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第三章
第三章 第五話
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鬼が左腕を横に払う。
高城が振った繊月丸の刃が当たり、腕がすっぱりと切断されて落ちた。
鬼は咆哮を上げると煙になって消えてしまった。
高樹はしばらく刀を構えていた。
「もう出てこないわよ」
祖母ちゃんがそう言うと高樹は刀を下ろした。
「繊月丸、人間の姿になってくれ」
俺が声を掛ける。
日本刀が女の子の姿になった。
刀の化身だけあって凛として整った顔立ちをしている。
「これ、どうするの?」
秀が鬼の腕を指して訊ねた。
「鬼は死んだ訳じゃないんだろ?」
「一時的に姿を隠しただけよ。後で取りに来るわ」
「じゃあ、今度こそ倒さないと。繊月丸、手伝ってくれるか」
高樹がそう言うと繊月丸は黙って頷いた。
「今夜、大森か内藤の家に泊まってることにしていいか? 遅くまで帰らないと母さんが心配するから」
「なら秀の家にしてくれ。俺も秀の家に泊まるってことにして付き合うよ」
「じゃあ、僕はアリバイ工作するね」
秀が言った。
用がある時はスマホに掛けてくるはずだが、秀の家に電話して来ないとも限らない。
特に高樹の母親は高樹が初めて秀の家に泊まるからと言う事で掛けてくるかもしれない。
その時、秀に電話を取って誤魔化してもらう必要がある。
「雪桜は帰ってくれ」
俺は雪桜にそう言った。
雪桜は鬼が見えないのだからいても危険なだけだ。
「うん、皆気を付けてね」
今の激しい攻防を見ていた雪桜は「自分も一緒に残りたい」などと言ってごねたりしなかった。
「祖母ちゃんはどうする?」
「しょうがないわね。残るわよ」
「俺は一旦家に戻って弓取ってくる」
「え、弓道やってるのか?」
「アーチェリーだ」
俺は中学の時、アーチェリー部だったが高校にはアーチェリー部がないので辞めてしまった。
滑り止めの高校はアーチェリー部があるところを選んだが第一志望に合格したし、どうしてもアーチェリーを続けたいというわけでもなかったから徒歩で行ける上に秀や雪桜と一緒に通える今の高校を選んだのだ。
「オレはここで見張ってるから、戻ってくるとき弁当買ってきてくれ」
「分かった」
俺がアーチェリーを入れたケースと弁当や夜食を持って神社に戻ると高樹達の姿が見えない。
「高樹?」
俺は声を潜めて呼び掛け、辺りを見回した。
すると石碑の陰から高樹が顔を出して手招きした。
この神社は鳥居を入ってすぐのところに、いくつかの大きな石碑が建っていて表から姿を隠すには丁度いい。
俺も石碑の裏に回った。
少し離れたところに鬼の腕が置かれている。
最初のうちは緊張して待っていたが、いつ来るか分からないことから次第に緊張は緩んでいった。
「お前の名前、なんだったっけ?」
高樹が刀の化身に訊ねた。
「骨喰繊月丸」
刀の化身――繊月丸が答えた。
「どうして鬼と戦ってたんだ?」
「ここにいたら襲い掛かってきた」
「どうしてここにいたんだ? それも人間の姿で」
「分からない。何かに引き寄せられてここまで来た」
繊月丸の答えに高樹と俺は顔を見合わせた。
「例の儀式か」
「多分ね」
祖母ちゃんが答える。
ホントにハタ迷惑な連中だな、妖奇征討軍は。
「繊月丸、持ち主は? 当然いるだろ」
「少し前に死んだ」
「じゃあ、秋山さんかな? 刀集めが趣味だったって言うし、しばらく前に亡くなったって聞いた」
俺は母さん達の噂話を思い出しながら言った。
「家族は?」
高城が訊ねてきた。
家族がいるなら所有者は遺族だからだ。
「いないらしい。役所が告知かなんか出すみたいだけど、多分遺産は全部国のものになるだろうって言ってた」
俺は高樹の問いに答えた。
「じゃあ、繊月丸は返さなくていいよな?」
「いいんじゃないか。繊月丸がいなくなったことにも気付いてないだろうし」
「そうだよな」
高樹は心なしか嬉しそうだった。
「お前、繊月丸を返したくないんだな」
「繊月丸がいなくなったら大幅な戦力ダウンなんだぞ。鬼みたいな大物と戦うのにナイフじゃ手に負えないだろ」
「まぁそうだな」
何より刃物は持っているのを見付かると色々と面倒だが、繊月丸なら戦う時以外は人間の姿になっていれば銃刀法違反で捕まる心配はない。
「上着持ってきてもらえば良かったな」
高樹は両手で襟元をあわせた。
「確かに花冷えがするな」
そんな話をしている間に夜は更けていった。
深夜、もう親が電話をしてこない時間になったところで秀がやってきた。
これより遅い時間に他所の家に電話をするのは非常識だから何か用があればスマホにしてくるだろう。
「寒いんじゃないかと思って」
秀はそう言って高樹と俺にセーターを差し出した。
「助かったよ」
「でも、戦いで汚れたり破れたりするかもしれないぞ」
「いいよ、別に」
秀の返事に俺達は有難く受け取るとセーターを着込んだ。
それからしばらくは会話も途絶え、俺はうつらうつらしていた。
「孝司!」
祖母ちゃんの声にハっとして目覚めた。
見ると鬼の腕から細い煙が立ち上っている。
「繊月丸!」
高樹の声に反応して繊月丸が日本刀の姿に戻った。
高樹が刀を鬼の腕に突き刺す。
咆哮とともに鬼が姿を現した。
高城が振った繊月丸の刃が当たり、腕がすっぱりと切断されて落ちた。
鬼は咆哮を上げると煙になって消えてしまった。
高樹はしばらく刀を構えていた。
「もう出てこないわよ」
祖母ちゃんがそう言うと高樹は刀を下ろした。
「繊月丸、人間の姿になってくれ」
俺が声を掛ける。
日本刀が女の子の姿になった。
刀の化身だけあって凛として整った顔立ちをしている。
「これ、どうするの?」
秀が鬼の腕を指して訊ねた。
「鬼は死んだ訳じゃないんだろ?」
「一時的に姿を隠しただけよ。後で取りに来るわ」
「じゃあ、今度こそ倒さないと。繊月丸、手伝ってくれるか」
高樹がそう言うと繊月丸は黙って頷いた。
「今夜、大森か内藤の家に泊まってることにしていいか? 遅くまで帰らないと母さんが心配するから」
「なら秀の家にしてくれ。俺も秀の家に泊まるってことにして付き合うよ」
「じゃあ、僕はアリバイ工作するね」
秀が言った。
用がある時はスマホに掛けてくるはずだが、秀の家に電話して来ないとも限らない。
特に高樹の母親は高樹が初めて秀の家に泊まるからと言う事で掛けてくるかもしれない。
その時、秀に電話を取って誤魔化してもらう必要がある。
「雪桜は帰ってくれ」
俺は雪桜にそう言った。
雪桜は鬼が見えないのだからいても危険なだけだ。
「うん、皆気を付けてね」
今の激しい攻防を見ていた雪桜は「自分も一緒に残りたい」などと言ってごねたりしなかった。
「祖母ちゃんはどうする?」
「しょうがないわね。残るわよ」
「俺は一旦家に戻って弓取ってくる」
「え、弓道やってるのか?」
「アーチェリーだ」
俺は中学の時、アーチェリー部だったが高校にはアーチェリー部がないので辞めてしまった。
滑り止めの高校はアーチェリー部があるところを選んだが第一志望に合格したし、どうしてもアーチェリーを続けたいというわけでもなかったから徒歩で行ける上に秀や雪桜と一緒に通える今の高校を選んだのだ。
「オレはここで見張ってるから、戻ってくるとき弁当買ってきてくれ」
「分かった」
俺がアーチェリーを入れたケースと弁当や夜食を持って神社に戻ると高樹達の姿が見えない。
「高樹?」
俺は声を潜めて呼び掛け、辺りを見回した。
すると石碑の陰から高樹が顔を出して手招きした。
この神社は鳥居を入ってすぐのところに、いくつかの大きな石碑が建っていて表から姿を隠すには丁度いい。
俺も石碑の裏に回った。
少し離れたところに鬼の腕が置かれている。
最初のうちは緊張して待っていたが、いつ来るか分からないことから次第に緊張は緩んでいった。
「お前の名前、なんだったっけ?」
高樹が刀の化身に訊ねた。
「骨喰繊月丸」
刀の化身――繊月丸が答えた。
「どうして鬼と戦ってたんだ?」
「ここにいたら襲い掛かってきた」
「どうしてここにいたんだ? それも人間の姿で」
「分からない。何かに引き寄せられてここまで来た」
繊月丸の答えに高樹と俺は顔を見合わせた。
「例の儀式か」
「多分ね」
祖母ちゃんが答える。
ホントにハタ迷惑な連中だな、妖奇征討軍は。
「繊月丸、持ち主は? 当然いるだろ」
「少し前に死んだ」
「じゃあ、秋山さんかな? 刀集めが趣味だったって言うし、しばらく前に亡くなったって聞いた」
俺は母さん達の噂話を思い出しながら言った。
「家族は?」
高城が訊ねてきた。
家族がいるなら所有者は遺族だからだ。
「いないらしい。役所が告知かなんか出すみたいだけど、多分遺産は全部国のものになるだろうって言ってた」
俺は高樹の問いに答えた。
「じゃあ、繊月丸は返さなくていいよな?」
「いいんじゃないか。繊月丸がいなくなったことにも気付いてないだろうし」
「そうだよな」
高樹は心なしか嬉しそうだった。
「お前、繊月丸を返したくないんだな」
「繊月丸がいなくなったら大幅な戦力ダウンなんだぞ。鬼みたいな大物と戦うのにナイフじゃ手に負えないだろ」
「まぁそうだな」
何より刃物は持っているのを見付かると色々と面倒だが、繊月丸なら戦う時以外は人間の姿になっていれば銃刀法違反で捕まる心配はない。
「上着持ってきてもらえば良かったな」
高樹は両手で襟元をあわせた。
「確かに花冷えがするな」
そんな話をしている間に夜は更けていった。
深夜、もう親が電話をしてこない時間になったところで秀がやってきた。
これより遅い時間に他所の家に電話をするのは非常識だから何か用があればスマホにしてくるだろう。
「寒いんじゃないかと思って」
秀はそう言って高樹と俺にセーターを差し出した。
「助かったよ」
「でも、戦いで汚れたり破れたりするかもしれないぞ」
「いいよ、別に」
秀の返事に俺達は有難く受け取るとセーターを着込んだ。
それからしばらくは会話も途絶え、俺はうつらうつらしていた。
「孝司!」
祖母ちゃんの声にハっとして目覚めた。
見ると鬼の腕から細い煙が立ち上っている。
「繊月丸!」
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