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第5話
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「僕達はグラフェーの人間じゃないから断言は出来ないけど、君はグラフェーのクレーイス・エコー的な人なんじゃないかな」
椿矢が説明した。
「巫子みたいなものって事か?」
裕也の問いに椿矢が頷いた。
「グラフェーは意識が無いのに選べるの?」
楸矢が訊ねた。
「この絵、グラフェーの想いをムーシケーに伝えたいんだよね?」
椿矢が再度確認するように訊ねた。
小夜が首肯する。
「でもグラフェーは今、意識が無いし、そもそも両想いなんだからわざわざ描く必要ないよね」
椿矢の言葉に小夜が再度頷いた。
「多分だけど、グラフェーの意識が無いから中途半端な受け取り方しちゃってるんだと思う」
「それで? どうしろって言うんだ」
「別に」
柊矢が答えた。
「え?」
裕也は意味が分からず柊矢の顔を見た。
「ムーシケーと関係ないなら俺達にも関係ない」
「いや、関係あるでしょ。君達は絵から想いを感じ取ったんだから」
椿矢が言った。
「グラフェーの想いならムーシケーはとっくに知ってるし、この絵の事も楸矢が見た時点で知っただろ。用は済んだから後は好きなようにすれば良い」
柊矢がそう言った時、小夜の胸元が光った。
柊矢、楸矢、椿矢の視線が小夜に集まった。
小夜がネックレスを服の下から取り出した。
ムーシケーがムーシカを伝えてきたのだ。
柊矢と楸矢も分かったらしい。
椿矢には光しか見えないがムーシカを伝えてきているらしいと言う事は分かった。
裕也は柊矢達がなぜ突然小夜に目を向けたのか分からず首を傾げる。
彼らが視線を交わしているのを見てどうやらムーシコスにしか分からない何かがあるようだと悟った。
「帰るぞ」
柊矢が踵を返した。
小夜と楸矢が裕也に礼を言った。
楸矢は、
「聞きたいことが合ったら連絡して」
と言い残して柊矢に続いた。
「なんだったんだ」
裕也はよく分からないまま首を捻った。
「なんであそこで歌わなかったの?」
椿矢が訊ねた。
クレーイスが光ったのならムーシケーがムーシカを伝えてきたと言う事だし、あそこで伝えてきたなら裕也に聞かせろという事だろう。
ムーシコスならムーシカはどこにいても聴こえるが、裕也はムーシコスでは無いからムーシカは肉声でなければ聴こえない。
「演奏も必要らしい」
柊矢が答えた。
ムーシコスには歌手と演奏家がいる。
〝歌〟はムーソポイオスが歌った時だけ、〝演奏〟はキタリステースが専用の楽器で演奏した時だけ、その場に居ないムーシコス全員に聴こえる。
裕也はムーシコスではないから普通の楽器でも良いのかもしれないが、どちらにしろ今は手元に楽器がない。
一旦家に戻る必要があるのだ。
数日後の夕方、大学の門を出ると人だかりが出来ていた。
歌声が聴こえてくる。
大学の前で路上ライブなんて珍し……。
声の方に視線を向けて目を剥いた。
この前の四人がいた。
柊矢、楸矢が見慣れない楽器を弾いている。
そして小夜と椿矢が歌っていた。
知らない言語の不思議な旋律だったが何故か惹き付けられて思わず足を止めて聴き入ってしまった。
椿矢が研究室のドアを開けるのと、学生が本の山を崩したのは同時だった。
本が辺りに散らばる。
「すみません、すぐ片付けます」
学生が慌てて本を拾い始めた。
「手伝うよ」
椿矢も屈んだ。
本の山の中にアルバムがあったのか写真が何枚も落ちていた。
そのうちの一枚を拾った。
教授が家族で撮った写真だ。
「うわ、教授若いですね」
学生が写真を覗き込んで言った。
教授が若い女性と幼い女の子と一緒に写っていた。
女の子は二歳くらいだろうか。
確か小夜ちゃんがご両親を亡くしたのがこのくらいの年だったな。
別の写真は小学校の校門の前にいる女性と女の子の写真だった。
桜が咲いてるから入学式だろう。
小夜も両親が健在ならこうやって折に触れて家族写真を撮っていたはずだ。
小夜の祖父は小夜の母を幼い頃に養子に出した後、事情があって連絡を絶っていた為、小夜の母の写真を持っていなかった。
その後、小夜の両親が亡くなってから祖父に連絡が来るまで時間が掛かったので祖父が小夜を施設に引き取りに行った時には両親と住んでいたアパートの荷物は全て処分されてしまっていたから写真などは一枚も残っていなかったと言う話だった。
まだSNSが普及してなかった頃だったのでネット上にも無い。
だから小夜は写真ですら親の顔を見た事が無かった。
「これ、前世紀の写真ですよね。九十年代に建ったビルが写ってませんから」
「前世紀って……」
苦笑いしながら答えかけてハッとした。
そうだ、写真はネットが出来る前からあった。
