだね。三週間以上だし、ものによっては傷んじゃうね」
それを考えると包装されたものの方がいいのかも……。
「傷みそうなものは前の日に作って夜か朝早くに入れればいいかな」
同居してるとその手が使えるんだ……。
「でも小さいの毎日一個だけ作るのは不経済だし、かといって前の日のおやつと同じものって言うのも……。やっぱり傷まないお菓子の方がいいのかな」
小夜が首を傾げた。
「清美、どれにするの?」
清美は考えた末、
「これにする」
と言って金色の星の形をしているアドベントカレンダーを手に取った。
二人分なら予算より高めのものを選べる。
「なら、私はこれ」
小夜が赤い四角錐のオーナメントを選んだ。
じゃ、小夜には家の形してるのにしよ。
会計を済ませて店を出ると、
「ね、小夜、中に入れるお菓子、あたしにも作れそうなら教えて」
と頼んだ。
「うん、何入れるか考えておくね」
清美は店の前で小夜と別れた。
小夜の姿が人混みに消えると店に戻った。
「清美ちゃん、ホントごめん」
楸矢が電話口の向こうで謝った。
清美は部屋で楸矢とスマホで通話していた。
「椿さん、忙しいらしくてレポート自力でやらないといけないんだ……」
「なんのレポートですか?」
「哲学」
「……頑張って下さい」
「あはは、やっぱ清美ちゃんでも無理か~」
楸矢の高校は音大付属だから一般科目の成績は参考程度にしか見ないのだが、それでも本来なら進学させられないと言うほど酷かったらしい。
そんな成績でも進学出来たのはそれに目を瞑ってもらえるほどフルートの腕が良かったからである。
清美の高校は都立高の中では十位以内、国立や私立を合わせても四百校以上ある中で三十位以内に入るかどうかと言う上位校である。
清美の高校は定期テストの結果ごとに各科目のクラス分けが変わるのだが清美と小夜は常に一番上のクラスにいる。
だから数学や国語など一部の科目は清美が楸矢に教えられるレベルなのだ。
音楽家を目指すならそのままフルートの腕を磨けば良いのだろうが一般企業に就職したいなら勉強をしなければ就職試験には受からない。
サラリーマンになりたい楸矢は今から必死で勉強しているのだ。
「元々あたしが手伝えそうな科目はほとんどありませんから」
大学ともなると一般科目でも高校では習わないものが多い。
しかも音楽科だと教養科目でも音声学や音楽療法など普通科には無い科目がある。
そう言う科目は付け焼き刃の清美より既に高校である程度教わっている楸矢の方が詳しいはずだ。
「そういう訳で当分空き時間は出来そうにないんだ。ごめんね」
「いいんです。勉強、頑張って下さいね」
「ありがと」
スマホを置いた清美は溜息を吐いた。
アドベントカレンダーは十二月一日から開け始めるものだから十一月中に渡したい。
小夜から渡してもらうしかないか……。
翌朝、清美は、
「小夜、お菓子どうするか決めた?」
登校してきたばかりの小夜に訊ねた。
「うん、いくつか日持ちしそうなのあったよ。キャンディとか」
「あたしにも作れる? チョコはともかくキャンディって作った事ないんだけど」
「キャンディもチョコと同じだよ。溶かして型に流し込むだけ」
「自信ないから作り方教えて」
「いいよ。柊矢さんのだけだと材料が余っちゃうから一緒に作ろ」
「ありがと」
十一月三十日、清美は学校が終わると小夜と一緒に霧生家にやってきた。
「抹茶パウダーはチョコに掛けるから分かるとして食紅は何に使うの?」
「キャンディに色を付けるんだよ」
「ナッツはチョコに入れるの?」
「チョコもだけど、キャンディも。後アーモンドは砂糖掛けとシュトレン」
「柚とかオレンジは? フルーツ使ったものって傷まない?」
「ピールは保存食だから」
清美は小夜に教わりながら二十四日分のお菓子を作った。
小夜は数種類の材料だけで複数のお菓子を作り出してしまった。
その中にはマカロンもあった。
かなり苦戦したが小夜が丁寧に教えてくれたので辛うじて失敗せずに出来た。
