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第二話
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放課後――。
一史が部室に行くと部員が揃っていた。
そして新しく入った聡美と耕太、それに聖子もいた。
志賀さん、もったいぶってた割にはあっさり入ったんだな……。
顧問の垂水は部員に三人を紹介すると、
「この中から一枚引いてくれ」
枕詞の書かれた紙の入っている箱を机の上に置いた。
三人が順番に箱に手をれて紙を取り出す。
「締め切りは明日だったんだが延ばした方がいいか?」
「一首でいいんですか?」
聖子が訊ねた。
「ああ」
「わたしは明日までで大丈夫です」
聖子はそう言って聡美と耕太に目を向けた。
「あ、ぼ、僕も……大丈夫です」
「私も……」
「そうか、なら一応明日だが、尾上と東と中野は明後日でもいいぞ」
垂水がそう言った。
五月十四日――くらはし山の
放課後――。
一史が部活に行く支度をしている時、
「大変だ!」
クラスメイトが駆け込んできた。
「部室で誰かが死んでるって……」
「え!」
教室中の生徒達が騒がしくなった。
「どこの部室?」
誰かの問いに、
「古典文学愛好会の……」
と言う答えが返ってきて一史は弥奈達と顔を見合わせると教室から飛び出した。
部室の近くに垂水が立って生徒達を制止していた。
「先生、何があったんですか?」
一史が訊ねると、
「どうやら棚が倒れてきたらしくて小野が下敷きになっていたんだ。救急車で病院に運ばれた」
と、垂水が答えた。
「え、救急車って……生きてるんですか?」
「そのはずだが……」
聖子の問いに垂水が面食らった様子で首肯した。
どうやら倒れているのを見た生徒が早とちりして死んだと思ってしまったようだ。
「安全のため、部室にある棚は全部点検することになったから今日は部活は中止だ」
垂水の言葉に一史達は大人しく学校を後にした。
その夜のニュースで小野が病院で死亡が確認されたと報道された。
ニュースキャスターが学校の安全管理がどうのと言っていた。
五月十五日――ほととぎす
学校中が小野の噂で騒然としていた。
「やっぱり殺されたらしい」
「何がやっぱりだよ。お前そんなこと言ってなかっただろ」
クラスメイト達の話題も小野の話題で持ちきりだった。
「なぁ、明日香、お前の後輩だろ」
小林は一史が教室に入るなり声を掛けてきた。
「うん」
「何か恨み買うようなことしてたのか?」
「おい、よせ」
小林を別のクラスメイトの鈴木が窘める。
「学年が違うから部活以外の事は……」
一史が言葉少なにそう答えると鈴木が小林を向こうに引っ張っていってくれたのでそれ以上詮索されずに済んだ。
「明日香君、どう思う?」
小林達が行ってしまうと今度は弥奈が一史に声を掛けてきた。
「どうって……そもそもホントに殺されたのかどうか……」
「先生が棚が倒れてきたせいだって言ってたでしょ。殺されたことにした方が面白いと思って言ってるだけよ」
聖子が横から言った。
「やっぱそうだよねぇ」
弥奈な納得したように頷くと授業の用意を始めた。
桜井紘彬警部補と如月風太巡査部長は病院から高校に向かっていた。
「あの……事故ってことは……置いてあったトロフィーが棚が倒れてきた時に落ちて当たったとか……」
如月が紘彬と並んで歩きながら訊ねた。
「検死の結果が出るまではなんとも言えんが……棚と一緒に落ちてきたにしては傷が深いな」
紘彬が答えた時、二人は学校に到着した。
校長と副校長は年配で、紘彬と如月が若いと見て取ると明らかに小馬鹿にした態度になった。
「本当に事件なんですか?」
いかにも、お前らにはそんなこと判断出来ないだろうと言いたげだった。
「警部補は国家公務員ですので」
如月が答えた。
校長への答えにはなっていないのだが校長と副校長の態度が僅かに変化した。
紘彬と如月は校長の許可を得て調べられることになった。
「国家公務員とか関係あるのか?」
「ああいう人達って肩書きに弱いので」
「肩書きって同じ公務員だろ」
「まぁそうなんですけど」
如月が紘彬に答えた。
紘彬は地方公務員より少し給料が高い程度にしか考えてないらしい。
一応警察の階級としては地方公務員の巡査部長より上なのだが。
「参るよなぁ。こっちだってやりたくてやってるんじゃないのに……」
「若造二人じゃ肩透かしを食った気がするんですよ」
如月が宥めるように言った。
紘彬は三十近いが若く見えるし、如月も二十代半ばなのだが童顔だから高校生と間違われることがあるくらいだから仕事で年配の人間に侮られることがよくある。
「ここ、桜井さんの母校ですよね。お知り合いの先生は……」
「公立は三、四年で移動になるらしいから。卒業したのが十年も前じゃ誰も残ってないな」
「三、四年で移動だと一周して戻ってきたりしないもんですか?」
「都立高は二百校以上あるから。一年ごとに移動しても生きてる間に戻ってくるのは無理だぞ」
そんな話をしながら二人は職員室に向かった。
五月十六日――おぼつかなくも
一史達が部室に向かおうとする前に垂水から部活は中止だと告げられた。
玄関に向かう途中、部室に警察官――と言うかドラマで良く見る鑑識のような格好をしている大人達が沢山いるのが見えた。
