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第六章
第六章 第二話
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「鬼の正体って幽霊なんですか?」
「鬼っていうか……鬼に限らず元々怪異に人間が名前を付けただけだから」
つまり角が生えていて虎皮の腰巻きという典型的な鬼というものが存在しているのではなく、怪異(の一部)を人間が勝手に『鬼』と言っているだけという事か。
「河童と川獺なんかもごっちゃにされてるし」
河童と川獺では大分見た目が違う気がするのだが……。
いや、よく考えたら大抵の人には化生の姿は見えないのだから、よく見掛ける絵は想像図なのだ。
海伯の本当の姿も想像図の河童とは全く違う見た目なのかもしれない。
「今までは残ってただけだったんだけど」
実体化してないから幽霊ではなかったって事か?
てか幽霊は〝実体〟なのか?
「この辺りには結構一杯いるわよ」
「この辺って心霊スポットが沢山あるらしいよ」
祖母ちゃんと秀が言った。
俺は顔から血が引くのが分かった。
そんなに幽霊の多い場所なのか……。
「今までは残ってただけだったんだけど」
妖奇征討軍の儀式で実体化したのか。
なんで退治出来ないのに変な儀式するんだよ……。
「どうする? 今夜行くか?」
「そうだな。夜中に行こう」
俺達は待ち合わせ場所を決めた。
近所の公園なのだから万が一、公園から出てきたりしたら秀や雪桜や俺の家族――言うまでもなく秀や雪桜の家族も――が喰われてしまうのかもしれないのだ。
早く対処しなければならない。
行くのは夜中だが、それまで祖母ちゃんが公園を見えないようにして人間が中に入れないようにしてくれるという事だった。
そして戦いの最中、万が一通報されて警察官が来てしまったら祖母ちゃんに化かしてもらう事になった。
ファーストフード店を出ると秀と祖母ちゃんは二人で帰っていき、高樹とは方向が違うので自然と俺と雪桜の二人になった。
「なんで女子は高樹に噂話の報告するんだろうな」
俺がそう言うと、雪桜が、以前高樹が化生に関する話に興味を示して以来ちょっとした噂でも女子が報告してくるようになったと教えてくれた。
「D組の女子って随分親切なんだな」
B組の女子はこっちから聞かない限り噂話を教えてくれたりしないのに。
「高樹君の気を引くためだよ」
「え!?」
「高樹君ってモテるんだよ」
「そうなのか!?」
「気付いてなかったの? 高樹君って格好良いでしょ」
「…………!」
俺は雪桜の言葉に衝撃を受けた。
動揺した俺の頭の中が真っ白になる。
雪桜は高樹が好きだったのか?
繊月丸を勧めたのは恥ずかしくて打ち明けられなかったからだったのか?
「噂話は話し掛ける口実だよ。噂話を教えてあげた時だけは話聞いてくれるし、高樹君の方からも質問してくれたりするからお喋り出来るでしょ」
絶句している俺に気付かないまま雪桜が話を続ける。
「だからB組の女子もわざわざ高樹君に報告しに来るんだよ。秀ちゃんもモテてたんだけど、彼女出来ちゃったでしょ」
秀もモテてた……。
じゃあ、俺だけ……。
俺は衝撃と同時に精神的なダメージも受けた。
モテないのは俺だけ……。
俺は雪桜以外の女子から話し掛けられた事がほとんどない。
用がなければ話したいとは思われないような男だったのか……。
雪桜は幼馴染みだから相手にしてくれていると言うだけで、そうでなければ相手にされていなかったのかもしれないのか……。
高校二年にもなって女っ気が全く無いのはモテないからだったなんて……。
今夜はショックで眠れないかもしれない……。
家に帰ると拓真が遊びに来ていた。
「あ、大森君」
「拓真君、ホントに帰るの? うちで夕食食べていけばいいじゃない」
母さんは帰ろうとしている拓真を引き留めているところだった。
「いえ、家で母が用意してますから。どうも有難うございます」
拓真は丁寧にお辞儀をすると帰っていった。
「拓真君は本当に礼儀正しいわねぇ」
母さんが感心したように言った。
