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第五章
第五章 第六話
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四月二十五日 土曜日
翌朝、目覚めると、またもや知らない中年男が部屋で寝ていた。
この前とは別の男だ。
「ミケ!」
俺が怒鳴ると中年男――ミケはイエネコの姿に戻った。
『うるさいわね。何よ』
「お前、また人を喰い殺してきたな!」
『食べてないわよ。殺しただけ』
「もうやらないって言っただろ!」
『言ってないわよ』
「この前の男は小早川を殺したからだったんじゃなかったのか!?」
『そうよ』
「じゃあ、今度はなんだ!」
『あやのママを殺そうとしたのよ。あやを殺させたのもあの男の差し金だった。あの男はあやのママのお兄さんよ』
「なんで小早川の伯父さんが小早川を殺すんだよ」
『何かが手に入るって言ってた。あやと、あやのママを殺して自分のものにしようとしたって』
「小早川の伯父さんがそう言ったのか?」
『そうよ。あやのママを殺せば手に入るって……』
「じゃあ、これで終わりだな」
『多分ね』
ミケの言葉に俺はそれ以上は何も言わずに階下に降りた。
俺に何が出来る?
人を殺したからミケを殺すのか?
そんなことは出来ない。
小早川に大事にすると約束したからではない。
人を殺したからといって、殺人犯を勝手に殺していいという理由にはならない。
勝手に殺してはいけないのはミケに対しても同じだ。
裁いて良いのは裁判官など裁く資格を持っている人だけだ。
資格がない人間が裁く事を許したら世の中は無法地帯になってしまう。
当然ミケも殺人犯を殺してはいけなかったわけだが、これは人間の決まりだからミケには通用しない。
何日も帰りを待ち続けた挙げ句、二度と会えないと悟った時の絶望。
それは誰にも理解出来ないだろう。
祖母ちゃんが出ていったあの日――。
俺は祖母ちゃんが出掛けようとしているのを見て、
「どこ行くの?」
と声を掛けた。
祖母ちゃんは振り返って微笑むと、
「大好きだよ、孝司。ずっと側にいるからね。いつも見守ってるよ」
そう言って出て行ったまま二度と帰ってこなかった。
俺も祖母ちゃんがいなくなったばかりの頃、ずっと帰りを待っていた。
しかし、どれだけ待っても祖母ちゃんは帰ってこなかった。
祖母ちゃんは死んだとは言われなかったから、いつか消息が分かるかもしれないという希望を持っていた。
そして再会出来た。
だがミケは違う。
小早川は死んでしまったのだからいつか会えるかもしれない、などという期待は出来ない。
小早川を失った悲しみのあまり化猫になってしまったミケには人間の決まりなど理解出来ないだろうし、したくもないだろう。
ミケは、あの男が小早川の母親を殺そうとしていたと言っていた。
つまりミケは小早川の家の様子を見に行っていたのだ。
おそらく今までに何度も……。
もしかしたら小早川がいるかもしれないという一縷の望みに縋って……。
けれど小早川はもう戻らない。
いくら待っても帰ってはこないのだ。
俺にミケを裁く資格はないが警察に突き出すことも出来ない。
虎サイズに化けている時ならともかく、イエネコ姿のミケを連続殺人犯です、と言って警察に渡したところで「ふざけるな!」と叱られるのがオチだ。
ミケもこれ以上は人を殺したりしないだろうし、私刑は良くないと言っても殺された二人は金のために小早川を殺したのだから文句を言う資格はないだろう。
俺はこの件は忘れることにした。
俺は家を出て秀達や祖母ちゃんと合流すると根岸に向かった。
戦いにはならないだろうということで雪桜も一緒に来ていた。
万が一戦いになっても祖母ちゃんや白狐が秀と雪桜を守ってくれるだろう。
戦いに備えて、と言う訳ではないのだが繊月丸も一緒に随いてきていた。
駅に向かう途中、妖奇征討軍と出会した。
「おい、あの化猫はどこだ」
「さぁな」
「隠す気か!」
「あいつをどうしようってんだ」
「無論、退治する」
「どうして」
「虎に殺されたって言ってる人はあの猫に殺されたんだ!」
「夕辺もまた一人殺された!」
「あの猫は人殺しだ!」
なかなか鋭いな。
まぁ、あの巨大化した姿を見れば一目瞭然か。
妖奇征討軍なんて名乗ってはいるがバカではないらしい。
ただの痛々しい連中か……。
「あの猫がやったって証拠はあるのか」
「それは……」
「証拠も無いのに殺させるわけにはいかないな」
「化物を退治するのに証拠なんか必要ない!」
「あいつはまたやる! これ以上被害者を増やすのか!」
「またやるって証拠は?」
「証拠なんかなくてもやるに決まってる」
「必ず退治してやるからな!」
妖奇征討軍はそう言い捨てると行ってしまった。
もうミケが人を襲う事はないはずだ。
一度目は小早川を殺した実行犯だったから仇を討ったのだし、夕辺は結果的に小早川殺害の黒幕だったから仇討ちになったとは言え、殺した理由は小早川の母親を守るためだ。
問題はイエネコの姿を見られてしまっていると言う事だな……。
三毛猫やキジトラなど、どこにでもいそうな体毛ならともかくミケはシャムの血が入っているからかなり特徴的だ。
誤魔化すのは難しい。
ミケに警告しておいた方がいいかもしれないな……。
根岸の寺の近くまで来た時、見覚えのある女性が出てきた。
あの妖奇征討軍の姉だという女性だ。
女性は俺達とは反対の方へ歩いて行く。
翌朝、目覚めると、またもや知らない中年男が部屋で寝ていた。
この前とは別の男だ。
「ミケ!」
俺が怒鳴ると中年男――ミケはイエネコの姿に戻った。
『うるさいわね。何よ』
「お前、また人を喰い殺してきたな!」
『食べてないわよ。殺しただけ』
「もうやらないって言っただろ!」
『言ってないわよ』
「この前の男は小早川を殺したからだったんじゃなかったのか!?」
『そうよ』
「じゃあ、今度はなんだ!」
『あやのママを殺そうとしたのよ。あやを殺させたのもあの男の差し金だった。あの男はあやのママのお兄さんよ』
「なんで小早川の伯父さんが小早川を殺すんだよ」
『何かが手に入るって言ってた。あやと、あやのママを殺して自分のものにしようとしたって』
「小早川の伯父さんがそう言ったのか?」
『そうよ。あやのママを殺せば手に入るって……』
「じゃあ、これで終わりだな」
『多分ね』
ミケの言葉に俺はそれ以上は何も言わずに階下に降りた。
俺に何が出来る?
