1 / 10
第1話 静電気
しおりを挟む
今日もようやく高校が終わった。
昼頃から雪は降り始め、特に変わることの無い時間が過ぎていった。
学校の階段を降り、昇降口で靴に履き替え、校門を出る。
校門前ではカップルらしい2人組がいちゃついていた。
俺には全く関係のない話。
マンションはこの学校から少しある。
バスで3つ程バス停を過ぎた場所で降り、そこから数分歩く。
学校からマンションまでの道のりは、体育でもなければ運動することのない俺にとっては丁度良い運動になるだろう。
ようやくマンションに着いた。
いつも運動のために4階の部屋まで階段で行くことにしている。
3階の踊り場に着いた頃、話し声…と言うには少し荒らげた声が聞こえた。
天倉奏。
容姿、仕草、品、そして適度な天才さ。
俺の学校はだいぶ特殊で、生徒会は校長の指名で決まり、信任投票もなしに本人が良ければ即決というだいぶ独裁的な決め方だ。
そこで生徒会長に選ばれたのが甘倉というわけだ。
そして俺が副会長。
…とにかく何処をとっても理想的な甘倉は、俺とは住む世界が違う。
いや、物理的には隣の部屋に住んでいるのだが。
1年生が生徒会長、副会長を務めるのはよくあることらしくそこまで問題ではない。問題なのは男子からの嫉妬の目だ。
甘倉と一緒にいられる、それだけで嫉妬の対象なのだろう。
話を戻すが、そんな甘倉の親だろう人が怒鳴っていた。
『またですか。8位、7位と来て前回9位に下がった。今度こそ1位とってくださいね。
なんでこんなに出来の悪い人間が生まれたのかしら。
そもそもこんな学校にいる時点でおかしいのよ。あなたなんか生まれて来なければよかったのよ』
本当にこの人は親なのだろうか。
甘倉は勉強ができると言っても、1位を取ることは少ない。更には最近は成績は下がってきていると言ってもいい。
数週間後に控える定期考査について言われているのだろう。
甘倉は今にも泣きそうな顔で必死に声を出した。
「で、ですが生徒会長に」
『あなたの声は聞き飽きたわ。今日は………』
甘倉の必死の弁解は冷たい言葉に刺されて消えた。
生まれてこなければよかった?
ふざけるなよ。自分の娘だろうが。
「迷惑です」
『なんですって?』
俺は気が付けばそこに立っていた。
本能的に苛ついたのだろう。
「ここは俺の部屋の前です。大声で話されては困りま
す。入れない上にこれ以上居座るなら警察も考えますよ」
『あのねぇ、これだからガキは!………もういいわ』
これで家に入れる。
少々荒い追い払い方だが早く部屋に入れるならそれでいい。
人の家庭に深入りするつもりもない。
俺は自分の部屋に……
「なんだ」
「副会長…少しだけ………こうさせててください」
背中に一瞬衝撃があり、その後少しずつ背中がじんわりと温まった。
俺の背中で泣きたいのだろう。
はぁ……子どもか、と言いたいが、あんな事言われたら誰だって泣きたくなるだろう。
しばらく好きにさせることにした。
…ただ、半分抱きつかれるような体勢になってしまい少し恥ずかしい。
「雪がついてて冷たいだろ」
「…………」
「こんな姿クラスメイトに見られたらどうする」
「…ここには誰も来ません……」
もう諦めた。
スポンジのような雪が、環境音を吸い取ってしまったかのように静かな空間に、甘倉の啜り泣く声と、高級車特有の低いエンジン音だけが鳴っていた。
「す、すみません……寒かったですよね………」
「いや、良いんだ。泣きたいなら好きにしろ。俺にできることはそれだけだ」
「もう大丈夫です。」
「そうか、じゃあな。」
きっと1人にしてほしくなったのだろう。
あえて薄っぺらい慰めはせず、淡白になりすぎない程度に声をかけて、冷えた自分の部屋へと戻った。
~~~
~~
_ピンポーン
俺がお風呂に入ろうと支度していたところにインターホンが鳴った。
時計は6時を指していた。
着替えるのも手間な為相手を見て出るか決めようとインターホンの画面を見ると、甘倉が心配そうに立っていた。