「あんたも見習いなさいよ」
母さんはそう言うと台所へ行ってしまった。
深夜、待ち合わせの時間にアーチェリーのケースと矢を持った俺は公園に向かった。
祖母ちゃんが公園の入口に立っている。
おそらく公園を見えなくしているのだろう。
三人とも近所なのでほぼ同時に入口に付いた。
今日の夕方から誰も入ってきていなかったせいか俺達が足を踏み入れた途端、どこかから現れた鬼が飛び掛かってきた。
「繊月丸!」
高樹が日本刀に姿を変えた繊月丸を掴んで鬼に斬り掛かった。
「すまん、高樹! すぐ用意する」
俺は慌ててアーチェリーのケースを開いた。
アーチェリーは弓の形で持ち歩くわけにはいかないので仕度をしなければならない分、日本刀の高城より出遅れてしまう。
繊月丸は化生だから鞘を抜く必要すらないので尚更だ。
仕度が出来ると、俺はアーチェリーに矢をつがえた。
高樹が振り下ろした繊月丸を鬼が爪で弾く。
弾かれた刃を返す刀で横に払う。
鬼が後ろに飛び退いた。
と思った瞬間、鬼は前のめりに突っ込んでいった。
巨体に似合わぬ素早さだ。
俺が矢を放つ。
矢が鬼の肩を掠める。
僅かに肩の肉が抉れた。
鬼が吠える。
高樹が大きく踏み込んで逆袈裟に斬り上げた。
鬼が脇に避けたが切っ先が掠った。
掠めたのはほんの僅かだったはずだが、ごそっと脇腹が削れる。
すげぇな、繊月丸……。
再び鬼が吠える。
鬼が高樹に向かって行く。
高樹は鬼が横に払った腕を頭を下げて避けると繊月丸を斬り上げた。
鬼が斜め後ろに跳んだ。
追い縋ろうとした高樹を鬼が蹴り上げる。
高樹が仰け反った。
あと少しで足の爪先が高樹に届くという時、黒い影が鬼に飛び掛かった。
「鬼っていうか……鬼に限らず元々怪異に人間が名前を付けただけだから」
つまり角が生えていて虎皮の腰巻きという典型的な鬼というものが存在しているのではなく、怪異(の一部)を人間が勝手に『鬼』と言っているだけという事か。
「河童と川獺なんかもごっちゃにされてるし」
河童と川獺では大分見た目が違う気がするのだが……。
いや、よく考えたら大抵の人には化生の姿は見えないのだから、よく見掛ける絵は想像図なのだ。
海伯の本当の姿も想像図の河童とは全く違う見た目なのかもしれない。
「今までは残ってただけだったんだけど」
実体化してないから幽霊ではなかったって事か?
てか幽霊は〝実体〟なのか?
「この辺りには結構一杯いるわよ」
「この辺って心霊スポットが沢山あるらしいよ」
祖母ちゃんと秀が言った。
俺は顔から血が引くのが分かった。
そんなに幽霊の多い場所なのか……。
「今までは残ってただけだったんだけど」
妖奇征討軍の儀式で実体化したのか。
なんで退治出来ないのに変な儀式するんだよ……。
「どうする? 今夜行くか?」
「そうだな。夜中に行こう」
俺達は待ち合わせ場所を決めた。
近所の公園なのだから万が一、公園から出てきたりしたら秀や雪桜や俺の家族――言うまでもなく秀や雪桜の家族も――が喰われてしまうのかもしれないのだ。
早く対処しなければならない。
行くのは夜中だが、それまで祖母ちゃんが公園を見えないようにして人間が中に入れないようにしてくれるという事だった。
そして戦いの最中、万が一通報されて警察官が来てしまったら祖母ちゃんに化かしてもらう事になった。
ファーストフード店を出ると秀と祖母ちゃんは二人で帰っていき、高樹とは方向が違うので自然と俺と雪桜の二人になった。
「なんで女子は高樹に噂話の報告するんだろうな」
俺がそう言うと、雪桜が、以前高樹が化生に関する話に興味を示して以来ちょっとした噂でも女子が報告してくるようになったと教えてくれた。
「D組の女子って随分親切なんだな」
B組の女子はこっちから聞かない限り噂話を教えてくれたりしないのに。
「高樹君の気を引くためだよ」
「え!?」
「高樹君ってモテるんだよ」
「そうなのか!?」
「気付いてなかったの? 高樹君って格好良いでしょ」
「…………!」
俺は雪桜の言葉に衝撃を受けた。
動揺した俺の頭の中が真っ白になる。
雪桜は高樹が好きだったのか?