人を殺したからミケを殺すのか?
そんなことは出来ない。
小早川に大事にすると約束したからではない。
人を殺したからといって、殺人犯を勝手に殺していいという理由にはならない。
勝手に殺してはいけないのはミケに対しても同じだ。
裁いて良いのは裁判官など裁く資格を持っている人だけだ。
資格がない人間が裁く事を許したら世の中は無法地帯になってしまう。
当然ミケも殺人犯を殺してはいけなかったわけだが、これは人間の決まりだからミケには通用しない。
何日も帰りを待ち続けた挙げ句、二度と会えないと悟った時の絶望。
それは誰にも理解出来ないだろう。
祖母ちゃんが出ていったあの日――。
俺は祖母ちゃんが出掛けようとしているのを見て、
「どこ行くの?」
と声を掛けた。
祖母ちゃんは振り返って微笑むと、
「大好きだよ、孝司。ずっと側にいるからね。いつも見守ってるよ」
そう言って出て行ったまま二度と帰ってこなかった。
俺も祖母ちゃんがいなくなったばかりの頃、ずっと帰りを待っていた。
しかし、どれだけ待っても祖母ちゃんは帰ってこなかった。
祖母ちゃんは死んだとは言われなかったから、いつか消息が分かるかもしれないという希望を持っていた。
そして再会出来た。
だがミケは違う。
小早川は死んでしまったのだからいつか会えるかもしれない、などという期待は出来ない。
小早川を失った悲しみのあまり化猫になってしまったミケには人間の決まりなど理解出来ないだろうし、したくもないだろう。
ミケは、あの男が小早川の母親を殺そうとしていたと言っていた。
つまりミケは小早川の家の様子を見に行っていたのだ。
おそらく今までに何度も……。
もしかしたら小早川がいるかもしれないという一縷の望みに縋って……。
けれど小早川はもう戻らない。
いくら待っても帰ってはこないのだ。
俺にミケを裁く資格はないが警察に突き出すことも出来ない。
虎サイズに化けている時ならともかく、イエネコ姿のミケを連続殺人犯です、と言って警察に渡したところで「ふざけるな!」と叱られるのがオチだ。
ミケもこれ以上は人を殺したりしないだろうし、私刑は良くないと言っても殺された二人は金のために小早川を殺したのだから文句を言う資格はないだろう。
俺はこの件は忘れることにした。
俺は家を出て秀達や祖母ちゃんと合流すると根岸に向かった。
戦いにはならないだろうということで雪桜も一緒に来ていた。
万が一戦いになっても祖母ちゃんや白狐が秀と雪桜を守ってくれるだろう。
戦いに備えて、と言う訳ではないのだが繊月丸も一緒に随いてきていた。
駅に向かう途中、妖奇征討軍と出会した。
「おい、あの化猫はどこだ」
「さぁな」
「隠す気か!」
「あいつをどうしようってんだ」
「無論、退治する」
「どうして」
「虎に殺されたって言ってる人はあの猫に殺されたんだ!」
「夕辺もまた一人殺された!」
「あの猫は人殺しだ!」
なかなか鋭いな。
まぁ、あの巨大化した姿を見れば一目瞭然か。
妖奇征討軍なんて名乗ってはいるがバカではないらしい。
ただの痛々しい連中か……。
「あの猫がやったって証拠はあるのか」
「それは……」
「証拠も無いのに殺させるわけにはいかないな」
「化物を退治するのに証拠なんか必要ない!」
「あいつはまたやる! これ以上被害者を増やすのか!」
「またやるって証拠は?」
「証拠なんかなくてもやるに決まってる」
「必ず退治してやるからな!」
妖奇征討軍はそう言い捨てると行ってしまった。
もうミケが人を襲う事はないはずだ。
一度目は小早川を殺した実行犯だったから仇を討ったのだし、夕辺は結果的に小早川殺害の黒幕だったから仇討ちになったとは言え、殺した理由は小早川の母親を守るためだ。
問題はイエネコの姿を見られてしまっていると言う事だな……。
三毛猫やキジトラなど、どこにでもいそうな体毛ならともかくミケはシャムの血が入っているからかなり特徴的だ。
誤魔化すのは難しい。
ミケに警告しておいた方がいいかもしれないな……。
根岸の寺の近くまで来た時、見覚えのある女性が出てきた。
あの妖奇征討軍の姉だという女性だ。
女性は俺達とは反対の方へ歩いて行く。
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