上 下
44 / 51

43.歌うエメちゃんギルド飲み会

しおりを挟む

4月、2の華光。
商業ギルド新職員歓迎会が行われる。

隣の席の先輩が幹事をしてくれ、ほぼ全員揃っての飲み会だ。

「それじゃあ!新職員の輝かしい未来を祈って!かんぱ~い!!」
「「「乾杯!!」」」

ちなみにアンリくんは朝からテンション高めで、今も隣で嬉しそうにお酒をゴクゴク飲んでいる。

「あれ、アンリくんお酒いけるんだ?」
「わかんないっす!!」

さすが犬。満面の笑みだ。
まあいいさ、失敗もまた社会人への一歩だ。

あんまり飲みすぎると明日辛くなったりするから気をつけてね、と一応声だけかけておく。
記憶無くすとか寝ゲロとか悲惨な人を見てきたから、自分は深酒をしないように気をつけている。

上司に気を遣いながら無事に会を乗り切る。


「もう~!あのハゲ親父!またナチュラルにセクハラしてきたんだけど!お酒飲まない方がいいんじゃない?!」

ああいう人もいるから気をつけてね!、とレンちゃんが後輩たちに注意喚起している。

この後は独身者だけでカラオケへ行く。
上司に気を遣わなくて良いようにとギルド長が若者だけにしてくれた。
カラオケなのは幹事の先輩曰く、ここで打ち解けようではないか!らしい。まあ関わりのない後輩は話すことも特にないしこれでいいのかな?

レンちゃんが何をされたのか話を聞いてあげる。あーうんうん、完全に駄目なやつ。彼氏ともう一線を越えているのかどうか、まだ結婚前だろとかなんとか。
好きな人に言われても"ん?"って疑問になるのに、気持ち悪いね。

みんなも気をつけてね。まともに相手しちゃ駄目だよ、なんて話をしながらカラオケについた。


『残酷な勇者の天使』というみんなで盛り上がれる曲でワイワイする。
勇者の母が、生まれた時から特別なこの子はいつか天使に連れられて窓辺から去っていくのだわと歌う曲だ。
私との思い出を裏切って去っていくなら伝説になりなさい!と力強い母のエールが唸る。

カラオケを提案した先輩が代表して歌い上げた。その後もみんなで踊れる『恋です』や『相性占いのお菓子』などで盛り上がった。
合いの手を入れたり、上手いね~なんて他人事していたら、先輩に「あれ歌って!エメちゃんのあれ聴きたい!」と曲を入れられた。

『情熱の欲望』という少し古い曲だ。
しょうがないので踊り付きでノリノリでやってあげたら先輩が大喜びしていた。私も大概酔っているらしい。羞恥心なしの全開だ。
後輩たちも"エメちゃん!"とか"はーどっこい!"なんて合いの手を入れていたので良かった良かった。

ひと通り騒いで、今は1人が1曲を順番に歌う感じの時間になってきた。
アイちゃんとお手洗いに抜ける。鞄を持ってきたのでお化粧を直して、そろそろお開きかな~なんて話していた。


お手洗いを出たらばったりブリュノ様に出会った!

「エメリーヌちゃんじゃないか!こんなところで会うなんて奇遇だね!」

両腕を広げて喜びを露わにしてくれる。

「私も久しぶりにお会いできて嬉しいです!ブリュノ様もカラオケ利用されるんですね!」

満面の笑みで尋ねると、どうやら普段こういうところは来ないらしい。今日は本関連の方たちと来たようだ。

あ、『フローラの夏』の先生だ。
隣にいた先生にも、お久しぶりです、と挨拶をする。

「いやあ、最近の子の歌とかよく分からないからねえ。いまいち盛り上がれなくて」

それでも来たのは、いま先生が書いている作品に片想いの女の子や遊び人の女の子が登場してカラオケに行くシーンがあるからだとか。
描写が上手くいかないから行き詰まっているらしく、誰かが歌えばいけるかな精神で来たけれど芳しくないそうだ。

「そうだ!エメリーヌちゃん、ちょっとうちに来て歌ってくれないかい?」

それにソレイユ君もいるよ、と。

え!!!早く言ってよ!!!!!
…あ、わざとだこの人。むー……

ぽーんと飛びつきそうになった後に膨れる。もうもう。

「あの…ご迷惑だとは思うのですが是非歌ってはいただけませんか?」

貴方に歌っていただければ捗ります、なんて先生に言われたら断れない。

「私のつたない歌でよろしければ。先生の作品は恋の描写が素敵ですからね」

その代わり上手く歌えたらまた作品を贈ってくださいませんか、なんておねだりしといた。

「アイちゃんごめんね、ちょっと抜けます!」と、待っててくれた彼女に両手を合わせる。
彼女がするっと腕に抱きついてきて、耳元で「例の彼ですよね?歌で落としてきてくださいね!」とニヤッと囁いてきた。
ばか、そんなので落ちていたら苦労しないし歌うの緊張しちゃうでしょ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

処理中です...