マカロンは日持ちがしないので冷蔵庫の奥に隠しておき、明日開けるオーナメントの中に置き場所を書いたメッセージカードを入れる。
「ラップで巻くのはいいんだけどさ、なんか見栄え良くないよね」
出来たお菓子を前に清美が言った。
「こうすればいいんだよ」
小夜はチョコを一つラップの真ん中に置いて巻くと両脇を捻じった。
余った端をハサミで切るとキャンディの包みのようになった。
「そっか~」
「これにシールを貼れば可愛くなるよ」
小夜はそういってシールを手に取った。
それでテーブルの上に置いてあったんだ……。
なぜ台所にシールがあるのかと不思議だったのだ。
「すぐに食べるならラッピングペーパーでもいいんだけど何日も常温保存するとなるとラップを巻いておかないと心配だし……」
「そうだね。チョコは溶けちゃうしね」
「柊矢さんがイブまでリビングに暖房入れなくて良いって言ってくれたけど……」
清美はリビングに目を向けた。
一戸建ての一階で暖房なし……。
クリスマスまで寒くてリビング使えないんじゃ……。
「そうだね。三週間以上だし、ものによっては傷んじゃうね」
それを考えると包装されたものの方がいいのかも……。
「傷みそうなものは前の日に作って夜か朝早くに入れればいいかな」
同居してるとその手が使えるんだ……。
「でも小さいの毎日一個だけ作るのは不経済だし、かといって前の日のおやつと同じものって言うのも……。やっぱり傷まないお菓子の方がいいのかな」
小夜が首を傾げた。
「清美、どれにするの?」
清美は考えた末、
「これにする」
と言って金色の星の形をしているアドベントカレンダーを手に取った。
二人分なら予算より高めのものを選べる。
「なら、私はこれ」
小夜が赤い四角錐のオーナメントを選んだ。
じゃ、小夜には家の形してるのにしよ。
会計を済ませて店を出ると、
「ね、小夜、中に入れるお菓子、あたしにも作れそうなら教えて」
と頼んだ。
「うん、何入れるか考えておくね」
清美は店の前で小夜と別れた。
小夜の姿が人混みに消えると店に戻った。
「清美ちゃん、ホントごめん」
楸矢が電話口の向こうで謝った。
清美は部屋で楸矢とスマホで通話していた。
「椿さん、忙しいらしくてレポート自力でやらないといけないんだ……」
「なんのレポートですか?」
「哲学」
「……頑張って下さい」
「あはは、やっぱ清美ちゃんでも無理か~」
楸矢の高校は音大付属だから一般科目の成績は参考程度にしか見ないのだが、それでも本来なら進学させられないと言うほど酷かったらしい。
そんな成績でも進学出来たのはそれに目を瞑ってもらえるほどフルートの腕が良かったからである。
清美の高校は都立高の中では十位以内、国立や私立を合わせても四百校以上ある中で三十位以内に入るかどうかと言う上位校である。
清美の高校は定期テストの結果ごとに各科目のクラス分けが変わるのだが清美と小夜は常に一番上のクラスにいる。
だから数学や国語など一部の科目は清美が楸矢に教えられるレベルなのだ。
音楽家を目指すならそのままフルートの腕を磨けば良いのだろうが一般企業に就職したいなら勉強をしなければ就職試験には受からない。
サラリーマンになりたい楸矢は今から必死で勉強しているのだ。
「元々あたしが手伝えそうな科目はほとんどありませんから」
大学ともなると一般科目でも高校では習わないものが多い。
しかも音楽科だと教養科目でも音声学や音楽療法など普通科には無い科目がある。
そう言う科目は付け焼き刃の清美より既に高校である程度教わっている楸矢の方が詳しいはずだ。
「そういう訳で当分空き時間は出来そうにないんだ。ごめんね」
「いいんです。勉強、頑張って下さいね」
「ありがと」
スマホを置いた清美は溜息を吐いた。
アドベントカレンダーは十二月一日から開け始めるものだから十一月中に渡したい。
小夜から渡してもらうしかないか……。
翌朝、清美は、
「小夜、お菓子どうするか決めた?」
登校してきたばかりの小夜に訊ねた。
「うん、いくつか日持ちしそうなのあったよ。キャンディとか」