昼頃から雪は降り始め、特に変わることの無い時間が過ぎていった。
学校の階段を降り、昇降口で靴に履き替え、校門を出る。
校門前ではカップルらしい2人組がいちゃついていた。
俺には全く関係のない話。
マンションはこの学校から少しある。
バスで3つ程バス停を過ぎた場所で降り、そこから数分歩く。
学校からマンションまでの道のりは、体育でもなければ運動することのない俺にとっては丁度良い運動になるだろう。
ようやくマンションに着いた。
いつも運動のために4階の部屋まで階段で行くことにしている。
3階の踊り場に着いた頃、話し声…と言うには少し荒らげた声が聞こえた。
天倉奏。
容姿、仕草、品、そして適度な天才さ。
俺の学校はだいぶ特殊で、生徒会は校長の指名で決まり、信任投票もなしに本人が良ければ即決というだいぶ独裁的な決め方だ。
そこで生徒会長に選ばれたのが甘倉というわけだ。
そして俺が副会長。
…とにかく何処をとっても理想的な甘倉は、俺とは住む世界が違う。
いや、物理的には隣の部屋に住んでいるのだが。
1年生が生徒会長、副会長を務めるのはよくあることらしくそこまで問題ではない。問題なのは男子からの嫉妬の目だ。
甘倉と一緒にいられる、それだけで嫉妬の対象なのだろう。
話を戻すが、そんな甘倉の親だろう人が怒鳴っていた。
『またですか。8位、7位と来て前回9位に下がった。今度こそ1位とってくださいね。
なんでこんなに出来の悪い人間が生まれたのかしら。
そもそもこんな学校にいる時点でおかしいのよ。あなたなんか生まれて来なければよかったのよ』
本当にこの人は親なのだろうか。
甘倉は勉強ができると言っても、1位を取ることは少ない。更には最近は成績は下がってきていると言ってもいい。
数週間後に控える定期考査について言われているのだろう。
甘倉は今にも泣きそうな顔で必死に声を出した。
「で、ですが生徒会長に」
『あなたの声は聞き飽きたわ。今日は………』
甘倉の必死の弁解は冷たい言葉に刺されて消えた。
生まれてこなければよかった?
ふざけるなよ。自分の娘だろうが。
「迷惑です」
『なんですって?』
俺は気が付けばそこに立っていた。
本能的に苛ついたのだろう。
「ここは俺の部屋の前です。大声で話されては困りま
す。入れない上にこれ以上居座るなら警察も考えますよ」
『あのねぇ、これだからガキは!………もういいわ』
これで家に入れる。
少々荒い追い払い方だが早く部屋に入れるならそれでいい。
人の家庭に深入りするつもりもない。
俺は自分の部屋に……
「なんだ」
「副会長…少しだけ………こうさせててください」
背中に一瞬衝撃があり、その後少しずつ背中がじんわりと温まった。
俺の背中で泣きたいのだろう。
はぁ……子どもか、と言いたいが、あんな事言われたら誰だって泣きたくなるだろう。
しばらく好きにさせることにした。
…ただ、半分抱きつかれるような体勢になってしまい少し恥ずかしい。
「雪がついてて冷たいだろ」
「…………」
「こんな姿クラスメイトに見られたらどうする」
「…ここには誰も来ません……」
もう諦めた。
スポンジのような雪が、環境音を吸い取ってしまったかのように静かな空間に、甘倉の啜り泣く声と、高級車特有の低いエンジン音だけが鳴っていた。
「す、すみません……寒かったですよね………」
「いや、良いんだ。泣きたいなら好きにしろ。俺にできることはそれだけだ」
「もう大丈夫です。」
「そうか、じゃあな。」
きっと1人にしてほしくなったのだろう。
あえて薄っぺらい慰めはせず、淡白になりすぎない程度に声をかけて、冷えた自分の部屋へと戻った。
~~~
~~
_ピンポーン
俺がお風呂に入ろうと支度していたところにインターホンが鳴った。
時計は6時を指していた。
着替えるのも手間な為相手を見て出るか決めようとインターホンの画面を見ると、甘倉が心配そうに立っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる