22 / 51
21.乙女なエメちゃん中継地点
しおりを挟むきゅるるる、ガチャン
「オルレーに着いたで~」
んんん…
なんだっけ…おるれー…おるれー……
オルレー?!
驚いて目を覚ますと、頬が寒い。
さっきまで温かったのにとぬくもりの方を見るとソレイユ様がやけに近かった。
視線をずらすと、なななななんと!!
これは何?!願望?!具現化した欲求!!!
彼の腕をしっかり抱いていた。
慌てて離し、ソレイユ様の顔を確認する。
彼も寝ていたようで少しだけ眠そうだ。眼鏡を軽く持ち上げて目を擦っているのが可愛い。
「そ、ソレイユ様…本当に申し訳ありません。あの、腕をお借りしてしまったようで…」
神様の腕を枕にするなんて、この不届き者っ!と小さめエメリーヌが上から説教をしてくる。
「気にしないでください。僕も少し寝てしまいました。よく眠れましたか?」
「それはもうぐっすり…」
はた、といつ車に乗ったっけと思い出す。
「あれ、私、お手洗いに行って、壁際でソレイユ様を探していたんですよね?」
「…覚えていないんですか?あのリキュールはよっぽどアルコール度数が高かったようですね」
なんだか感心しているが、ちょっと待って。
私、社会人4年目にして記憶を無くすほど酔っ払うなんて!
普段こんなに酔ったことないのに何故あの一杯で…
半日歩き回って疲れていたのと、飲んでから立って歩いて酔いが回った?
半泣きになりながら俯いてぐるぐると考えていると彼が少しかがんで覗き込んできた。
「落ち込んでいるんですか?大丈夫、可愛かったですよ」
頭ぽん。
覗き込んで、ぽんっ。きゅんっ。
寝起きの気怠げな彼がふわっと微笑んで、推しが格好良すぎて辛いやら自分が情けないやらで泣けてきた。
「わ、そんなにショックだったんですか?あの一杯で酔っ払ってしまうなんて僕も想像できなかったですから」
片手で抱き寄せて、もう片手でよしよしっと撫でてくれる。うぅ~。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした…」
「迷惑じゃないですよ…よしよし」
や、優しいよお~。
ソレイユ様の腕の中をたっぷり堪能する。
ああ、いい匂い……
甘く爽やかな果物のような、お日様のような、落ち着く香り。
この匂い好き…もっと嗅いでいたい……
「…お手洗い行きたいです」
そういえば寝起きだから尿意を感じている。我慢できなくなってきた。恥ずかしい。
「丁度休憩地点で良かったですね。僕も行っておきます」
コートを羽織ってお互い車を降り、お手洗いに向かう。
コートを脱いだ記憶がなく、私の畳み方と違ったので慌てて彼に聞く。
暑くてその辺にぽいっとしたのだろうか。彼の上に投げてないよね?
「すみません、もしかしてコート畳んでくれましたか?」
「はい。…あの、お気を悪くされたら申し訳ありません。僕が補助させていただきました」
目を逸らして困り顔の彼が告げる。
ほじょ?何の?
…………もしかして、脱がせてくれたってこと?!?!
「えっと、その、そんなことまでお世話になって…?」
目を丸くして聞いたら、「すみません、コートを脱いでは、とお声がけしたらどうぞと言われたので…」
ひええええええええ。ま、まじでか。
私、大胆すぎないか!?
「重ね重ねご迷惑をおかけしました」
「いいえ。どういたしまして」
はにかんだ彼は、やっぱり神様だ。
すっかり夜も深まって、暗いオルレー。
ぽつぽつとある街灯のオレンジ色の灯りを頼りに公衆用のお手洗いに入る。
用を足したら、コートのファスナー付き内ポケットに入っていたリップで軽くお直し。
わーん、こんなブスな顔で寝てたの?泣きたい…。滲んだ目尻の化粧を指でちょんちょんと取って浄化した。
飲み物を買って喉を潤し、魔道車へ戻った。
そういえば、靴はずっと履いていたなと浄化魔法をかけてフットレストに足を乗せる。ちょっとむくんでる。お風呂でほぐさないと明日が辛いぞ。
酔っていた間の行動を全て確認してやらかしたことを把握したいが、あんまりしつこく聞いても鬱陶しいだろう。
彼が怒ってないということは、罪は許されたと思おう…今は忘れるんだ私。
「雪まつり、楽しかったですね。」
「想像以上でしたね!今日は本当にありがとうございました」
ご飯もまたご馳走になってしまった。
彼は女の子に出させないタイプのようなのであまり食い下がるのも可愛げがないと思い、気持ちよくお言葉に甘えていた。
「また、一緒にお出かけしてもらえますか?」
今日の酔っ払い行動が及ぼす影響が不安で、眉を下げて彼に問う。
「こちらこそ、是非」
よ、よかったーーーー!!!!
壊滅的なやらかしはなかったようだ、セーフセーフ。
「次お会いするのは手芸体験会でしょうか?確か、持ち物は特にいらないんでしたよね」
「はい。こちらで針や布を用意するので…もしかしたらエメリーヌさんのように本格的に行われる方には足りない物があるかもしれませんが…」
「針と糸と布があれば充分です!」
楽しみだなあ。姪っ子も連れて行ってあげようかなあ。
調子に乗って刺繍に集中しすぎないように気をつけないと。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる