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第二章

第二章 第六話

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 拓真が帰った後、入れ違いで秀と雪桜、高樹がやってきた。

「綾さんに聞いてきたよ」
「それで? なんだって?」
「武蔵野が言うには新宿駅を中心とした半径三キロメートル以内のどこかで化生を呼び寄せる儀式をしたヤツがいるらしい」
 高樹が答えた。
「冗談だろ!?」
「迷惑だよね」
 秀も困ったような顔をしている。

「それで? どうすればいいって?」
「儀式の跡を見付けてそれを浄化すればいいって」
「浄化ってどうすればいいんだ?」
 俺が訊ねると三人は黙り込んだ。
「方法は? まさか分からないとかじゃないよな?」
「実は……」
 秀は言いにくそうに答えた。

「分からない」

 と。

「じゃあ、どうすんだ?」
 あんな化物に頻繁ひんぱんに出てこられても困る。
「とりあえず、儀式の跡だけでも探そう」
 高樹がそう言うと、雪桜がスマホで地図アプリを開いた。
 俺達もそれぞれスマホで開く。
「半径三キロメートルってかなり広いな」
 しかもその儀式の跡とやらが、どこかの敷地にあったら見付けるのはまず無理だ。
 一々他人の敷地に忍び込んで、あるかどうかも分からない儀式の跡というものを探すわけにはいかない。
 そもそもオフィスビルなどは忍び込むことすら出来ないだろう。
 そのうえ儀式の跡というのがどういうものなのかも分からないという。
 となると目の前にあっても気付かない可能性が高い。

「あ、儀式をしたのは神社だって」
 かなり絞られるがそれでも神社は沢山ある。
 住宅街の中の小さな神社というのは意外と多い。
 そして新宿の大半は住宅地だ。
 通りに面しているところが軒並みオフィスビルや商業ビルだから分からないだけで、実はその裏のほとんどは住宅街なのである。
 高層マンションも大半は大通りに面していて裏側の住宅は一戸建てばかりである。
 通り沿いのビルが大きいから目隠しになってしまっていて後ろが見えないから分からないだけなのだ。
 住宅地の中は小さなマンションやアパートがある程度で基本的には一戸建てだ。
 そしてその住宅街の中に小さな神社が点在てんざいしている。
 江戸は伊達に『伊勢屋、稲荷に犬のフン』と言われていたわけではないのだ。
 伊勢屋と言う名前の店と稲荷神社は山ほどあった……らしい。それと犬のフンも。
 伊勢屋は伊勢丹くらいだが稲荷神社はほとんどが今も残っているようだ。
 まぁ四谷より西は江戸郊外だが。

「綾……には場所が分かるんじゃないのか? 化生なんだし」
 俺には『綾』という言葉が言いにくかった。
 もしかしたら祖母ちゃんかもしれないのだ。
「近すぎて分からないんだって。綾さんは元々ここにいた化生だし」
 秀の言葉にがっくりした。
 しかし俺は祖母ちゃんだと信じてない割には綾に頼り切ってるな。
 それはともかく神社は沢山あるから全部回るには何日掛かるか分かったものではない。

「新宿駅から半径三キロっていったら新宿からはみ出ちゃうぞ」
 新宿駅は新宿の端に近いから西に行ったら中野区だし、南に行けば渋谷区だ。
「新宿には特にこだわってないみたいだよ」
 この近辺ならどこでもいって事か。
「そういえば……」
 雪桜が口を開いた。
妖奇征討軍ようきせいとうぐんって言ってたっけ。あの人達、この前、近くの神社で見掛けたよ」
「どこだ?」
 俺の問いに雪桜が近所の神社の名をげた。

「もしかしたら何かがいたのかもしれないけど――」
 雪桜は全く見えないから何かがいたとしても分からない。
「――化生退治してるようにも見えなくて……。この前の狸さんの時は結構騒いでたでしょ」
 一瞬、あの狸が退治されてしまったのではないかという不安が脳裏をよぎったが、雪桜の言うようにあの時も大騒ぎしながら追い掛け回していた。
 そう言う風には見えなかったなら少なくともあの狸ではないだろう。
「なら、まずそこに行ってみよう。そこで見付からなければ新宿中を回るしかないな」

 それと中野と渋谷も……。

 地図アプリを見たら明治神宮も三キロ圏内に入っている。
 俺は溜息をいた。

 半径三キロを当てもなく彷徨さまようなど冗談ではないのだが……。

「一応、綾さんも誘ってみるよ」
 秀が言った。
 まぁ秀からしたら男同士で一日中歩き回るより彼女が一緒の方が楽しいだろう。
「幸い明日は土曜日だ。早速明日から回ってみよう」
「それしかないようだな」

 仕方ない……。

 俺は諦めて覚悟を決めた。

「あ、雪桜は来なくていいぞ」
「どうしてよ」
 雪桜がふくれた。
「分かってるのか? 半径三キロ以内のところを歩き回るのがどれだけ大変か」
「相当な重労働だよ」
「女の子のすることじゃないぜ」
 俺達が口々に説得すると、雪桜は渋々諦めた。
 翌日の待ち合わせの場所と時間を決めると三人は帰っていった。

 深夜、目が覚めるとまたもや女の子の幽霊が座っていた。
 よく見ると女の子はミケの側にいる。

「おい、ミケ! お前が化けてるんじゃないだろうな」
『何の事よ』
 ミケはうるさそうに顔を上げる。
 幽霊が消えた。
 どうやらミケの仕業ではないらしい。

 じゃあ、本物……。

 顔から血が引くのが分かった。
 俺は慌てて布団をかぶると見なかった振りをした。

 何もいない、何もいない、何もいない、何もいない、何もいない……。

 目をキツくつぶり必死で自分に言い聞かせているうちにいつの間にか眠ってしまった。
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