甘えてくるお隣さんが可愛過ぎる話

時乃 律

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第1話 静電気

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今日もようやく高校が終わった。
昼頃から雪は降り始め、特に変わることの無い時間が過ぎていった。

学校の階段を降り、昇降口で靴に履き替え、校門を出る。
校門前ではカップルらしい2人組がいちゃついていた。

俺には全く関係のない話。

マンションはこの学校から少しある。
バスで3つ程バス停を過ぎた場所で降り、そこから数分歩く。

学校からマンションまでの道のりは、体育でもなければ運動することのない俺にとっては丁度良い運動になるだろう。

ようやくマンションに着いた。
いつも運動のために4階の部屋まで階段で行くことにしている。

3階の踊り場に着いた頃、話し声…と言うには少し荒らげた声が聞こえた。 

天倉奏。
容姿、仕草、品、そして適度な天才さ。
俺の学校はだいぶ特殊で、生徒会は校長の指名で決まり、信任投票もなしに本人が良ければ即決というだいぶ独裁的な決め方だ。
そこで生徒会長に選ばれたのが甘倉というわけだ。
そして俺が副会長。

…とにかく何処をとっても理想的な甘倉は、俺とは住む世界が違う。
いや、物理的には隣の部屋に住んでいるのだが。

1年生が生徒会長、副会長を務めるのはよくあることらしくそこまで問題ではない。問題なのは男子からの嫉妬の目だ。
甘倉と一緒にいられる、それだけで嫉妬の対象なのだろう。

話を戻すが、そんな甘倉の親だろう人が怒鳴っていた。

『またですか。8位、7位と来て前回9位に下がった。今度こそ1位とってくださいね。
なんでこんなに出来の悪い人間が生まれたのかしら。
そもそもこんな学校にいる時点でおかしいのよ。あなたなんか生まれて来なければよかったのよ』

本当にこの人は親なのだろうか。
甘倉は勉強ができると言っても、1位を取ることは少ない。更には最近は成績は下がってきていると言ってもいい。
数週間後に控える定期考査について言われているのだろう。

甘倉は今にも泣きそうな顔で必死に声を出した。

「で、ですが生徒会長に」

『あなたの声は聞き飽きたわ。今日は………』

甘倉の必死の弁解は冷たい言葉に刺されて消えた。
生まれてこなければよかった?
ふざけるなよ。自分の娘だろうが。

「迷惑です」

『なんですって?』

俺は気が付けばそこに立っていた。
本能的に苛ついたのだろう。

「ここは俺の部屋の前です。大声で話されては困りま
す。入れない上にこれ以上居座るなら警察も考えますよ」

『あのねぇ、これだからガキは!………もういいわ』

これで家に入れる。

少々荒い追い払い方だが早く部屋に入れるならそれでいい。
人の家庭に深入りするつもりもない。
俺は自分の部屋に……

「なんだ」

「副会長…少しだけ………こうさせててください」

背中に一瞬衝撃があり、その後少しずつ背中がじんわりと温まった。

俺の背中で泣きたいのだろう。
はぁ……子どもか、と言いたいが、あんな事言われたら誰だって泣きたくなるだろう。
しばらく好きにさせることにした。

…ただ、半分抱きつかれるような体勢になってしまい少し恥ずかしい。

「雪がついてて冷たいだろ」

「…………」

「こんな姿クラスメイトに見られたらどうする」

「…ここには誰も来ません……」

もう諦めた。


スポンジのような雪が、環境音を吸い取ってしまったかのように静かな空間に、甘倉の啜り泣く声と、高級車特有の低いエンジン音だけが鳴っていた。

「す、すみません……寒かったですよね………」

「いや、良いんだ。泣きたいなら好きにしろ。俺にできることはそれだけだ」

「もう大丈夫です。」

「そうか、じゃあな。」

きっと1人にしてほしくなったのだろう。
あえて薄っぺらい慰めはせず、淡白になりすぎない程度に声をかけて、冷えた自分の部屋へと戻った。

~~~
~~


_ピンポーン

俺がお風呂に入ろうと支度していたところにインターホンが鳴った。
時計は6時を指していた。

着替えるのも手間な為相手を見て出るか決めようとインターホンの画面を見ると、甘倉が心配そうに立っていた。
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