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43.歌うエメちゃんギルド飲み会
しおりを挟む4月、2の華光。
商業ギルド新職員歓迎会が行われる。
隣の席の先輩が幹事をしてくれ、ほぼ全員揃っての飲み会だ。
「それじゃあ!新職員の輝かしい未来を祈って!かんぱ~い!!」
「「「乾杯!!」」」
ちなみにアンリくんは朝からテンション高めで、今も隣で嬉しそうにお酒をゴクゴク飲んでいる。
「あれ、アンリくんお酒いけるんだ?」
「わかんないっす!!」
さすが犬。満面の笑みだ。
まあいいさ、失敗もまた社会人への一歩だ。
あんまり飲みすぎると明日辛くなったりするから気をつけてね、と一応声だけかけておく。
記憶無くすとか寝ゲロとか悲惨な人を見てきたから、自分は深酒をしないように気をつけている。
上司に気を遣いながら無事に会を乗り切る。
「もう~!あのハゲ親父!またナチュラルにセクハラしてきたんだけど!お酒飲まない方がいいんじゃない?!」
ああいう人もいるから気をつけてね!、とレンちゃんが後輩たちに注意喚起している。
この後は独身者だけでカラオケへ行く。
上司に気を遣わなくて良いようにとギルド長が若者だけにしてくれた。
カラオケなのは幹事の先輩曰く、ここで打ち解けようではないか!らしい。まあ関わりのない後輩は話すことも特にないしこれでいいのかな?
レンちゃんが何をされたのか話を聞いてあげる。あーうんうん、完全に駄目なやつ。彼氏ともう一線を越えているのかどうか、まだ結婚前だろとかなんとか。
好きな人に言われても"ん?"って疑問になるのに、気持ち悪いね。
みんなも気をつけてね。まともに相手しちゃ駄目だよ、なんて話をしながらカラオケについた。
『残酷な勇者の天使』というみんなで盛り上がれる曲でワイワイする。
勇者の母が、生まれた時から特別なこの子はいつか天使に連れられて窓辺から去っていくのだわと歌う曲だ。
私との思い出を裏切って去っていくなら伝説になりなさい!と力強い母のエールが唸る。
カラオケを提案した先輩が代表して歌い上げた。その後もみんなで踊れる『恋です』や『相性占いのお菓子』などで盛り上がった。
合いの手を入れたり、上手いね~なんて他人事していたら、先輩に「あれ歌って!エメちゃんのあれ聴きたい!」と曲を入れられた。
『情熱の欲望』という少し古い曲だ。
しょうがないので踊り付きでノリノリでやってあげたら先輩が大喜びしていた。私も大概酔っているらしい。羞恥心なしの全開だ。
後輩たちも"エメちゃん!"とか"はーどっこい!"なんて合いの手を入れていたので良かった良かった。
ひと通り騒いで、今は1人が1曲を順番に歌う感じの時間になってきた。
アイちゃんとお手洗いに抜ける。鞄を持ってきたのでお化粧を直して、そろそろお開きかな~なんて話していた。
お手洗いを出たらばったりブリュノ様に出会った!
「エメリーヌちゃんじゃないか!こんなところで会うなんて奇遇だね!」
両腕を広げて喜びを露わにしてくれる。
「私も久しぶりにお会いできて嬉しいです!ブリュノ様もカラオケ利用されるんですね!」
満面の笑みで尋ねると、どうやら普段こういうところは来ないらしい。今日は本関連の方たちと来たようだ。
あ、『フローラの夏』の先生だ。
隣にいた先生にも、お久しぶりです、と挨拶をする。
「いやあ、最近の子の歌とかよく分からないからねえ。いまいち盛り上がれなくて」
それでも来たのは、いま先生が書いている作品に片想いの女の子や遊び人の女の子が登場してカラオケに行くシーンがあるからだとか。
描写が上手くいかないから行き詰まっているらしく、誰かが歌えばいけるかな精神で来たけれど芳しくないそうだ。
「そうだ!エメリーヌちゃん、ちょっとうちに来て歌ってくれないかい?」
それにソレイユ君もいるよ、と。
え!!!早く言ってよ!!!!!
…あ、わざとだこの人。むー……
ぽーんと飛びつきそうになった後に膨れる。もうもう。
「あの…ご迷惑だとは思うのですが是非歌ってはいただけませんか?」
貴方に歌っていただければ捗ります、なんて先生に言われたら断れない。
「私の拙い歌でよろしければ。先生の作品は恋の描写が素敵ですからね」
その代わり上手く歌えたらまた作品を贈ってくださいませんか、なんておねだりしといた。
「アイちゃんごめんね、ちょっと抜けます!」と、待っててくれた彼女に両手を合わせる。
彼女がするっと腕に抱きついてきて、耳元で「例の彼ですよね?歌で落としてきてくださいね!」とニヤッと囁いてきた。
ばか、そんなので落ちていたら苦労しないし歌うの緊張しちゃうでしょ!
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