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第14話 地下室のオリカちゃん

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「ここよ、上手くいくといいんだけど……」

「こんな部屋があったんだな……」

 ダイチとミレーニアは、セシリアに案内され魔王城一階のある部屋へとやって来た。
 意外に魔王城のことを知らないダイチ。
 部屋を貸した状態のままで相続したから、入ったことがない部屋も結構あるのだった。

 ――自分の所有物といえど、賃貸中の部屋に許可無く入ったら不法侵入以外の何物でもない――

「セシリアー、ここに伝説の鎧があるの?」

 ワクワクした様子のミレーニア。

「初代からそう聞いてるけど、初代も見たことないって言ってたわ。もちろん私も見たことないわ。ほら、そこが入口よ」

 セシリアが部屋の中央にある、黄金色の扉を指差す。扉と言っても壁にあるのではなく地面にあり、まるで地下への道を閉ざしてるかのようだ。

「これはオリハルコン製の扉?」

「そうみたいね。おかげで開けることができないの……そもそも本当に扉かどうかすら怪しいわ……伝説の鎧と言ったって誰も見たことがないんだもの……」

 ダイチの問いにセシリアが答える。
 生体金属オリハルコン、先日ミレーニアが大蛇バジリスクを両断した魔剣と同じ素材だ。
 この世で最も硬い金属とされていて、時には金属自身が意思を持つことすらある。生体金属と言われる所以だ。
 
 この扉、魔王城の一部であるように見えるがこの扉自体が独自の存在のようで、ダイチの魔王城への所有の効果が及んでいない。

「それで誰も入れなくなってるんだね、ずっと地下室を守ってくれてたのかな」

 黄金色の扉に、どことなく尊敬の眼差しを向けるミレーニア。

「今まで誰も入れたことないんだけど、頃合いをみて二代目に伝えるように初代から言われてたのよ」

「これを今の俺に開けられるかどうか……もっと言うならこの扉を『所有』できるかどうかってことか……」

 存在すると伝えられている地下室に入るためには、扉を開けることが必要である。

「『所有』って簡単にできるものなの?」

 ダイチに対するミレーニアの問い。

「条件さえ合えばすんなりかもしれないけど、簡単……ではないな」

「へーそうなんだ、どんな条件がいるの?」

 興味津々の様子のミレーニア。

「『所有』する相手方に意思というか、物だけど存在として確立しているというか……上手く言えないけどそんな感じだ。そういう物が俺に所有されることを承諾してくれる必要がある。あとは自分の能力的な問題とかもいろいろ関わってくる」

「あ! じゃあさ、私のことも『所有』してみる?」
 
 さも良い事を思いついたとばかりに、悪戯っぽく微笑むミレーニア。

「人には使えない。正確には……今の俺の能力では『者』に対しては所有できるイメージが全くない」

 ダイチは真剣な眼差しをミレーニアに向けて答える。

「……そ、そうなんだ」

 ダイチの真剣な様子にドキッとさせられるミレーニア。「できない」というだけで「したくない」ではなかった。
 じゃあ「できる」なら……と考えてるようで、ミレーニアの頬が少し赤い。

「コホン……いちゃつくのは後にしてもらえると有り難いんだけど……」

 ジト目のセシリア。

「い、いちゃつくなんて、そ、その……」

 人に言われると弱いミレーニアだった。

「さて、早速試すぞ」

 そう言ってダイチは黄金色の扉の脇に膝をついた。ミレーニアとセシリアはその様子を見守る。

「今までここを守ってくれてありがとう……これからは俺に力を貸してくれ。今日からお前は俺の『モノ』だ」

 ダイチが扉を撫でながら語りかける。

――その時、扉が淡く輝き始めた。

『――所有権設定オレノモノニ!――』

 扉の輝きが強くなったが、その光が徐々にダイチに吸い込まれていった。
 輝きが落ち着き、周囲は静けさを取り戻した。

「成功したの……?」

 ミレーニアが心配そうに問いかける。

「とりあえずな……」

 一息つき、扉を撫でるダイチ。

 音を立てながら、床にある扉が上に向かって開く。
 そこには地下に通じる階段が現れた。
 石造りの階段は長年人の目に触れることがなかったはずだが、綺麗に整備されているかのようで神秘的な雰囲気を醸し出している。

「本当に地下室があったのね……それにしても『撫でポ』な扉だったなんて……」

 セシリアがなにやらブツブツと呟いている。

「さて地下室に入るがその前に、ミレ……この扉を収納・・しておいてもらえるか。今ならできるはずだ」
 
 ダイチは開いた黄金色の扉を収納するようにミレーニアに告げる。

「できるかな……」

 少し不安そうだったが、無事に扉を空間魔法で収納したミレーニア。

 三人は警戒しながら地下室への階段を下りていった。


■■■


 ダイチ達が階段を下りていくと、周囲が全て石造りの部屋に着いた。
 広さは十畳くらいだろうか。中央に台座があり、その上に黄金色のフルプレートアーマーが鎮座している。