「あたしにも作れる? チョコはともかくキャンディって作った事ないんだけど」
「キャンディもチョコと同じだよ。溶かして型に流し込むだけ」
「自信ないから作り方教えて」
「いいよ。柊矢さんのだけだと材料が余っちゃうから一緒に作ろ」
「ありがと」
十一月三十日、清美は学校が終わると小夜と一緒に霧生家にやってきた。
「抹茶パウダーはチョコに掛けるから分かるとして食紅は何に使うの?」
「キャンディに色を付けるんだよ」
「ナッツはチョコに入れるの?」
「チョコもだけど、キャンディも。後アーモンドは砂糖掛けとシュトレン」
「柚とかオレンジは? フルーツ使ったものって傷まない?」
「ピールは保存食だから」
清美は小夜に教わりながら二十四日分のお菓子を作った。
小夜は数種類の材料だけで複数のお菓子を作り出してしまった。
その中にはマカロンもあった。
かなり苦戦したが小夜が丁寧に教えてくれたので辛うじて失敗せずに出来た。
マカロンは日持ちがしないので冷蔵庫の奥に隠しておき、明日開けるオーナメントの中に置き場所を書いたメッセージカードを入れる。
「ラップで巻くのはいいんだけどさ、なんか見栄え良くないよね」
出来たお菓子を前に清美が言った。
「こうすればいいんだよ」
小夜はチョコを一つラップの真ん中に置いて巻くと両脇を捻じった。
余った端をハサミで切るとキャンディの包みのようになった。
「そっか~」
「これにシールを貼れば可愛くなるよ」
小夜はそういってシールを手に取った。
それでテーブルの上に置いてあったんだ……。
なぜ台所にシールがあるのかと不思議だったのだ。
「すぐに食べるならラッピングペーパーでもいいんだけど何日も常温保存するとなるとラップを巻いておかないと心配だし……」
「そうだね。チョコは溶けちゃうしね」
「柊矢さんがイブまでリビングに暖房入れなくて良いって言ってくれたけど……」
清美はリビングに目を向けた。
一戸建ての一階で暖房なし……。
クリスマスまで寒くてリビング使えないんじゃ……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
歌のふる里
月夜野 すみれ
ライト文芸
風の中に歌が聴こえる。
いつも聴こえる美しい旋律の歌。
どこにいても聴こえるのに、どこを捜しても歌っている人間を見つけることが出来ない。
しかし、あるとき、霧生柊矢(きりゅうとうや)は歌っている少女霞乃小夜(かすみのさよ)と出会った。
柊矢は、内気そうな少女に話しかけることも出来ず、ただ歌を聴いているだけの日々が続いていた。
ある日、二人の前に白く半透明な巨木の森が出現した。
二人が見ている前で森はまた消えていった。
その夜、柊矢の所有しているアパートの近所で火事が起きたという知らせに現場へ行ってみると小夜がいた。
燃えていたのは小夜の家だった。
たった一人の肉親である祖父を亡くした小夜を、成り行きで柊矢が引き取った。
その後、柊矢と小夜はやはり、普通の人には聴こえない歌を歌う青年と知り合った。
その青年、椿矢(しゅんや)から普通の人に聴こえない歌が聴こえるのはムーシコスという人種だと教えられる。
そして、柊矢の前に、昔、白い森へ入っていって消えた元恋人霍田沙陽(つるたさよ)が現れた。沙陽もまたムーシコスだった。
柊矢は沙陽に、ムーシコスは大昔、あの白い森から来たから帰るのに協力してほしいと言われる。
しかし、沙陽は小夜の家の火事に関わっていた。
柊矢と小夜、柊矢の弟楸矢(しゅうや)は森への帰還を目指す帰還派との争いに巻き込まれる。
「歌のふる里」の最終話の次話から続編の「魂の還る惑星」が始まります。
小説家になろうとカクヨム、note、ノベマにも同じものを投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
#彼女を探して・・・
杉 孝子
ホラー
佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる