上 下
16 / 46
第三章

第三章 第五話

しおりを挟む
 鬼が左腕を横に払う。
 高城が振った繊月丸のやいばが当たり、腕がすっぱりと切断されて落ちた。
 鬼は咆哮ほうこうを上げると煙になって消えてしまった。

 高樹はしばらく刀を構えていた。

「もう出てこないわよ」
 祖母ちゃんがそう言うと高樹は刀を下ろした。
「繊月丸、人間の姿になってくれ」
 俺が声を掛ける。
 日本刀が女の子の姿になった。
 刀の化身だけあってりんとして整った顔立ちをしている。

「これ、どうするの?」
 秀が鬼の腕を指して訊ねた。
「鬼は死んだ訳じゃないんだろ?」
「一時的に姿を隠しただけよ。後で取りに来るわ」
「じゃあ、今度こそ倒さないと。繊月丸、手伝ってくれるか」
 高樹がそう言うと繊月丸は黙って頷いた。

「今夜、大森か内藤の家に泊まってることにしていいか? 遅くまで帰らないと母さんが心配するから」
「なら秀の家にしてくれ。俺も秀の家に泊まるってことにして付き合うよ」
「じゃあ、僕はアリバイ工作するね」
 秀が言った。
 用がある時はスマホに掛けてくるはずだが、秀の家に電話して来ないとも限らない。
 特に高樹の母親は高樹が初めて秀の家に泊まるからと言う事で掛けてくるかもしれない。
 その時、秀に電話を取って誤魔化ごまかしてもらう必要がある。

「雪桜は帰ってくれ」
 俺は雪桜にそう言った。
 雪桜は鬼が見えないのだからいても危険なだけだ。
「うん、みんな気を付けてね」
 今の激しい攻防を見ていた雪桜は「自分も一緒に残りたい」などと言ってごねたりしなかった。

「祖母ちゃんはどうする?」
「しょうがないわね。残るわよ」
「俺は一旦いったん家に戻って弓取ってくる」
「え、弓道やってるのか?」
「アーチェリーだ」
 俺は中学の時、アーチェリー部だったが高校にはアーチェリー部がないのでめてしまった。
 すべり止めの高校はアーチェリー部があるところを選んだが第一志望に合格したし、どうしてもアーチェリーを続けたいというわけでもなかったから徒歩で行ける上に秀や雪桜と一緒に通える今の高校を選んだのだ。

「オレはここで見張ってるから、戻ってくるとき弁当買ってきてくれ」
「分かった」

 俺がアーチェリーを入れたケースと弁当や夜食を持って神社に戻ると高樹達の姿が見えない。

「高樹?」
 俺は声を潜めて呼び掛け、辺りを見回した。
 すると石碑せきひの陰から高樹が顔を出して手招きした。

 この神社は鳥居を入ってすぐのところに、いくつかの大きな石碑が建っていて表から姿を隠すには丁度いい。
 俺も石碑の裏に回った。
 少し離れたところに鬼の腕が置かれている。

 最初のうちは緊張して待っていたが、いつ来るか分からないことから次第に緊張はゆるんでいった。

「お前の名前、なんだったっけ?」
 高樹が刀の化身に訊ねた。
骨喰ほねばみ繊月丸せんげつまる
 刀の化身――繊月丸が答えた。

「どうして鬼と戦ってたんだ?」
「ここにいたら襲い掛かってきた」
「どうしてここにいたんだ? それも人間の姿で」
「分からない。何かに引き寄せられてここまで来た」
 繊月丸の答えに高樹と俺は顔を見合わせた。
「例の儀式か」
「多分ね」
 祖母ちゃんが答える。
 ホントにハタ迷惑な連中だな、妖奇征討軍ようきせいとうぐんは。

「繊月丸、持ち主は? 当然いるだろ」
「少し前に死んだ」
「じゃあ、秋山さんかな? 刀集めが趣味だったって言うし、しばらく前に亡くなったって聞いた」
 俺は母さん達の噂話を思い出しながら言った。
「家族は?」
 高城が訊ねてきた。
 家族がいるなら所有者は遺族だからだ。

「いないらしい。役所が告知かなんか出すみたいだけど、多分遺産は全部国のものになるだろうって言ってた」
 俺は高樹の問いに答えた。
「じゃあ、繊月丸は返さなくていいよな?」
「いいんじゃないか。繊月丸がいなくなったことにも気付いてないだろうし」
「そうだよな」
 高樹は心なしか嬉しそうだった。

「お前、繊月丸を返したくないんだな」
「繊月丸がいなくなったら大幅な戦力ダウンなんだぞ。鬼みたいな大物と戦うのにナイフじゃ手に負えないだろ」
「まぁそうだな」
 何より刃物は持っているのを見付かると色々と面倒だが、繊月丸なら戦う時以外は人間の姿になっていれば銃刀法違反で捕まる心配はない。

「上着持ってきてもらえば良かったな」
 高樹は両手で襟元えりもとをあわせた。
「確かに花冷えがするな」
 そんな話をしている間に夜は更けていった。

 深夜、もう親が電話をしてこない時間になったところで秀がやってきた。
 これより遅い時間に他所よその家に電話をするのは非常識だから何か用があればスマホにしてくるだろう。

「寒いんじゃないかと思って」
 秀はそう言って高樹と俺にセーターを差し出した。
「助かったよ」
「でも、戦いで汚れたり破れたりするかもしれないぞ」
「いいよ、別に」
 秀の返事に俺達は有難く受け取るとセーターを着込んだ。

 それからしばらくは会話も途絶え、俺はうつらうつらしていた。

「孝司!」
 祖母ちゃんの声にハっとして目覚めた。
 見ると鬼の腕から細い煙が立ちのぼっている。

「繊月丸!」
 高樹の声に反応して繊月丸が日本刀の姿に戻った。

 高樹が刀を鬼の腕に突き刺す。
 咆哮とともに鬼が姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...