SNSが普及する前だったからネット上に無いだけで写真自体を全く撮らないなんて普通の生活をしていれば有り得ない。
同級生や同僚の写真に写っているものがあるはずだ。
椿矢は片付けが終わるとパソコンを立ち上げた。
椿矢が説明した。
「巫子みたいなものって事か?」
裕也の問いに椿矢が頷いた。
「グラフェーは意識が無いのに選べるの?」
楸矢が訊ねた。
「この絵、グラフェーの想いをムーシケーに伝えたいんだよね?」
椿矢が再度確認するように訊ねた。
小夜が首肯する。
「でもグラフェーは今、意識が無いし、そもそも両想いなんだからわざわざ描く必要ないよね」
椿矢の言葉に小夜が再度頷いた。
「多分だけど、グラフェーの意識が無いから中途半端な受け取り方しちゃってるんだと思う」
「それで? どうしろって言うんだ」
「別に」
柊矢が答えた。
「え?」
裕也は意味が分からず柊矢の顔を見た。
「ムーシケーと関係ないなら俺達にも関係ない」
「いや、関係あるでしょ。君達は絵から想いを感じ取ったんだから」
椿矢が言った。
「グラフェーの想いならムーシケーはとっくに知ってるし、この絵の事も楸矢が見た時点で知っただろ。用は済んだから後は好きなようにすれば良い」
柊矢がそう言った時、小夜の胸元が光った。
柊矢、楸矢、椿矢の視線が小夜に集まった。
小夜がネックレスを服の下から取り出した。
ムーシケーがムーシカを伝えてきたのだ。
柊矢と楸矢も分かったらしい。
椿矢には光しか見えないがムーシカを伝えてきているらしいと言う事は分かった。
裕也は柊矢達がなぜ突然小夜に目を向けたのか分からず首を傾げる。
彼らが視線を交わしているのを見てどうやらムーシコスにしか分からない何かがあるようだと悟った。
「帰るぞ」
柊矢が踵を返した。
小夜と楸矢が裕也に礼を言った。
楸矢は、
「聞きたいことが合ったら連絡して」
と言い残して柊矢に続いた。
「なんだったんだ」
裕也はよく分からないまま首を捻った。
「なんであそこで歌わなかったの?」
椿矢が訊ねた。
クレーイスが光ったのならムーシケーがムーシカを伝えてきたと言う事だし、あそこで伝えてきたなら裕也に聞かせろという事だろう。
ムーシコスならムーシカはどこにいても聴こえるが、裕也はムーシコスでは無いからムーシカは肉声でなければ聴こえない。
「演奏も必要らしい」
柊矢が答えた。
ムーシコスには歌手と演奏家がいる。
〝歌〟はムーソポイオスが歌った時だけ、〝演奏〟はキタリステースが専用の楽器で演奏した時だけ、その場に居ないムーシコス全員に聴こえる。
裕也はムーシコスではないから普通の楽器でも良いのかもしれないが、どちらにしろ今は手元に楽器がない。
一旦家に戻る必要があるのだ。
数日後の夕方、大学の門を出ると人だかりが出来ていた。
歌声が聴こえてくる。
大学の前で路上ライブなんて珍し……。
声の方に視線を向けて目を剥いた。
この前の四人がいた。
柊矢、楸矢が見慣れない楽器を弾いている。
そして小夜と椿矢が歌っていた。
知らない言語の不思議な旋律だったが何故か惹き付けられて思わず足を止めて聴き入ってしまった。
椿矢が研究室のドアを開けるのと、学生が本の山を崩したのは同時だった。
本が辺りに散らばる。
「すみません、すぐ片付けます」
学生が慌てて本を拾い始めた。
「手伝うよ」
椿矢も屈んだ。
本の山の中にアルバムがあったのか写真が何枚も落ちていた。
そのうちの一枚を拾った。
教授が家族で撮った写真だ。
「うわ、教授若いですね」
学生が写真を覗き込んで言った。
教授が若い女性と幼い女の子と一緒に写っていた。
女の子は二歳くらいだろうか。
確か小夜ちゃんがご両親を亡くしたのがこのくらいの年だったな。
別の写真は小学校の校門の前にいる女性と女の子の写真だった。
桜が咲いてるから入学式だろう。
小夜も両親が健在ならこうやって折に触れて家族写真を撮っていたはずだ。
小夜の祖父は小夜の母を幼い頃に養子に出した後、事情があって連絡を絶っていた為、小夜の母の写真を持っていなかった。
その後、小夜の両親が亡くなってから祖父に連絡が来るまで時間が掛かったので祖父が小夜を施設に引き取りに行った時には両親と住んでいたアパートの荷物は全て処分されてしまっていたから写真などは一枚も残っていなかったと言う話だった。
まだSNSが普及してなかった頃だったのでネット上にも無い。
だから小夜は写真ですら親の顔を見た事が無かった。
「これ、前世紀の写真ですよね。九十年代に建ったビルが写ってませんから」
「前世紀って……」
苦笑いしながら答えかけてハッとした。
そうだ、写真はネットが出来る前からあった。
SNSが普及する前だったからネット上に無いだけで写真自体を全く撮らないなんて普通の生活をしていれば有り得ない。
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