繊月丸を勧めたのは恥ずかしくて打ち明けられなかったからだったのか?
「噂話は話し掛ける口実だよ。噂話を教えてあげた時だけは話聞いてくれるし、高樹君の方からも質問してくれたりするからお喋り出来るでしょ」
絶句している俺に気付かないまま雪桜が話を続ける。
「だからB組の女子もわざわざ高樹君に報告しに来るんだよ。秀ちゃんもモテてたんだけど、彼女出来ちゃったでしょ」
秀もモテてた……。
じゃあ、俺だけ……。
俺は衝撃と同時に精神的なダメージも受けた。
モテないのは俺だけ……。
俺は雪桜以外の女子から話し掛けられた事がほとんどない。
用がなければ話したいとは思われないような男だったのか……。
雪桜は幼馴染みだから相手にしてくれていると言うだけで、そうでなければ相手にされていなかったのかもしれないのか……。
高校二年にもなって女っ気が全く無いのはモテないからだったなんて……。
今夜はショックで眠れないかもしれない……。
家に帰ると拓真が遊びに来ていた。
「あ、大森君」
「拓真君、ホントに帰るの? うちで夕食食べていけばいいじゃない」
母さんは帰ろうとしている拓真を引き留めているところだった。
「いえ、家で母が用意してますから。どうも有難うございます」
拓真は丁寧にお辞儀をすると帰っていった。
「拓真君は本当に礼儀正しいわねぇ」
母さんが感心したように言った。
「あんたも見習いなさいよ」
母さんはそう言うと台所へ行ってしまった。
深夜、待ち合わせの時間にアーチェリーのケースと矢を持った俺は公園に向かった。
祖母ちゃんが公園の入口に立っている。
おそらく公園を見えなくしているのだろう。
三人とも近所なのでほぼ同時に入口に付いた。
今日の夕方から誰も入ってきていなかったせいか俺達が足を踏み入れた途端、どこかから現れた鬼が飛び掛かってきた。
「繊月丸!」
高樹が日本刀に姿を変えた繊月丸を掴んで鬼に斬り掛かった。
「すまん、高樹! すぐ用意する」
俺は慌ててアーチェリーのケースを開いた。
アーチェリーは弓の形で持ち歩くわけにはいかないので仕度をしなければならない分、日本刀の高城より出遅れてしまう。
繊月丸は化生だから鞘を抜く必要すらないので尚更だ。
仕度が出来ると、俺はアーチェリーに矢をつがえた。
高樹が振り下ろした繊月丸を鬼が爪で弾く。
弾かれた刃を返す刀で横に払う。
鬼が後ろに飛び退いた。
と思った瞬間、鬼は前のめりに突っ込んでいった。
巨体に似合わぬ素早さだ。
俺が矢を放つ。
矢が鬼の肩を掠める。
僅かに肩の肉が抉れた。
鬼が吠える。
高樹が大きく踏み込んで逆袈裟に斬り上げた。
鬼が脇に避けたが切っ先が掠った。
掠めたのはほんの僅かだったはずだが、ごそっと脇腹が削れる。
すげぇな、繊月丸……。
再び鬼が吠える。
鬼が高樹に向かって行く。
高樹は鬼が横に払った腕を頭を下げて避けると繊月丸を斬り上げた。
鬼が斜め後ろに跳んだ。
追い縋ろうとした高樹を鬼が蹴り上げる。
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あと少しで足の爪先が高樹に届くという時、黒い影が鬼に飛び掛かった。
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