規制線が張られていて覗くことさえ出来なかったので大人しく帰ることにした。
一史が部室に行くと部員が揃っていた。
そして新しく入った聡美と耕太、それに聖子もいた。
志賀さん、もったいぶってた割にはあっさり入ったんだな……。
顧問の垂水は部員に三人を紹介すると、
「この中から一枚引いてくれ」
枕詞の書かれた紙の入っている箱を机の上に置いた。
三人が順番に箱に手をれて紙を取り出す。
「締め切りは明日だったんだが延ばした方がいいか?」
「一首でいいんですか?」
聖子が訊ねた。
「ああ」
「わたしは明日までで大丈夫です」
聖子はそう言って聡美と耕太に目を向けた。
「あ、ぼ、僕も……大丈夫です」
「私も……」
「そうか、なら一応明日だが、尾上と東と中野は明後日でもいいぞ」
垂水がそう言った。
五月十四日――くらはし山の
放課後――。
一史が部活に行く支度をしている時、
「大変だ!」
クラスメイトが駆け込んできた。
「部室で誰かが死んでるって……」
「え!」
教室中の生徒達が騒がしくなった。
「どこの部室?」
誰かの問いに、
「古典文学愛好会の……」
と言う答えが返ってきて一史は弥奈達と顔を見合わせると教室から飛び出した。
部室の近くに垂水が立って生徒達を制止していた。
「先生、何があったんですか?」
一史が訊ねると、
「どうやら棚が倒れてきたらしくて小野が下敷きになっていたんだ。救急車で病院に運ばれた」
と、垂水が答えた。
「え、救急車って……生きてるんですか?」
「そのはずだが……」
聖子の問いに垂水が面食らった様子で首肯した。
どうやら倒れているのを見た生徒が早とちりして死んだと思ってしまったようだ。
「安全のため、部室にある棚は全部点検することになったから今日は部活は中止だ」
垂水の言葉に一史達は大人しく学校を後にした。
その夜のニュースで小野が病院で死亡が確認されたと報道された。
ニュースキャスターが学校の安全管理がどうのと言っていた。
五月十五日――ほととぎす
学校中が小野の噂で騒然としていた。
「やっぱり殺されたらしい」
「何がやっぱりだよ。お前そんなこと言ってなかっただろ」
クラスメイト達の話題も小野の話題で持ちきりだった。
「なぁ、明日香、お前の後輩だろ」
小林は一史が教室に入るなり声を掛けてきた。
「うん」
「何か恨み買うようなことしてたのか?」
「おい、よせ」
小林を別のクラスメイトの鈴木が窘める。
「学年が違うから部活以外の事は……」
一史が言葉少なにそう答えると鈴木が小林を向こうに引っ張っていってくれたのでそれ以上詮索されずに済んだ。
「明日香君、どう思う?」
小林達が行ってしまうと今度は弥奈が一史に声を掛けてきた。
「どうって……そもそもホントに殺されたのかどうか……」
「先生が棚が倒れてきたせいだって言ってたでしょ。殺されたことにした方が面白いと思って言ってるだけよ」
聖子が横から言った。
「やっぱそうだよねぇ」
弥奈な納得したように頷くと授業の用意を始めた。
桜井紘彬警部補と如月風太巡査部長は病院から高校に向かっていた。
「あの……事故ってことは……置いてあったトロフィーが棚が倒れてきた時に落ちて当たったとか……」
如月が紘彬と並んで歩きながら訊ねた。
「検死の結果が出るまではなんとも言えんが……棚と一緒に落ちてきたにしては傷が深いな」
紘彬が答えた時、二人は学校に到着した。
校長と副校長は年配で、紘彬と如月が若いと見て取ると明らかに小馬鹿にした態度になった。
「本当に事件なんですか?」
いかにも、お前らにはそんなこと判断出来ないだろうと言いたげだった。
「警部補は国家公務員ですので」
如月が答えた。
校長への答えにはなっていないのだが校長と副校長の態度が僅かに変化した。
紘彬と如月は校長の許可を得て調べられることになった。
「国家公務員とか関係あるのか?」
「ああいう人達って肩書きに弱いので」
「肩書きって同じ公務員だろ」
「まぁそうなんですけど」
如月が紘彬に答えた。
紘彬は地方公務員より少し給料が高い程度にしか考えてないらしい。
一応警察の階級としては地方公務員の巡査部長より上なのだが。
「参るよなぁ。こっちだってやりたくてやってるんじゃないのに……」
「若造二人じゃ肩透かしを食った気がするんですよ」
如月が宥めるように言った。
紘彬は三十近いが若く見えるし、如月も二十代半ばなのだが童顔だから高校生と間違われることがあるくらいだから仕事で年配の人間に侮られることがよくある。
「ここ、桜井さんの母校ですよね。お知り合いの先生は……」
「公立は三、四年で移動になるらしいから。卒業したのが十年も前じゃ誰も残ってないな」
「三、四年で移動だと一周して戻ってきたりしないもんですか?」
「都立高は二百校以上あるから。一年ごとに移動しても生きてる間に戻ってくるのは無理だぞ」
そんな話をしながら二人は職員室に向かった。
五月十六日――おぼつかなくも
一史達が部室に向かおうとする前に垂水から部活は中止だと告げられた。
玄関に向かう途中、部室に警察官――と言うかドラマで良く見る鑑識のような格好をしている大人達が沢山いるのが見えた。
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