 一見して、尋常ではない存在感。
 神の威光が顕現したかのような眩いオリハルコンアーマーに三人はしばし目が釘付けになった。
 触れることがはばかられるその佇まいに、ダイチとセシリアは息を呑む。

 だけど、そこは我らが魔王様。

「えーと、こんにちは?」

 ミレーニアが鎧に向かって声をかけた。
 その声になんとなくダイチの緊張が解れる。

――――…………

 返事がない……ただの鎧のようだ……

「とりあえず上に持って帰ろうか」

 ダイチが提案したその時。

『……んー、眠いわ……あなたたち、あの子に通されたの?』

 ダイチ達の頭に、舌っ足らずな女の子のような声が響いた。

 一瞬驚いたもののすぐに今の声の出処を理解したダイチ。
 オリハルコン製ならさもありなんと、目の前の鎧を見つめる。
 ミレーニアとセシリアも驚いたのはわずかな間だった。

「入口の扉のことを言ってるなら開けて通してくれたよ」

 鎧に向かって答えるダイチ。

『へぇー、あの子がね……たしかにあなた面白い感じがするわ』

 微かに明滅するオリハルコンの鎧。

「ここに来たのは頼みがあってなんだが、俺のモノになって欲しい」

 真剣な顔で告げるダイチ。傍から見たら、愛の告白のようだ。
 ミレーニアが「いいなぁ」とか呟いている。

『寝起きに告白されたわ!? それにしても、ずいぶん長いこと寝てた気がするわ……えーと、あなたはどうしてわたしを欲するの?』

「俺はいつも守られてばかりで、自分の身を守ることも、身近な人達を守ることもかなわない無力な存在だ……」

『うん』

 ミレーニアとセシリアもダイチの言葉を真剣に聞いている。

「今まではそれで良かったかもしれないが、今後何が起こるかは分からない……いざという時、大事なモノを守れる力が欲しい。君の鎧としての力……降りかかる災いを防ぎ切る力が欲しい」

 ダイチが鎧に自分の望みを語った。
 その後、自分の所有権魔法の説明をした。『所有』するとお互いの力が高まるが、一心同体になってしまうこと、ダイチが死んだら鎧も死ぬか壊れるだろうこと、現在『所有』しているのは魔王城と地下室の入口の扉の二つであることを説明した。

『…………』

 鎧が沈黙した。セシリアは駄目だったかと、小さくため息をつき目を伏せた。

『わかったわ! いいよ、わたしがあなたを守るから大丈夫よ! わたし硬いしね! それに外の世界見てみたいちね』

 最後ちょっと噛んだ鎧。

「ありがとう……」

 そう言って鎧に手を添えるダイチ。その眼差しはとても優しい。

『――所有権設定オレノモノニ!――』

 鎧から光が溢れ出し、ダイチに吸い込まれていく。
 光が収まると、見た感じはさっきまでと変わらない鎧が台座に鎮座している。

「上手くいったの?」

 結果は想像できているだろうが、わずかな不安を払拭するようにダイチに声をかけるセシリア。

「ああ、この子が力を貸してくれることになった」

 鎧を撫でながら答えるダイチ。

「ふー、ドキドキした……それで、その子って名前あるの?」

 脱力した様子で問いかけるミレーニア。

『な、無いわ!? ダイチが何か考えて!』

 慌てた様子の鎧。
 これは名前はある……もしくはあったけど、嫌なんだろうなと察するダイチ達。

「じゃあ、『オリカ』でいいか? 可愛い名前だろ」

 ダイチがオリハルコンアーマーに名前を提案する。

『オリカ……オリカ……うん! 前のに比べ……じゃなくて、すてきな名前ね!』

 鎧の名前はオリカになった。

「でも……普段装備するにしては大きくて重そうだし……色も目立ち過ぎよね……」

 思案顔のセシリア。その様子にもなぜか色気がある。
 フルプレートアーマーの為、全身が覆われてしまうし、何よりオリハルコンの黄金色は目立ち過ぎる。

「色はクラーケンの墨で黒くするっていうのはどうかな?」

 さも良いことを思いついたという風なミレーニア。人差し指を立ててニコニコしている。
 クラーケンの墨は金属にも着色でき、一度着色したらなかなか取れないものだ。

『いやよ! 蛸の墨なんていやだからね! それに色や大きさや形は自在なんだからねっ!』

 オリカがそう言うと、色が徐々に変わり、ツヤの無い黒になった。鎧の大きさもフルプレートアーマーだったものが、胸甲のみに変化した。

「すごいな……」

 感心した様子のダイチ。
 セシリアが「オリカ……恐ろしい子ッ!」とか呟いている。

『すごいでしょー? もっと褒めていいのよ』

 胸をはっている女の子の姿が胸甲の背後に見えるようだ。

「オリカ、これからよろしくな……」

 大事そうに胸甲を持ち上げ、優しく撫でるダイチ。

『…………』

 自分で褒めるように言ったオリカだったが、その様子は照れてるかのようだった――――
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